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68話 フォーグランド邸 その1

中級ダンジョンから無事に帰還した数日後、ユリスは遂にフォーグランド邸への訪問を果たしていた。


「よく来てくれた。私がレイラの父であり現当主のダレン・フォーグランドだ。

 …ふむ、妻と娘もいることだ。ややこしいからダレンで構わないぞ」

「母エルシィ・フォーグランドです。私もエルシィで構いません。何なら母と呼んで頂いてもいいですよ?これからは家族となるのですからね」

「お招きいただきありがとうございます。

 ユリスです。ダレンさん、エルシィさん、今後ともどうぞよろしくお願いします」

「ああ、よろしくお願いする」

「あら残念。

 ふふ、もう少し親交を深めてからにしましょうか」


エルシィが初手から踏み込んでくるもののユリスは自己紹介中に名前呼びをする事で意思を表明。エルシィも何が何でもというわけでもないため、残念そうにしながらもすぐに引き下がる。

もっとも、諦めてはいないようだが。


「さて、まずはレイラとの婚約の件だが了承してくれて感謝する。

 レイラも含めてまさかここまで決断が早いと思っていなかった。覚悟していた他貴族との牽制の応酬が無くなってくれて本当によかったよ。あれは面倒なだけだからな…

 ああ、ここは別に公式の場というわけではないからもっと砕けてもらって構わんぞ。むしろその方がいい」

「そうですか…そういう事ならわかりました。

 婚約については断る理由がありませんでしたからね。レイラさん…レイラと再会した初日に突然申し込まれたのは驚きましたが、それまでの印象から好みの方だなと何となくではありますが思っていましたし。

 知識や力狙いといった打算がほとんど見受けられなかったのにも後押しされましたね」


ユリスが一応相手の家族の前なのだからとさん付けで呼ぼうとしたが、隣にいたレイラからむっとした表情で袖を引っ張られるという可愛らしい抗議を受けて即刻訂正する羽目になる。そして直後に惚気の入った説明である。

親の前だからと取り繕った様子もなく、むしろ見せつけるかのような2人にエルシィはニコニコ、ダレンは苦笑してしまっている。


「ははは、そこまで仲睦まじい姿を見せられては文句のひとつも出てこないな。

 義父上から聞いていたどこの馬の骨とも知れん男に娘をやる心境とやらを私も体験するのかと思っていたが杞憂だったな。

 あのレイラが躊躇いなく甘える姿を見せるのだから安心して君に預けられる」

「そうですねぇ〜♪

 あのレイラさんがこんな甘え方をするなんて…お母さんは感激です」

「2人してあのとは何ですかあのとは…!」

「ははは…」


からかい混じりの両親に対し抗議するレイラだが、その間もユリスの服の袖は掴んだままである。

対するユリスは苦笑いを浮かべているが、その目はどこか羨ましそうな、はたまた眩しさを感じているような、そんな目をしていた。


「そろそろもうひとつの本題に入るとしようか。

 ユリスくん、君がディラン殿下に託したものは我々が担当する事になった」

「託したというと…湯沸かし器でしょうか?」

「それも、とでも言っておこうか。

 王族の方々との話し合いで、君がもたらすものについての対応は基本的にシャルティア王妃とディラン殿下、そして君と関係を結んだ貴族家で行うという事になったのだよ」


まさかの未来も込みでユリスの面倒を見るという事らしい。というかユリスがまだまだ何かやらかすのは決定事項のようだ。


「今のところは我が家とヴェルモットの2家だが、交流のしやすさが影響してか我が家がメインになっている。

 割り振られたのは湯沸かし器や魔導パズルといった魔道具関係と鑑定スキル関係、それと…つい先日急に集め出したハズレ紙についてだな。

 何故か手を出している服に関してはヴェルモット、ダンジョン関係や紋章関係はディラン殿下が担当する。先程言った鑑定関係もメインは殿下だな。

 シャルティア様は総監督のような立場で気になった事があれば参加してくる形だ」

「おおう…ハズレ紙についてももう殿下にもバレてるんですか。シエラにも教えてないのに…

 やっぱり最大2000枚は多すぎましたかね?」

「知らせたのは私だが、それだけの枚数を欲していれば何かあると言っているようなものだよ。

 まあ、その辺の商店で買い集めなかったのは正解だ。在庫も1店舗100枚程度だろうし、個人なら数十枚買っただけで噂になる。そこまでいくと高騰もあり得ただろうな。

 一応500枚程度でよければ既に集まっているから後で持っていくといい。先程も言ったが、担当になっているから出来れば用途も教えて欲しいところだ」


まだレイラに頼んでから3日しか経っていないのに既にそれだけの枚数が揃っているのだから驚きである。


「もうそんなに集まっているとは凄いですね。

 用途について説明するのは構いませんが…後にしましょうか。僕が知っている限りでは常識が崩れる可能性が高い内容なので、衝撃で話し合いどころではなくなる事が考えられます」

「…君が言うと変に重みがあるな。

 確かに君について殿下から聞かされた時はあまりの衝撃の連続で消化するのに時間がかかったな…分かった。

 それでは既にある程度決まっている魔道具関係から話を詰めていくとしよう」


そこからは湯沸かし器や魔導パズルの理論の確認から予想される需要と現在の供給能力の説明、利益配分といった契約関係に果ては販売・宣伝方法の相談まで着々と行われていった。

途中、完成品のサンプルを元にした派生商品のアイデアをポロっとユリスがこぼした事への注意や内容の追求があったり、職人にとって未だ未知の領域である“一からの魔道具創造”を実現する理論体系の教授をダレン自ら懇願してユリスから月1での魔道具講座開催をもぎ取ったりという一幕はあったが。


魔道具についての話が一段落ついた時、仕事の話になった段階で少し離れて談笑していたエルシィとレイラが何やら期待した目をして戻ってくる。


「あなた、そろそろいい時間ではありませんか?」

「む…そうだな。いつもならもう昼食の時間か」

「ええ、それでですね。何とレイラちゃんが料理を克服したそうでして、振る舞ってくれるそうなのですよ。

 それに何でもユリスさんからティータイムに最適な軽食を教授して頂いたから後でそれも作ってくれるのですって♪」

「おお、そうか!それは楽しみだ」


エルシィとダレンは久しぶりの愛娘の手料理な上、本人が自信満々に克服したと報告してきたという事でテンションが急上昇している。


「それで…ユリス様。出来ればお手伝いとあれの作成許可をお願いしたいのですが…」

「手伝いはいいけど…あれってプリンの方だよね?」

「もちろんです…!

 流石にあっちの方は出せません。どんな展開になるのか不安ですので」

「なら問題ないよ。追求は来そうだけど隠す気もないし。

 材料はある?無いならある程度渡しておくけど」

「大丈夫です!

 師匠から言われて食材は常に十分な量を収納しておりますので!」


一旦断りを入れて厨房へと向かう2人。

事前に話を通してあったのか、そこには使用人達が心配そうな面持ちで待ち構えていた。

といっても手伝う訳ではなくただ見学しているだけだったため、レイラがプリンを作る前に全員を追い返してしまった。


「全く…一体何だったのでしょうか?

 味見していきましたし、監視していたのでしょうけど…それにしては途中なのにあっさりと引き下がりましたし…」

「後で聞いてみたら?

 多分レイラの予想通りだろうけどデザート作るって話は始める前に伝えてなかったし、もう終わったと思って戻ったんじゃないかな」


などと噂されている使用人達は…


「お嬢様があれ程お上手に料理をなさるなんて…!」

「全くだ!何を作っても微妙なものしか作れなかったのに…」

「むしろあのレベルだと既に私達は超えられてる可能性すらあるわよ」

「それな!」

「にしても最後まで見てなくてよかったのかね?」

「大丈夫でしょ。ほぼお嬢様が作っていたようなものだし危険はないわ」

「味も最高だったしな!」

「いやティータイムが云々って話があったような気がするんだが…あれをティータイムはないだろ?」

「確かに…って事は何か?まだ作るものがあったと…?」

「今から戻るのは無理じゃないか?お嬢様キレる寸前だったぞ?戻ったら確実に爆発する」

「そんな姿を婚約者の前で晒させる訳にはいかないものね。うん、そういう理由で離れた事にしましょうか」

「「「「異議なし」」」」


レイラの上達っぷりにテンションが上がり、まだ他にもある事をただ忘れていただけであった。


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