Auction is a tumultuous time
嘘で全てを欺き、秘密を隠し通す
これまでもこれからも、俺の人生は変わらない
目的の為なら、這ってでもしぶとく生きてやる
俺だって普通に生きられると、証明してやる
「えーと、トレディ様、TOP4の皆様、ありがとうございましたー」
覇気の無い声で言ったあと、怨食は頭を下げた。
「さてさて、お次はお待ちかねの商品紹介のお時間ですー。では1つ目の準備お願いしまーす」
怨食の言葉に、会場がザワついてくる。いよいよ、始まってしまう。
「さてと、準備中にルール説明だねー。まず、えんが商品の説明をするから、それは大人しく聞いてくださーい。そのあとに価格提示していってねー。1番高い価格を出した人が、その場で現金支払ってねー。支払えなかったら、きつーい制裁がありまーす。覚悟してくださーい」
まさかの現金で、しかもこの場でか。まぁ、電子マネーなんてものがあるわけもないか。あったとしても払うのは難航するだろうが。
黒服の1人が忍び足で登壇し、怨食に耳打ちをする。準備が出来たのだろうか。
「よし、準備完了とのことなんで、見ていこうか。まず1つ目のしょうひーん」
怨食の声を合図に、タイヤの付いた大きなガラス張りの立方体が運ばれてくる。その中には、まだ幼い少年が座り込んでいた。箱を舞台に乗せれば、黒服の女達がタイヤを弄り始める。恐らく動かないように固定しているのだろう。
「えーと、こいつはねー、貧民街で暮らしていた奴で、活発で明るい性格だったんだけど、ここにきて変わっちゃったんだって。あ、あと、連れてこられる前に、一緒に住んでいた男の人が目の前で殺されちゃったんだって。かわいそー。そんなわけで、すっかり塞がってしまったこの子、5万メニラからスタート」
確か、1メニラが25円。ということは、単純計算で125万だろうか。それからスタートとは、どれほどインフレしているんだ。それとも、ここではそのくらい当たり前に払える額なのだろうか。
「5.2万メニラ!」
「5.5万メニラ!」
「5.6万メニラ!」
あちこちからとんでもない額が言葉として飛んでくる。それは目眩を覚える程だ。だが、よく言葉を聞けば、皆の額の変動の様はチキンレースだ。まるで、さっさと高額を!叩きつけて買えと言っているように聞こえる。この少年に、価値を見出している人はいないのだろう。
「7.2万メニラ!!」
「7.2万メニラ出たけど、他にいるー?」
会場がしんと静まり返る。ようやく1人目が終わるらしい。
「りょうかーい。7.2万メニラねー。それじゃ、お金渡しに来てー」
怨食の言葉に7.2万メニラを叩きつけた貴族はその場から動こうとしない。この会場に嵌められたか。
「あ、ちが...。別に本気で買いたいわけじゃ...」
「なに聞こえなーい。とりあえずこっち来てくれるー?」
怨食の催促に、ようやく震える体を動かし、重い腰を上げる。そして、1歩、また1歩と、覚束無い足取りで舞台へと向かっていった。怨食に支えられながらも、なんとか階段を登りきる。
そして、震える口で、言葉を探した。
「あ、その、本気で、買いたかった、わけじゃなくて、もっと、上が出る、と思って...」
彼女の言葉に少年も耳を傾けていた。今、彼はどんな気持ちであそこに居るのだろうか。ヴィアが居たら、教えてくれたのだろうか。
「つまり、払えないってことー?」
「え、や、だって!こんなの買ったところで、絶対、なんの役にも立たないじゃない!そもそも、5万メニラの価値すら無いわよこんな奴!なんで連れてきたの!」
「...ふーん、りょうかーい。まさか早々にぱくぱく出来るとは思わなかったー」
「は?ぱくぱく?あんたが食べれるのは人間の恨みだけでしょ?嘘つかないでくれる?」
怨食から手に持っていたマイクが落ちる。キーンという気持ち悪い音を立てて、地面を少し転がった。
「嘘じゃないよ。えんは、生身の人間もぱくぱく出来るの。信じてもらえてないみたいだから、見せてあげる」
登壇した貴族は、急いで逃げようと怨食に背中を向けるが、それは小さい体が許さなかった。怨食は逃げようとした貴族に覆いかぶさり、そのまま押さえつけた。
「いや、いや...!」
「んじゃ払う?払ってくれたら、今ならぱくぱくしないよ貧血大サーカス」
出血大サービスと言いたいのだろう。そうツッコめる空気では無い。けれど、このままでは、彼女が、死んでしまうのではないだろうか。見ず知らずの相手だが、人が死ぬのは見たくない。その為なら、誰であろうと庇った。自分を守る為に。でも今、俺の体は震えるばかりで動かない。彼女が払わないと言えば、彼女は死んでしまう。でも、その後はどうするんだ。俺1人で、どう死地を切り抜ければいい。ずっと1人だったはずなのに、分からない。貧民街にいた頃はミナヒが、ここに来てからヴィアが一緒に居てくれた。ずっと、1人じゃなかった。
恐る恐る舞台を見ると、組み敷かれた彼女は、きつく怨食を睨み、怒声を噛ませた。
「馬鹿なの!?あんな価値無し、私が買うわけないじゃない!!そんな恥晒しをするくらいなら、死んだ方がマシよ!」
彼女の言葉に、血の気が引いていくのが分かる。死ぬのは俺じゃないのに。なのに、あぁ、言ってしまった。そんな黒い後悔が渦巻いてくる。辞めて、俺を傷つけないで。女々しい願いは誰に届くこともなく、怨食は人間の許容量を超えた大きさの口で、その貴族の胴体に、にがぷり、と噛み付いた。
不味い、不味い、不健康だ。そう言う声と、鼓膜を割る勢いの悲鳴が耳を通して頭を痛めてくる。
「胸が!!!足が!!!私の!わだしが!!いやああああ!!バケモノ!化け物ぉ!!!」
「不味い、不味すぎるー」
文句を垂れながらも、怨食はひたすらに彼女を食していく。その有り得ない光景に、俺はただ、席を動けずにいた。
人間が、人間を食べている。怖い、怖い。人が死んじゃう、助けなきゃ、どうやって、何が出来る、間に合わない。頭がごちゃごちゃになってくらくらしてくる。辛い、辛い。
それから、怨食はひたすらに貴族を食べ続け、完食した。してしまった。
その食事が終わった時、自分の頬を、何かが伝っているのが分かった。正体を触れば、透明な液体だ。どうやら、色んな物がキャパオーバーしてしまったせいで、それが涙として表れてしまったらしい。今のテーブルには俺しか座っていないが、周りに悟られないうちに涙をなんとか止めようとする。
「ふぅ、ご馳走様。それじゃー、どうしよっか。こいつ。トレディ様、商品どうしますー?」
怨食がトレディの座っている方に聞けば、テーブルに常備されていたらしいマイクを手に取り、トレディが話し始めた。
「TOP4に渡してください。セランカが喜んで受け取ってくれると思いますから」
トレディがセランカにマイクを渡す。それを受け取ったセランカは、登壇し、少年が入ったガラス張りの箱を見つめた。
「ほう、成程。これはペールトが喜びそうな素材だと思われます。如何でしょう、ペールト。実際にこちらに来て見てみては」
セランカの言葉に、ペールトはぴょんぴょんと飛び跳ねながら登壇していく。そして、その少年をじっくりと観察する。される側の彼は、ペールトの顔を見て萎縮していた。というか、セランカに見られた時からずっとしている。
セランカからマイクを受け取り、ペールトが話し始めた。
「確かに確かに!ペトぉ、丁度こういうの欲しかったのですー!どうもです、セランカお姉ちゃん!」
セランカに向き直り、90度の子供らしいお辞儀をする。それをセランカは笑って流していたが、その笑顔はお礼を素直に受け取っていなさそうな気がして怖い。
「とゆーわけで!この子はペトが買うのです!7.2万メニラなのですよね?」
「はーい。毎度ありー」
ペールトはしっかりと7.2万メニラを怨食に渡す。それを確認した怨食は、箱を解放し、少年をペールトの方へ押し付ける。
「それじゃ次の商品どうぞー」
それから代わる代わる、年齢様々な男性が透明なガラス張りの立方体に運ばれ、とんでもない額が飛び交い続ける。
俺はその淑女の狂った戯れには、着いていけなかった。
「えー、あ、最後だ。どうぞー」
最後の商品が舞台に運び込まれていく。それは、俺の探していた人だった。初めて色の付いた彼を見ることが出来た。依頼者の弟、ダンだ。
とはいってもどうしたものだろうか。俺には彼を買えるだけの額を持ってはいない。
「えーとね、貧民街の時計職人のとこの息子なんだって。不細工な兄が居るんだって。人に尽くすのが好きだって。人気高そうだね。ということで15万メニラでいい?はいスタートー」
375万からのスタートだ。どんどん額が膨れ上がっている。周りの貴族の顔が、目が、本気で彼が欲しいと言っている。
「30万!」
「40万!」
「46万!」
「55万!」
あぁ、もう既に俺の手に届かない額になってしまっている。なんて、準備していないはずがあっただろうか。
「250万メニラ」
俺の声に、会場がしんと静まり返る。俺が急に桁を上げてしまい、この後に誰か続くかと不安になっていたが、お金を告げる声は何処からも聞こえてこなかった。
「250万メニラが出たけど、他は…居なさそうだね。それじゃ欺瞞ちゃーん。こっちに来てー」
怨食に言われて、舞台へと再び上がっていく。
「それじゃ、250万メニラちょーだい」
「どうぞ」
財布代わり魔法具に入れていた大金を取り出す。しかし、取り出し方が間違ったのか、何百ものお札が魔法具から飛び出してくる。まとめて入れていたと思っていたのだが。紙屑のようにそれらは宙を舞っている。
「あぁ、どうしましょう。しっかりと入れていたはずなんですけど…。怨食、悪いんですけど、拾うの手伝ってくれませんか?」
「えー、やだ。それにどうせあるんでしょ?」
「えぇ、しっかりと250万取り出しましたよ」
未だ宙を舞っていたそれらは急に意思を持ったかのように動き出し、1つの所へと納められていく。それは、トレディの手の中だ。
「ふふ。素晴らしいですね、欺瞞。私、貴女のことをとても気に入りました。それ程、この少年に価値があると言えるのですか?」
大金を見せびらかせながら俺に問うてくる。
価値、そんなもの知らない。俺は言われたから、こいつを買うだけだ。ただ、それだけの理由で、それ以上の思いなんて持っていない。強いていうのだとすれば、依頼の達成条件に、こいつが必要だから、だろうか。
「えぇ、言えますとも。だって、この世界一の大嘘つき、欺瞞が買い取るのですから」
「それ、無いと言っているのと同意ではありませんか?」
「おやおや、神様は愛しき臣民の言葉を信じられないのですか?私が価値があると言うのなら、あの少年には、その値段以上の価値が付けられる。それとも、あの少年は一切価値能無しのゴミクズとでも言った方が、貴女の信用には足る言葉でしょうか。けれど、そんなことを言ってしまわれては、愛しきトレディ様への罵声に繋がってしまわれます。そんなこと、トレディ様を心から愛する私には出来ません」
罵声に繋がるというのは、トレディの商売センスが無いということだ。商品の罵りは、商人への罵りと同意だ。
「とにかく、あの少年は私のものです。価値だのどうだの、周りに口を出されたくはありません。それは、神である貴女もです。さぁ、怨食。彼を解放して」
向き直り、怨食に要求をする。だが、彼女は首を方向け、眉を少し顰めた。
「うーん。それは無理ー。代金は進行役に渡さなきゃなんだよねー。…トレディ様、どうしますー?」
あいも変わらず覇気の無い声の方向に、俺も振り返る。振り返ろうとした。
だけど、その体は、思うようには動かない。
「…かはっ」
腹に、後ろから手が突っ込まれていた。綺麗に貫通している。どれほど力があればこんなことが出来るんだ。
「さっきから聞いてりゃあよ、お前はトレディ様のなんなんだ。気安く無礼な口利きやがって!!」
「シュレント、辞めなさい。私のことは構いません」
「だけど!こいつはトレディ様を馬鹿にしたんだぞ!」
腹に入れていた腕を引き抜く。急なことに立っていられなくて、その場に倒れ込んでしまう。まずい、早く立て直さなければ。こんなところで、死んでいられない。
「…そんなことで腹に穴を開けるなんて、子供みたい」
そう言ったのは、今まで楽しくなさそうに席に座っていたNo.4ヒガンだ。彼女は舞台に上がってきたかと思うと、俺の口に何か液体を押し付けてきた。
「飲んで」
抵抗も出来ず、彼女の言われた通りに出された物を大人しく飲み干す。味は苦くて、とても飲めたものじゃない。だけど、その不味いの言葉を発する余裕すら、今の俺には無かった。
「なんだぁ?ヒガン。俺様とやる気か?」
「別にそんな気は無い。だるいし。ただ、あまりにも幼稚な単細胞っぷりに呆れただけ」
「はぁ!?俺様が、幼稚で、単細胞だと?」
「合ってるじゃん。だから、いつも力任せでしか行動出来ないんでしょ」
状況が悪い。止めないと、どうやって。頭が回らなくなってくる。でも、自然と体の痛みは引いていっている気がする。先程のあれのお陰だろうか。助けて、くれたのだろうか。単純な考えしか出来なくなってくる。
「止まりなさい。これは命令」
その声に、動き出そうとした2人の動きがぴったりと止まる。疑問に思い声の主を見る。それはセランカだ。彼女の目は、怪しく光っていた。
「てめぇ、セランカ。邪魔すんなよ」
「自分は邪魔されてラッキーだけど。レンとは殴り合いたくないし。ありがとう、セラ」
「いえ、私は、お二人の争う姿を見たくないだけです。そんなこと、神々きっと望んではいないです」
「本物の神様が自分達を見てるとは思えないけど。おっと失礼。トレディも神だったね」
なんて幸の薄い表情で軽口を叩く。この女、
「ごめん。自分、トレディのことあんま好きじゃないから、悪口言っちゃった」
いや、あまりにも正直すぎやしないか?周りの目は気にならないのか。でも、これでヒガンの時だけ黄色い悲鳴が鳴り響かなかった理由が分かった。
「それより、話の大元はどうするの?その子を買うって話だったんでしょ?」
「…それなら、あげますよ。250万メニラは、しかと、私が受け取ったので。怨食、箱から彼を出してあげて」
「は、はーい」
話が進んでいったところで、俺の体も動くようになっていった。
ゆっくりと体を起こすと、激しい頭痛が襲ってきた。やはりまだ寝てた方が良かっただろうか。そんな俺に、近づく影が1つあった。見上げれば、それは先程俺を救った人だった。
「欺瞞って言ったっけ」
「ん?あぁ、ヒガン様。先程は助かりました。ありがとうございます。それで、私に何か用事でも?」
彼女の周りを気にしながらも、俺に耳打ちしてくる。
「地下6階。階段を降りて左の壁の奥の部屋。待ってる」
それだけ言って元の席へと戻っていってしまった。それと入れ替えに、先程囚われていた少年、ダンがやって来た。
「あの、大丈夫?」
「あぁ、平気。あともう少しでお家に帰れるからね」
「うん」
彼の頭を軽く撫でる。すると、その顔は安心を浮かべていた。これで一先ずは安心、といえるのだろうか。
「さて、それじゃ商品も出揃ったことで、今日は解散に」
「お待ちください!」
怨食がお開きにしようとしたところで、黒服の女が入ってくる。今度はなんだと言わんばかりに、全員の視線がそちらに集まる。
「皆様、暫くはこちらでお泊まりください。我々が許可を出すまで、誰一人として、外には出ることは許しません。客室は2階と3階に御座います。くれぐれも、そこから下には降りないよう、お願い致します」
それだけ言い残し、また会場を去っていってしまった。残された会員達は、ざわめきどよめき、落ち着かない。それはそうだろう。
「さて、聞いた通りです。皆様、本日はもうお休みくださいな。今日は解散と致します」
用意された寝室に、ダンと共に入る。どうやら、商品専属の部屋は無いらしい。一緒が嫌なら捨てておけばいいんじゃないの、そう氷釈に言われた。だが、流石にそんなことをする程、終わってはいない。
「初めまして、私、いや、俺はライ・シークレティアス。訳あって女装してこんなとこにいるんす。君のお名前は?」
あくまで警戒されないように、何も知らないふりを装う。
「…名前はダン。あの、お姉、や、お兄さん?は、何で、ぼくのこと買ったの?」
「お兄さんでいいっすよ。好きでこんなかっこしてるわけじゃねーんで。実は、君のお兄さんに頼まれたんすよ。君を助けるついでに、ここを壊してくれって。とんでもねぇ要求しやすね。君のお兄さんは」
「え?」
俺の発言に、ライは目を見開き、幽霊でも見たかのような顔をされる。
「いや、そんなはずないよ!」
「えぇ?でも、君の兄だって…」
「無理だよ、だって、お兄ちゃんは、お兄ちゃんは!…1年前に、亡くなってるから」
「……は?」
TOP4全員やっとまともに喋りました。やったー




