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52話 事件直後のそれぞれ

―――sideディラン


「父上、ただいま戻りました」

「おお、無事であったか…!

 学園に行くと言っておったが、ソフィアの安否は確認できているか?」

「ええ、巨石が着地してからも一緒でしたし、怪我も見受けられませんでした。多少不安は残っている感じでしたが時間がたてば戻るでしょう」


(剣で切られて体が崩れ落ちた時は驚いたけど、麻痺系のスキルらしいし、本人はもう大丈夫だと言って普通に動いていた。異常も見られなかったし問題はないだろうね)


「そうか…ならば良い。

 それにしてもあれは一体何だったのか…

 研究所の者も分からないと言っておったが、ディランは分かるか?」

「ええ、その事でご報告があります」

「報告?まさか原因まで突き止めているのか?」

「はい。

 詳しい経緯は後日聴取する予定ですが、巨石の原因は主犯がジラード・ベルクト、協力者としてゼクス、グレゴール、ノエル・ドックの3名。水龍の方はユリスくんですね。フォーグランドのお嬢さんも障壁で手伝っていたようですが…ユリスくん曰く、巨石を止めるために全力を出したそうですよ。終わった後はフラフラになってました。

 そしてジラード達の目的は…ヨシュア・ベルクトの排除だそうです」

「やはりと言うかあの水龍はユリスの仕業であったか。物理的に王都を救ってしまうとは、一体なにで報いれば良いのやら…

 それにしてもベルクトか……ん?ディランよ、今ヨシュアの排除が目的と言ったか?」

「ええ、どうやらジラードはヨシュアの悪行を間近で見聞きして、許せないと思う真っ当な子だったようでして。

 ただ、ヨシュアの言動から我々王族が狙いである事を察して、ベルクト家ごと道連れにするつもりで今回の事件を起こしたようです」

「道連れか…確かに大きな事件を起こせばお家は取り潰し、悪ければ一族郎党道連れで罰が下されるだろうが…

 それにしてはやり過ぎな気が…もしあの巨石が落ちていたら王都は無くなっていたぞ」

「様子を見ていた限り、本人も予想外だったようですね。私が現場に到着した時にはジラードもユリスくんの補助をしていましたよ。

 おそらく起きる現象をコントロールできないタイプのスキルなのでしょう」

「なるほどな。

 それにしても、あのヨシュアが家を取り潰されたくらいで懲りると思うか?」

「まずないでしょうね。

 ジラード達もそう考えていたようで、こんな物をくれました。実際に受け取ったのはユリスくんですがね」


そう言って収納から強制従属薬を取り出す。


「鑑定したところ名称は強制従属薬。効果は飲ませた相手を予め主人として設定した人物に従属させるという催眠のような症状を引き起こす薬です。

 そして、この薬自体は主人と製作者がジラードになっているのですが、詳細項目の中にある原液という単語を多重鑑定すると、主人がヨシュア、製作者がエムエドという人物に変わります」

「見事なまでの禁止薬だな。

 これを証拠とすればひとまず捕らえることはできるか。

 それにしても、念の入れようが凄いな。鑑定スキルを最近ようやく…判明した…いや待て、鑑定技能についての情報公開なんてまだしておらんぞ」

「!!…言われてみれば。4人のうち誰かが持っているのか、漏洩…は知っている顔ぶれからすると考えにくいですね。

 …とりあえず聴取をすればわかるので後にしましょう。話を戻します。

 この薬は万が一が起きないように薄めてあるようで、中身を全て経口摂取しないと効果はないのです。原液の方は一口で良いようですが。

 そして、ジラードに付き従っていたゼクスの話ではカレンが既にこれの原液を飲まされていたと…」

「なにっ!?それは……色々と問題だな…」


カレンが毒とは別に危険に晒されていた事だけでなく、警備体制といった他の問題も浮上してきた事に対してジルバは驚愕と同時に頭を抱える。


「そうですね…ですが、薬に関してはそれを察知したジラードが中和薬を体力増強薬としてヨシュアに持たせる事でカレンに一緒に飲ませる事に成功したようです。

 そしてその中和薬の素材のせいでカレンが毒に侵されることになったのだと。

 もっとも、その間は中和の効果が継続しているそうなので同じ薬を飲まされてもある程度までは大丈夫のようですが」

「そういうことか…

 だが、そうなるとユリスの持ってきた月光蘭で解毒は出来たが、中和の効果も消えていると見るべきか」

「ええ、そうですね。

 一応中和薬のレシピも聞いておきますが、おそらく同じ兎獣人であるシャルティア母様にも毒でしょうから、耐性スキルがあるとはいえ今後しばらくは献上される物を口にしない方がいいでしょう。必要がある場合は私が鑑定します」


(一度成功したのだから再度手を出してくる可能性は十分にある。

 母様の様子から城の者にはカレンの容体が良くなっていることはバレバレだろうし、領地にいるヨシュアが気付いて再び動き出すのも時間の問題…ああ、だから彼らは今動いたのか)


「分かった。

 すまんが、念のため既に献上や納品されている物で口に入る可能性があるのは全て確認しておいてくれ。

 それと、相手が誰であれ外部の者と会う時は必ず鑑定持ちが1人は同席する事を徹底させんとな…」

「近衛騎士の必須技能に追加ですかね…

 母様が追加の人員を募集するとか言っていましたので、早めに伝えておいた方がいいかもしれません」

「うむ、そうしておこう。

 他には分かっていることはあるか?」

「いえ、今のところはこのくらいですね。

 残りの情報は事情聴取してからになります」


(今回の件は本当に身につまされる内容だった…

 本来なら自分達で解決出来たはずの問題を12歳の子供の手を借りないと解決できないなんてね…

 ああ、ユリスくんの要望も伝えておかないと)


「そうか、ご苦労だった。

 それにしてもジラード達の処遇には困ることになるだろうな…」

「それに関係してくるのですが、ユリスくんが聴取に参加したうえで処遇について意見を出したいとのことでして、許可を頂けますか?」

「ふむ?…まあ、ユリスならいいだろう。

 何か新しいことが分かるかもしれんし、処遇についてもいい案が出るかもしれん」


そうしてユリス同席の元、4人の事情聴取がなされることが決まったのであった。



一方その頃懇親会では…

第2種の紹介が終わり、残すはユリスだけとなっていた。

ちなみに、レイラの紹介で既に婚約者であることは知られている。


「さーて、皆も気になる最後の1人!

 学園の創立以来出ることがなかった戦闘科第1種合格者、ユリスくんよ!

 国からの報酬によって、とても珍しい収納の使い手になったようね。しかも、あのシャルティア王妃とディラン第2王子が後見人となったほどの実力者よ!

 それと、さっきの紹介でレイラさんの婚約者であることは分かってると思うけど、実はもう1人の婚約者も決まっているわ。その女性は何と!あの!『不動の冷嬢』シエラ・ヴェルモット!側室の座を狙っていた子は…まあ頑張りなさい。

 それじゃあ登場してもらうわよ!どうぞ!…ってのわぁっ!?」


会場にいる生徒達は第1種になるような人物とはどのような姿形をしているのか、と登場口の方を注目していたが、セルフィが驚くような声をあげたためにステージへと目を向ける。するとそこには、月光を受け止めてキラキラと青銀に輝く幻想的な佇まいの狐獣人がいた。


「綺麗…」

「あれが第1種なのか…」

「いつの間に…」

「特待アリーナにあんな目立つ奴いたか…?」

「4尾…既にレベル30超えだと?」

「小っちゃい…」

「チッ…どうせコネだろ…」

「あれがシエラ様の婚約者…」

「平民のくせにシエラ嬢を…」

「これは…ファンクラブが出来そうね…」

「もし弟があんなだったら、私…」

「あれで入学年齢満たしてるの…?」

「くっ…シエラ様じゃ絶対に対抗できない…」


ユリスの姿に見惚れる者、推定レベルの高さに驚愕する者、本当に同年代なのかと疑問に思う者など様々な反応が見られる。


「いつの間に隣に来たのよ…!

 私が呼んでから登場口から歩いてくる流れだったでしょ!?」

「変なこと口走らないように見張ってただけですよ。他意はありません。

 思っていた以上に学園長がいいリアクションをしてくれたので、気分はいいですけども」

「思いっきり他意があるじゃないの…!?

 こほん…!さて、お披露目も終わったところでいつもなら少し自由時間といくんだけど、結構時間が押していてね。すぐにダンスの時間にするから準備して頂戴!」


気を取り直したセルフィの言葉に婚約者がいる生徒達が慌てて準備を始め、すぐに音楽も流れ始める。

それ以外の生徒は誰を誘おうかとそわそわしだしたり無言の牽制をしたりしている。


「さてレイラさん。お相手していただけますか?」

「はい、喜んで」


先陣を切るように言われていたユリスとレイラはどちらもステージにいたこともあり、既にステージの中央に陣取って踊り始めている。

どちらの動きも洗練されており、いざ踊ろうとしていた他のペア達も思わず見惚れてしまっているほどである。

もっとも、どちらも身長が低いため美しいというよりは可愛らしいと言う方が適切であるが。

そして曲が一区切りついたところでユリス達が周囲へお辞儀をするとアリーナに万雷の拍手が訪れる。

結局は1曲踊りきるまでは他のペアが踊るのを遠慮していたのでステージの上は2人の専用になってしまっていたのだ。

そのせいもあってか1曲踊っただけのユリス達が去った後も皆ステージの外側で踊っている。


「あいつらやり過ぎだろうよ…

 他の奴ら下で踊り始めたぞ」

「でも、ちょっとあそこで踊ってみたいわよね?」

「はあ…仕方ねえな。なら行くか?」

「ええ!もちろんよ!」


意を決したルイスと満面の笑みを浮かべるエリーゼがステージの上へ上がっていく。

皆誰かに行ってほしいと思っていたのだろう、周囲からは勇者だなんだと賞賛の嵐である。

だが、上がったのは第2種の1位と3位のペアである。そのためかステージ上へ上がりづらい雰囲気が完全には払拭されず、なんとなくステージ上は1ペアまでで曲の区切りごとで交代という暗黙の了解が生まれてしまったのであった。

そして、ステージを独占して踊れるという経験をした人だけでなくそれを見ていた人からも思いの外好評だったためか、この決まりは学園の新たな伝統として受け継がれていく事になるのであった。


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