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39話 クラス内順位決定戦 その2

「それじゃあ第1試合の勝ちグループの方から試合を始めていくよ!

 まずはフォーグランドとエリーゼからだ!2人とも下に降りてきな!」

「それでは行ってまいります」

「うん、エリーゼなら十分勝てる相手だ。頑張って」


ユリスからの激励を受けてレイラは気合十分といった様子でステージに降りていく。エリーゼの方もルイスには勝ち目がないと思っているのだろう。両者この一戦に全てを賭けているかのような雰囲気である。


―エリーゼvsレイラ―


「始めッ!」


一回戦とは打って変わって両者共に開始と同時に動きを見せる。

エリーゼは一回戦と同様にウィンドウォールを張ったのだが、レイラが合図を聞くや否やエリーゼへの接近を試みるたため完全に裏目った結果となった。対物理性能がそこまで高く無いウィンドウォールでは強度を上げない限り何枚重ねてもレイラの接近を止めることは出来ないのだ。一回戦では、あくまでもボルトという軽い物が対象だったために軌道を逸らすことができていただけである。

接近に成功したレイラはナイフでの鋭い攻撃を間断なく繰り出していく。


「ちょっ…速っ!

 あんた後衛なんじゃなかったの!?」


多少は防げているが、それなりのダメージを負うエリーゼ。魔法も途中で中断されてしまい、発動まではなかなか出来ないようで防戦一方となっている。


「ちゃんと自己紹介で使うと言いましたよ?それにあくまでも嗜み程度です。これくらいは出来ないと発動する時間も稼げませんからね。…『ファイアボール』!

 まだ思った通りには行きませんね…」

「きゃ!

 あんた思ってたよりいい性格してるわね!

 ほんとこれで嗜みとか頭おかしいんじゃないの…?それに遠隔発動も十分厄介だっての!」


レイラは試合前に話していたように、攻撃しながらの魔法遠隔発動を試みていたが、相手の側面や頭上など比較的近めの視認しやすいところでしか発動できなかった。

もっとも、ナイフを捌く事すらままならないエリーゼにとっては泣きっ面に蜂状態だが。

しかし、頭上でファイアボールが発動した瞬間にエリーゼが待ち構えていたようにバックステップをする。


「あっ!」

「これでようやく反撃出来るわ!」


エリーゼがバックステップした事でファイアボールがレイラとの間に落ちてくることになったのだ。無理に接近しようとすれば自分に直撃してしまう。

この一手で時間と距離を稼げたエリーゼの猛攻が始まり、攻防が逆転する。


「狙いが…正確で無いとは…いえっ、これは結構きついですねっ!」

「頑張って避けるじゃない。ならこれならどうかしら?

 『ファイアボール』……『ウィンドボール』……」


エリーゼはファイアボールとウィンドボールを混ぜて放つように変化させてきた。

ウィンドボールには威力は他の属性よりも少し低いが、視認しづらいという特徴がある。視認しやすいファイアボールと織り交ぜることでかなり避けづらくなるのだ。

しかしそんな小細工が通用するのはせいぜい2、3度までだ。


「『ファイ…アランス』!」


猛攻に晒されるレイラが一転、反撃の動きを見せる。何とダメージの小さいウィンドボールを無視して魔法を発動し始めたのだ。案の定直撃してしまうが、ものともせずに魔法を完成させることに成功した。その様子を目の当たりにしたエリーゼは驚愕と共に苦々しい表情を浮かべる。

ステータスのHPによって損傷を肩代わりする事は出来ても受ける衝撃はそのままである。序盤のエリーゼはそれ故に魔法を発動できなかったのだが、レイラは気合いでなんとかしてしまったようだ。


「くらいなさい!」

「嘘でしょっ…!?」


凝縮された槍状の炎がレイラの正面に作られ、エリーゼに向かって発射される。途中にウィンドウォールがいくつも展開されていたが、そんなものは関係ないと言わんばかりに炎槍は突き進んでいく。そしてレイラ自身は発射した炎槍に隠れるようにしてエリーゼに接近している。

この段階でエリーゼは自身の負けを悟る。

どうやらユリスが懸念していた魔法の威力操作は出来ないようだ。故に迎撃にはファイアランスと同レベルの魔法が必要だが、それだと発動が間に合わない。発動の早いボール系魔法だと軌道を変えてレイラに当てることができてもファイアランスが直撃する可能性が高い。かといってランスを避けてしまえば攻撃の手が緩み、レイラの接近を許すことになるため、序盤の攻防が再開することになる。八方塞がりである。


「仕方ないわね…こうなったら一か八か!沈みなさい!」


どうしようも無くなったエリーゼが選んだのは、ファイアボールによる相打ち狙いであった。

あわよくば、早めに回避行動をとってくれればこちらも直撃を避けることが出来るかもしれないという考えである。


「…!!今避ける訳にはいきませんね…

 仕方ありません、できれば次まで隠しておきたかったのですが」


思惑に気づいたレイラはしぶしぶといった感じで自身を取り囲むように炎の防壁を展開し、見事ファイアボールを防ぐ事に成功する。


「なっ…!

 参ったわね…まさか魔術が使えたなんて。これは完敗だわ」


エリーゼが完敗を認めたのはレイラが使用したのが魔法ではなく魔術であったためだ。それもただ魔力を放出するだけの単純なものではなく、しっかりと自身を囲む防壁として機能していることからちゃんとした技術を有している事が窺える。魔術は魔法名を唱えなくていいため発動が早く、隠密性も高いために始めから使われていたら対応できなかったと理解したのだ。

ユリスは近いうちにその存在も含めて教えるつもりだったのだが、どうやら教えるまでもなかったようである。

炎壁でファイアボールを防いでいる内にファイアランスがエリーゼに直撃し、レイラの勝利となった。



「おかえり、良い戦術だったね」

「ありがとうございます。

 ですが、攻撃しながらの発動はまだ練習が必要ですね。おかげで隠しておきたかった手札も切ってしまいました」

「まあ、魔術ならバレても応用が効くから問題ないさ。

 というか、魔術使えたんだね?今度覚えてもらおうかと思ってたからちょうど良かった」

「応用というと?」

「色々あるけど、僕がよくやっているのはさっきみたいな魔法の再現とアレンジだね。あくまで再現だから威力や規模の調整、変速軌道以外にも発射後の遠隔操作や変形、魔導陣や触媒での強化などなど、とにかく自由自在なんだ。慣れてくると魔法を変化させるより簡単だし、自由度が高いから新しく創る事もできて面白いんだよね。

 ただその分高い魔力操作技術が要求されるからあまり知られていないって聞いていたのに、レイラも使えるしエリーゼも知ってるみたいだし…最近ではそこまでマイナーじゃないのかな?」

「私の場合はたまたまスキルのおかげで火炎を直接操作するのが容易なので使えるというだけですよ?」


そんな会話をしている裏では次の試合であるエリーゼとルイスの試合が始まっていた。

同郷という事もあり何度も手合わせはしているのだろう。ルイスはエリーゼの魔法を難なく防いでいる。

エリーゼの方も勝てないと考えているのか、レイラ戦で使用した戦法を試してはいるが既に諦めの表情だ。というか勝てるわけがないとか手加減しろとか騒ぎながら魔法を発動している。普通はそんな状態で発動なんて出来ないのだが、いつもの事なのか変なところで器用である。

魔法をばら撒くエリーゼと盾で全て防ぎながら近づいているルイス。両者の距離はジリジリと狭まっていき、短槍の射程範囲に入ったところであっさりと勝負がついてしまった。

エリーゼは受け流しの技術を習得していないようなので順当な結果である。


「そろそろだね。

 色々と試して、剣を使わせられたら勝ちとでも思っておくといいよ」

「はい!では行って参ります!」


―ルイスvsレイラ―


「よろしくお願いします」

「ああ、よろしくな!

 あんたが1番色々してきそうだからな。楽しみだ」


心からそう思っているのだろう。盾と短槍を構えながらも表情には笑顔が浮かんでいる。


「背中の剣は使わないのですか?」

「ああ、やっぱバレてるよな…

 死なない戦いで初めて戦う相手には使わないようにしてるんだ。盾の扱いにも慣れていきたいからな」

「そろそろ始めるよ。2人とも位置につきな」


「では…始め!」


その宣言とともにレイラは魔法の発動準備に入る。

前の試合で発動場所を自由に変えられることを知ったルイスは何処から魔法が放たれてもいいように周囲を警戒をしながらゆっくりと近づいている。どうやら先手は譲るようだ。


「…『ゾーンフレイム』」


しかし、レイラが発動したのは領域型の範囲魔法であった。

これは、特定の座標を中心として半径10メートル程の地面に火属性の領域を作り出し、継続的にダメージを与える魔法である。対象が地面に触れている必要はあるが対象以外にはダメージが発生しないため、範囲内に術者や味方がいても問題のないという使い勝手のいい魔法だ。

今回は2人とも入るような位置で発動したため、この中で戦闘している限りルイスのみ継続ダメージを食らうことになる。


「くそっ!

 こうも的確に対処できない魔法を選びやがって…

 速攻でケリをつけないとこっちが危ないか」


そう判断したルイスは一気に距離を詰めるために、前方への集中を余儀なくされる。

その一瞬の意識の間隙を狙って頭上から飛来してくる炎弾。


「はあ!?危ねえっ!」

「惜しかったですね…

 なら次はこうです」


今度は正面から炎弾が飛んできたためルイスは盾で横に弾き飛ばす。しかし、その瞬間に目にしたのは様々な方向から次々と飛来してくる小さめの炎弾であった。その数はエリーゼの発動数と同等である。

何と直前のユリスのアドバイスから、レイラは魔術でのファイアボールの再現を成功させてしまったのだ。しかもエリーゼとの対戦で見た多重発動レベルの数まで分裂させるというおまけ付きで。

しかし、見た目通り威力は低い。それに気づいたルイスは盾を構えたまま強引に突破する構えを見せる。すかさず進行方向の地面から火柱が噴き上げる『フレイムピラー』を発動するレイラ。


「んなもん効くかぁー!『チャージ』!」

「きゃあっ!」


が、ルイスは突進のアーツでそれすらも強引に突破し、レイラを突き飛ばす。威力自体は減衰してしまっているが体勢を崩すには十分だ。そしてレイラが立て直す間に再度接近し、短槍の間合いにとらえる。

そこからはお互いに武器を使用した接近戦が始まった。もっともレイラは魔術も併用しているが。

しかし、盾を持って接近戦をする紋章構成のルイスと後衛で魔法を使用する構成のレイラとでは、そもそものHPに大きく差がある。そのため、レイラの魔法で何度かルイスがダメージを食らったとはいえ、未だルイスの方がHPが多いくらいである。

接近戦ではルイスに分があるため、現在のレイラは劣勢といえるだろう。


「くぅっ…!」


継続ダメージがあるとはいえ、このままでは負けてしまうと考えたレイラは一か八かの賭けに出る。攻撃を止めて防御メインの戦法へと変えたのだ。


「ちいっ!『スマイト』!

(またなんか狙ってやがるな…?

 にしても守りが固いなっ!エリーゼも言ってたがこれで後衛とかマジかよ!?

 こりゃ守りを捨てないと負けちまうかもな!)」


どうやらルイスも何かしら画策している事に気づいたようだが予想以上にレイラの防御が堅い。継続ダメージのせいで結構ギリギリのラインにいるルイスは時間をかけ過ぎると負けのビジョンが色濃くなると焦りが出たのか、さっさとレイラの守りを突破するために盾も攻撃に使用して猛攻を仕掛ける。


「間に…合った!」


その言葉と同時に発現したのは実技試験でも使用していた炎の狐2匹だ。


「行きなさい!」

「炎の狐!?…ふんっ!

 なっ!?…がッ…!」


突如として現れて左右から襲いかかってくる炎狐に驚きつつも盾と短槍を振るい防ごうとする。

しかし、盾の方は防げた感触はあったのに短槍は通り抜けてしまった。そして、そのまま懐に噛み付いたと思ったら爆発したのだ。


レイラが使用したのはユリスが実技試験でも目にした種族スキル『狐炎術』である。

炎狐を形成して操るスキルであるが、この炎狐は実体を持っている。しかも任意のタイミングで一時的に実体のない現象としての炎に変化させる事も可能という特徴がある。

故に短槍で払われた後でも懐への噛みつきができたのだ。盾の方も通り抜けさせる事が出来ないわけではないが、面積が広く一度狐の形状を崩す手間がかかる為今回は陽動としてそのまま突っ込ませていた。

ちなみに、魔力を込めた分だけ強力な炎狐になるので、同時操作できるのは自身の尻尾の数だけという制約があってもかなり強力なスキルと言えるだろう。


「まだ終わらないのですか…」


これ以上維持するのは流石に難しくなったのだろう、これまでずっとステージに展開されていたゾーンフレイムが解除された。その代わりに再度炎狐を形成する。


「くっ、ははっ…

 流石に負けるのは癪だし…もうこれは修行だとか言ってられねえな」


ルイスは盾と短槍を放り投げ、代わりに背中に背負っていた長剣を構える。

レイラはついにきたかと少し緊張を見せる。


「さあ、いくぞ!」


そこからの勝負はあっけないものだった。

レイラが仕掛けた炎狐の内1匹を今度は切り裂いて消してしまったのだ。

そんな馬鹿なと動揺しつつもレイラは剣を振り抜いた状態のルイスにもう1匹を飛びかからせる。


「『雷鳴転身』!」


が、その瞬間にルイスの姿が消え去り、完全に見失ってしまう。驚き探している間に背後から振り下ろしの一撃をくらい、レイラの目の前が光に包まれる。

その瞬間レイラは敗北となったのだ。


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