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53話 継いだ誇り

巨石事件から数日後…

ユリスは王城のとある一室にいた。

今日はジラードへの事情聴取を行うとディランから連絡があったため、レイラやシエラと一緒にセルフィに連れられてきたのだ。


「それじゃあ聴取を始めようか。

 多少は聞いたけど、まずはヨシュアの罪を確定させよう。ユリスくんから受け取ったこれ…強制従属薬だけど、まあ効果を見る限り完全に違法薬の分類だね。

 これ自体はジラードくんが薄めて全部経口摂取しないと効果がないようにわざわざ加工してあるから罪としては軽くなるかもしれないけど、原液の方になると話は別だ」

「あの時は投げつけられたのですが、もし当たってもあれでは効果は得られなかったのですね」

「まあ、そういうことになるだろうね」

「それで参考として聞きたいんだけど、ヨシュアの屋敷にまだこれと同じ薬があると思うかい?」

「原液の方は保管できる期間がそうは長くありません。

 保って半年といったところですし、それを作った薬師ともよく会っているようですから屋敷にあるかは望み薄といったところでしょうか」


ジラードはとても丁寧な口調でディランの質問に答えていく。


「ですが、それ以外の…横領や鉱石供給減の計画書などは屋敷にあるでしょうから、捕らえる証拠自体は存在するでしょう。

 問題は息子の私でも隠し場所が見つけられなかった事です」

「見つけられなかった…?

 なら何故証拠が屋敷にあると言えるんだい?」

「奴がその書類を持って自室に出入りする一部始終を監視させておりました。

 大体その後に数時間家を離れるので部屋を調べるのですが…監視を始めてから入学のために家を離れるまでの3年間、探し続けても怪しい場所すら見つかりませんでした」

「ふむ、それはちょっと困ったね…

 強制捜査に踏み切っても証拠が見つからないんじゃ中途半端に終わってしまう」

「………」


ジラードの説明にその場にいる皆が考え込んでしまう。

しかしその静寂をユリスが爆弾を投下して打ち破る。


「ちょっといいですか?」

「ああ、何か思いついたなら遠慮なく言ってくれ」

「なら、遠慮なく…

 ジラードが探しても見つからなかったのは、ヨシュアのユニークスキルのせいではないかと思いまして。

 恐らくこれだろうというスキルもありますし」

「スキル?証拠を隠すなんてそんなスキルがあるのかい?

 しかも何でそんなこと……あ…うーん…まあユリスくんがいいならいいか…」


ユリスがまた爆弾を抱えていることに気づいたディランではあるが、今まで隠していたユリスが自分から教えるのだから必要なことなのだろうと無理矢理納得する。


「続けますね。

 持っているだろうと思われるスキルは『隠蔽体質』。効果は自身のテリトリー内において隠したいものを他人に見つからないようにするというものです」

「まさにそれっぽいスキルだね。でも同時に厄介でもある。もしヨシュアがそれを使っているとすると証拠探しは徒労に終わるね」

「このテリトリーというのが本人が3日以上滞在している敷地とちゃんと定義されています。

 この期間を過ぎるとテリトリーが上書きされていくという仕様になっているので、領外のどこかに建物を用意してそこで何日か勾留すれば、領地にある屋敷で証拠探しができるようになりますよ」

「おい、待て!

 ユリス、お前何故そんなことを知っているんだ!?」


ジラード以外の4人は「聞いてしまったか…」とでも言いたげな目で2人を見つめる。


「ああ、師匠から受け継いだ物なんだが、『スキル大全』という魔本があってな。

 それにこの世のスキルが全て載っているんだ。それを読んで知ったというだけのことだ」

「「「「なっ…!(ええっ…!)」」」」


何故かレイラだけ驚いておらず、ユリスならそれくらい当然だといったようにうんうんと小さく頷いている。


「…そうか、俺のスキルを知っていたのもそういうことか」

「それもあるが、お前のスキルは師匠から特に危険だと言われていたからな。

 師匠も二度と相手にしたくないと言っていたぞ。

 その時は話半分に聞いていたが身を持って実感したな…あれは二度と対応したくないわ…」


ユリスのぼやきに全員が苦笑する。ジラード相手にはいつもと口調が全く違くともここに居る人達はそんな事は全く気にしていない。


「うん、今の本のことは後に回そうか。

 ヨシュアが本当にそのスキルを持っているかは分からないけど、どのみち王都に招集する必要はあるか…

 ヨシュア自身の招集理由はジラードくんの一件でいいけど、強制捜査となると騎士団からある程度の人数を出さなくてはいけないな…さて、どんな名目で出そうかな?正直に伝えるとどこからか漏れそうだし」

「方角的に鋼樹の森の調査でいいのではないでしょうか?

 確かレベル上げを優先していてまだ行っていないとお聞きしております。そろそろ入口までの道整備くらいはさせておいてもいいのではと思うのですが。

 神造ダンジョンですから魔物に殺されることはありませんし、レベル上げもそちらでさせればいいのでは?」


デイランの漏らした言葉にシエラが提案する。

出てきた案も現実的であり、いつかはやらなくてはいけない内容だったため採用とされる。


「ヨシュアの方の対応はひとまずこれでいいかな?

 後は捜査結果とヨシュア自身の尋問内容次第で罪の重さが決まる感じだ。

 それで、後はジラードくん達の取り扱いについてなんだけど…まずはちゃんとした経緯を聞いてからだね」

「分かりました」


そうしてジラード口から自身の過去が語られる…

ジラードがヨシュアの本性に気付いたのは6年程前。それまでは少し貴族としては怠惰な面が目立つものの至って普通の父親といった感じだった。

だが6年前にクリフが原因不明の病で倒れ、ヨシュアが当主の座を手に入れてから一変する。

恐らくそれまでもやっていたのだろう。鉱石の買取数上限の引き下げ、外部への供給削減、各組織への賄賂工作、領外から出稼ぎに来ていた女性達への脅迫など隠すどころか、クリフの居ない食卓で話題としてあげるくらいあからさまに振る舞う。

その変貌に悩んでいたジラードはたまたま調子が良かった日にクリフへ相談することに決める。

しかし、この選択がジラードの人生を決めてしまうことに…

クリフから出た言葉は…


「功績を上げてお前が当主になれ…そして、ヨシュアが王族へと手を伸ばそうとしたら…排除せよ。必ずや、王家の方々を…お守りするのだ…!その結果…家が潰れようとも構わん。ベルクトは…そのために存在する家だ」


クリフも娘が急に結婚を望みだしたことといい、前々から怪しんではいたのだ。しかし確たる証拠もなく、クリフの前では平凡な男であったために排除することが出来なかった。

その日以降クリフが目を覚ますことはなく、それが遺言となってしまう。

尊敬する祖父の意志を継ぐべくジラードは遺言に従うことを決意。功績をあげるためにはどうすればいいのかを考えることから始める。

真っ先に思いついたのは力をつけてダンジョン探索で新発見をしたりレアアイテムを献上したりする事である。実際、クリフもダンジョン探索とスタンピードでの活躍で功績をあげていたので方法としては間違いはないだろう。

それからというもの、ジラードはヨシュアに警戒されないよう表面上は従順な息子を装いながらも力を磨き続けた。が、すぐに方針を転換せざるを得なくなる…

ヨシュアがカレンを標的にしたのだ。

ジラードが功績をあげるには早くとも学園にある生成ダンジョンに入れるようになる12歳まで後3年待つ必要がある。その上、これまで修行していた自身の剣の才能に限界も感じていたのだ。

すぐに動くつもりはないと言われたが、今まで考えていた正攻法ではいつ実現できるか分かったものではないため方針転換が必要。そう悟ったジラードは悩み…ふと頭に刻みつけられたクリフの遺言を思い出す…

―“家が潰れても構わん”―

その日からジラードの暗躍が始まる。

まずは危篤の報を受けて戻ってきていたクリフの忠臣であるゼクスと専属薬師であったグレゴールを味方につける。

修行についてもグレゴールに相手をしてもらいながら、剣以外の才能も貪欲に探っていく。

そして何故かお前も従わせたい奴に使ってみろと言われて渡されたカレンに使う予定の強制従属薬(少しでも手を加えれば主人登録は変更出来るとの説明があった)をグレゴールと共に解析し、中和薬の開発に成功。

ひとまず安心したのも束の間、まだ先だと思っていたヨシュアの動きが急に早まったのだ。

焦りつつも本来の用途を隠し、体力増強薬としてヨシュアへカレンに飲ませるよう進言すると、カレンが元々病弱であったこともありヨシュアは喜んで受け取る。そして、帰宅したヨシュアからカレンへ一緒に飲ませることに成功したとの報を受ける。

が、ここで誤算が発生してしまう。臨床試験を人間である自分達でおこなっていたために、兎獣人への特効毒となる太陽華の効果に気付いていなかったのだ。

その事実を知り、罪悪感に苛まれながらもこれ以上自分が出来ることは何もない。グレゴールから症状が続く限りは中和の効果も続くと聞いたジラードが次に行なったのは自身の悪い噂を広めることであった。

そこまで強くはない毒なのでいずれは自然に治る事が考えられる上、解毒が出来てもヨシュアがいる限りは遠くないうちにまた危険に晒される事は明白だ。故にヨシュアの排除を優先する。

その頃から出席し始めた貴族のパーティーでは率先して同年代の子供達を貶し、悪評を高める。そこで主な標的になったのがヨシュアと既に対立していたフォーグランド家だ。

しかし、根が真面目なジラードは口先の演技はできるが、実際に悪行に手を染めることへ踏み切る事が出来ないでいた。

そんな時、パーティーの帰りにドレスを着ていながら、顔にアザを作っていた少女を見つける。ちょうどいいとばかりにジラードはその少女に金を渡して自分がやったと噂を広めるように依頼。それを機に一気にジラードの悪名が広がっていくことになる。

しかし、準備が進んで後はジラードのスキルを十全に発動できる最後のピースを探すのみとなったところで暫く足踏みをしてしまうことに…


「なるほど…そんな時に僕を見つけたのか」

「ああ、そうだ。ユニークスキルのおかげか俺には強者が感覚的に分かる。遠目ではあったが一目で分かったんだ。近くで改めて見た時にはこれまでにない感覚だったから少し驚きはしたがな。

 しかもカレン王女回復の噂があったから、この機会を逃すわけには行かなかった。だから少し強引かもしれなかったが、ちょうど近くにいたレイラ嬢に絡んで道を塞ぎ、今後学園でお前に突っかかっても不思議ではない関係を作ったという訳だ」

「なるほど…ユリス様に逢えたのはある意味貴方のおかげだったという訳ですか…」


(確かに避けることが出来ないからと仕方なく近くを通ったんだが、あれも計算通りだったのか…)


「僕が試験に落ちる可能性は考えなかったのか?」

「考えなかった訳ではないが、この機会を逃したら他に見つかる保証はなかったし、これくらいの賭けは必要だと考えて行動に移した。

 だが、俺より強いんだ。実技試験は問題ないだろうし、かなり上等な服を着ていたから教育もしっかりとされているだろうと思ってはいた」

「まあ、貴方も総合戦闘で騎士に勝てる程でしたし、それより強いのですから多少筆記がダメでも合格は確実でしょうね」


セルフィの発言にジラードの力量はそこまでだったのかと驚く王族達。


「ふむ…経緯を聞いた限り、君の罪は今回の事件についてだけになりそうだね。それだけでも公にしたらかなりの罪だけども。

 カレンの件については本人に聞く必要もあるかな…いや、やめておくか」

「ですがそれでは……いえ、何でもありません」


(ヨシュアを捕らえる事が決定して目的は達したはずだが、何か不満そうというか納得いってない感じだな…

 これまでの話を鑑みるに、結果としてカレン王女に毒を盛ることになってしまったのを気にしているんだろうが…カレン王女に何か特別な感情でも抱いているのか?)


「そういえば、ジラードはカレン王女に直接会ったことはあるのか?」

「?…いや、カレン王女にはお会いした事はない。

 シャルティア王妃にはお祖父様に連れられてお会いした事はあるが、他の王族もお目にかかった事はないな。

 それがどうかしたのか…?」


(なるほど…そっちだったか。

 あの2人にも約束した事だし、本音を出しやすくするために少し場を用意するか)


「いやなに、黒い噂が多くて警戒されているはずのヨシュアが何故王女に薬を盛る事が出来たのかと思ってな。

 悪評がまだない頃だし、お前をダシに使ったんじゃないかと考えたんだが…本人と面識が無いなら違ったか」


そう弁明しながらシエラにのみ見えるように合図を送る。すると、前もって決めていたのかすぐさまシエラが動き出す。


「殿下、結構お時間も経っておりますし一旦休憩を挟んではいかがでしょうか?」

「おや、もうこんなに時間が経っていたのか。

 あまり一気に喋らせても取りこぼしが出るかもしれないし、情報整理も兼ねて別室に移動しようか。

 ジラードくん、終わりにする場合は使いをやるから悪いけど休んでいてくれ」

「承知致しました」


ジラードを残して他の全員で別室に移動していく。

扉が閉まったところでディランが早速切り出してくる。


「さて、ユリスくん。何か話でもあるのかな?」

「やっぱりバレてましたか…」

「まあ、さっきまで考え込んでいたのが終わったみたいに見えたからね。

 その直後にシエラの発言だったから何かあるだろうとね。それでどんな内容かな?」


どうやらユリスの様子を逐一確認していたようである。

降参とばかりにユリスは単刀直入に用件を話す。


「まあ、簡単に言うと…ジラードとの模擬戦の場を用意して欲しいんです」


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