A collaborator who sees through everything
嘘で全てを欺き、秘密を隠し通す
それが俺のこれまでもこれからもかわることのない不変の生き様だ
目的の為なら、俺はなんだって手に入れ、なんだって切り捨ててやる
刺されても毒を盛られても死んでも死んでやらないからな
「うんま。意外な特技っすね」
「もー。だから言ったじゃないですか。料理は私の世界一誇れる特技なんです!」
今俺は、ミネビアの館で出された料理を食べている。なんとピロナとミナヒで作ったらしい。この2人からこんな料理が出てくるとは考えられない。
「…なんか今失礼なこと考えてるでしょ」
「べっつにー?相変わらずミナヒは料理がお上手っすね」
「うーん、ライに褒められても嬉しくないな」
ミナヒの方がよっぽど失礼じゃないか。
「あ、そういえばライさん、ヴィアが明日、ライさんに会いたいと先程連絡が来たんですけど…」
ミネビアの言葉に口に運んでいたフォークの手が止まり、そのまま皿に着地する。
「…返事はしたんすか?」
「まさか!まだですよ!1度ライさんに話をしてから返事を返すと伝えてあるので」
「そうっすか…」
だとしても、明日なんて急だ。相手にも予定はあるのだろうが、もう少し前にアポを取って欲しい。それに、富裕層の女性に会うだなんて、不安が止まらなくなる。
「でも、無理にとは言いませんよ。そのうち会うんですし…」
ミネビアはそう言うが、これは俺にとってはラッキーだ。相手のことを知れれば、当日に会話がもたつくことも無いだろう。それに何より、情報は立派な武器だ。協力者だろうが正義だろうが、全て利用してやる。
「いや、行きやすよ。何時に何処向かえばいいんですかい?」
「え、えっと…13時に、広場のベンチで待ってるって…。彼女の写真も渡しておきますね」
そう言ってミネビアは空中に指をスワイプしていき、目的の品を探す。すぐにそれは見つかったようで、1枚の写真がその場に生成される。
「この方です」
渡された写真は、画質は相変わらず良くは無いが、珍しくカラーだった。ラベンダー色の肩程までの髪を緩く巻いていて、右上に小さなお団子を作っている。瞳の色は水色。右にモノクルをかけており、元気らしさと勇敢さが伝わってくる。
「この方がヴィアっすね」
「はい。でも、本当に大丈夫ですか?バレちゃったら、どうなるか…」
「大丈夫っすよ。所作はミネビア嬢が教えてくれたんじゃありゃせんか」
「それは…そうなんですけど」
ミネビアは自信無さげに俯いてしまう。だが、そんな彼女を執事は放っておけないらしい。
「大丈夫だ…ですよ、ミネビア様。ライなら、自分で全部なんとかします」
ちょっと。流石の俺でも全部は解決出来ない。適当なことを言って誤魔化すんじゃないぞ。
「まぁ、そういうことっすよ。何か事故が起きても、ちゃちゃちゃーっとカバーしてみせますんで、心配なんていりゃせんよ、ミネビア嬢」
笑いながら言ってのければ、ようやく安心出来たようで、彼女の顔色が明るくなっていった。
それから話はすっかり変わり、現実話なんて1つも出てこなかった。こんな大人数で、団欒を感じながらの食事は随分と久しぶりだ。
最後に、こんなにも楽しいと思える食事をしたのは何時だろうか。ボスと初めて出会ったあの日の晩に食べたカレーだろうか。それとも、キャンプの、あの日、嵐が来る前日の夕飯だろうか。やはり、食を楽しめるのは、精々子供までなのだろうか。それとも、俺が腐りきったからなのだろうか。食べても食べても、味を感じても、美味しいと感じたことは、大人になって今まで無かった。ただ、技術が高ければ美味しい、機械的になんとなくそう思っていた。でも、今は違うだろう。楽しいと思える。美味しいと感じられる。それで十分、幸福で満たされる。
「それじゃライ、あたしはもう行くけど、へまだけはすんじゃないよ」
「やだなぁ、しないっすよ。そっちに帰った時はまたなんか美味いもん作ってくだせぇよ」
ミナヒが手を軽く振り、館を去っていく。
あれから少し話し合い、今日俺はミネビアの館に泊まることとなった。明日以降は、ヴィアが誘ってくればヴィアの屋敷に移り、そうでなければ、当日までミネビアの世話になるという流れになった。要するに、俺は暫くの間、貧民街には帰れないということだ。
ミナヒを見送った俺は、ミネビアとファルターと共に中へと戻っていった。
「部屋はこちらを自由にお使い下さい」
「どうも、ありがとうございやす」
ハロンの案内の元、寝室となる部屋へと来ていた。ハロンが扉を開け、中へと入っていく。
そこはとても広く、豪華な客室だった。普段使うか怪しい客室まで丁寧に掃除されてるとは、ピロナの腕には感服せざるを得ない。
ハロンの部屋案内が一通り終わったところで、ハロンは何か質問があるかと尋ねてきた。そこで、部屋とは全く関係ないが、少し気になっていたことを彼女に訊くことにした。
「そういや、ずっと気になってたんすけど、ハロンって、なんかファルくんの弱味でも握ってるんすか?」
「弱味?ファルターのそんなもの、私は持ってはおりません」
俺の勘違いだろうか。ファルターは、ハロンがいる前ではやけに丁寧で、ハロンの様子を伺っているというか、間接的にご機嫌取りをしているというか。
「そうっすか?ファルくんって、ハロンがいると、なーんかやけに丁寧なんすよねー。いつもは結構ぶっきらぼうの無表情なんすけど」
俺の言葉に、彼女が反応を示す。
「ぶっきらぼうに、無表情…?あいつ、私の教育が足りていらっしゃらないのですね…。ライ様は客人だというのに…」
次第に、彼女の纏うオーラが黒くどよんでいく気配を感じる。なるほど、ファルターがハロンを避けていたのはこれが理由か。
「は、ハロン、どうか落ち着いてほしいっす。ファルくんはきっと、そう!友達に対しての親しみなんすよ!それで、俺にはちょっと冷たいんす!」
慌てて適当なそれらしい弁明をぺらぺらと捲し立てる。納得してもらえるかと不安になったが、どうやらそれは杞憂に終わってくれたらしい。
「…はぁ、なるほど。ライ様の友人とあっては、そう叱るのもよろしくないですね。私も彼への態度を改めることと致します」
なんだかよく分からないが、ファルターの不安分子が減りそうらしい。嬉しいかと言われたら別にそうでもない。
「ただ、ミネビア様との関係は、やはりなんとかしなくては…」
「ミネビア嬢との?ハロンは、ファルくんとミネビアが恋仲になるのは、止めたい派なんすか?」
「こ、恋仲…!?い、いや、その、止めたいというより…」
ハロンは何かモジモジと、落ち着かない様子で頬を赤く染める。いつも品行方正な彼女とはかけ離れていて、ギャップを感じる。
「き、き、キス、してるところを、見てしまって…」
「……へぇ」
気まず。主と同僚のキスとか、見た人全員発狂寸前ではなかろうか。しかもその関係を大っぴらにしていなかったら尚気まずい。
「げ、玄関、入ったら、広いエントランスがありましょう?そこの、階段の影に隠れて、ファルターが、ミネビア様を壁に押し付けて、舌まで…」
いや、話さなくて大丈夫。てか話さないで。その意思を込め、ハロンの口に人差し指を置く。彼女はそのお陰で黙ってくれて、それ以上の話を聞かずに済んだ。俺にとっても、彼は1人の友人だ。そんな友人のキス事情なんて聞きたくない。
「…分かりやしたから、もういいっすよ」
手を離し、彼女を解放する。
「…申し訳ありませんでした」
「いいんすよ。今日はもう疲れやしたよね?早いうち寝た方がいいっすよ」
「……そうさせて頂きます。失礼致します」
そのまま、彼女は部屋を出ていった。なんだか、とんでもない話を聞いてしまった。ファルターもそんな暴走することがあるのか。信じられない気持ちはあるが、理性の歯止めが利かない何かが彼を突き落としたのだろう。そのまま、一直線に堕ちていった。だが、それで彼がミネビアに対してそんな態度を取るのだろうか。発作、操縦、催眠。どれもなんだか当てはまらない気がする。
「…余計な詮索かも。さっさと風呂入って寝ることにしやすか」
バスルームの扉を開け、服を脱ぎ、三つ編みを解く。栓をひねって出てきたお湯は、貧民街の物より体にいい温度だった。
翌日、俺は待ち合わせ場所近くのショーウィンドウで身だしなみの確認をしていた。
「どこもおかしくないっすよね、普通に女っすよね…?」
前髪を整えながら、誰にも聞こえないよう小さな声で自身の不安を拭いとる。けれど、どれだけ綺麗にしても靄はすぐにかかってきてしまう。
そんな時、後ろから肩を叩かれた。声を上げずに驚き、恐る恐るも後ろに目を向ける。
「あはは、そんなビックリしないでくれよ〜。まるでボクが悪者みたいじゃないか」
「貴女は…ヴィア様でしょうか?」
「えー?ヴィア様、だなんて堅苦しい言葉辞めてよ。ヴィアでいいよ」
想像以上に気さくな人間だ。こんな人間が人間オークションに通ってるだなんて、信じられない。
「…ふーん、君はボクをそう思っていたんだ」
「え、何か仰いましたか?」
「んーん!何も!さて、それより何処に行こうか。ライは、何処か行きたい所とかあるかい?」
露骨に話題を逸らしてきた。何を言ったかは気になるが、それは後回しだ。
「えっと、私はあまり富裕層には詳しくなくて…」
ミネビアが言うには、ヴィアには貧民街で産まれたけど、酷い家庭環境で富裕層へ逃げてきたということになっているらしい。
「そっか。それじゃ、ボクが富裕層の面白いところをいっぱい紹介してあげよう!着いてきて!」
彼女に手を勢いよく引かれ、一瞬転びそうになる。
それから、彼女の案内の元、富裕層をあちこち見て回った。やはり印象に残ったのは、宝石を売る商人が多いことだろうか。知ってはいたが、どこに行っても宝石売りは居た。これが、ストーンエブリシェが必要な理由か。
「あ、もうこんな時間だ。ライ、今日はどうするんだい?ミネビアのとこに帰るかい?」
そう言われ、一瞬脳が止まる。正直、気が休むのはミネビアの所だが、今は彼女をもっと知ってみたい。
「いえ。ヴィアさえ良ければ、泊めて頂いてもよろしいでしょうか?」
彼女は嬉しそうに、俺の手を握ってくる。その行動に、一瞬ひやっとする。
「勿論、ぜひおいでよ!歓迎するよ!」
目をキラキラさせ続ける彼女に、内心ほっとする。だが、油断は出来ない。
彼女の館への道を行く途中は、凄く有意義な時間だった。彼女から出てくる話は、どれも面白い。だから、相槌を打っているだけで事足りた。
けれど、不安なのは道のりの方だ。富裕層の端の方まで来てしまっている。辺りは薄暗く、建物も明かりも少なくなってきている。
そんな不安を抱えたまま、到着した。
「さ、ここが我が家だよ」
そう言われ辿り着いたのは、3階建てほどのアパートに見える。まさか、ここのどれか一室が彼女の部屋なのだろうか。
「あぁ、流石にこれ全部ボクの家だよ。1階は、リビング兼応接室。ここにキッチンもあるね。2階は客室間が二部屋。ライはどっちか使ってくれ。そして、3階はボクの部屋と、使用人の部屋が1つだね」
説明されれば、凡人よりかは金があるということが分かる。話を聞いていれば、ヴィアの為に造られた建物ということも察しが付く。けれど、他の貴族に比べて、貧相過ぎる。
「はは、そっか。君はそう思うか」
「へ?」
彼女がまた何か小声で呟いた。
「そうだね。ボクは普通の貴族に比べれば、金は持っていないし、そもそも貴族じゃない。ただのそれっぽーいなりすましをしている一般人さ」
とんでもないことがぺらぺらと飛び出してくる。どれが本当だ。
「あはは、全部本当さ。ボクには嘘をつく趣味はないからね。…君と違って」
ぞくり、と鳥肌が立つ。隠していたはずだが。
「全然だよ。それより、中で話そうか」
彼女に誘導され、自然と足が彼女の家の中へと向いていく。全然、読み取れるじゃないか。
家の中は、綺麗とは言えないが、客人を招けるくらいには整頓されていて、人間味がある部屋だと思う。ヴィアに誘導されるまま、リビングの椅子に座る。
「さて、それじゃどこから話そうか。やっぱまずはボクのトレビアと能力かな。ボクのトレビアは風で、能力は読心。心が読めちゃうの。だけど、これは相手がボクにどれくらい好感を持ってるかで変わってくる。ボクを嫌いなら、心は全く読めない。普通くらいなら、砂嵐になって少し聞こえてくる。そしてボクがだーいすきなら、心の奥底、頑張れば過去だって見れちゃう。嘘を見抜いたのは単純に経験だね。ライって案外分かりやすいからさ」
「なるほど。ミネビアから事前に聞いておりましたが、凄い能力ですね」
そう、ミネビアから事前に聞いていたから、ヴィアを恐れ、心の中も取り繕ったのだ。
「でしょー?ま、全部入ってきてしまうのは難点だけど。それで次は…あ!ボクの目的でも話しておこうかな」
手をぱん、と叩き、彼女は1枚の写真を転送してくる。そして、その写真を俺に見せてきた。そのセピア色の写真に映っているのは、ロングの髪を巻いており、肩の露出が多い服を着ている綺麗な女性だった。だが、その顔に何故か見覚えがあると思う。けれど、俺の記憶が正しければ、前世合わせ、こんな人に会ったことは無い。
「その写真に写ってるのはビーテア・ラチェアナヴィという女性で、FemalePalaceの会員さ。だけど、3ヶ月程前に行方不明になっている」
ビーテア、確か、ミネビアに俺の存在を伝えた女性だ。
「ボクは元々、ビーテアには目を付けていたんだ。貴族としての身なりは無いが、トレディからずっとお気に入り評価をされていたからね。そんな彼女が行方不明になってから、拐われてくる男の質が変わった。貧民街から連れてくるようになったんだ」
「行方不明になって貧民街から?それでは、その前は何処から?」
ヴィアは首を横に振る。
「分かってない。ビーテアは異世界、だなんて言っていたけどね。まぁとにかく、ボクの目的は、ミネビアみたいに真実を暴露なんて別に望んでいない。ただ、真実を知りたいだけだ。その為ならば、トレディに忠誠を誓うふりだって、なんだってする」
「…事情は分かりました。けれど、何故そこまでするのですか?動機が分かりませんわ」
ヴィアは目を細め、俺ではないどこか遠くを見ているように感じた。
「動機、動機ねぇ…。君は、女尊男卑が起こる前、トレディが現れる前の世界を知っているかい?」
「いえ、存じ上げませんが…」
「そっか。昔はさ、皆平等だったらしいんだ。けれど、それはトレディが現れたある日、全てがひっくり返った」
そう言って、1つのノートを転送してくる。
「これは、ボクの遥か遠い御先祖様の、王様の日記だ。この日記には、200年も前のことが沢山書いてある。保護魔法で昔の状態に止めてあるみたいだから、今でも読めるよ」
そしてまた日記を消した。元の場所に戻したのだろう。
「実は、あの日記には、トレディは良い人と書かれていたんだ。男と協力し、この大陸、イースラを繁栄に導いたと。だけど、実際のトレディはどうだ。反逆を起こし、男皆を地に落とした。日記には、トレディが反逆を起こしたあとも、彼女を褒め讃える言葉が続いていた。こんなのおかしいじゃないか。ボクは絶対、真実を突き止める。それがボクの目的だ。君は?」
「え?私ですか?」
「そう、こんな危ないことに何で片足突っ込むんだい?」
それはお互い様では無かろうか。
「…実はとある人から依頼を受けておりまして。その為にFemalePalaceへと行きたいのです」
ヴィアは少し黙り、また口を開いた。
「へぇ。君って本当に嘘が上手だね。いや、この場合は、真実で隠すのが上手だね、かな」
やはり、バレていたか。しかし、俺は別に彼女のことを好意的には見ていない。本当、何故そこまで分かるのだ。
「色々隠さなくていいよ。ボクには君が男というのもお見通しだ。すっごく可愛いから、最初は本当に女の子かと思ってたよ。だから、色々隠さなくていいよ。ボクは君に協力してあげるんだから、そのくらいのことは喋れなくちゃ」
彼女のモノクルに付いた飾りが揺れる。全く、とんでもない能力だ。肩の力を抜けば、普段の自分が戻ってくる。
「…はぁ、分かりやした。まさかそこまで見抜かれてるとは思いやせんでした。…俺の本当の目的はただ1つ、行方不明の姉を取り戻すことっすよ」
「へぇ。シスコンなんだ?」
「断じて違いやす。ただ、あんたと同じだけっすよ」
「…良いね」
彼女は席を立ち、俺に握手を求めてくる。
「交渉成立だ、ライ・シークレティアス。君に協力してあげよう。ボクをとことん利用してくれたまえ」
「感謝するっす、ヴィア・ショウクレンアリー」
その握手に応じた。
それから、疲れた俺は客室へと足を運んだ。ベッドに体を沈めれば、疲れた体が簡単に眠りに溶けていった。
その夢の晩、俺はあの人と再開した。




