Lies about being behind the scenes
嘘で全てを欺き、秘密を隠し通す
これまでもこれからも、俺の人生は変わらない
目的の為なら、這ってでもしぶとく生きてやる
俺だって普通に生きられると、証明してやる
あの後、地下4階へと周りを気にしながら降りてきた俺は、4階の探索に取り掛かっていた。構造自体は上と大して変わらない。ネームプレートを見れば、「備品」や「カクテル材料」「食材」などといったことが書かれていた。中を見てみれば、所狭しと箱が敷き詰められていた。どこも同じような部屋ばかりだし、この階は物置と見ていいだろう。隠し事をするには持ってこいなところだ。
周りを伺えば、黒服の連中しかいない。この格好で見つかればまずいだろう。
食材が詰められていた部屋を探索していた時、外から足音が聞こえてきた。通り過ぎることを願ったが、その足音は部屋の手前で止まった。そして、ノブを回す音が聞こえてきたかと思えば、ぎぃ、と音を立てて扉が開かれた。だが慌てる必要は無い。足音は1人分しか聞こえない。まだ勝算はある。
身を潜め、気をじっくりと窺う。そして、彼女から俺が見えなくなったのを確認してから、わざと棚を動かし、音を立てる。
「ん?誰かいるのか?」
振り向いた瞬間を狙って、うなじをとん、と軽く叩く。彼女はそれだけで倒れていった。
「よしよし、上手く行きやしたねぇ。悪ぃっすけど、少し眠っててくだせぇな」
彼女の制服を脱がしていき、客室に用意されていたものと同じルームウェアに着替えさせる。流石に下着のままここに放置というわけにもいかないため、先程替えになる服を見つけておいたのだ。
この制服は俺が有難く着用させてもらう。ウィッグを取って髪を適当に結べば、俺が欺瞞だということはバレないはずだ。だが、女にしては少し胸が無さすぎるから、それだけは適当になにか詰めて盛っておこう。
「うん。いい感じっすね」
誰も居ないことを確認した更衣室の全身鏡で、姿を再度確認する。ジャケットで肩幅も多少誤魔化せているし、メイクも少し変えた。欺瞞とも男ともバレる心配はしなくて済むだろう。これでこれより下の階も行きやすくなるはずだ。
「そうとなれば、さっさとあの2人を見つけないとっすね」
それから4階を片っ端から調べまくり、地図を頭に生成していく。他の黒服達に目を光らせていれば、1人の黒服が壁の奥に消えていくのが見えた。
あんなの、絶対何かあるじゃないか。
彼女の後を追って、俺もその壁へとすり抜ける。すり抜けようとした。しかし、その壁はただそこに壁として存在している。触っても、手が向こうに通るなんてことしないのだ。当たり前だ。壁とはそういうものなんだから。なら、何故先程の女性はこの先に行けたのだろう。俺の見間違いだったのか。いや、確かに彼女はこの先に消えた。
「資格がある人しか通れないんすか?」
独り言を呟きながらも、顎に手を当て、壁の前でただ悶々と悩み続ける。もしそうだとしたら、どんな人物なら入れるのだろうか。
「そんなところでなにしてるですかぁ?」
後ろから声をかけられ、咄嗟に振り返る。そこには、スーツに着せられているかのように、だぼだぼな女の子が居た。パステルな紫色のゆるゆるな髪をハーフツインにしており、水色のとろんと可愛く垂れた目をしていた。雰囲気は全く違うが、色合いがなんだかヴィアと似ている。
「あぁ、いえ、先程、この壁を通っていたのを見かけたので、何かあるのかと思って……」
「え?知らないんですかぁ?あ!もしかしてぇ、新人さん?」
「あ、はい。実は最近ここに来たばかりで、まだ分からないことがが多いんです」
流れで新人ということにしてしまったが、彼女には効果があったらしい。あっさり信じて、説明をしてくれた。
「んー、それじゃ、このかわいいかわいいヴェメ・ショウクレンアリーちゃんが教えてあげちゃいまぁす」
「ありがと……ん?」
ショウクレンアリー、と彼女は言った。それは確か、ヴィアのファミリーネームだ。
「……あの、ヴェメさん、つかぬ事をお聞きしてもよろしいですか?」
「えー?ヴェメが話そうとしてたのにぃ。でもおーけー。ヴェメの初めての後輩ちゃんですから。なんでも聞いちゃってくださぁい」
「それじゃ、お聞きするんですけど、ヴィア・ショウクレンアリー、という人物を、ご存知ありませんか?」
俺の言葉に、彼女は目を見開いたかと思えば、無言で俺の手を取り、階段の方へと歩き出してしまった。
「え、あの、ヴェメさん!?」
「いいから着いてきて欲しいです。なんで普通の黒服の人が、真理じゃなくてヴィアちゃんのお名前知ってるかは分かりません。でも、ヴェメに聞いたってことは多分捜してるんですよね?なら、会わせてあげます」
有難い申し出に頭が上がらない。こんな幸運に恵まれることがあるだろうか。そんな余韻に浸っていたところに、彼女から指を指される。
「でも、ヴィアちゃんに何かしたら許しませんからぁ。ヴィアちゃんはヴェメのかわいいかわいい妹ちゃんなんですから」
「え?」
家族の話は少し聞いたが、姉が居るとは一言も言っていなかったはずだ。だが、目の前の彼女は、瓜二つとまでは流石にいかないが、確かにヴィアとよく似ている。
「……あぁ、お姉さんだったのですね。彼女とは個人的なご縁があったので、あのパーティーの噂を聞いて以来心配していたのです」
「そうだったんですねぇ。ヴィアちゃんと仲良くしてくれてありがとうございますぅ。これからぁ、ヴィアちゃんともっと仲良くなってあげてくださぁい。そして、見張っててくれるとぉ、お姉ちゃん的に凄く助かりまぁす」
「見張り……?」
「そうでぇす。ヴィアちゃん、1人で抱えて、すぐ無茶したがるから。それを止めてくれる人が居たら助かりまぁす」
俺にその止めてくれる人になれ、というのだろうか。ヴィアの無茶やらなんやらを止めるなんてそんな芸当、俺には到底出来そうもない。彼女の信念と正義は、既に揺るがないものとなってしまっている。それを、出会って間もない俺が崩せるわけがない。
「……止められるよう、努力はします」
「そうですか。頼みますねぇ。ヴェメはいつでも傍に居れるわけじゃないのでぇ」
それから階段を下ること5階。パッと見変わっていないように見えるせいで、本当に降りてきているのかどうか分からなくなる。
「1階より下は、どの階も似たような感じですね」
「そうですねぇ。さぁ、ヴィアちゃんはこっちですよぉ」
ヴェメの案内に従い、ある部屋に通される。その部屋の光景を見て、思わず目を疑った。
そこには、ベッドに横たわって、眠ったままの彼女が居た。
「ヴィア……」
思わず素の声で彼女の名前を呼んでしまう。一瞬ヴェメがこちらを振り返ったが、すぐに気にせずヴィアの方へと歩を進めた。そしてそこにはもう1つ、異様な光景があった。
「ミユちゃん?」
ヴィアのベッドの傍に椅子を構えて座っているガラミユも見えた。
「ん?がらがらの知り合いだったんですかぁ?」
「えぇ、まぁ、色々とあって……」
「そうだったんですねぇ。あの子、商品の隔離部屋から逃げてきたみたいなんですよぉ」
「はぁ!?」
「なんかぁ、隠し通路?を渡ったとかなんとかかんとかでぇ、ここに来ちゃったみたいなんですよぉ」
さらっと色々突拍子もないことを言ってくれる。ガラミユはヴィアの方を心配そうに見ており、こちらには気を取られていないらしい。よっぽど集中しているのか、聞かぬ振りをしているのか。
「……ヴェメさんは、この方を黙認しているのですか?男なのに」
「ヴェメだって普段ならこんなことしないですぅ。でも、がらがらは、ヴィアちゃんのことすっごく大好きみたいですからぁ。ヴィアちゃんを好きな人を殺すなんてぇ、お姉ちゃんはやっちゃだめです」
「別に好きじゃねーよ」
そうやって声を上げたのは、ずっと黙っていたガラミユだ。
「俺の契約を破棄してくれるっていうから、いつ起きるか見張ってるだけだ」
「の割にはぁ?手まで繋いじゃってずーっと顔見てるじゃないですかぁ。大好き超えて愛してるならそう言えばいいのにぃ」
「ちっげーよ!!あとその女声でからかうの辞めろ!気持ちわりぃ!」
そう言われ、一瞬警戒する。強ばりながらも隣のヴェメを窺っても、殺意やら殺意やらは感じ取れなかった。
「ん?何ですかぁ?ヴェメが可愛すぎて困りますかぁ?」
「……あー、そう、っすね。めっちゃ可愛くて目が眩みそうっすよ」
「やったぁ」
ヴェメはぴょんぴょんと飛び跳ね、可愛い仕草で喜ぶ。
「ヴェメ、私、俺が男なら、処分しやすか?」
「んー、しなぁい。だって、えっと、お名前なんだっけ?」
「え?あー……」
そういえば、ここまで散々話しておいて俺は名乗っていなかった。なんだか最近、自分は名乗らない失礼者のようになっている気がする。だが、ここでは安易には名乗れないのだから仕方ない。
「ライ・シークレティアス。ライでいいっすよ。あと、実はこの服も借りもんで、新人ってのも嘘なんすよね。信頼に足るか怪しかったもんで。申し訳ございやせん」
「んじゃらいらい。らいらいが男だったとしても、ヴィアちゃんがそれを望んでなさそうなら、ヴェメは殺さないです」
「……言いやしたねぇ?」
「いいやした」
ふっ、と吹き出せば、俺もヴェメも自然と笑い出す。それにつられて、ガラミユも声を出して笑いだした。
あそこで会ったのがヴェメで良かったと心底思う。他であれば殺されていたかもしれない。
やっぱり、俺はすこぶる運が良い。
ドレスとウィッグは、あのあとちゃんと魔法具に収納しています。安心してください。うちのこは証拠隠滅と逃げのプロですから。だけど最近ライくん色んなおなごに捕まってる気がします。先月頭まではあんなに飄々としてたのに……。情報集めてないでさっさと逃げろ、そなたは美しい




