83話 後悔先に立たず
抜きつ抜かれつの接戦を繰り広げたネズ夫との障害レース。その勝者はユリス達であった。
「チュアアアァァ!!悔しいでチューー!!
初見の相手に負けるなんで不覚でチュゥー!」
よっぽど負けたのが悔しいのだろう。ユリス達にゴール目前で逆転されたこともあり、ゴロゴロと転がったり地面を前足で叩いたりとその感情を露わにしている。その姿を見ただけならば子供であると言われても信じてしまうことだろう。
「こういう姿は可愛いのに…」
「普段の言動はあれですものね…」
「おーい、そろそろいいー?」
「…チュアァ、本レースの勝――結果は、ワガハイのま、負けでチュ!」
一通り騒いで多少は発散できたのだろう。
ユリスの呼びかけを素直に受けたネズ夫はのっそりと起き上がり、主催者としての務めを果たさんと勝敗の宣言をする。途中で言い直したのはユリス達の名前を知らなかったためだろう。
宣言を聞いたユリス達はハイタッチをして喜びを分かち合っている。
「チュー…それにしてもズルなしで勝ちをもぎ取ってくるとは。しかも全員揃ってゴールでチュか。
…これは最高ランクでチュね」
「その言い草だと妨害とかしてたら景品のグレードは下がってたのかな?」
「チュ!?…まあクリア済みだし別にいいでチュか。
障害レースでグレードが下がる条件は障害を無視する、脱落者が出る、相手を妨害する、でチュ」
本来は教えるつもりはなかったのだろう。口が滑ったと一瞬固まったネズ夫だが、既に最高ランクでクリアされているのだから関係ないかとネタばらしを始める。
「やっぱり…」
「ユリス様はこれを見越していたのですねっ」
「流石ね〜
そういえば広場のガーゴイルはどんなギミックだったの?」
シエラの提案した作戦が上手くハマったとはいえ、未だにどんなギミックだったのは理解していないのだ。
「チュ〜、やっぱり理解していなかったんでチュね〜
初めのはまぐれっぽかったでチュし〜
チュチュッ、最後なんかはゴリ押しだったでチュもんねぇ〜」
「やっぱりなんかイラっとするわね、このネズミ。試合中は手を出せなかったし、一回切っておこうかしら?」
「シエラー、落ち着いてー」
調子を取り戻したのかニヤニヤと口角を上げ、こちらを揶揄うような表情で煽ってくるネズ夫。
標的にされたシエラは思わず腰にある柄へと手をかけて物騒なことを言っている。
「チュッチュッ〜、今は気分がいいから教えてやるでチュよ。
ガーゴイルの攻略法は光っている個体全てを同時に攻撃すればいいだけでチュ。ただし、光っている個体は人によって違うでチュから自分で攻撃しないといけないでチュ。最後の広場では色も合わせないといけないでチュね」
「あー、そういう…」
「そういえば同時に攻撃してましたね…」
ユリス達は最初の広場での動きを思い出して納得した様子だ。
「ただ攻撃するだけじゃいつまで経っても倒せないでチュからねぇ〜…まさか広場全体を継続して攻撃し続けるとは思いもしなかったでチュが」
「ふふん、私の作戦勝ちってわけね!」
「チュー…脳き「貴方様?」チュアッ!?」
突然聞こえた女性の声にネズ夫はビクッと体を縮まらせて後ろを振り返る。
そこに居たのは毛艶が良い二匹のネズミであった。
片方はシュッとしたフォルムの黒毛美人さん。もう片方は雪玉のように丸く可愛らしい白毛ネズミだ。
「ネズ代にネズ子…な、なんでここにいるんでチュか…?」
「いやさぁ〜なんか久々の客にいきなり最高ランクで負けったってぇ〜連絡があったからぁ〜」
「れ、連絡でチュか…?一体、誰がそんな――」
「遊戯神様ぁ〜」
「あ…」
ネズ夫には何か思い当たる節があったのだろう。完全に動きが固まっている。
「まあ〜?あんたが負けたのはいいんだけどさぁ〜
あたしたちも遊べるようになるしぃ〜?」
「次回以降はわたくし達も参加致しますからね。
挑戦者の皆様にご挨拶をしようと様子を窺っていたのですが…敗者であるはずの貴方様が勝者に敬意を払わないなどという愚かな真似をしている様を目の当たりにしてしまいまして」
「見苦しいっていうかぁ〜浅ましいっていうかぁ〜」
「チュゥ〜…」
「妻であるわたくし達としましては、貴方様のそんな姿を子供達に見せたくないものでして」
「これはぁ〜また躾け直さないとぉ〜ってねぇ〜」
「………」
「聞いておりますか?」
「……聞いています、でチュ」
「では後ほどご覚悟くださいね?」
「……はい…」
「さてさてぇ〜放置しちゃってごめんねぇ〜?」
急に目の前で始まった女性と思わしきネズミの説教に呆気に取られていたユリス達であるが、丸っこいネズミの方に話しかけられたことで頭が再起動する。
「あ、いや、別にいいんだけど…どちら様?」
「あたしがネズ子でぇ〜こっちがネズ代ねぇ〜」
「先ほどはわたくし達の夫が失礼をしてしまい申し訳ございません。しっかりと言い聞かせておきますので。
さて、主人とのレースにご勝利されたということで皆様には景品が贈られます」
「あ、はい」
「奥さんだったのね…まあその、しっかり、お願いね?」
「はい、お任せ下さい」
「これがぁ〜景品だよぉ〜」
ネズ夫が先ほどの説教から再起不能の状態に陥っているためか、進行役はネズ代へと移行したようだ。
そのネズ代から景品授与を宣言され、ネズ子から“景品”と書かれた札を手渡される。
ユリスが札を受け取ると、札は見覚えのある円盤へと変化していった。
「これは…構築盤?」
「しかもメダル付きなのね」
「その通りです。
最高ランクの景品は当遊戯場へ入場するための構築盤とメダルになります。次回以降のはランダムに変わりますが、レシピで入場した場合の初回は必ずこちらになりますね」
「アイテムのダンジョンレシピは一回クリアすると消えちゃうからねぇ〜」
「え、まじ?」
「マジマジぃ〜危なかったねぇ〜?」
ユリス達は知らずに回避できていたようだが、レースに勝利しても最高ランクでないと再入場にはレシピを再び探す必要があるという罠がかけられていたようだ。
「また、今後はわたくし達もレースに参加させて頂くようになりますので、どうぞよろしくお願いいたしますね」
「参加人数でレースの内容がある程度決まるからねぇ〜色々試してみるといいよぉ〜」
「参加人数ね…助言ありがとうございます」
「いいって、いいってぇ〜
あたし達も遊びたいだけだしぃ〜」
「わたくし達といたしましては定期的に遊びに来ていただくか、他の方にも遊戯場の存在を広めてもらえますと嬉しいのですが…」
「レシピアイテムじゃなくても、これと同じ景品が手に入るのかしら?」
ネズ代からもっと広めてほしいとお願いされるが、ユリス達が来た方法はレシピアイテムを使うというもの。そう簡単には広められる内容ではないのだ。
構築盤とメダルを使用した一般的な方法であれば特殊なダンジョンを見つけたという発表だけで済むため、まだそちらの方が現実的である。
だが、そちらの手法で今回と同じ景品がないとなると、ユリス達は手に入れた景品を差し出さなくてはいけないことになるため、少々抵抗があるのだ。
何故ならば貰った構築盤やメダルが持っていないものばかりだったから。
「もちろんご用意しておりますよ。
ですが、メダルを揃えて入場された場合は5人パーティ種目の最高ランク景品となります。種目は皆さんと同じく、主人との障害レースとなりますね」
「うーん、なら期間を決めてどこかにレンタルすれば誰かは景品で手に入れてくれるかなぁ?」
「レースではレベルアップしないからね〜
貸し出す場所によっては難しいかもね。やっぱりいつもみたく相談じゃないかしら?」
「ま、そうなるかぁ。
ネズ代さん、動いてはみるけどあまり期待しないでね?」
「ええ、もちろんそんな贅沢は申しません。動いていただけるだけで嬉しいですもの。
わがままを聞いてくださり有難うございます」
一通り話も終わり、あとは帰るだけとなったのだが、ここでシエラがレイラの様子に気づく。
ネズ代達が現れてからずっと何かを気にしていたのか、会話にほとんど入ってこなかったのだ。
「レイラちゃん?
さっきからずっと何かが気になってたみたいだけど、どうしたの?」
「お姉様…いえ、その、大したことではないのですが……一回もチューチュー言わないなぁと」
「……え、ずっと黙ってたと思ったら、考えてたのってそれ?」
「だ、だって気になるじゃないですか!
初めてネズ夫さんに会った時はそういうものだと思って受け入れていたのに、お二人が全く言わないから聖獣としてはどっちが主流なんだろうって…」
シエラから向けられる呆れたような視線にレイラは慌てて言い訳のように言葉を重ねる。
「うふふ、主人のような話し方をするのは雄の中でも一部の大人だけですよ。あとは雄の子供達に多いですね」
「うちの旦那はわざわざ直すのが面倒なんだってぇ〜
昔っから面倒くさがりなんだぁ〜ま、お子様ってのもあるけどねぇ〜」
「へ〜、雌は使わないのね」
「雌が使うと同性からの評判が著しく悪くなるので。自分の娘にはそもそも使わせないようにする教育が主流ですね。
雄からすると使ってほしいらしいのですが、だからこそ媚びていると思われるのでしょう」
「なるほど…全体としては使わない方が主流なのですね」
「その辺の機微は聖獣も人とあまり変わらないのね…」
「大体の子供はある程度成長すると、自然と大人を真似て普通の話し方になっていきます。ですが、時折色んな理由でそのまま直さずに大人になる子がいまして…」
「集団に埋もれたくないとかぁ〜直す必要性を感じられないとかぁ〜ただ単に面倒だとかそんな理由だねぇ〜」
「まあ、雄が使う分には可愛らしいと考える雌も少なくないですし、雄同士ではあまり気にしないようですから、聖獣社会において一応受け入れられてはいるという感じですね。
こんな説明で大丈夫でしょうか?」
「はい、もちろん大丈夫です!
変な疑問に答えていただきありがとうございますっ!」
思いがけずちゃんとした答えが返ってきて、レイラの疑問もしっかりと解消されたようだ。初めは呆れていたシエラも途中から興味津々と言った感じで聞き入っていた。
(聖獣社会ね…口ぶりからして結構な規模だよな?
そんなものが形成されるほど聖獣って沢山いるんだ…)
ユリスだけが気づいた事実はそっと胸のうちに仕舞われる。そもそも聖獣は特殊ダンジョンくらいでしかユリス達のいる世界に関わることはないようなので、一般人にはなんら関係はないのだ。つまりは報告のためにわざわざ深掘りする必要がない。
(さて、帰ったら殿下に渡す資料を作らないと。
はぁ、明日からは授業が再開するっていうのに…もっと早めに検証しておけばよかったかなぁ?でも制御機構貰ったの一昨日だし―…)
休暇明け初日から資料作りのためにサボるのも憚られるし、そもそもユリスとしてはできる限り授業には出るつもりなのだ。
自業自得とはいえ、しばらくは授業に各工房やフォーグランド家との打ち合わせにディランへの説明にシャルティアとのお茶会に―…と忙しない日々を送ることになることだろう。
女性陣がお喋りで盛り上がっている一方で、内容は違えどもため息をつき過去を悔やむ男2人。
ではあるが、ユリスにとっては今生で1番充実した、そして楽しい時間を過ごせていることに変わりない。ただひたすらに打ちひしがれているネズ夫とは違い、若干の遠い目をしながらもユリスの口元にはしっかりと笑みが浮かんでいるのであった。
ここまで読んで頂きありがとうございます。今話で3章は終わりとなります。
本作品を楽しんで読んでいただけている方には大変申し訳ありませんが、次章以降の投稿につきましては不定期とさせていただきます。今まで毎週投稿していましたが、なかなか筆が進まなくてストックがきれてしまったので、今の状態で毎週はちょっと厳しいかなぁと。
今後、1話できるたびに都度投稿するのかストックができてから一定間隔で投稿するのかは未定ですが、完結はさせるつもりなので気長にお待ちいただけると幸いです。




