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56話 明かされる真実

普段は静寂に支配されている王城の謁見の間へ続く廊下に、先程から耳に障るような甲高い男の声が響いていた。


「ふん、緊急招集というからわざわざ急いで来たというに、このワシを10日も待たせるとは…いくら陛下といえども文句の1つも言わないと気が済まんわい」


その声の主はヨシュア・ベルクト侯爵当人である。

でっぷりと張り出している腹を揺らしながら、短くて細い手足をちょこまかと動かして歩いている。

緊急だからとすぐに領を出発させられたのに王都に到着してから謁見までかなり日があいている。しかもその間、用意された屋敷から出ることが出来なかったために先程から案内の執事相手にブツブツと不満をこぼしていた。だが、基本的に臆病なのだろう。明らかに自身より力があるだろう近衛兵や騎士がいるところではしっかりと口をつぐんでいた。

この流れはユリス達が最初に立てた計画に当たるが、緊急招集の理由が何なのか考えようともしていないヨシュアのおかげで用意していた保険は一切作動していない。


「すぐに陛下が参りますので中でお待ちになっていてくださいませ」


そう言って執事が開けた扉の先には両手に拘束具を嵌められた状態で玉座に向けて跪いているジラードの姿が。しかも、その両隣には騎士が1人ずつおり、まるで捕らえた重罪人を無理やり跪かせているようなシチュエーションである。


「なあっ!!

 ジラード!何故お前がここに…その拘束はなんだ!?」

「ベルクト侯爵、この間ではお静かにお願いします」

「ぬぐぅ…!…だが、しかし!」

「間も無く陛下が参ります。お静かに、所定の場所で、お待ちください」


驚き、大声で問いただすヨシュアを騎士が冷静に注意する。注意された当人は気づいていないが騎士の目が全く笑っていない。

被せ気味かつ強調する様に再度注意されたヨシュアはしぶしぶながらジラードと騎士を挟んだ反対側に少し距離をおいてのっそりと跪く。が、その姿は側から見るともはや腹ばいである。


「国王陛下のご入室!」


宰相のレイトが入って来てそう宣言すると、室内にいる近衛騎士以外の全員が頭を下げてジルバの着席を待つ。


「楽にせよ」


ジルバの一言でジラードとヨシュア以外が頭を上げ、警備に戻る。


「さてベルクトよ、久しいな」

「ええ、陛下におかれましてもご健勝そうで何よりでございます」

「お主の相変わらずのようだ。

 それにしても待たせてしまって悪かったな。後始末に手間取ってしまってな。だがお主も把握していると思うが、此度の事件はあまりにも重大すぎた。だからこそお主も指定日よりも相当に早く駆け付けたのであろう?」

「はい…?あの〜…失礼ですが陛下、何のことを仰っているのでしょうか?

 わたくしは特に理由も知らされぬまますぐに出立するようにとの命で王都に参ったのですが…」


ジルバの前置きに対し何のことだと返すヨシュア。どうやら巨石事件の事は何も把握していないようである。

予想以上にヨシュアが考えなしだったためにジルバは思わず呆れた声を出してしまう。


「なんだ…王都の滅亡の危機であったというのに、侯爵のお主が何も知らないのか?

 それに伝令の騎士には指定日を伝えてあったはずだが…まあそれはよい。なら最初から説明をしてやろう」

「申し訳ありません…

(何がまあよいだ!くそっ…あの伝令めぇ、帰ったらただではおかんぞ。

 にしても王都からワシの領地までどれだけ離れていると思っておるんだ!?そんな最近の事件など把握している訳が無かろう!)」


などと心の中で悪態をついているヨシュアであるが、実際には大半の貴族特に子爵以上の貴族当主はほぼ全員がこの巨石事件があった事を把握している。

スキルや魔道具を駆使すれば遠方との短時間でのやり取りができる世界なのだからある意味当然の事といえよう。


「…とまあ、そんな感じでこの王都がかつてないほどの危機に見舞われていたのが3週間程前となる。

 ここでお主を召集した事にも関わってくるのだが、この事件の主犯はそこに居るお主の息子、ジラードなのだよ」

「な、何ですとぉ…!?

 何かの間違いでしょう!?ジラードごときにそんな力があるはずもございません!」

「ごとき…か。

 まあ、規模が拡大したのはこやつ1人のせいではない。だが、それが本題ではない。実はこやつを捕らえた時に所持品の中に違法薬があってな。まだ余罪があるかも知れんとして実家であるお主の家を調べさせてもらっているのだ。

 お主を召集したのはその邪魔をさせないためだ。息子を守るためと証拠を隠蔽されては敵わんからな」


ジルバの説明を聞き、今まで何とか取り繕っていたヨシュアの表情や口調が焦りで崩れていく。


「な、な、何だとぉ…!

 勝手にワシの屋敷を調べるなどとそんな事が許されると思っているのか!

 罪を犯したのはジラードではないか!何故ワシが被害を被らないといかんのだ!?」

「ヨシュアよ、何故そのように焦っているのだ?

 ジラードが有罪であることは既に確定している上でこやつの余罪を確認しているのだ。お主の力が及ぶ段階ではもうない。だと言うのにその焦りよう、しかも自身が被害を被るだと?

 …まさか、お主自身も何か隠しているのではあるまいな?」

「え…!い、いやいや…そんな訳あるはずがないではありませぬか…(そうだ、ワシにはあのスキルが有るではないか!あれが発動している内は…)…ああ!!

(まずい、王都の屋敷で3日以上過ごしているではないか!?スキルの対象が移ってしまっておる…)」


キレたり、揉み手をしながら愛想笑いを浮かべたり、かと思ったら愕然とした表情で固まったりとまるで落ち着きがないヨシュア。


「先程から落ち着きのない…よもや本当に隠しているのではあるまいな?

 …ん?ディランか……ほお、そうかそうか。良くやったと伝えておいてくれ」


追及するジルバの元に遅れて入室して来たディランが近寄り、何かを耳打ちする。

すると、内容を理解したジルバはヨシュアに向かって獰猛な笑みを浮かべ、宣告をする。


「たった今連絡が入った。

 証拠を押さえることに成功したようだ。やれ!」


ジルバの一言でジラードの横にいた騎士が素早くヨシュアを押さえ込み、手際よく拘束具を付けていく。


「ぐぇぇっ…!くそっ、貴様ら何をする!?

 このっ!無礼者め!ワシは侯爵だぞ!このような扱いをしてただではおかんぞ!」

「残念だがヨシュアよ、ベルクト家はたった今貴族位の剥奪が決定した。貴様はもうすでに貴族ではない」

「なぁ…!?」

「貴様の屋敷から犯罪の証拠が発見された。

 横領、鉱石発掘の意図的な削減、商会への詐欺もしていたようだな。そして地下室からは、違法薬物に誘拐されて来たであろう女性や子供、檻に繋がれた狼型の魔物と…

 良くもまあこれだけの犯罪を隠し通せたものだ。スキルの効果とは恐ろしいものだな」

「な、何故、ワシのスキルを知って…?ジラードにすら教えていないはず…まさかあの女が…?

 は、はは…そうかワシはもう用済みという訳か…」


愕然とするヨシュアがうわ言のように何やら溢しているが、それが聞こえていないジルバはさらに畳み掛けるように真実を明かしていく。


「ああそうだジラードよ、もう良いぞ」

「はい」

「はぇ…?」


拘束具を自分で外して立ち上がるジラードを見て、ヨシュアが間抜けな声を上げる。


「どういう事だジラード!?何故お前が解放されるのだ!?事件の主犯ではなかったのか!?」

「いや、確かに俺は罪人になった。だがそれは全て貴様をこの国…いや、この世から排除するためだ!」

「そう言う事だヨシュア。故にこやつの罪は貴様の罪が確定した時点である程度減刑される」

「この恩知らずがぁ!何の繋がりもない貴様がこれまで貴族として暮らしてこれたのは誰のおかげだと思っておるんだ!?

 こんな事ならクリフが死んだ時にさっさと放逐しておくべきだった!」

「待て…何の繋がりもない…だと?

 一体どう言う事だ!?」


もう自身が逃れることは出来ないと悟ったのだろう。ヨシュアは後のことなど知ったことかとジラードへ八つ当たりをし始めた。

だがその内容は、ジラードにとっては相当な衝撃を与えるものだった。


「ふひっ…やはり気づいていなかったようだなぁ!

 そうだ!貴様はワシの息子などではない。貴様はクリフが息子だと言って何処からか連れてきたただの子供よ!

 実に滑稽だったぞあの光景は。真偽も分からん息子をわざわざ連れてきてまでワシを当主の座から離そうとしたのに、そいつから祖父と慕われ始めた事に何の疑問も感じることなく受け入れる。薬が効かなくなってきたからと奴を早々に殺すしかなかったのが残念なほどだった」

「な…!俺がお祖父様の息子…?それに貴様がお祖父様を…!

 …いや待て、貴様が父親でないなら母親も…?」

「母親ぁ?ふん、そんなことは知らん。

 あの女でないことは確かだが…ああ、そう言えば貴様はあの女を母と呼んでいたな。ひひっ、あんな女を母などと…何も知らないと言うのは幸せなものだな」

「どう言うことだ!?貴様が母様…ネルにあの薬を盛って従わせていたのではないのか!?」

「あの薬ぃ?…ああ従属薬のことか?

 ふはは!そんなはずなかろう!何せ屋敷にある薬は全てあの女が何処からか持ってきた物だからな!屋敷内で従属薬を飲んでいたのは使用人くらいのものだ。ああ、もしかしたらクリフはあいつにも飲まされていたかも知れんなぁ?

 ワシが契約を結びベルクトになったのも全てはあの女が元凶なのだからな!」

「……!」


あまりの衝撃でジラードは声を発することすら出来ていない。が、そんな状況も突然ヨシュアが黒い靄を纏いながら苦しみ出したことで一変する。


「ぐっ…がぁっ!はっ、はっ…なんだ、これは!?腕がぁぁ!ワシの身体がぁ!…くそっ…そうか、あの女の仕業か…!

 い、いやだ、ワシは人間なんだ!魔物になど…ぐあああああ!」

「!!

 全員ヨシュアから離れろ!

 気をつけろ、おそらく魔物との戦闘になる。盾を持つ者は前に出て構えておけ!」


明らかな異常事態が起きていると判断したのだろう、聞き取れた魔物という単語からジルバが大声で全体に注意を促し、騎士達も素早くそれに従う。

そうこうしている間にヨシュアの変化は完了する。身長は3メートル程に伸びたが、体のバランスはほとんど変わっていない。腹は余分な皮がたるみ、まるで波のように何段にも重なっている。そして下半身や肩、腕には黒い毛が生えているが、1番目立った変化は鼻が少し長くなった事だろう。

後に判明したことだが、その姿は人が発する負の魔力を糧として強くなる魔物『ナイトメア』であった。


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