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60話 後日談3 抗い続けた者

初めての試みで1人称に挑戦しています。

これからもたまに入れるかもしれません。

―――sideカレン


「ここは…」


ああそっか…治ったんだっけ…

身体は信じられないくらい軽いけど頭は重い…寝過ぎたのかな?

外はもう日が落ち始めてるわね。治ったのはいいのだけど、要観察とか言われてここ数週間はずっとこんな感じなのよね…暇だわ。

まあ、まだ下手に行動を起こすわけにもいかないから、ちょうどいいといえばいいのだけど。身体自体は治ってるのに小さい頃に戻ったみたい…

あら…?お母様?入ってきてそうそう難しい顔をしているけど、どうしたのかしら?

……え?ヨシュアが処刑された!?本当なの!?

…ってジラード!?彼は今王城にいるのね?こうしちゃいられないわ!お母様!すぐに彼に会わせて!

え?もう体は大丈夫なのかって?大丈夫に決まってるじゃない!起きてからはずっと仮病だったんだか…ら…

…あ。

あー…あはは、お母様?ちゃんと理由はあったのよ?

話すから!話すから怒らないでー!?―――


……ふう、ようやく収まったわね。全くお母様ったら一回怒ると長いんだから…はい、すみません話します。

でも、ちゃんと全部話すとなるとかなり昔からになるし、長いわよ?

…いいんだ…はぁ、じゃあ最初からね…


―――私は生まれた時から病弱で少しでも激しい動きをしたらすぐに体調を崩してしまっていたわ。初めの頃は短時間なら動けたから、才能判定の訓練で桁外れの結果を出してしまって称賛を浴びた事もあったかしら。

でも、すぐに運動はもちろん、ただ動くことすらも長時間はできなくなって周囲から期待されていた戦闘系の才能はいつまで経っても伸ばすことができなかったわ。

次第に期待は薄れ、称賛は陰口へと変わっていったの。そんな経験もあって、幼少期は他人の顔色を常に気にするような子供だったわね…いや、今もそうか。

だからなのか5歳で加護を受けて得た紋章は『看破』だったわ。使えるスキルは『看破』と『探知』と『感知』だけ。そしてその段階で皆期待を向けることは一切無くなった。それどころかディラン兄様を除いて体調の心配以外で興味を示さなくなっていったのよね。

でもまあそれも当然かしらね。今でこそ手放すことが考えられないほどに重宝してるけど、当時は看破は罠とか意図的に隠されたものを見破ることだけで探知は建物内の部屋の位置とかが分かるだけ、感知に至ってはよく分からない状態だったもの。体力がないおかげでダンジョン探索位でしか使えないスキルなんて使う機会が全くないのだから、使えるスキルがなかったも同然だったわ。種族の方は聖魔法とか使えそうなのもあったけどやっぱり部屋で練習は出来なかったし…

それで落ち込んでた時期もあったけど今私が使えるスキルはそれらとユニークの『鑑定』だけなのだから、諦めずに毎日何か他の使い方がないかと周囲を見渡していたわね。思えばその足掻きをしていなければ私は今無事に生きてはいられなかったでしょうね。

いつものように足掻いていたある日、新しい技能を覚えたのよ。

ふふ、何かって?それはね…魔力感知と悪意感知よ!そう、よく分からなかった感知スキルが使えるようになったのよ。そのおかげで魔力そのものや人の悪感情を感知出来るようになったんだけどね。その頃には内宮には悪意を持つ人がほぼ居なくなってたから、そっちの実感は湧かなかったわね…ああ、やっぱり陰口を言ってた人は解雇してたのね。

それからはディラン兄様が起きていられる時間にゆっくりでいいからと宝物庫のリスト作成を任せてくれたから、鑑定の項目も増やせるようになったわね。…え?少し前まで誰も鑑定について知らなかったの?対象に発する魔力を集めるだけよ?えー…これが第1種の功績になったの?うそぉ…

…んんっ!…まあそうやって過ごしてたんだけど、なかなか新しい事は見つからないし、リストも作り終わっちゃったしでモチベーションが無くなっちゃったのよね。せっかく動ける時間なんだし、寝てるだけなのも時間が勿体無くて。だからね、もしかしたらまた技能が増えるかもしれないから使えるスキルの実験だけは続けたけど、半分以上の時間は勉強に回したの。

短時間なら出来ないことはないしと思ってやってみたんだけど、どうやら色々やってたせいで少し体力がついたのか幼少期よりは長時間勉強できるようになってたの。

才能判定訓練は戦闘系をやっただけだったから知らなかったんだけど、こっちの方にも才能はあったみたい。結局いろんな学問を勉強してたら学園卒業レベルまでなら修めるに至っちゃったわ。

そっちの才能を自覚したのがきっかけで、ある程度修めてからはひたすらに自分の文官としての能力を高めていったわ。その頃はただそれだけが楽しみだったのよ。

そして1人で国の政策の良し悪しをまとめたり、私が勉強をしていることを知った宰相とかに腹の内を探らせないような交渉術なんかも教えてもらったりして自己を高めていたある日、1人の男がお父様とお母様を通じて挨拶をしに来たの。そう、ヨシュアね。

私に挨拶なんて珍しいと思いながらも会ってみると、そいつは悪意の塊みたいな存在だったわ。あまりの恐ろしさにお母様の後ろに隠れて、そのまま倒れてしまった。あの時倒れたのは体調じゃなくて恐怖だったのよ…

目覚めたところですぐに2人にあれは危険だと伝えたけど…碌でもない男だって認識はあっても、危険とまでは思ってくれなかったのよね。侯爵って立場のせいもあったとは思うけど。

そこからはお母様も知っての通りよ。最悪なことにあいつに気に入られたのか頻繁に会いに来るようになったわ。大体はお母様と近衛兵が同席してくれていたから何とか無難に対応は出来ていたけど…遂に問題が起きたわ。

いつものようにお母様と2人で対応していた時に緊急でお母様が呼ばれた日があったでしょ?これまでの感じから十分に対応できると判断したのか、お母様は私に対応を任せて部屋から出ていってしまったわね。

すると、あいつから個人的にプレゼントがあると言われたの。流石に突っぱねることは出来ないし中身を聞くと飴玉だって言ってきたのよ。たまたま手に入れた貴重なものでバレると催促されて大変だから他の人には秘密だと言って飴玉を差し出して来たの。同席してた近衛兵にも毒見兼口止めだと同じ物を渡していて、そいつは嬉々として食べていたわね。呆れて物も言えなかったけど…

でも、そんな風に呑気にしていられたのはそこまでだったわ。近衛兵が飴玉を食べたのを見届けてからあいつは小声でこの後の行動を見逃すようにと口走ったわ。その段階で悪意が更に膨れ上がったから、嫌な予感がして咄嗟に出された飴玉を鑑定したの。

結果は強制従属薬とかいう薬を固めた飴玉だった。もちろん多重鑑定で薬の効果も把握したわ。

流石に焦った…というか絶望したわね。運良く誰かが部屋に入って来たりでもしない限り、食べないでいることは出来なかっただろうしね。最悪、無理やりにでも食べさせてしまえばあちらのものだし、いくらだらしなく太っていて弱そうだといっても当主なのだから、当時の私よりは確実に強いでしょうし抵抗は意味をなさない。そして、それを食べた後の展開は容易に想像がついたわ。

のらりくらりと躱しながら、どうやったら回避できるか考えていたら、何か思い出したのか男からよかったらこれも飲んでくれと瓶に入った薬を追加で渡されたわ。こいつはもう隠しもしないのかと思ったけど、話を聞いたら息子から貰った体力増強薬ってことみたいだったわ。

もうなんというか、あからさまに透けて見える意図に嫌悪感を覚えながらも何とか受け取って鑑定をしてみたら、出てきた内容にはメインの効果は体力増強だが中和剤として用いる事もできるって記述があったのよ。なんか気になってね、多重鑑定で更に鑑定をしてみたら…中和できる素材の一覧が表示されたの。

その一覧を見た時、もしかしたらと思ったわ…期待に逸る気持ちを抑えながら飴の方を同じように鑑定すると…まさにだったのよ!中和できる素材で構成されていたの!

これを見た時の私の気持ちが分かるかしら!?まるで神様に助けられたようだったのよ!

中和薬に使われていた一部の素材が兎獣人には毒であるみたいだったけど死にはしないレベルだったし、それなら目の前の男の奴隷になるよりは毒を飲んだ方が遥かにマシ。

それにね、中和薬の製作者は私を助けようとしてくれているのが伝わってきたのよ。何となくだけどね、とても嬉しかったわ。そう感じたから、恩人である製作者“ジラード”の名を心にしっかりと刻み込んでから薬を一気に飲み干して飴玉を口に入れたわ。

それを見届けたあいつは特に何もせずに、もう時間だとだけ言い残して満足したように部屋を退出していったわ。

それからは小さい頃の生活に逆戻り。いえ、その頃よりもひどいかもしれないわね。声は出せないし、力が入らないから文字を書く事もできないくらいだったからね。他人との意思疎通もできないし、寝込む時間も前より長かったし。

でも、あの男と会う事も無くなったし平和だったから、慣れてしまうとこれでもまあいいかと思えるようになっちゃったのよねー…

唯一お母様の顔が沈んでいたのが気がかりではあったけど…

とまあ、私が倒れた経緯はこんな感じよ。ここからはお母様の方が詳しいんじゃない?

ある日を境に急に調子がよくなっていったわ。最近王都にやってきた子供が特効薬になる素材を持ってきたって聞いて初めは彼かと思ったけどね、初めて聞く名前だったからちょっと残念だったわ。

それから数日でほぼ完治したというか、病弱体質まで治ったんじゃないかってレベルで身体が軽くなったんだけど…あいつがまた動き出しても困るからしばらくは完全には治っていない事にしてたの。それで、どうすればあいつを叩き潰せるかをずっと考えてたわ。

でもそれももうお終い―――


「話はこれで終わりよ。さあ、お母様!早速…お母様?」


どうしたの?急に抱き締めたりなんかして…ってなんで泣いてるの?

いやまあ確かにちょっと重めの話ではあるし、途中から俯いていたのを気にせず話してた私も私だけどさ。そんなに泣く要素あったかな…?


「ごめ、んなさい…ごめんなさいカレン…!あの時私が出て行かなければ「ストーップ!」…カレン?」

「お母様。それは言ってはいけないわ。

 お母様があの時出て行ったのはスタンピードへの緊急対応のためでしょ?ならそちらを優先するのは王族として当たり前、むしろ義務よ。

 それにもしあの場をやり過ごせても、どうせあいつは日を改めるだけで何の意味もなかったでしょうね。過程は上手くいったのに望んだ結果が得られなかったからこそ、あの時点であいつはそれ以上手を出すのをやめたのよ」

「カレン……そっか、もうそんな風に考えられるまで成長していたのね…

 あなたの苦しみも努力も成長も、私は何も知らなかった…ただ心配するだけで理解しようとしていなかった。これじゃあ母親失格ね」


過去を悔やむように自嘲するお母様。でもね、それは違うのよ?絶対に失格なんかじゃないわ。


「お母様、そんなこと言わないで。

 お母様が居なければ私はとっくに生きる事を諦めていたもの。

 小さい頃から倒れる度、何度死にたいと思ったことか。それでもお母様がいつも隣で励ましてくれた。起き上がれないのになかなか寝付けない私を見てお話ししたり本を読んでくれたりした。仕事もあるはずなのに私が起きている時にはいつも近くにお母様が居たわ。

 私が今生きているのはお母様のおかげ。大好きなお母様を1人になんかさせないためにこれまで抗ってきたのよ。…だからそう自分を貶める様なことは言わないで。私にとっては最高の母親なんだから…!」

「カレン…!…ありが…とっ…!ぐすっ…」


それからしばらくの間、お母様は私を抱きしめて泣いていた。やっと泣き止んだところでお母様は恥ずかしくなったのか、少し目を逸らしながら私に問いかけてきた。


「そういえばカレン、あなたさっきジラードに会いたいって言ってたわね。何を考えてるのかは分からないけど思うように動いて構わないわ。どうなろうが私がなんとかしてあげる。

 でも、彼が今後どうなるのかは話しておこうかしらね」


それからお母様は、ジラードの歩んできた道と受ける罰について話し始める。

そっか、そんな境遇に置かれていながら私を助けてくれたのね。そして辺境に行くと…一緒に行くのは流石に出来ないし、やっぱりあれしかないかしら?でも、お母様の出した条件が心配ね。相性がいいとありがたいんだけど…


「ならお母様、………って感じでどうかしら?」

「あら♪あらあら、そういう事だったのね♪

 任せなさい!ばっちり根回ししておいてあげるわ!」


テンションが急に上がったお母様と軽く打ち合わせをしてから、早速ジラードの部屋へ向かうことに。

彼の部屋について、緊張しながらノックをする。

返事と共に出てきた男の子を見て驚いたわ。一切の悪意がない清廉な心、にもかかわらず表情に見え隠れする影。そしてその影と共存する決意の表情。

私はそれを見て直感したわ。この男の子は一度崩れて立ち直った後なのだろうと。だけど今はまた揺らいでいる状態で、誰かが支えないとまたすぐに崩れ落ちてしまうと。

なら早速恩返しね!今度は私が彼を助けてあげないと!

……決して既に近くに女の子が居ていい感じの雰囲気になっていたことに焦ってるわけじゃないわ!

お母様の誘導もあってスムーズに互いに自己紹介も終わったけど、そんな事を考えていたせいなのか直後に私の口からついて出た言葉は…


「私と結婚してくださいっ!!」


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