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64話 昇級祝い

3人娘の婚約者達と初顔合わせをしてから数日経ち、既に帰省組6人は出発していた。

結局あの顔合わせの後、女性陣も当主から在学中に婚約を確定できなければ別の相手と婚約してもらうと言われていた事が判明し、全員で情報共有を行なうことに。

その結果、今回の帰省で決着をつける事になったのだ。流れとしてはグランが写しで持ってきた本の内容を元にシャトル家当主を問い詰め、自白を得てからスキルで全員に連絡(紋章はユリス提供)し、一斉に各々の当主から条件の撤回をもぎ取るというもの。

上手くいかなければ駆け落ちも選択肢に入れるというほど本気で挑みに行ったようだ。

居残り組ではルイスとエリーゼは宣言通り度々王都観光に出掛けている。

レイラは提出した報告書のうち、ボスラッシュダンジョンの内容が第1種特待生への昇級条件を満たしたと認められ、晴れて第1種の仲間入りをする事になった。必要な準備に関しては今度の帰省時に行うそうだ。

そしてユリスは…レイラのお祝いにと新しい甘味の作成に挑戦していた。


「うーん…しょっぱいな。

 やっとバターっぽいのが出来たのはいいんだが…固めるのに結構な塩が必要だったから製菓向きじゃないなこれは」


お祝いといえばケーキという事でバルクリームからバターを作れないかと記憶にあるバターの作り方を試してみたのだが、出来上がったものはいかんせんしょっぱい。

パンに塗って食べたり炒め物に使ったりする分には美味しいバターが出来たのだが求めているのは製菓用の無塩バターだ。


「やっぱ容器に入れて全力で振るしかないかな?

 …そう言えば、前に有塩バターを無塩にするやり方を見たような…確か一旦溶かしてから静かにゆっくり冷やし固めるんだったっけ?

 ちょっと試してみるか…―」


そんな試行錯誤を重ねてようやく完成した無塩バターを使用して、今回は簡単なパウンドケーキの作成をやってみる事に。


「小麦粉は手持ちに使えそうなのが無いから購買で買ってきたけど、製菓用じゃないし質が…まあ仕方ないか。型はこれでいいとして、バターは室温に戻して、後は精製した蜜巣を細かく砕いておいてと…とりあえずこれで準備はオーケー」

「ふーん…小麦粉以外はこの前のプリンと基本的な材料が同じなんだね?このバターも元はバルクリームみたいだし」

「シエラ?いつの間に……確かにそうだね。というか僕が知ってるお菓子の大半はこのセットが必要だから、今後もよく出てくるよ」


いつの間にか背後から覗くように観察していたシエラに驚きつつも、説明をしながら工程を進めていく。


「今回のもプリンと同じで比較的簡単なレシピだよ。

 注意する点といえばバターに材料を加えていく時に必ず何回かに分けて少しずつ加えて都度混ぜる事くらいだし。あ、小麦粉は一気に入れちゃっていいよ」

「ふむふむ…蜜巣と卵とクリームは少しずつで小麦粉は一気にと…で、焼くんだ?」

「うん。型に入れて焼いたら終わり。簡単でしょ?」

「確かに文章にすると簡単だけど…混ぜるの結構大変じゃない?」

「まあ、そこは美味しい物が食べたいなら頑張りなさいという事で。

 …その内ハンドミキサーも作ろうかな」


何か新しいことをする度にやりたい事がどんどん増えていくユリス。だが暇になるよりは良いとその都度優先順位を更新していくのであった。


「ねえユーくん、凄く良い匂いがしてきてるんだけど!?これほんとに夜まで食べちゃいけないの!?」

「お祝い会は夜なんだからダメに決まってるでしょ。今回はレイラのために作ってるんだから味見も無し…いや味見はしないとだめか。初めて使う材料だしちゃんと出来てるかも分からないし…でもシエラだけはだめ。味見したいならレイラも一緒ね」

「ぐぬぬ…食べたい…でもそうするとサプライズが…」


どうやらレイラのお祝い会はシエラ監修のサプライズ企画だったようだ。

ユリスから提示された2択にシエラはそれはそれは真剣に悩んでいる。参加者はこの場に居る2人だけなので企画変更についてはシエラ次第なのである。


「うん!決めたわ!サプライズやめる!

 お祝い会は皆が揃ってから食堂で大々的にやりましょう!

 それで今焼いてるのが完成したらレイラちゃん呼んでお茶会しよっか♪」

「そうきたか…まあそれなら早めにレイラを呼んできてね。後30分もすれば焼き終わるから。

 本当は冷めたら完成なんだけど焼きたても食べたいでしょ?」

「もちろん食べたい!呼んでくるね!」


結局は食欲が勝ったシエラはすぐさま行動を開始し、レイラを呼びに出ていった。

そのレイラも新しい甘味という誘惑に勝つことは出来なかった。2つ返事で参加を了承し、自室でしていた作業を速攻で取りやめてからシエラと2人してバタバタと部屋に駆け込んでくる始末だ。


「ユリス様!新しいお菓子が出来たというのは本当ですか!?あ、すごく良い匂いです!」

「ユーくん、もう出来た!?」

「後少しだから落ち着きなさい…シエラにはさっき時間を教えたでしょうが…」


もう待ちきれませんという2人の様子に苦笑しながらオーブンを開け、焼きたてのパウンドケーキに刃を入れると辺り一面に芳醇なバターの香りが広がった。3人とも我を忘れてうっとりとしてしまっているほど強烈なそして魅惑的な香りである。


「…おっと、いけない。

 シエラ、シーエーラー!お茶を入れて欲しいんだけどー?」

「…はっ!?

 うん、お茶ね、すぐ、入れるわ…このお菓子危ないわよ!?…何故か気を抜くとすぐ意識が引き寄せられるんだけど!?

 ユーくん、一旦収納にしまってもらえない?気が散ってちゃんとしたお茶が入れられないわ」

「えー……ん!?あれま、確かにこれは邪魔になるね。それじゃあ、あっちの空き部屋にテーブル移動させて準備してるね」


そう言ってユリスはパウンドケーキを全て収納してからレイラの手を引いて空き部屋に移動していった。

収納する前に何故ユリスが驚いていたのかというと、完成したパウンドケーキに誘引と集中阻害という効能が付いていたためである。誘引とは魅了の亜種のような効果でこれが付いているものへ意識が引き寄せられるという効果だ。通常は薬などに付いている項目なのだが、まさかのタイミングで料理にも付くことが判明した形だ。


「さて、それじゃあ早速食べようか」

「はい。では頂きますね」

「待ってました!いただきまーす」

「「!?…美味しい(です)!」」

「うーん…」

「えっ!?何、ユーくん、これで微妙な出来なの?

 今まで食べた料理の中でプリンと一緒にダントツトップに居るくらい美味しいよ?」

「お茶にとても合いますし、素晴らしいお菓子だと思うのですが…?」


一口食べて絶賛するシエラやレイラとは対照的に難しい顔をするユリス。まさかの事態に困惑する2人だが、同時に本来のパウンドケーキとはどれだけ美味しいのかと半ば戦慄している。


「いや、味と香りは文句ないんだけど食感がね…もっとフワッとした軽い口当たりの予定だったんだ。予感はあったけど、やっぱ小麦粉だけ買ってきたものだったから仕方ないよね。

 まあ美味しいし別にいっか」


準備の時に抱いていた懸念がドンピシャで当たってしまったようだ。売っていた小麦粉に種類というものが全くなかったので、おそらく薄力粉ではないと思いながら作ったのだが出来上がりはやはり固かった。

味や香りは最高だし食べ応えもあるので、そういうお菓子だと思えば充分に満足できるものではある。なのでユリスも別物を食べている事にして至福の時を楽しむ事にしたようだ。


「小麦粉は入手報告がダンジョンの低層でしかないから品質の低いやつが多いんだよね。ドロップとか有れば良いんだろうけど…そこはユーくんが見つけるのに期待ね♪」

「ふふっ、例の食材ダンジョンのバリエーションを増やさないといけませんね?」

「気長に探しますか…

 …あ、そう言えば。レイラ、第1種昇級おめでとう。本当はそのために作ったんだった」

「そうだったわね。レイラちゃんおめでとー!

 お祝い会はみんなが帰ってきたらやるからね!」

「ありがとうございます…!

 これもお2人が手伝ってくださったおかげです」


パウンドケーキに気を取られていたため、おまけのようになってしまったがメインの目的であるレイラへのお祝いも無事完了。

そのまま普段通りのお茶会に突入し、話はレイラが部屋でおこなっていた作業についてへと移行していく。


「あ、実家から連絡来たんだ?」

「はい。ユリス様の都合がよければ5日後に家へ招待したいとの事でした」

「ん、問題ないよ」

「5日後にフォーグランド邸って事は私はそこから一旦休みってことよね?」

「そうだね。期間は不明だけど、部屋は自由に使って良いし、アリーナも毎日同じ時間で予約入れてあるから好きに使っていいよ。外に出てもいいしね」

「一応確実に分かっているのは1泊ですが、向こうも長期休暇中なのは承知していますし何かあれば延長はすると思います」

「はーい、おっけーよ。

 この間の戦闘では勘が鈍ってるみたいだったし、紋章も変わったからちょっと本腰入れて訓練でもしようかしら…?」


その後もお菓子とお茶を楽しみつつ、長期休暇中の打ち合わせをしていくのであった。


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