A childish girl who hates men
嘘で全てを欺き、秘密を隠し通す
これまでもこれからも、俺の人生は変わらない
目的の為なら、這ってでもしぶとく生きてやる
俺だって普通に生きられると、証明してやる
周りを気にしながらも、急いで階段を降りる。今の赤黒く汚れた俺の姿を、誰にも見せるわけにはいかない。そもそも、3階より下は降りてはいけないらしいから。でも、誰であろうと女性からの誘いを断るなんて損なことは出来ない。それに、誰でもいいから、今の俺を抱きしめて欲しかった。彼女がその相手になってくれるとは、到底思えないけれど。
「地下、6階、左奥の扉……」
彼女に言われたことを復唱し、その場所を3回ノックすれば、入ってきていいよ、と淡白な声が聞こえてきた。扉を開ければ、そこは自分の客室よりかは数倍も豪華で広い部屋だった。流石TOP4が寝る部屋のことだけはある。
そしてその部屋のベッドに腰掛けるヒガンは、キャミソールにショートパンツという薄着だった。
「ヒガン様、何の御用でしょうか」
「その前に、その格好はなに?あと血生臭い。シャワー浴びてきて」
「え?し、しかし、ここはヒガン様のお部屋ですよね?一般会員の私が勝手に使っていいのでしょうか…」
「自分が良いって言ってんだからいいの。トレディや他のメンバーに言われたら、自分がなんとかするから。それより、自分血の匂いは嫌いだから、さっさと入ってくれない?」
半ば強引に背中を押され、脱衣所へと入る。仕方なくドレスを脱ぎ始める。ウィッグはどうしようかと思ったが、流石に地毛を洗いたい。というより、ウィッグを洗ってもそんな意味はないだろう。ただ、濡れていなかったらなにか余計なことを勘ぐられるかもしれない。適当に濡らす程度でいいか。
「はぁ……」
ウィッグを取り、メイクを全て落とせば、脱衣所のドレッサーには、当然生身の藍色の髪をした自分が映る。ずっと見ていなかったせいか、それが自分かと一瞬疑ってしまった。長く欺瞞で居すぎただろうか。やはり、定期的に本物の自分には会っていた方がいい。
風呂くらい、ゆっくり浸かれなければ。
「……うわぁ、ひっろ」
TOP4の部屋は、風呂まで広かった。浴槽だって温泉かと疑うくらいには広いし、奥にはサウナも常備されているのが見える。この世界、サウナあったのか。今まで見たことが無い、というか話すら聞いたことが無い辺り、相当高価なものであろう。
とにかく、無駄な時間を浪費するわけにはいかない。さっさとシャワーを浴びて戻らなければ。
高そうな蛇口を捻れば、お湯が勢いよく流れてくる。こんなに温まる風呂はいつぶりだろうか。ヴィアの家は温いお湯しか流れてこなかったから、久しぶりの温かいお風呂だ。せっかく浴槽もあることだし、少し浸かっていこうか。そう思ったが、浴槽にはお湯が張られていなかった。
「まぁ、そりゃそうか」
蛇口を捻り、湯船にお湯を貯めていく。
その間に、血を落とせと言われた体を洗う。しかし、それほど血の匂いが付いているだろうか。
自分で軽く嗅いでみても分からない。まぁ、自覚の無い体臭なんて分かりたくもない気持ちもあるけれど。
「にしても、何でヒガンは俺をここに呼んだんだ?」
鏡にふと思った疑問を投げかける。当然答えは返っては来ない。だって、俺が分からないのだから。本物が分からないことを偽物が知り得るはずがない。
ヒガンに何か、気に入られるようなことも、嫌われるようなこともした覚えは無い。向こうが一方的に俺のことを知っていたのだろうか。それとも、俺の正体がバレたのだろうか。いや、そう考えるのは早計が過ぎる。そうであって欲しくはない。いや、あってはならない。この依頼の謎を突き止め、FemalePalaceの全てを明かさないと、俺が納得することが出来ない。
「俺が納得……。はぁ……」
ダンが訳も分からず目の前で死に、依頼の詳細が霞のように不明瞭になってしまった今、最早俺の依頼達成は難しい。なら、早くこんなところ抜け出してしまいたい。そう思っても出来ない。俺が、このFemalePalaceをなんとかしたいと思っている。
「こんな場所に居ても、いいことなんてねぇっすよ」
鏡に言っても、鏡は喋ってはくれない。異世界なんだから、少しくらいは喋ったらどうなんだ。そういうの、ファンタジーの鉄板じゃないか。だが、ファンタジーのファの字も無いこんな世界じゃ、そんなことも難しいだろうか。
「そういや、湯は張れやしたかねい」
浴槽の方に向かえば、十分な程にぴんと湯が張られていた。
「早いっすねぇ。流石TOP4の風呂」
片足を入れれば、中のお湯が少し外に溢れてくる。気にせず浴槽に入り、壁側にもたれかかる。ふぅー、と息を吐けば、全身の凝りがほぐれていく感覚がした。
そのまま、体の疲れが十分に癒えるまで、1人だらだらと居座っていた。
「あ〜、いい湯だった。そういや、ウィッグ濡らしておかないと」
ウィッグを手に取り、再び風呂へと入っていく。シャワーの蛇口を捻り、ウィッグを濡らしていく。
「よし、これで既成事実は作れた、はず」
シャワーを止め、再び脱衣所へと戻る。そういえば、着替えはどうしようかと悩ませていると、ワンセットのルームウェアが置かれているのが見えた。
「これ、まさかヒガンの?」
畳まれていたそれを広げれば、あまり飾りがされておらず、シンプルなデザインだった。
そして、周りを見れば、俺のドレスが無くなっているのが見えた。
「ドレスが無い……。は、待て待て待て。俺、ここにウィッグ置いてったよな。ということは、見られた?」
いや、まだ確信に繋げるのは良くない。偶然ウィッグは目についていなかったかもしれないし。
「…とりあえず、着替えてウィッグ付けて出るか」
不安が残ったまま、脱衣所を退出した。
「お風呂上がりました。ありがとうございました、ヒガン様」
「別に。自分が嫌だっただけだし」
相変わらず素っ気ない。だが、今のところ話が出来ていることに安堵を覚える。誰であろうと、また腹を開けられては敵わない。
「それで、ヒガン様。何故、私をお呼びされたのですか?」
「……回りくどいことは嫌いだから、はっきり言う」
ヒガンの言葉に、唾が喉を通ってくる。それを飲み干せば、ごくり、と鳴る。彼女の目は、俺を的確に射抜いていた。
「あんた、男でしょ」
「なんのことだか分かりませんわ。私はFemalePalaceに来たばかりのただの新米会員でございます。それに、こんなところに男が入れるわけないじゃないですか」
「そうやって、とぼけて、誤魔化して、自分を守るところが嫌い」
「何をおっしゃって……。ぐぅ……!?」
気付かぬうちに、ヒガンは俺の首を両手で持ち上げ、締め上げていた。
「ヒガ、さま、なにぃ、を……」
「自分は男が大嫌い。優しい顔して近付いてくるくせに、味方だって言ってくるくせに、都合が悪くなったらいつも離れてく。結局は、自分の体しか見られていなかった。そうやって、嘘ついて、女の子を泣かせて、自分を守ることしか出来ない欲望垂れ流しの男が、大嫌い」
「ぐぅ……」
力が強まってくる。不味い、このままじゃ殺される。どうにかして、彼女を説得しないと。でも、どうやって。
「ひがん、さま、はなしを、きぃ、て……」
「話?何が。あんたみたいな典型的なクズと話すことなんて無い。此処に来たのも、女を食べる為に来たんでしょ」
なんとか手を動かし、足へと手を伸ばす。銃は装着した。そこに手を掛けられれば。幸い、彼女は俺の顔しか見ていない。なら、チャンスはある。
「聞けって、言ってる、だろぉ……!」
銃を手に取り、地面に向けて発砲する。その衝撃のお陰で、俺はなんとか解放される。
「けほっ、けほっ!あぁ、まだ苦しい……」
「……何する気」
「話し合う気。あんたにとって、損は生ませないっすよ〜?どうか、惨めな俺を助けるつもりで、話だけでも聞いてってはくれやせんか?」
逃げ回る彼女に引っ付き回り、話し合いを促す。すっかり殴り合う気も失せてくれたようで、俺の口車に乗っかってくれた。
「……分かった。でも、話し合うって何を」
「俺の目的と、ヒガンへの協力要請っすかね」
「協力?自分が?」
「そう。俺今丁度フリーなもんで。誰か居てくれると助かるんすよね〜。というわけで、まずは俺の全部を教えてあげやすよ」
それから、俺は今までの全てを話した。貧民街から依頼を受けてこちらに来たこと。ミネビアのこと。ヴィアのこと。ガラミユのこと。そして、ダンを失った今の俺の目的。
話を聞いていたヒガンは、段々萎れていき、最終的にはなよなよになった。
「そっかぁ、辛かったんだなぁ〜。頑張ったなぁ〜」
「大丈夫っすか?溶けてやすけど」
「……大丈夫、なんでもない」
一瞬で切り替わってしまった。面白いから、もう少しそのままでいてもらっても良かったのに。
「ヒガンって、案外涙脆いんすね。今の話全部嘘なんすけど」
「は?」
瞬間とんでもない殺意が向けられる。流石闇と暗殺を従えているだけのことはある。
「冗談っすよ〜。さっき話したのは、全部本当に起こったことっすよ」
「……そうか」
悲しく目を伏せている。今の彼女ならば、色々聞き出せるかもしれない。こんな思考の男が嫌いなんだろうが、勘弁してしい。気づくなら、全部終わってから気付いてくれ。
「それで、1つ聞きたいんすけど、左腕を切ることに、なんか意味ってあるんすか?」
「左腕……。『もう二度と参加するな。お前にその資格はない』だったはず。あんま覚えてないけど。前にトレディがそんなことを言ってた」
「なるほど。ということは、ミネビアにはもう参加権が無いんすね」
「だね。多分、ストーンエブリシェの時点でダメだと思う」
「そうっすか……」
ヴィアもどこで何をされているのか分からないし、暫くは1人でどうにかするしかないだろうか。ガラミユとも合流したいが、彼も今何処で何をしているのやら。
「あと、単純に気になってたんすけど、ヒガンは何でTOP4なんて、やってるんすか?」
「え?選ばれて止めれないから」
「何で選ばれたんすか?」
「何で?男を、沢山買ったから」
「その男達で何をしたんすか?」
「……殺した。殺して、殺して、殺した。この世界は、どれだけ殺しても、何も言われないから」
何で殺したんすか、そう聞こうとした自分を愚かだと思う。そんなの、憎いからだ。例え答えが全然違ったとしても、俺には聞けない。もしそうだったらの可能性があるだけで、人間はこんなにも怯えてしまうんだ。
「……色々聞いちゃってすいやせんした。嫌じゃありやせんしたか?」
「嫌だよ。でも、欺瞞のあれこれを聞いちゃったから、自分も話さないとダメじゃん」
「……そんな決まりねぇっすよ。嫌なら、嫌って主張しねぇと。じゃねぇと、傷つくのは他の誰でもない自分っすよ」
「……抱えないとじゃん、色々と。そうやって皆生きているんだから」
「馬鹿っすね」
本当に馬鹿で愚かだ。それは、私こんなにも不安背負ってるの、可哀想でしょ、がしたいか、周りがそう見えるから、自分も同じだけの質量を抱えて、周りと同じだと思い込んで適合しようとしている、出来ていると願っているんだ。そんな必要、全く無いのに。
それに、この世界じゃ皆荷物なんて背負っていない。いい意味でも、悪い意味でも手ぶらで生きている。ヒガンは、全くこの世界を見ていない。彼女がしているのは、ただの自己中心的な考え方だ。
「ヒガン、そうやって自分を追い詰めるの、よくねぇっすよ。もっと気楽に生きねぇと。ここはそれがよくも悪くも許されてるんすから。じゃないと、いつか壊れてしまいやすよ」
「別に、気楽になるのがめんどいから。もう疲れたから、壊れてもいいし」
なんて視野の狭い絶賛病み期突入中のJKみたいなことを言うんだ。
座り込んだ彼女の背中をさすり、なんとかベッドに移動させる。
「ほら、今日はもう疲れやしたよね。寝た方がいいっすよ。俺はもうお暇しやすから。残りの話はまた後日やりやしょう」
ヒガンをベッドに寝かしつけ、頭を軽く撫でる。もし、妹が居たら、こんな感じだったんだろうか。
頭から手を離すと、その手は何故か横たわる彼女に掴まれた。
「……なんすか?」
「じ、自分が寝るまででいいから、一緒に、居て」
「子供みてぇなこと言わねぇでくだせぇよ。てか、男嫌いなんじゃなかったっすか?」
「嫌い。でも、欺瞞は普通寄りのちょっと嫌い」
結局嫌いなんじゃないか。
「はぁ。寝るまでっすよ。寝たら、俺も戻りやすから」
「うん。ありがと」
ぽつりとそれだけ言って、目を閉じてしまった。こんなんだから、俺みたいなクズに引っ掻き回されるんじゃないか。
ヒガンの髪を撫でていれば、やがて寝息が聞こえてくる。眠りにつき始めたのだろう。そのことを確認して、彼女の部屋を見回す。
「……あ、あった」
俺のドレスだ。すっかり血は取れていて、元の綺麗な状態に戻っている。
「洗って……いや、再現?複製?まぁ、戻ったことだしいいや」
彼女の優しさに感謝を示し、額に軽く口付けをする。
夢の中だけは、傷だらけの少女が笑っていられますように
なんか久々に胡散臭いライくんのあの口調書いた気がします。あ、ライくんはいつだって胡散臭いか……。
あと今回から書き方がちょっと変わりました。甘語は改行するということを覚えました。読みやすくなってたらいいな〜




