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47話 検証と報告

寮に帰り食事をとった2人はシエラも交えてボスラッシュダンジョンについての方針確認をしていた。


「それじゃあ第1種昇進の可能性を高めるための検証を色々としていこうか」

「ダンジョンでもおっしゃっていましたが今回のレシピだけではダメなのですか?」

「ダメじゃ無いだろうけど、このレシピは9個全部埋まっているから他に応用が出来ない。

 もし必要なメダルが少なければその分だけ出現する魔物やアイテムに変化が生まれるから、重要度がかなり増すんだ」

「そうだねー

 考えつく検証はしてからの方が後で横槍が入ることも少なくなるし、報告書としての完成度も高くなるから評価も上がるだろうね」


シエラからの援護もありレイラは検証の必要性に納得を見せる。


「そういうものなのですね…

 そうしますと、やる事はレシピの絞り込みと出現した魔物、入手アイテムのまとめ……他にあるでしょうか?」

「鉱石関係もまとめて一緒に報告した方がいいわね。

 保険ではあるけど、ボスラッシュだけでは足りないと判断されちゃった場合に併せて功績として認められる可能性が高いからね」

「そうなるとちょっと時間がかかるかもね…」

「そうですね…まとめる時間も必要ですし、少なくとも1週間はかかりますか」

「いや、君たち?

 普通は6年全部かけても見つけることすら出来ないんだよ?短い間でレイラちゃんもちょっと感覚おかしくなってないかな?」

「そうでしょうか?あまり自覚はありませんが…?」

「シエラ、初めからこんなんだよレイラは。

 普通なら無理無茶だと言われる修行内容も余裕でこなすからね。それに、僕も運がいい自信はあったけどアイテム運なんかはレイラには負ける」


詳細は語らなかったがユリスの幸運は祝福によってもたらされているものである。そんなユリスと同等以上の成果を得ているのだからレイラの運がいかにいい事が分かるだろう。


「いや無茶って…何させてるのよユーくん。

 運の方はまあ納得するけども」

「確かにスキルは持っておりますがそこまで運が良いわけでは…」

「「いや、それは無い」」

「というか持ってるんだ…」


脱線しながらも明日以降の方針を決めていき、検証の日々が始まるのであった。

そして3日後、すでにボスラッシュダンジョンの必要メダルを4つに確定させることが出来ていた。

そのメダルの配置は2選択、3道、4狭、10消失である。

選択と道が道中の分かれ道と宝箱部屋の生成、狭は道中の短縮、消失が雑魚敵の消失と各階層のボス部屋生成の変化をもたらしていたという結果になった。

なぜここまで早いのかというと、単純にこのダンジョンの道中が短いので試行回数が多かったためである。


「これでボスラッシュの方は確定ですね」

「そうだね。

 ただ、初めの回しか装備がドロップしなかったのが気になるんだよねぇ…

 可能性があるのは棒か石くらいだけど必須とは考えにくいし…まあそこまでの検証は時間がかかるし仕方ないか」

「そうですね。

 では、まず私の方で書いてみますので後で添削をお願いできますか?」

「うん、了解。

 さて、次は鉱石ダンジョンの方だけど…鉱石のメダル以外って必要かな?

 石は要素が重複してるし、上質もランクに関係はするだろうけど鉱脈の出現そのものには影響なさそうな気がするんだよね。

 円と魔に至っては全く関係がない要素だろうし」

「確かにそうですね。

 なら、明日はまず鉱石のメダルだけにして、その後に配置を変えて確認しましょうか」


鉱石ダンジョンの方を短縮するためにユリスはそれっぽい理由をつけて誘導をする。

予想では5時の位置に鉱石を嵌めれば鉱脈が出現するはずなため、さっさとそれを試して検証を終わらせたかったのだ。案の定それは正解であり鉱石ダンジョンの確認も1日で終了してしまった。

ちなみに、ユリスの予想通り上質のメダルが鉱脈のランクを上げていたようで、見つかったのは銅鉱脈ばかりであった。



「ユリスさん、一通り書いてみたのですがこれでいかがでしょうか?」


寮のユリスの部屋で報告書を書いていたレイラが添削を頼むために紙を渡す。


(思ったより枚数少ないな……

 なるほど、情報が最低限すぎるのか)


「そうだなぁ…まず内容が薄いというか最低限のことしか書かれていないから、気になったことがあってもそれ以上が分からない。

 同組織内の簡易報告ならこれで十分というか優秀と言えるレベルなんだけど、今回は読む相手が気軽に質問しに来たり呼びつけたりできる訳じゃないから出来る限り漏れを無くした詳細な報告書に仕上げないといけないんだ」

「なるほど…では今回した検証結果を全て書く必要があるのでしょうか?」

「全部そのまま書くと報告書というよりは攻略記録になるからね…その辺のさじ加減が難しいんだけど、とりあえず思いつく限りの情報を書き出してみようか。

 その後に今書いたこれを骨組みとして位置付けて各項目の詳細を書き出した中から選んで付け足していくって感じでやってみよう」

「むう…思っていたよりも難しいですね。

 でも頑張ります…!」


そこからはレイラが思いつくままに片っ端から書き上げてから詳細の記述をしていき、都度ユリスが修正しながら仕上げていくといった感じで進む。最後の方はレイラも手慣れてきてユリスの修正があまり入らなくなっていた。

朝一から始めた報告書作成は日が暮れる頃になりようやく完成一歩手前まで漕ぎ着けていた。


「これで最後なのですが、装備についてはどうしましょうか?最初の1回しか手に入らなかったのに載せるべきかどうか」

「そうなんだよなぁ…

 参考資料として最初のレシピとレッドコアロッドの性能を載せて、こういった配置でこの強さの装備が手に入りましたよーって書いておけばいいんじゃない?

 推測で書いておいて実際は手に入らないってなれば大変な事になるし、書かなければ重要項目が一つ減る」

「確かにそうですね。

 ではそのように書いて……これで完成です!!」

「まさか休日がまるまる潰れるとは…」


実は今日が入学してはじめての休日だったのだ。

他の寮生は婚約者とデートに行ったり、幼馴染と探検に行ったりと休日を満喫しているようだったが、ユリス達は報告書の作成だけで終わってしまった。

婚約者候補と同じ空間で過ごすという点では変わりないのだが、なんとなく気分が全く違うのである。


「あ、終わったんだ?2人ともお疲れ様〜!

 それなら少し早いけどご飯作っちゃうね。

 ああ、レイラちゃんは今日は休んでていいからね」


レイラの宣言とユリスのぼやきを聞きつけたシエラが労いのために早速夕食を作り始める。

はりきったシエラが手がけたその日の夕食は一段と豪勢な上ここ最近で1番の美味しさであり、シエラの料理に慣れているユリスも思わず無言で食べ進めてしまう程であった。


「美味かった…」

「美味しかったですね…」


2人とも背もたれに寄りかかり目を細めて遠くを見ながらしみじみと感想を言う。

今日一日の疲れなど忘れてしまったようだ。


「ふふ、2人ともおんなじような顔してて可愛い♪

 そんなに気に入ったならまた作ってあげるから材料は取ってきてね」

「…ん?取ってくるって、何使ったの?」

「メインのステーキはコマンダーウルフでミートボールの方はスクワドウルフ、オムレツがリッチエッグとバルクリームを混ぜたやつで、スープはナゾの骨とジャーキーで出汁を取ってからリッチエッグを入れたの。

 野菜とかそれ以外はいつもと変わらないわね」

「おおう、ミツバメ以外全部使ったんだ」

「というか、ナゾの骨と肉使ったのですね…

 スープ美味しかったです…!」

「でしょ?私も味見してビックリだったよ。

 それとミツバメの羽もステーキソースにちょっと使ったよ」

「そっか、ならあの食材ダンジョンを周回してストックしておかないと」

「そうですね!

 それこそメダルを入れ換えて色々な食材を探せば野菜も美味しくなるかも…!」


(随分と力強く言ったな…野菜苦手なのかな。まあ、確かに市販のは生では食べようと思わないくらい不味いが。

 あ、見るの忘れてたから今のうちにデザートを作れるか設備を確認しておかないと)


「そういえばキッチンってまだちゃんと見たことなかったような…」

「急にどうしたのユーくん?」

「いやね?いい感じの材料も揃ってるしデザートでも作ってみてもいいかなって思って。設備があればだけど」

「え??デザートってあれだよね、シュガル領のダンジョンでドロップするやつ。作れるの?」

「王都の方に回ってくるものはあまり美味しくなかったので、いいイメージがないのですが美味しいのですか?」


(何だと…!?デザートまでダンジョンドロップするのか!しかもこの感じだとドロップ頼りみたいだし、パティシエとか居ないのか?

 ……2人以外に提供するときは気をつけないとヤバいか)


「まあ、今作れるかは分からないから確認だけしておこうかなと。出来そうだったらそのまま作るから器具の置き場とか教えてもらえる?」


そうしてシエラの説明を受けながらキッチンを物色していくと…


「うん、とりあえずあれならなんとか試作出来そうだ。

 ちょっとやってみるから30分くらい待っていてくれるかな」


(石窯っぽいがオーブンらしきものはあったし、鉄板も鉄カップもある。裏漉しも目の細かいザルである程度できそうだし、プリンくらいなら作れるだろう。

 あとは材料次第といったところだな)


設備をチェックし終えたユリスは早速食材ダンジョンで手に入れた材料でプリンを作り始める。

唯一の懸念はバルクリームの発泡成分だったが、シエラ曰く温めて攪拌するとブクブクするらしいので、その状態にしてから裏漉して使用すればよさそうである。

そうして作ったプリン液をカップに入れて、そこに蜜羽で作ったカラメルを垂らす。水を張った天板にカップを乗せ、アルミホイルの代わりに鉄蓋を乗せ、オーブンで湯煎焼きにすること30分…

氷水でしっかりと冷やしてからカップを皿の上に逆さにすると、見事なプリンが出来上がっていた。

テンションが上がったユリスは待ち時間が暇だとバルクリームを冷やして攪拌したら簡単に出来たホイップクリームを添えてから、早足で2人の所まで持っていく。


「できたよー!

 今回作ったのはプリンっていうデザートだ。

 まだ確認してないから、ちゃんとできているかは不明だけど…まあ、待ち切れなさそうだし早速食べようか」

「ユーくん、待ってたよ!

 さっきからいい匂いが漂ってきてもう我慢できない!」

「早く食べましょう!いただきます!」

「「「!!!!」」」


全員が同時に口に入れ、固まってしまう。


(やばい…

 久々の甘味がめっっちゃ濃厚でこんなに美味いプリンだなんて…感動して泣きそう)


「はあ…美味しい…

(こんなに美味しい料理があったなんて…

 なんで私は甘い料理を作ろうとも思わなかったのよ!

 シュガルの最高級デザートは食べたことあるけど、この料理はそんなものとは比べ物にならないわ!)」

「……………はっ!

(あまりの美味しさに意識が飛んでしまいました…

 この世にはこんなに幸せになれる料理があるのですね。

 ……ユリスさんのお嫁さんになればいつでも食べられる……いえ、だめです!そんな不純な考えでは……でも好きであれば別にいいのでは…?

 …やっぱりだめです!)」


ユリスは感動、シエラは衝撃、レイラに至っては意識が軽く飛んだ上に混乱している。

今回のプリンは想像以上の成功であったようだ。


「…ユーくん、今度作り方を教えてください」

「私もお願い致します」


プリンを全て食べ終わった食卓ではシエラとレイラが揃って頭を下げている。あまりの真剣さにユリスが軽く引いてしまっているほどである。


「う、うん。別に教えるくらい構わないけど…プリンは作るの簡単だし」

「プリンは!?まだ他にも甘い料理があるの!?「落ち着けぃ」あだっ!」


狂ったように迫ってくるシエラの頭にチョップを入れるユリス。叩かれたシエラはどことなく嬉しそうである。


「他にもデザートのレシピは色々知っているけど、材料とか器具がない。だからプリン以外はそれを揃えてからね」

「はーい。まあプリンを教えてもらえるならそれでいっか。まずはさっきの味を出せるようにならないと」

「私も頑張って作れるようになります…!」


そう意気込む2人だが、後にユリスから教えられたレシピの簡単さに愕然とするのであった。



翌日の放課後…


「「失礼します」」


報告書を片手に学園長室へ向かったユリスとレイラだったが、そこで見たものは忙しそうに書類の山を捌くセルフィの姿であった。


「あら、いらっしゃい。2人揃ってどうしたのかしら?

 何か問題でもあった?」

「まあ、問題といえば問題ですね。

 ダンジョンで有用であろう発見をしたので報告しにきたのですが」

「え、もう?まだ1週間しか経ってないんだけど…

 まあユリスくんだし気にしないほうがいいか」

「いえ、今回はメインがレイラで僕はあくまで手伝いです」

「そうなの?

 という事は第1種案件……」


セルフィはレイラの持つ報告書の厚さに思わず難しい顔をしてしまう。


「あの…何かまずいことをしてしまったでしょうか?」

「ん?ああ、貴女に問題があるわけじゃないわ。

 ただね、見て分かると思うけどちょっと立て込んでいてね。明日くらいに担任から説明があると思うんだけど、近いうちに新入生懇親会という名のパーティーが開催されるの。

 それの準備が忙しくてね…終わってからも後処理にそれなりの時間がかかるから、今報告書を渡されてもしばらく見る暇がないのよ」

「そうなのですか…」

「悪いわね。

 せっかく持ってきてもらって何だけど、来月になれば落ち着くから、その頃にまた持ってきてもらえるかしら?今貰うと他の書類と混ざっちゃいそうで怖いのよ」

「分かりました。

 でしたら来月にまた参ります」

「レイラさん、ごめんなさいね」


両者残念そうな雰囲気を漂わせながら報告書の提出を見送る。用事が済んだユリス達は邪魔をしてはいけないと早々に退出していくのであった。


「残念だったね。

 まさかこんなに早くイベントがあるとは」

「そうですね…それにしても懇親会ですか。学園主催だから全体でやるのですよね?

 特待生は特に注目されるでしょうし大変そうです」

「ああ…そういえば前にシエラが何かを公表するのにちょうどいい場があるとか言ってたっけ。

 これの事だったのかな?」


(そういえば、学園長にまだ相談してないな…

 忙しそうではあったけど、戻って話してくるか)


「レイラ、ちょっと学園長に話すことがあったのを忘れてた。悪いんだけど今日は自由行動でいい?」

「ええ、かまいませんよ。

 それではお先に失礼しますね」


レイラと別れたユリスは収納スキルなどの公表について相談するため、学園長室へと逆戻りすることとなった。


「あらユリスくん?何か忘れ物でもしたかしら?」

「ちょっと相談があるのを忘れていまして。

 実は……―」

「ふーん…確かにちょうどいいかもしれないわね。

 懇親会では特待生を1人ずつ紹介していくのが恒例になっているからね。

 …本当なら数日後くらいから紹介のためのインタビューをする予定だったけど、丁度いいし今やっちゃいましょうか。この後時間は大丈夫かしら?」

「はい、問題ありません」

「ありがとね。

 ただ、そのまま注意するだけだと抑止力にはならなさそうね。

 そうねぇ…こういうのはどう?」

「んー…やるのは大丈夫だとは思いますが、それだけでいけるんでしょうか?よりインパクトがあった方が元のやつが薄れると思うのでこれも公表しましょう。

 問題は公表してからイベントが終わるまでの時間ですね。どうやってしのぎきるか…」

「それなら適任がいるから頼んでおいてあげるわ。あの子のことだから断りはしないでしょうし、周りも文句は言いづらいでしょう。

 控室も用意しておくからある程度のところで一緒に引っ込んじゃっていいわよ」

「分かりました、では当日はお願いしますね」


当日の段取りが決まり、ユリスのインタビューへと移っていったが、思ったよりも話が弾んでしまい終了したのは3時間以上経ってからであった。

予想以上の時間がかかってしまったことにより、寮に帰ってから暫くは何か言いたげな2つの視線に晒されることになったのであった。


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