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74話 説明会(エレメンタルシューティング 3・4年、5・6年種目)

初心者3人がそれぞれ1・2年競技であるフルブレイクを体験したところで説明は次へと移っていく。


「それじゃあフルブレイクについては分かったわね?

 次は『フュージョン』と『スイッチ』の説明をするけど、こっちはまだ出場しないからルールだけね」

「でも実際に見ないと分かりづらくありませんか?」

「んー…じゃあフュージョンは各フェーズを1ラウンドずつやりましょうか。

 スイッチは…ルール自体は簡単だからユーくんが相手役で1分間だけね。あ、立ってるだけでもいいよ」

「分かりました」

「りょうかーい」


段取りが決まり、まずは基本ルールの説明からとなる。


「まずは3、4年競技の『フュージョン』ね。

 この競技は正直なところ競技会でやるエレメンタルシューティング3種目の内、1番難易度が高いわ。

 基本的な流れはボードに表示された属性のエレメントを制限時間内で順番通りに破壊していくって感じね。これを1ラウンド30秒で30ラウンド行なって、成功したラウンド数で順位が決まるの」

「ボードに表示されるのはラウンドごとに10個ですが、一定ラウンドごとに実質的な数は増加します。

 この同じ段階のラウンド分をまとめてフェーズと呼ばれていますね」

「実質的ってどういう事?」

「それがこの種目を難しくしている要因よ。

 10ラウンドまでの第1フェーズでは基本6属性を10個。ただそれ以降は対応するエレメントを2つ同時に破壊して合成しないといけない複合属性が追加されるの。

 15ラウンドまでの第2フェーズでは基本8個と複合2個。

 20ラウンドまでの第3フェーズでは基本5個と複合5個。

 25ラウンドまでの第4フェーズ以降は複合のみよ。

 で、最後の第5フェーズでは追加として風火土水の4種合成である雷が各ラウンドに1つ表示されるようになるわ」

「ちょっとやってきますね」


そう言ってレイラは各フェーズを1ラウンドずつ実践する。

1、2、3フェーズまではノーミスでクリア。第4フェーズでは最後2つ分を残して時間オーバー。第5フェーズでは6個目に出てきた雷の複合をミスしてそれ以降が全て失敗判定になった。


「えーっと…つまりは実質破壊数がフェーズ毎に10、12、15、20、22になるのね。これを30秒って正気?4、5フェーズとか無理よ」

「難易度高いって言ったじゃない。プロでもパーフェクト出せないんだから…

 まあ、学園なら大体は20ラウンドまでで競うことになるわよ。同率で並んだら破壊成功率を競うサドンデス戦で順位決定ね。こっちは実質数で判定よ」

「ちなみに、サドンデスでなければエレメントの動きはないので破壊そのものは楽です。サドンデスは火の動きをするエレメントで複合属性に雷が追加された第3フェーズを行なう感じですね。

 あ、フルブレイクと違ってステージの上に乗ってはいけないので基本的に近接は使えませんよ」


予想以上に高い難易度だったのだろう、3人ともかなり難しい顔をしている。


「さらに言いますと、合成猶予はおよそ1秒です。それ以内で全て破壊できないもしくは違う組み合わせだと複合とは認められずにそのままの属性でカウントされます。先ほどの雷のような並びの場合はそれだけで4ミスになりますね」

「本来なら1ミスでラウンド失敗なんだからミス数が増えるとかは頭の片隅に置く程度でいいルールのはずなんだけど…」

「一般も含めて、今までサドンデス戦をしなかった大会はほとんどありませんからね…」


どうやら最後の10ラウンドが難し過ぎて大体の人が失敗するかサドンデス狙いで適当に流すらしい。そのため、成功ラウンド数20で入賞争いのサドンデス戦となる大会ばかりなのだそうだ。


「必要なスタミナがフルブレイクの比じゃねえな…サドンデスなんかはスタミナ勝負になりそうだなこりゃ」

「皆さんサドンデス戦に備えて最終ラウンドではポーションを飲んでますね」

「そういえば使っていいんだっけ」

「でも、魔力はポーションで回復出来ても精神的な疲れは取れないからね。鍛えた方が有利なのは確かよ?」


フルブレイクは一回の競技時間が2〜4分程度だが、フュージョンは15分である。入賞ラインの20ラウンドだけでも10分なので少なくともそれだけのスタミナは必要なのだ。


「そう言えば複合属性って全部で何種類出てくるの?」

「2種合成が水と風で氷、水と火で霧、土と風で塵、火と土で灼、光と闇で(くう)の5種類よ。

 見た目は塵は砂、灼は溶岩をモチーフにされていて、空は…なんか球の周囲が歪んでる感じね。雷はさっき見たけど周囲にバチバチと放電してる感じ」

「つまり出てくるエレメントは12種類ってことね」

「なんでこの難易度でやってるんだろうな?

 誰も出来ないならもちっと簡単にすりゃいいのに」

「プロでもパーフェクトは居ないけど第5フェーズで数回成功した例はあるのよ。出来ることは示されてるんだから簡単にするっていうのはなかなか理解されないでしょうね。

 それとこれらの競技って建国直後に使徒様が考案した内容らしいのよね。目的も娯楽というよりは修行に近かったそうよ」

「使徒様考案という事もあって神殿が競技内容の変更を認めないんですよね」

「修行か…なら難しいのも頷けるわね」


競技会で行なわれる競技はまさかの使徒が修行のために考案したメニューが娯楽化したものだという事実が判明。つまりはヴェルサロアも関わっている可能性が高い事になるのだが、それが何を意味するかは今の所ユリスに何も明かされていない。


「よし、それじゃあフュージョンはこれくらいにして次に移りましょうか」

「次は5・6年競技の『スイッチ』ですね。

 これは1体1の対戦形式になります」

「ルールは簡単、相手陣地にある指定エレメントを多く破壊した方の勝ちよ」

「制限時間は1セット5分、3セット先取で勝利となります。なので最大で5セットですね」

「うへぇ…もつれこんだらこれまでで1番長くなるじゃねえか」

「しかも対戦だから下手に手を抜けないわね」

「ま、確かにスタミナ的には1番きつい種目かしらね?」


想定以上に長い競技時間に思わず顔を顰めてしまうルイスとエリーゼ。実際学園生だと途中リタイアも毎年出てくるらしい。だが、普段から鍛えている一般の部の選手ではそんな事はあり得ないらしい。


「陣地については、まずステージが半径1mの円形2つになります。この上が選手の動ける範囲ですね。

 このステージを中心として前後左右5m、高さ10mの立方体が陣地となります。エレメントはステージより後方に出現するようになっていますね」

「ふむ…最低でも10mの狙撃手段が必要と」

「例外として陣地の境界に2体エレメントが出てくるわ。ただ、これは得点属性を示すものだけどね」

「得点属性?」

「境界にいる2体のうち向かって右側にあるエレメントと同じ属性のやつを倒すと得点、他の属性だと減点っていう感じでカウントされていくのよ。

 あ、出現する属性は基本6属性だけね」

「エレメントは動きませんが、配置が10秒ごとに変わります。そして得点属性も30秒ごとに変わります」

「あー…減点があるって事はまた範囲攻撃は使えねえな」

「それと選手への直接的な妨害は禁止ね。故意での視界遮断も禁止よ」

「ふーん、なら純粋に撃ち合いってわけね」

「それは…ちょっとやってみてもらおっか。

 ユーくんお願いできる?レイラちゃんもお願いね〜」

「おっけー、大体分かった」

「はい、分かりました」


そうしてユリスとレイラの1分間だけの模擬試合が始まる。


(これまでの説明からいくつか戦略が立てられるが…まあ、説明もする必要があるだろうし普通にいつもので後方の奴を撃つだけにするか)


開始の合図と共に中央に出現した属性はユリスが火、レイラが水である。各自得点属性を確認してから陣地内に目を向けると大量のエレメントが出現していた。


(思ったよりみっちりしてるな!?

 10秒で配置変更だからもっと少ないかと思ってたわ!

 これ貫通する攻撃だとまずいことになるな…威力落とさないと)


予想外の密度に驚き、攻撃の手が緩んでしまうユリス。その間にもレイラは何かに当たると小さく弾けて消えるファイアバレットという魔法で着実に得点をかせいでいる。威力も消費も低いため、まるで競技のためだけにあるような魔法だ。


(うーん…奥の方は射線が繋がらないな。

 不動だと倒せるのはせいぜいが10体前後か。十分な気もするが、レイラ相手だと…厳しそうだな。1分だとギリギリ追いつくかどうかってとこだし…少し動くか)


中央のエレメント横に表示されている得点を見ると18-21と少しずつユリスが差を縮めているものの、最初に出遅れた分をまだ取り戻せていない。

そしてスタートから30秒が経ったところで得点属性が切り替わる。今度は両者とも風だ。


(よし、あと1点で追いつく。

 残り10秒だしスパートをかけてくれれば可能性はあるが…まあそうだよなぁ)


後10秒となり、このままいけば2人の得点が並ぶ。

ここでスパートをかけてくれれば、ミス発生というユリスが勝つ可能性があったのだがそれは叶わない。レイラはユリスの放つ石を全て撃ち落としにかかったのだ。

攻めるユリスと守るレイラ。

展開される光景は意外にも膠着である。


(レイラの偏差射撃は天才レベルだな。

 結構な量を撃ってるのに通らない。あからさまなフェイントには引っかからないし、ギリギリを攻めようにもエレメントが多過ぎてミスる可能性が高い…でも流石に1点くらいは抜けるだろうし、するなら同点狙いかな…?)


だが、かろうじて残り3秒のところで1点通ったため気が抜けてしまったのだろう。


「あっ…」


残り1秒で中央のエレメント2体を撃ち抜くレイラの行動にユリスは対応することが出来なかった。

結果は52-56でレイラの勝利である。


「おかえり〜」

「ただいま…何か他に言う事は?」

「あはは…何のことかしらねー…?

 あ、レイラちゃんもお疲れ様。あのペースだと疲れたでしょ?」

「はい…1分だけだからとあのスピードでしたが…結構キツイですね」


あんなルールは聞いていないと、じとーっとした目で見つめるユリスから逃れるように疲労困憊なレイラの世話をするシエラ。


「まあ落ち着けよユリス」

「あんたがたまにやってる悪戯のお返しだとでも思っておきなさいよ」

「はあ…それなら仕方ないか」


2人に嗜められて矛を収めるユリス。

お前も似たような事をよくやるだろうと言われてしまえば反論できるはずもないのだ。


「んで2人とも、感想は?」

「エレメント多すぎだろうよ」

「何であんたら誤射なしであんだけ得点できるのよ!?」

「ははっ、僕もルイスと同じこと思った。

 精度についてはもう練習あるのみだね。後は無理に奥の方を狙わない事くらいかな」


そうこう感想を言い合っている間にレイラが落ち着いてきたのだろう。説明が再開される。


「こほん…説明の続きをするわね。

 まず皆驚いていたけど、出現するエレメントの数は各属性20体で計120体よ」

「そんなに居たんだ…」

「それで、再配置には1秒くらいの間があるわ。その間はエレメントが居なくなるから、次の10秒間の戦略をそこで決定するのがセオリーね。

 この1秒は試合時間に含まれないから実際の試合時間は1セット5分半になるわね」

「攻めるのか、守るのか、どちらもやるならそのバランスはどうするか、はたまた最後にやったように唯一ルールで許されている妨害を行なうか。といった感じですね」

「最後の奴は予想外だったなぁ…

 まさか倒せるとはね。しかも結果を見たかぎり得点属性が変わってるっぽいし」


実はレイラが中央のエレメントを倒した瞬間にユリスが既に放っていた攻撃2発が風エレメントに命中していたのだが、結果は2点減点だったのだ。


「その通りです。

 中央のエレメントを倒すと対応する側の得点属性が瞬時に変わります。

 対応されると倒す時の減点だけで終わる可能性が高いので、上級者相手だと両者同じ属性というリスクの無い時に選択肢として上がるというレベルの戦術ですけどね」

「そんな都合よくなるような場面じゃないし、今回のはシエラが操作した結果と…」

「…てへっ♪ああちょっと距離置かないで!その対応は流石の私も傷つくわよっ!?」

「だって…ねえ?今のはちょっと…」

「ちょっと…って何!?年齢的に厳しいだろとでも言いたいのかしらっ!?」


説明も大体終了したのだろう、シエラはユリスとのじゃれ合いに集中し始めてしまう。


「おふたりは何か質問はありますか?」

「いや…大丈夫だ」

「ええ、問題ないわ」

「それでは利用時間も迫っていますし、寮に移動して他の競技について説明しましょうか」

「あー…それなんだが、他のは明日以降に出来ねえか?予定はしばらく入れないでおくからよ」

「そうね…思ってた以上に複雑だったからこれ以上詰め込むと忘れそうだわ。

 一旦紙にまとめるなりして定着させないと」

「…それもそうですね。

 では、今日はここまでにしておきましょうか。

 残りはわざわざアリーナで説明する必要もないので、時間がある時に寮で説明しますね」

「おう、悪いな」

「ありがとね」

「いえ、それでは帰りましょうか。

 ユリス様、お姉様、今日の説明会はこれで終わりです。いつまでもじゃれていないで帰りますよ!」


レイラの一声で即座にじゃれ合いを止める2人。ルイスとエリーゼはその光景を見て何となく3人の力関係を察してしまうのであった。


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