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55話 救い

「ふう…何とか勝ったか」


今回はユリスも辛勝といったところだった。

ダメージこそほとんど食らっていないが、途中で使用していた武器は数十個も破壊され、最後のナイフも発動した魔術のせいで融解して使い物にならない。

もしレーヴァテインが何らかの方法で防がれていたら負けていたのはユリスの方だっただろう。


「ユリス」

「どうした?また捨て台詞でも言いに来たのか?

 …あ、やっぱ今の無し。本当に言われたらたまったもんじゃ無い」

「お前な…せっかく礼を言いに来たというのに…

 まあいい、感謝するぞユリス。お前のおかげで未来に目を向けられるようになった。

 先ずは罪を償って、いつか赦される時が来たらまた夢に向かって進むつもりだ」

「ああ、そうするといい。

 それと今までは状況が許さなかったんだろうが、これからは頼れる人を作れ。そして助けを求めろ。1人で抱え込んでつぶれたら自力では元に戻れんぞ。

 これは僕が大したことのない人生で学んだ数少ない教訓だ」

「…そうか。助言感謝しよう」

「さて、いつの間にか観客席から居なくなってるし、そろそろ上の人達が降りてくるだろう。

 あまり緊張しすぎないように…ってまあ無理か」


(シャルティア様が憧れみたいな発言があったし、これから本人が目の前に来ると言われたらこうなるのも仕方ないか)


ユリスの目にはガチガチに緊張した状態でぎこちなく跪こうとするジラードの姿が。


「はぁ…ジラード、僕に向かって跪いてどうする。

 皆が降りてくるのは向こうだ」


その言葉にジラードはいそいそと体の向きを変える。

そして遂に対面の時がやって来る。

最初に声をかけてきたのはジルバだった。


「2人とも見事な戦いであった。

 あれだけの技術は騎士団でも限られるだろう。どれだけの努力を重ねてきたのか想像もつかん」

「ありがとうございます。

 ご満足いただけたようで何よりです」

「ええ、満足よ〜

 強いとは聞いていたけどあれ程とは思わなかったわ」

「おかげで色々と気になることは出てきたけどね」


残りの2人もそれぞれ感想を伝えてくる。


「さて、ジラードだったな。面を上げよ」

「は、はい」


ジラードが緊張しながら顔を上げた時、目に映ったのは3人の王族が自分に対して頭を下げている光景だった。


「な、なにを…?」

「我々の対応のせいで斯様な人生を送らせてしまったのだ。謝罪はして然るべきだろう。

 すまなかったな」

「私もゼクスに言われてようやく気づいたよ。

 報復を恐れて確実に排除できる機を待つ他に何かやりようがあったのではと、ね」

「ゼクスが…

 いえ、それよりも早く顔を上げてください!」


流石に頭を下げられたまま会話を続けるような真似は出来なかったのだろう。混乱するジラードが慌てるように言うと3人は素直に顔を上げた。

そして、ジラードが最も気にしていたであろう人物、シャルティアが口を開く。


「ジラード・ベルクト。

 正直なところ、カレンが苦しむ姿を見ることしか出来なかった日々を思うと、今はまだあなたを赦すことは出来ません。

 ただ、あなたがヨシュアの魔の手から護ってくれていたのもまた事実…しっかりと罰を受けてからもう一度私の前に来なさい。その時にあなたを赦すことにします。

 ですが、その前にこれだけは言っておきましょう。

 …よく1人でここまで頑張りましたね。カレンを…そしてこの国を護ってくれてありがとう」


シャルティアに頭を撫でられながら労いの言葉をかけられたジラードの目からは涙が溢れていた。

そしてシャルティアが離れると同時に勢いよく頭を下げる。


「…もったいなきお言葉、ありがとうございます…!

 必ずや罪を償い、再びお会いできるよう精進いたします!」

「ええ、その時を楽しみに待っているわ」


力強く放たれた宣誓にシャルティアは穏やかな優しい笑顔を浮かべながら頷き返す。

顔を上げたジラードはその表情を見て、またすぐに顔を伏せてしまう。彼が護りたかったのはこの笑顔だったのだろう。奪ってしまった笑顔が戻ってきたことに安堵したのか、全く涙が止まりそうにない様子だ。

この状態で話を進めるような者は流石に居なかったようで、ジラードが落ち着くまで皆静かに見守っていた。


「…申し訳ありません。見苦しい姿をお見せしました」

「気にすることはない。

 だが、落ち着いたのであれば話を進めようか。

 ディラン、詳細を」

「はい。

 ジラードくん達の証言をまとめたところ、彼らの罪は細かなものはあれど、王国法によって罰金以上の罰が課せられるようなレベルのものは2つとなります。

 1つは巨石召喚の件、そしてもう1つがカレンへの毒物の投薬幇助です。

 ただ、後者については実際に投与したのはヨシュアのようですし、目的もヨシュアが使用した別の薬の中和ですので情状酌量の余地は充分にあります。

 前者については下手すれば王都の滅亡を招いていたように思えますが、彼の発動したスキルは逃走のために相手を足止めするだけのもの、そして効果時間は5分です。つまり相手が全力を出せば5分以上はかかるものの確実に対処出来る内容しか発現しません。今回は相手が規格外なユリスくんであったためにあれだけの規模になってしまったのでしょう。

 ただ、事件の規模を大きくするために強者を相手に選んだとの供述もありましたので、王都全域は予想外にしてもある程度の規模になる事は予測済みのはずです。そのため、それなりに重い罰が課されることになります。

 こちらも目的はヨシュアの排除ですし、幸いな事に被害者と言えるのはレイラさんくらいでした。当人からの嘆願もありましたし、多少の刑期短縮もしくは特記事項の付与程度ならばしても問題はないでしょう」

「そうだな…恐らく減刑はこやつ自身が納得せんだろう」


レイラの嘆願があった事を知り、ジラードは驚きと共に感謝をするものの減刑については当然否定とばかりの様子が見て取れる。


「ふっ、やはりか。

 ならば罰は全員揃って辺境開拓での強制労働が妥当なところだろう。期間はどうなる?」

「その罰ですと主犯であるジラードくんが10年、他の3人は協力者なので5年といったところでしょうか」

「む、思いのほか長いな。

 なら特記事項として志願兵扱いを記載して、刑罰である事は領主のみに伝えることとしようか」

「そのレベルの特記事項ならば可能でしょう。

 ただ、その内容だと刑罰である事を他言されると兵の間で問題が発生する恐れがあります。辺境でそのような問題が起こるのは避けたいので、本件に関しての箝口措置も必要でしょう」

「ならば、その内容でいこうか。

 ジラードよ、そなたへの罰は10年間の辺境での強制労働だ。ただし、志願兵として行ってもらうことになる。

 まあ、10年間辺境から離れられなくなるのと、開拓部隊の所属から変わらない事を除けば、普通に就職したのと変わらん。功績を上げれば立場も上がっていくだろうしな」

「えっ…!?…寛大な処置感謝いたします!

 しっかりと刑を全うし、国のためにこの身を尽くして参ります」

「あらあら、ちょっと気負いすぎね。そのままだとまた潰れてしまうわよ?

 そうね…ジラード、この10年で家庭を築きなさい。そして、次に私の前に来る時は一緒に連れて来ること。子供が居るとなおいいわ。

 分かったかしら?」

「え…?ですが罪人である私がそのような「分かったかしら?」…は、はい…」


シャルティアのあまりの迫力ある笑顔にジラードは反射的に頷いてしまう。


「ははっ、先程も言った通り其方は志願兵扱いだ。

 基本的には一般国民と同じである故、家庭を築こうと何も問題にはならんよ。

 それよりも相手が見つかるかを心配せんとな。貴族ではなくなるから親が決めるなどということもない。自力で探さんとならんぞ?」


ジルバから来たのは助け船どころか、ジラードにとっては追い討ちのような内容だった。

それ以上反論も言えなくなったジラードは「お二人はこのような方々だったのか…他の方々はどのような方なのだろう?」などと考えて現実逃避をしていた。


「父上も母様もそれくらいにしておいてくださいね。

 さて、君の処遇について色々話してきたけれど、それらは全てヨシュアの排除が出来たらの話だ。

 もし出来なければ情状酌量も無くなる。後でヨシュアの聴取内容の選定をするんだが、君にも参加してもらう。

 悪いけどユリスくん達も協力してくれるかな?」

「はっ!お任せ下さい。」

「…分かりました、お手伝い致しましょう」


ジラードは間髪入れずに、ユリスはシャルティア達の後ろに控えていたシエラとレイラが頷いたの確認してから肯定の意を示す。


「ありがとう。

 それじゃあ父上、そろそろ締めましょうか」

「ああ、そうだな。

 今この国は今後の命運を決める重大な岐路に差し掛かっている。民のため、国のため…平和を脅かす者は必ずや排除せねばならん。皆、一層奮起せよ!」

「「「「はっ!」」」」


ここからヨシュアの捕縛作戦が本格的に始動するのであった。



―――


「あれで良かったのか?」


ジルバが訓練場を後にする途中、物陰に向かって問いを投げかける。

そこから出てきたのは宰相のレイトだった。


「…どういう意味でしょうか?」

「いやなに、少々思うところがあるかと思ってな。

 気になっただけだ」

「罪は罪です。しっかりと償いはしなくてはなりません。

 ただ、ひとつ申し上げるとすれば…陛下は少々甘過ぎます」

「くくっ…そうか、甘いか。

 だがまあ、これが我という人間だ。仕方ないと諦めてもらおうか」

「ええ、大変よく存じております。

 ですので反対は致しませんし、可能な限りのフォローも致します。それが私に課せられた使命ですので」

「……そうか。なら頼んだぞ」


そう言い残してジルバは自室へと去っていくのであった。


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