38話 クラス内順位決定戦 その1
戦闘描写ってなかなか難しいですね…
結構あっさりめになってしまっていますのでご承知おきください。
見学を終えたユリス達5人は第1アリーナへと到着する。
既にルイス達は到着しており、それぞれでウォーミングアップをしている。その様子から模擬戦に対する真剣さが窺える。
そして、その姿を見て触発されたのか他の生徒達も準備を始める。
唯一ユリスだけが寛いでいたが、少なくとも全ての順位が決まるまで出番は無いのだから当然であろう。
少しして予定の時間よりも早くミランダがやってくる。
「ほう…もうウォーミングアップをしているとは本当に有望な子達ばかりだ。
…君はしないのか?」
「ええ、今は特に要りませんよ。
まだ時間もありますし。それにそこまで本気で動く必要が出るとも思えません」
「そうか。
ふむ…そろそろいい頃合いだろう」
聞き手によっては全方位に対する挑発とも取れるユリスの言葉だ。しかし、ミランダは彼がどれだけの実力を持ち合わせているかを今までに散々聞かされていた。
それ故に若干驕っている気がしないでもないが本当なのだろうと納得し、それ以上は追求しない。
「全員集合!よし、揃っているな?
それではこれより順位決定戦を執り行う!
形式はまず1対1で戦ってもらい、その後に勝者と敗者のグループでそれぞれ総当たりをしてもらう。ルールは実技試験の時と同じく何でもありだ。
第1回戦はルッツ対フォーグランド、エリーゼ対グレイズ、フロウル対ルイスの順で行う。
では、該当者は準備をする様に!」
―レイラvsアーリア―
「それでは始めッ!」
開始の合図と同時に両手に短剣を持ったアーリアが真っ直ぐに突っ込む。
対するレイラは杖を構えて待ち構える。
「がう…『スラッシュ』!」
好機と見たアーリアはさらに速度を上げ、右手の短剣で袈裟に切りつける。が、レイラは冷静に持っていた杖で短剣を受け流すと、そこから至近距離でファイアボールを発動した。
「くっ!」
「流石にあれでは終わりませんか」
「当然っ!『ミラージュステップ』!」
アーリアはダメージを喰らってはいるものの持ち前のスピードで直撃は避けていた。ただの直線移動は危険だと判断したのか今度は方向転換時に残像を残すアーツを使いながらジグザグに走ってレイラに近づいていく。
しかし、午前中の探索でもっと速い人物の動きを目に焼き付けており、その感覚がまだ残っているレイラにとっては目で追える程度のスピードでしかない。たとえ残像が出来ようともただ突っ込んできた時となんら変わりはないのだ。
アーリアの斬撃をレイラが受け流してファイアボールを発動と先程から同様の展開が何度も続き、アーリアが受けるダメージは着実に積み重なっている。ただ、レイラの方も毎回直撃するように狙ってはいても全て外されているのだ。そのために少し焦ったくなったのか繰り返される攻防に変化が生じる。
アーリアは回り込んだり飛び跳ねたりなどさまざまな動きで惑わしながら攻撃していっているが通じない、今度もまた同様に受け流されてしまう。そう思った時予想外に攻撃が外へ強めに弾かれてしまったため、次にくるだろう火弾を避けるために距離を取ろうとバックステップをする。
「『ファイアボール』」
「不発??…いったい何を…がぅッ!
ぐるる、何で後ろ……?」
アーリアは背後からの衝撃に思わず倒れ込んでしまい、追加で正面から放たれた炎を避けることが出来なかった。
レイラは遠隔でアーリアの背後にファイアボールを発生させてそこから発射したのだ。
大体の射出型魔法は手元か体の周囲に発現させてから射出するのが一般的だ。その発現場所を自在に操るというのはかなりのセンスがいる高等技術であるため、アーリアの頭にはその可能性が存在していなかったのだろう。
この一撃が決め手となりレイラの勝利となった。
(おお、レイラは遠隔発動が出来るのか。
これが出来るなら魔法よりも応用性の高いスキルを覚えさせた方がいいかもな。
…ボス戦の時のことを考えると、あのスキルがいいかな?どうにかしてあれがある紋章を調べて手に入れないと)
ユリスの中ではレイラの評価が上方修正され、それはそれは楽しそうにレイラの魔改造計画が進行している。
―エリーゼvsカミラ―
「確か火と風の魔法を使うと言っていましたわね。
なら撃ち合いと行きますわよ!『始まりを告げる一矢』!」
カミラは先手必勝とばかりにクロスボウを構えてボルトを放つ。が、エリーゼもそれは予想していたようで即座に横へ飛んで躱す。
「そうね。だけど撃ち合いなら負ける気はないわよ!
『ウィンドウォール』!」
カミラの宣言へ律儀に返答をしつつ魔法の発動準備を始めていたエリーゼが最初に発動したのは防御系の魔法だった。
ウォール系の魔法は土属性以外だと対物理防御性能があまり高くない。ウィンドウォールも例外ではなく、壁1枚程度だとボルトの軌道を逸らすのも難しい程の強さなのだ。
…そう、1枚なら。
「ウィンドウォールだなんてわたくしを舐めているのかしらっ?『瞬足の矢』……えっ!?」
「『ファイアボール』!」
ヘッドショットを狙ったカミラの一撃はエリーゼの手前で大きく軌道を変えてあらぬ方向へ飛んでいく。
そこへすかさずファイアボールが発動。ウィンドウォールを避けるように弧を描いて飛来してくる。
カミラは間一髪のところで飛び去ってなんとか避けるが、飛んできた火弾は1つではなかった。
「『ファイアボール』………『ファイアボール』………『ファイアボール』……」
「なんですのこれはあぁぁー!」
雨霰と降り注ぐ火弾に時折当たりながらもなんとか生き残ってはいるという状態のカミラの頭は混乱しっぱなしで反撃どころではない。
エリーゼの発動回数と降り注ぐ火弾の数が明らかに釣り合っていないのだ。これはエリーゼのユニークスキル『多重発動』によるもので、1度の発動で複数発動分の効果を得ることが出来るというものだ。手数が容易に増やせる一方で相応に消費はするため持久戦をしづらいのがネックではある。そんな事を知る由もないカミラはなす術もなくHPを削られていく。
そして、最後まで手も足も出ずにHPが底を尽きてしまうのであった。
「魔法の発動回数に対して炎弾の数がやけに多くありませんか?そういった技術があるのでしょうか?」
「んー…そんな技術は聞いたことがないし、おそらく分裂系か回数増加系のスキルだろうね。紋章かユニークかは流石に分からないけど。
魔法以外にも適用されるかどうかで厄介度はかなり違ってくると思うよ」
「どうやって対応しましょうか…」
「狙い自体はそんなに正確じゃないから、大きく移動しながら貫通力のある魔法を使うか、範囲系の魔法を使えばいいんじゃない?もしくは速攻で接近戦を仕掛けるか」
「なるほど…!
分かりました。まずは接近してみましょう」
ユリスのアドバイスの中からそれを選ぶあたり、先ほどの一戦が相当に楽しかったのだろう。1回戦と似たような戦法で挑むことにしたようだ。
(それにしてもボール系の軌道を変えるだけとはいえ、魔法を変化させられるとは予想外だったな…
もし威力も自在に変えられるようならレイラもちょっと危ないかもな。さて、次はエリーゼと同郷のルイスだが果たして腕前はどうかな?)
出来る人があまりいないとされる魔法変化の技術を持つエリーゼに驚くユリスは、共に行動してきたであろうルイスの腕は如何程かと期待を膨らませるのであった。
―サミュvsルイス―
「『風纏い』〜」
近接タイプ同士の試合という事もあり、開始と同時にサミュが近づいてから両者一歩も引かない接近戦の様相を見せる。
サミュは風属性の蹴撃ということで全体的に速度が速い。対するルイスは背中に剣を背負ってはいるが、使用しているのは大盾に短槍と完全に防御重視である。
そのため、ルイスがサミュの速さに対応できるかが勝負の鍵となっているのだが…
「えい〜!
ん〜なかなか通りませんね〜?」
「……なるほどな」
ルイスはサミュの攻撃を完全に防ぎ切っていた。それどころか相手の動きを観察する余裕もあるようだ。
「フッ!」
「…あれれ〜?」
なんとか防御を突破しようと激しく攻勢をかけるサミュであるが、ある程度攻撃したところで急にサミュの勢いが弱くなる。
どうやら今まで正面から防いでいたルイスが受け流し始めたようだ。しかも、それによって作った隙を的確に突いて反撃に転じている。
それはまるで相手の動きを完全に見切ったと言わんばかりの動きだった。
「これはぁ〜ちょっとまずいですかね〜?
『旋風脚』〜」
「………」
困惑するサミュに対して相変わらずルイスは黙ったままである。普段の快活な雰囲気とは正反対に戦闘中は感情を表に出さずに淡々と攻めている。
突破口を探ろうと纏った風を追撃として叩きつけるアーツを発動するも捌かれる。やがてこのままでは何も出来ずに終わると悟ったサミュの目が少し鋭くなった。
「仕方ないですねぇ〜」
「…何だと?」
急に変化したサミュの動きにルイスは思わず疑問の声をあげる。なぜならサミュが背を向けてステージの端へ逃げ始めたからだ。ルイスは追いかけようとしたが、一瞬迷ってしまったことで取り逃がしてしまう。
「それじゃあ、反撃開始〜!
『裂震脚』〜」
すると、その間伸びした声からは想像つかない程の猛スピードで反転し、踵落としを繰り出す。
先程よりも明らかに速く重くなっている蹴りに対し、追撃のために槍を構えていたルイスは防御が間に合わない。
「ぐっ!」
「きゃっ!」
だが、直撃をくらいながらもカウンター気味に薙ぎ払いを当てていたようで、両者が吹っ飛ぶという結果になった。
サミュが使ったのは『脱兎の逆襲』というユニークスキルで、【AGI】3ランク上昇と、自身より【AGI】が低い相手に対しては攻撃の威力が【AGI】依存になるというバフを自分にかけるスキルである。
発動条件は敵に背を向けて連続して5歩以上逃げる事。
「チッ…バフ系のスキルか。
見えないって事はかなりAGIが上がってんな。ダメージ量からしてSTRもか?
厄介だな…!」
「反応されるとは思いませんでしたよ〜
見えてないとか嘘でしょ〜?
…もう玉砕覚悟で行きますかぁ〜!」
これ以上の隠し球はないのか、はたまた無駄に手の内を晒したくないのかは分からないが、サミュの方は若干やけくそ気味に普通の蹴りを繰り出していく。
ルイスは反射で防御しているのか時折直撃をもらっている上、受け流すことまでは出来ていないので盾のガードの上からもダメージを蓄積させている。
両者一歩も下がらず、戦いは激しさを増していく最中、防御が成功したタイミングで短槍による反撃をしていたルイスが、速い攻防の最中でタイミングをミスったのかサミュに腕を蹴り上げられて短槍を弾き飛ばされてしまう。
すかさず盾で殴りにかかるが、それもサミュの回し蹴りによって外側へ逸らされて…
(ああ、それは悪手だな……サミュ)
…直後に頭上から剣が振り下ろされ、サミュは光となって消えていった。
(確かに途中からサミュの速度はかなり上がってはいたが反応は出来ていた。それを考えると初めの方はルイスの動きが妙にぎこちなかったように思えるな。
あれだけ受け流しが安定するなら初撃からでも出来そうなものだが…
さてはあいつ盾の扱いにまだ慣れてないな?)
「むー…あれだけのスピードに対応出来る上に固いとなると、打つ手無しでしょうか…」
「まあ、アーリア戦で使った背後からの遠隔発動を近接攻撃に織り交ぜることが出来れば勝機もあるとは思うけどね。
今までの防御メインの戦術は通じないと思っておいた方がいいかな」
「やはりそうですか…」
「それか実技試験で使ってたスキルを使えば威力によってはもしかしたらって感じかな…
まあ詳しい性能を知らないから確証はないけど」
「思っていたよりも勝てる可能性がありますね?」
「ちなみに今言ったことはあいつが盾を使うこと前提だから剣を使い始めたら多分どれも厳しいだろうね」
「そんな…諦めるしかないのでしょうか…?
というか咄嗟に使った様にしか見えなかったのですが剣の方が強いのですね」
ユリスの言葉に一喜一憂しながら、レイラはこの後の戦いに向けて対策を練っていくのであった。
―第1試合結果―
勝者:エリーゼ、ルイス、レイラ
敗者:アーリア、カミラ、サミュ




