putting in order
嘘で全てを欺き、秘密を隠し通す
それが俺のこれまでもこれからもかわることのない不変の生き様だ
目的の為なら、俺はなんだって手に入れ、なんだって切り捨ててやる
刺されても毒を盛られても死んでも死んでやらないからな
「今戻りやしたよー。そろそろ着替えていいっすかー?」
ドレス室の扉を開け、入室していけば、女性陣の4人が先程自分達が散らかした分の後片付けをしていた。
「お好きにしてどうぞ。あたし達は使った物片付けてるから」
案外あっさりと、ミナヒが許可をくれた。そのことに少し驚いたが、着替えていいと言われたのならお言葉に甘えておこう。
更衣室に入り、身にまとっていた綺麗な衣を慎重に剥がしていく。腕から、脚から、骨格が見えてくれば、先程の女性なんて鏡の裏を見ようがどこにも存在していない。髪は同じなのに、俺は今、彼女じゃない。寂しさの中に、もう一度彼女に会いたいと思う気持ちがある。あれが自分だなんて幻のようだ。だが、幻は朧気に姿を燻らせるから幻なのだ。なら、鏡の中でしか会えないもう1人の自分は、とても美しい存在だろう。佇まいも、仕草も、何もかも、俺は確かに女だった。
「…さっさと着替えやすかね」
床に脱ぎ捨てられていた自分の衣服を拾い、身にまとっていく。ウィッグに収めるために団子にしていた髪も、元の三つ編みに戻していく。けれど、メイクだけは落とせずにいるせいで、顔だけはまだ華やかなままだった。さっさとこれも落としてもらわねば、と内心考えながら愛用のサングラスをかける。辺りを見回し、忘れ物が無いことを確認して、更衣室を後にする。
「戻ったすよ〜。あと誰かメイク落としてくれやせんかー?」
「メイクなら、ハロンに落としてもらってくださーい」
少し遠くからミネビアはそれだけ言えば、すぐに部屋を出ていってしまった。そういえば、このメイクもあのメイド達がやっていた。部屋をぐるりと見回せば、その姿はすぐに見つかった。
「ハロン、メイク落としてもらいたいんすけど、今いいですかい?」
「えぇ、大丈夫ですよ。ではそちらに座って下さいませ」
ハロンの指示に従い、鏡台の方に置かれている椅子に座る。
ハロンは何か、ウェットティッシュみたいなものに水を吹きかけ、俺の顔に当ててきた。
「そのまま動かないで下さいませ」
ぐりぐりと強く擦られるものかと思ったが、そんなことは無く、優しく数秒撫でられたくらいで終わった。だが、鏡に映った自分の顔はここに来る前に戻っていた。
「終わりましたよ」
「ありがとうございやす。あ、ところで、さっきからピロナとミナヒの姿が見えやせんけど、どこ行きやした?」
「あのお二人でしたら、夕食の準備に取り掛かっております。ミナヒ様も手伝われると仰てくださり、ピロナと共に厨房の方へと向かわれました」
ミナヒが料理の手伝いとは珍しいこともある。あの人の作る料理は不服ではあるが、とても美味しい。けれど、自分でする料理は時間がかかり、非効率的だと言っていた。彼女の無駄に強い料理に対してのプライドのせいであろう。
「ライ様も、よければお召し上がりになられますか?」
「お、それじゃお言葉に甘えて。でも、ピロナって料理出来るんすか?お転婆なお嬢ちゃんにしか見えやせんでしたけど」
「それは否定致しませんが、彼女はあれでも、家事に関してはプロ並みの手腕を得ております」
「へぇ。そういうハロンさんも料理はお得意なんですかい?」
俺の質問に回答が返ってくることは無い。目の前の鏡に映る彼女の顔は、なんとも居心地が悪そうな顔をしていた。
「…いえ、人には得手不得手というものがありますから。ピロナには無いものを私は心得ております」
要するに、家事が出来ないということなのだろう。お互い、見かけによらないものだ。だが、それでそれぞれの苦手な部分を克服出来ているのなら、それで問題無いのだろう。
「それじゃ、俺は晩飯まで適当にファルくんと遊んどきやすかね〜」
「ファルターでしたら、この時間は書庫にいるかと思われます」
書庫、確かさっき紅茶でも淹れるなんて言っていたから、優雅に読書でもしているのだろうか。少し癪に障るが、顔が良いから似合ってしまう。
「分かりやした。どうもありがとうございやす」
椅子を立ち、部屋を後にしようとしたところで、ハロンが何かを思いついたかのように俺を引き止めてきた。
「お待ちください、ライ様。こちらをお渡しするのを忘れておりました」
そう言ってハロンは、1枚の封筒を差し出してきた。
「そちらは、先程のドレスと使用した化粧品が入っております。なくさないよう、ご注意くださいませ」
封筒の魔法具なんてものもあるのか、と軽く衝撃を受けつつも、懐にそれをしまった。
「わざわざありがとうございやす。それじゃ、俺はこれで」
俺が手を振れば、ハロンは丁寧にお辞儀をしてくる。一つ一つの動作が綺麗なメイドだと、改めて思いながら、部屋を後にした。
書庫に入れば、本棚がびっしりと置かれており、他の部屋より少し手狭な印象を受ける。そのせいで見通しがこの上なく悪い。だが、目的の人物は分かりやすいところにいてくれたお陰で、案外すぐに見つかった。そこは本を読むスペースの机と椅子が置かれていた場所だ。その椅子に彼は座っていた。そして、向かいにはミネビアも居た。邪魔になっては悪いと足を入口に向けたが、ここは1つ盗み聞きをしよういう自分もいる。そうなると手段は1つ。本棚の影に隠れて盗み聞きしてやろうじゃないか。
「…ライ、隠れてないで出てこい」
一瞬でバレた。
少しの情報も与えてくれなかった。というか何故分かるんだ。仕方なく姿を現せば、ミネビアは大層驚いたかのような表情を見せる。本当に俺が居たとは思わなかったのだろう。
「ライさん!?な、何故ここに…」
「いやぁ、ちょっとファルくんで遊んでやろうかと思いやして。ハロンさんからここに居るって聞きやしたもんで。まさかミネビア嬢も居るとはと思いやせんでしたけど。でも、俺はもう出ますんで。お邪魔して申し訳ありゃせんでした〜」
「あ、待ってください!」
入り口に向かおうとしていたところをミネビアにひきとめられる。振り向けば、2人とも何か話したげな表情を見せていた。恐らく真面目な話だろう。
「まだなんかありやしたか?」
「実は、ライさんに、ハロンとピロナについてお話したいことがあるんです」
意外な切り出しだ。まさかあのメイドについてとは。
2人のいるテーブルへと足を進め、隣から椅子を1つ持ってきて、その椅子に腰をかける。
「それで?あの2人について、俺に何を話すんすか?」
訊けば、ミネビアは1つ深呼吸をして話し始めた。
「ライさんは、あの二人が似てるとは思いませんか?」
そう言われ、2人の顔を思い出す。表情は全然違うが、顔つきや、髪や目の色等、類似点は多い。
「ん?そりゃ思いやすけど、双子だからとかじゃ…あぁ、でもファミリーネームが違いやしたね」
「はい。でも、あの2人は血縁的には確かに双子です。本人達は幼なじみと思っていますが…」
「はぁ?」
双子なのに幼なじみと思っているとは、どういうことだろうか。記憶でも失われたのだろうか。
「気持ちは分かります。私も、ハロンとピロナについて全てを知っているわけではありませんし、彼女達の過去を私の判断で私の知ってる全てをお話することは出来ません。ただ、分かっていることとして、ハロンの方は双子であることを知っているみたいなんです。ピロナは、とある事故で記憶と…いえ、気になるようであれば、ハロンに聞いてください。話してくださるは分かりませんが」
記憶と?何を失ったのだろうか。隠すということは、余程大事なものなのだろうか。
「とにかく、2人が双子であることはご内密にお願いします。特に、本人達には」
随分と真剣で真っ直ぐな眼差しだ。主として、彼女らを守りたいのだろう。
「…分かりやした。ミネビア嬢がそこまで言うんでしたら、約束は守りやす。けれど、どうしてそれを俺に話してくれたんですかい?」
その問いに答えたのは、ミネビアではない。彼が横から口を割って入ってきた。
「お前は頭が良いし勘も冴える。双子だなんてことはとっくに察しがついてるだろう。お前がなんとなくで双子かなんて訊いたら、絶対何か情報を取ろうとするからだ」
ファルターは意外にも俺をよく見ているらしい。だが、そんな風に言われなくても、自分の命くらい自分で守れる。
「やっだなぁファルくん。俺そんなお行儀悪くねぇっすよ。あ、ちなみにこの話、ミナヒにはしやしたか?」
「まだですけど...それが何か?」
ミネビアの言葉に心底ホッとする。危ない、危うく時限爆弾を彼女に持たせるところだった。
「なら、ミナヒには話さないことを進めるっすよ。あいつの口はペラッペラ色んな秘密すーぐ喋るんで」
「な、なるほど、わかりました。肝に銘じておきます」
そこまで話し切り、ミネビアにまだ話すことはあるかと訊くと、少し考え込み、あ、と声をあげて再び話し始めた。
「あともう一点大事なことを忘れていました」
「大事なこと?」
何かと考えてみるが、特に思い当たることはない。
「FemalePalaceに来た後の住居ですよ!貧民街には帰るわけには行かないじゃないですか」
「確かに。でも、俺は富裕層に家なんて借りてねぇですよ」
疑問まみれな俺に、ミネビアは誇らしげに腕を組む。
「それがなんとですね、ヴィアに頼んでみたら大丈夫とのことだったんです!」
久々にその名前を聞いた気がする。確か、俺がFemalePalaceに潜入するために協力してくれる会員で、ミネビアの友達だったはずだ。けれど、そんな人物の家に泊まるなど、無理な話ではなかろうか。第一、ヴィアは正義感が強いと言っていたはずだ。そんなことをトレディにでも言われたら、詰みどころの話ではない。
「み、ミネビア嬢のこのお館にお世話になるってのはダメっすかね〜...?」
「あー、客室もあるので、私は構わないんですけど、昨日、ライさんのことをディアに少しお話ししたら、ヴィアの方がライさんに興味を持ったらしくて...。ライさんが泊まるところがなければ是非うちにと言ってくれたのはヴィアの方なんです」
「あー、なるほど」
めちゃくちゃ断りづらい。これで断ったら会った時に薄情な人間だと思われてしまいそうだし、スタートラインに立てたばかりのこんな最初に、ヴィアとの関係が悪くなるのは避けたい。不安は残るが、断って怪しまれる方がかえって面倒なことになるだろう。
「...わかりやした。お受けしやす」
「あの、私が言うのもなんですけれど、無理はしないでいいんですよ」
「いやいやいや。無理の1つや2つくらいしていかねぇと、生きていけないもんっすよ」
そこまで言えば、椅子を立ち上がり、書庫の入り口まで歩いていく。
「じゃ、どうもお邪魔しやした〜」
そのまま扉を閉め、パーティーへの時が刻一刻と短くなっていくのを感じながら、食堂の方へと向かっていった。




