表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/83

48話 学園での日常

今更ではあるが、学園にいる間ユリスは常に身体変化をしている状態だ。それはレイラの前でも同様だが、自室で1人でいる時も変化したままである。例外はシエラと2人っきりになるとある時間。それは…湯上がりのブラッシングである。


「はぁー…今日は疲れた」

「お疲れだねー…それじゃあ始めるよー」


昔はそうでもなかったが、獣人の体を完全に受け入れた今のユリスは自身の毛並みが乱れていると気になってしまってリラックスできないのだ。幼少期はサラにやって貰っていたので問題なかったが、いなくなってからは苦戦しながらも自分でやっていた。が、その出来栄えは最低限と言えるレベルである。特に尻尾が。そんな姿を見かねたシエラが私がやると提案。そして今に至るというわけだ。

元々兎獣人であるシャルティアの身の回りの世話をしていたシエラはブラッシングの技術も一流である。そんなテクニックを受けているユリスは大体の場合は途中で寝てしまう。


「ユーくん、終わったよー?

 ふふ、また寝ちゃってる…それじゃあ遠慮なく…モフモフ…モフモフ…」


そしてシエラが報酬代わりに要求したモフり権を行使されて目が覚めるという毎日を送っているのだ。

時折、忘れ物をしたレイラが戻ってくるなど危ない場面もあったが、特に誰にもバレることなくユリスは学園での日々を穏やかに過ごしている。

そんな学園での日常の一幕でユリスはなぜか同じクラスの生徒相手に講義をおこなっていた。


「とまあ、こんな感じで一口に最大ダメージと言っても瞬間火力と継戦火力に分かれる。

 場面によって必要とされるものが変わるから両方とも把握しておくといいよ。今回は継戦の方は1分間攻撃した際の秒間平均…DPSでいいかな。

 あと注意事項だけど、継戦火力の測定では準備時間が長すぎるものはNGね。これが必要な場面を考えると移動や防御が並列して出来ないと使える場がかなり限定的になってしまう。なので、まずは準備から攻撃までを3秒くらいに納めるよう意識した上で自分のDPSを確認してみてくれ。瞬間火力の方は準備に時間がかかってもいいけど、あくまで一撃のダメージで連撃系なんかは適さないからそこが注意だね。

 手の内をバラすことにはなるけど…まあ競技会で作戦をたてるために知っておく必要もあるし、割り切って出来るだけ本気でやってもらえるかな」

「面白い教え方をするね…なら、とりあえず3人ずつに分けようかね。エリーゼ、グレイズ、フォーグランドはこっちで測定するよ。

 残りはユリスの方でやりな」

「分かりました」


そうしてユリスはアーリア、サミュ、ルイスの3人のダメージを測定していく。

なぜこんな事になっているのかというと、時は入学5日目の土曜日まで遡る…



「さて、それじゃあ今日の授業を始めるよ!

 といっても今日は自由授業だからまずは説明からだね」


初めての週末の土曜日、これまでは担当科目の教員が教室に入ってきて授業をしていたのだが、今日は授業も担任のミランダが行うようだ。

どうやら月〜金曜日は学園が決めたカリキュラムで行い、土曜日は生徒主導でテーマを話し合って決め、教師はそれに沿って教えたり評価したりするという方式が取られているらしい。


「というわけで、何をするか決めるんだが…何かあるかい?今日は話し合いだけの予定だから、やるかどうかは別としてバンバン案を出していってくれ」

「アタシは魔法の変化を練習したいわね」

「私は〜魔力操作でしょうか〜?」

「わふ、賛成。ユリスに聞いたやつやりたい」

「俺もだな。あれを聞いちまったらやりたくなるのも仕方ねえって。

 アリーナもなかなか予約取れねえしな」

「わたくしは牽制手段を考えているところですから、戦術や魔法などの調べ物をしたいですわね」

「私はダンジョンでもユリスさんに頼りっきりですから、学園側で把握している各魔物の特徴や戦闘方法とかを知りたいですね」

「ふむ…どれもテーマとしては少し狭いね。

 ただ、グレイズとフォーグランドの案を合わせればいい感じになるかね。

 ユリスはまだ案を出してないみたいだけど、なんかあるかい?」


黒板に『魔物の攻略法』と書きながらユリスに話を振る。


「そうですね…実技をしたい人が多いようですから、自身の最大ダメージの把握と上昇なんてのはどうですか?」


(ただ、その産物としてあれが発生するだろうから、前もって許可を取っておかないとな)


「ほう…それなら他の奴らの案も含められるし評価もしやすい。私もある程度アドバイスできるからいいかもしれないね。

 ただ、さっきの話を聞いている感じだと他の奴らにアドバイスしてるみたいだし、あんたは指導側にまわって貰うことになるかもしれないがね」


ユリスの案を評価しながら、黒板に『最大ダメージの上昇』と書いていく。


「他はなんかあるかい?

 きっちり分ける必要はないんだが、一応3期分として3種類は授業をしなきゃいけなくてね。

 最低でもあと1つは決める必要があるのさ」

「他ねぇ…自己強化、魔物戦ときたら、残るは対人戦ぐらいか?」

「だけど、対人っていってもただ模擬戦するだけとかだと学園のカリキュラムの方にあるし、自由授業としては微妙だろうね」

「でも、それくらいしか残っていませんし仕方ないのではありませんか?」

「対人…わふっ!」


残りのテーマについて皆が議論をかわしている中、今まで黙っていたアーリアが何かを思いついたかのように声を上げる。


「アーちゃん、どうしたの〜?」

「ふふん、いいこと思いついた。

 先生、競技会の練習できる?」


アーリアの質問にミランダは我が意を得たりといった感じの笑みを見せる。


「ああ、勿論だ。学年によって自由授業の曜日は違うからね。

 他のクラス次第では毎週は無理かもしれないけど、少なくとも2週に1回は特殊競技場も使用できるだろうさ。

 『花火』と『早狩り』の方ならアリーナでも出来るから『大戦』優先で練習した方がいいかね」

「そうですわ!それがありましたわ!」

「確かに〜

 何で忘れてたんだろうねぇ〜」

「特待生である以上いい成績を残さなくてはいけませんし、私も練習できるならしておきたいですね」

「なあルイス、競技会って何やるか知ってる?」

「いんや、知らん。

 年間スケジュールでみてそういうイベントがあるんだな程度にしか思ってなかったわ」

「アタシも知らないわ。

 この3人だけって事は、王都では有名な行事なのかしら。うちの村辺境近くにあったから、そういう事には疎いのよね」

「競技会の名前すら知らない全くの素人が3人もいる。

 クラス対抗戦とも言われる学園の部でこれは一大事。

 特に特待クラスは一般の上級生にも勝たなきゃいけないから練習は必須」

「そうだね。アーリア、よく気づいて言ってくれたよ。

 アタシの方からは提案しちゃいけない決まりになっていたから、出なかったらどうしようかと思ってたのさ。

 だけど案が出た以上はきっちりやるよ。アタシが担当するクラスが入賞すらしないなんて認められないからね」


何やら燃えているアーリアの強い要望で自由授業のテーマが競技会のある夏までは『競技会種目の練習』に決まった。が、競技会用の機能が使えるようになるのは懇親会が終わってかららしいので、それまでは対人戦にも使えるとの理由で『最大ダメージの上昇』が行われることになったのだ。


時は戻り、まずは自分の思うようにダメージ測定することになった3人だが、ルイスは瞬間火力は高いが継戦火力が低かった。アーリアは逆に手数重視のスピード型なため継戦火力はそこそこだが瞬間火力が低い。サミュはどちらもまあまあといったところだ。


「先生、測定終わりましたよ」

「ああ、ちょうどこっちも終わったところだよ。

 なるほどね、こりゃ見事に別れたね。とりあえず短所を埋める方針でいくとして…

 まあ、初めの方はアタシは口を出さないようにしようか」

「分かりました。では早速始めますね」


そうしてユリスによる常識をぶち壊す講義が始まるのであった。


「さて、さっき言った瞬間火力と継戦火力なんだけど、結局はとある技術を習得すればどちらも底上げすることが出来る。

 奥義というんだけど知ってる人はいる?」


ユリスの質問にルイスとレイラが手を挙げる。


「えっ、アンタ何で知ってるのよ?」

「順位決定戦で覚えたんだよ。後でユリスに詳細を聞いた」

「ちょ、ちょっと待って頂けます?

 それは一部の貴族にしか知らされていないような機密のはずですわ。そんな情報を簡単に教えてしまって大丈夫ですの?」


講義を続けようとするユリスにカミラが待ったをかける。どうやらミランダや3人娘たちも知ってはいたが、予想外の事態に驚いて反応できなかっただけのようだ。


「ああ、それは問題ないよ。

 シエラ経由でトップに許可を取ったからね。

 それに最近のダンジョン事情を鑑みて、騎士団には存在を教える予定らしい」

「トップって、まさか……でもシエラ様でしたら納得ですわ」

「ユリス。アンタ、シエラと知り合いなのかい?」

「ええ、知り合いというか使用人として寮に居ますよ?」

「はあ!?アイツが使用人?

 あー…まあ今はいいか。遮っちまって悪かったね」

「では続けますね。

 この奥義なんだけど、簡単なやつなら初期アーツだけでも発現可能なんだ。複数のスキルを組み合わせたりする条件のやつもあるみたいだけど、そっちは難易度が高いし今回は簡単な方ね。

 ちなみに、騎士団にも同じことを教えてるようだけど、創作物によく出てくる『兜割』って技が実は奥義として実在していて、王家に伝承として伝わっているらしいよ。その文言は“奥義『兜割』を求めし者、剣の心得を有し初心を極めよ。さすれば道が開かれん”ってあるみたい」

「おお、兜割か!

 それなら俺でも知ってるぜ!」

「わふ、とても有名。

 でも、初心を極めるってどういう事?意味不明」


剣を使っているからか、ルイスとアーリアが特にいい反応を示す。


「そうだな…少し回りくどいが順序良くいこうか。

 まず、剣の心得は分かってると思うけど紋章のことだ。で、それにおける初心って事は初めから扱えるものを指す。剣の心得で最初に覚えられるのは『剣術』と『剣技』で。剣術の方は剣の扱いをサポートするスキルだから極めようもない。という事はさっきの言葉が指しているのは『剣技』だと分かる」


ちゃんと習得方法を伝えてくれればいいものの、何故こんな文言で伝わっているのかは不明である。


「って事は剣技アーツ全部習得辺りが条件か?」

「がるる、アーツ全部は難易度高すぎる」

「そうだね。習得出来るアーツ全てだと流石に初心とは言えないだろう。そもそもどれだけのアーツがあるのかも不明だし。という事は初心とは初めから扱えるアーツだと考えられる」

「初期アーツ3つだけで兜割が覚えられるのか?」

「うんそうだね。

 その中で条件を満たす必要があるんだけど、この3つでなにか変に思う事はなかったりしなかった?」

「わふ…ずっと気になってたことがある。何で初期アーツにスマイト?剣なのになんでドカッとする?」


アーリアの発言に他の全員が「え?そんなこと?」みたいな感じで目を向けるが、次のユリスの発言で考えを改めることになる。


「お、よく気づいたね。

 常識に囚われているとなかなか気付けないもんなんだ。アーリア、ルイス、剣のみだとするとスマイトはどう使う?」

「俺は盾で使っちまってるからな…

 剣だけだとすると腹で殴るくらいか。剣が傷むから最近はほとんどやらんが」

「私は柄でバシン」

「2人ともやっぱり殴る時に使う感じか。

 スマイトの説明には衝撃を強化するとあるし打撃系アーツだと思われがちだけど、実は斬撃でも使うことができるんだ。

 …ちょっとした工夫が必要だけど」

「むむむ……どうするの?」

「んー…ちょっとやってみようか」


そう言ってダメージ測定用の木人の設定をいじり、全員にダメージが見えるようにする。


「ただの振り下ろしが…こう。これを100ダメージに設定しておこう。

 で、斬撃スマイトが…こうだ。

 ちなみに斬撃ピアースは…こんな感じだね」

「全部同じではないですの…?」

「そうよね…アタシも違いなんか分からなかったわ。

 でもダメージはしっかり上がってるのよね…」


初めの振り下ろしが100ダメージだったのに対し、その後の2回は120ダメージと表示されていた。

接近戦をするアーリア、ルイス、サミュも分からなかったのか難しい顔をしている。が、横から出たレイラの言葉に他の生徒全員が驚愕する。


「スマイトは分かりませんでしたが、ピアースの時は振りながら重心が前に移動していましたよね?」

「おっと、正解だ。流石レイラ、よくわかったね」

「スマイトの方はインパクトの瞬間に力が入っていたね。にしても衝撃に貫通、斬撃ね…まさか…?」

「流石はミランダ先生、なぜ生徒側で参加しているのか不明ですが正解です。

 こんな感じで似たような振り方でスラッシュ、ピアース、スマイトが出せるんだけど…

 ミランダ先生は気づいたみたいだし、まあ言ってしまうと、これら3つを同時に発動した状態で攻撃すると…兜割を習得できる」


そう言って振り下ろしたユリスの一撃は200ダメージを超えていた。


「なるほどね。どうりで自力で編み出す奴が出てこないわけだよ。ステータスに頼らない素の技術とアーツを融合させる必要があるとはね」

「どうやら武器系技スキルでは、こういう感じに初期アーツだけで奥義を習得できるようになっているみたいなんだ。

 同時発動が条件になっている事が多いけど、違うパターンもあるから極めるというか色々検証していくことが重要だね」

「他の武器でも奥義があるのですか〜?」

「先に言っておくけど、全部確認できている訳ではないから断言は出来ない。ただ少なくとも剣と体術は僕が習得してるし、槍と弓は条件を知ってる。これらは全部初期アーツが条件だから他でもそうだろうと考えられるでしょ?」

「弓もありますの!?」

「うん、まあそれは一旦置いておくとして…ルイス、さっきから難しい顔をしているけどどうしたの?」


全員が納得したという顔を見せる傍ら、ルイスはずっと難しい顔をしている。


「………なあ、ユリス。

 さっきから気になってたんだが、アーツ名を言わずにどうやって発動してるんだ?

 正直、奥義よりもそっちの方が気になってしょうがないんだけどよ」


ルイスが放った言葉に全員が「そういえば…」と先ほどのデモンストレーションを思い出して唖然としている。

それを見たユリスはニヤリと笑ってから説明を続ける。


「ふふ。さてさて…ここまで長ったらしく説明してきたけど、前振りも終わったことだし奥義習得に最も重要な技術である『無声発動』について説明していこうか」


のちに歴代最強と言われるようになる第172期特待生1組の最初の1歩がここからスタートするのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ