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35話 再会

試練の内容が判明してから4日後、つまり入学式の前日だが、その日に残りの寮生6人が一気にやってきた。


「まさか僕以外全員が入学式前日に入寮とは」

「そうだねー

 もっと余裕を持って動いた方が学園の評価はいいんだけどね。

 貴族は家の用事がある子も多いし、平民はせっかくの王都だから出来るだけ楽しんでから来たいしで入寮が遅くなる子が多いみたいだね」

「王都だからってそんなに遊べるようなところあった?僕は2日で充分だったよ」

「ユーくんはその辺の感覚も特殊だよね。

 今までダンジョン暮らしだったのに王都どころか王城でもすぐに馴染んじゃうし」


(いやこのくらいのレベルなら…ってそれは前世か。

 あー…ならこの世界の平民の感覚が分からないのも仕方ないな)


「まあ、師匠の家にいたから色々と感覚がズレた可能性は十分にある。

 それはさておき、挨拶とかはしておいた方がいいかな…?

 んー…とりあえず食堂で夕飯を食べて会わなかったら別にいいか。どうせ明日には会うだろうし」

「そうだね、じゃあ今日は共用のキッチンで作ろうか」

「うん、お願いするよ」


結局挨拶するかどうかは運に任せることにしたようだ。

これから夕食なのでユリスの幸運がどう働くかはすぐに身をもって知ることになるだろう。


「あっ、ユリスさん。お久しぶり…です」

「レイラ?うん、久しぶり」

「ユーくん、早速会ったね。

 それじゃあご飯作ってくるから頑張ってね〜

 あ、レイラちゃんだっけ?君も食べる?」

「え?あ、はい。

 でしたらいただけますか?夕飯はまだ用意できてなくて」


(いや頑張るって何をだ。

 にしても6人いる中でいきなり知り合いに会うとは)


「あの女性って迎えに来ていた方ですよね。

 推薦者と言っていたような気がしますが使用人だったのですか?」

「そっちか。

 いや、本来は使用人じゃないんだけど使用人になってまでついて来たがってね。元々他に候補もいなかったし、まあ良いかなと連れて来た感じだね」

「そうなのですか…

 それで、そっちということは他に何かあったのですか?」

「ああ、明らかに生徒以外を連れているし第1種かを聞かれると思っていたからね」

「そういうことですか。

 入寮時に第1種の方がいることは知らされていましたし、実技のアレを見ていれば大体予想できますよ」


学園長から説明を受けた時から、レイラの中では第1種の特待生はユリスで確定していたそうだ。

父親から婚約の話をされたレイラにとっては、そんなことよりもお相手のそばに若い女性がいることの方が重要だったようだ。


「ご飯できたよー

 はい、レイラちゃんも」

「ありがと」

「私までこんな手の込んだ料理を…

 ありがとうございます」

「いいよいいよ、1人分増えるくらいなら大した手間でもないからね」

「では、いただきますね。

 ……!?美味しい…こんなの初めてです」


(ああ、そういえばシエラの料理って王都基準だと最高レベルだったな。そのこと言うの忘れてた)


「確かに、シエラの料理は王都では勝てる店がほとんどないくらいに美味しいからね。

 これに慣れると大体の店で食べても満足出来なくなるから、少し注意が必要だよ」

「あら、そんなに褒めてくれるなんて嬉しいわね」


2人が料理について話しているがレイラは気づいていない。彼女は話すことも忘れて目の前の料理に集中してしまっている。


「申し訳ありません…

 せっかくお話をして頂いていたのに」

「ああ、別に気にしないでいいよ。大した話もしてないし」

「そうそう、それくらい気にしないよ。

 気に入ってくれたみたいで嬉しいしね」

「お二人ともありがとうございます。

 そういえば自己紹介がまだだったような気がしますので、改めて。

 レイラ・フォーグランドと申します。

 第2種特待生で入学いたしますのでよろしくお願いしますね」

「うん、宜しく。じゃあこっちも改めて。

 僕はユリス。第1種で入学するよ」

「宜しくね。私はシエラ・ヴェルモットよ。

 まあ、ここにいる間はユーくんの使用人として振る舞うつもりだから家名は特に気にしなくて良いわよ。

 それで、ユーくんの未来の側室候補ね♪」


シエラの爆弾発言にレイラの思考は固まる。肝心のユリスも黙ったままである。


「………」

「あれ?

 大体いつもここで否定が入るんだけど…ユーくん?」

「ああ、まあなんというか…

 否定ができる状態じゃなくなったというか…」

「「えっ、そうなの(ですか)!?」」

「いや、何であなたが驚いているのですか?」

「だって、ユーくんには今までずっと躱され続けて来たし、特に誰からもそんな話はされていないし…」



ユリスの発言はレイラだけでなく、王城での暮らしの中で冗談の様に発言しては毎回否定されていたシエラにとっても衝撃的な内容だったようだ。


「まあ詳しくは言えないけど、僕がとてもお世話になっているとある方々のせいというか…

 なんか、いつの間にかシエラの実家の方に話をしていたようで、入寮する少し前にご両親から婚約打診の手紙が来たんだ……何故か側室限定で。

 そのとある方々全員からも薦められてるし、僕としても嫌だから否定してたわけじゃないし、候補と言われるともう否定ができないんだよね…みんな何故か側室推しだけど」

「えっ、みんなして私の知らないとこで何してるのよ…

 お父さんもお母さんもこの前来た手紙には何も書いてなかったのに」


どうやらシャルティアがメインで色々と動いていたようで、ユリスがシエラの同行を認めた理由にはこれもあったのだろう。

シエラはユリスの側室という理想が叶いそうなため、隠れてことを進めていた人達へ文句を言いながらも顔のにやけが隠せていない。

一方で、衝撃の事実を再会していきなり告げられたレイラはまだ考える時間があると思っていたがためにかなり焦っていた。


「せ、正室は決まっているのですか!?」

「え、いや全く。

 そっちは打診も来てないから候補すらいないよ。というか何で貴族でもないのに一足飛びに側室の打診がくるのやら…」

「そう…ですか。

 ……実は、私の家から王城経由でユリスさんに婚約の打診をするという話があったのですが、受けても良いかなと思っていたのです。

 なので、私が初めの正室候補になりますね」

「はい…?」

「あら♪」

「今後は私も出来るだけ一緒に行動しますから、宜しくお願いしますね」


レイラはシエラの件を受けて時間的な余裕はもうないと悟ったのか、ゆっくり考えるという当初の予定をひっくり返してこの場の勢いのまま即断してしまった。

元々断る理由はなく、何となく婚約はまだ早い気がして先延ばしにしていただけなのだ。その先延ばしができなくなったのであれば婚約者になる決断を下したのも当然の帰結といえる。いささか思い切りが良すぎる気はするが。

衝撃の展開の連続で全員頭がうまく働かなくなったのか今日はこの辺りでお開きとなり、それぞれが自分の部屋へ帰っていった。



翌朝の入学式当日…

入学式の時間ギリギリに起きたユリスは慌てて支度をして部屋を出る。普段であれば起こしてくれるはずのシエラも何処かに行っているようで出発までに会うことはなかった。

バタバタと入口までやってくると同じ境遇であろう男子生徒と遭遇。不安要素であった男子唯一同居人とこんな形で会う事になろうとは思ってもみない2人であったがとにかく時間がない。どちらともなく頷き合うと並走して会場まで向かう事に。


「そっちも寝坊か?」

「うん、考え事をしていたら寝るのが遅くなってね。

 …ん?そういえばどこかで…?

 ああ、タルミからの馬車で一緒だったっけ?」

「え?…狐ってことはもしかして、お前ユリスか!?」

「そうだよ。そういう君はルイスだったかな?」

「ああ、そうだ。あの時は学園に行く気がなかったように見えたんだがな。

 というか色違くね?」

「まあ、色々あったんだよ。元々興味はあったし。

 毛色は偽装。そういうスキルがあってね」

「そうか、まあそれはいいや。にしてもあそこで会ったってことは、もう1人の男子生徒ってお前か!

 学園長からの説明中とか周り全員女子でマジで気まずかったから唯一の男子が知り合いでよかったぜ」

「それはこっちのセリフだよ。

 なかなか来ない唯一の男子が碌でもないやつだったらどうしようと少し不安だったからね。ひとまず安心かな」

「ははっ、まあ今後も宜しくな!」

「うん、宜しくね」


ちなみに2人とも走りながら会話をしている。

走った甲斐あって何とか時間前にアリーナに到着出来たようだ。入口に案内係と書かれた腕章をしている人がいたので説明を聞き、アリーナの中へと入っていく。


「席は自由みたいだ。適当に座るか」

「そうだな、あまり移動するのも面倒だしここにしようぜ」


席が自由だった事もあり、わざわざ別れる事もないだろうとそのまま一緒に行動することになる。


「そういえば、あの時一緒にいた他の女の子たちはどうだったの?」

「ああ?エリーゼとメリアのことか?

 メリアはあの後から会ってないし知らんが、エリーゼは同じ寮にいるぜ」

「へえ、2人とも特待生になったのか。やるじゃないか」

「まあな!だがそれはお前もだろ?」

「ふふっ、違いない」


元々面識があり、寮内での唯一の同性ということもあってか2人はすぐに軽口を言い合えるほど打ち解ける。

とりとめのない話をしていると入学式の時間になったのかステージの端に進行係の教師が出てくる。


「それではこれから入学式を始めます。

 まず初めに学園長からの挨拶です」


そこからは、学園長であるセルフィや来賓となるディラン殿下の祝辞などがあり順調に進んでいく。


(やっぱ、こういう式は退屈だな。

 次は…生徒会長の祝辞か。というかその辺の確認をしていなかったが会長って王族だったのか)


生徒会長の挨拶としてステージに上がってきた人間が自己紹介をして初めて、会長が第3王女のソフィア・フォート・セラーティであることを知るユリス。

遠目だったため容姿については水色のロングヘアをポニーテールにしていたことくらいしか分からなかったが、見惚れている生徒が多い事から優れた容姿をしているのだろう。

明らかに今までとは違う盛大な拍手を受けて生徒会長の挨拶が終わると、進行係の教師から各クラスで指定の場所に移動して説明を受けるよう指示がなされる。

どうやら特待クラスの上位の方は1組、下位が2組と呼ばれているようで、このまま各組に分かれて特待生用のアリーナに移動するよう指示があった。


「特待生用の第1アリーナに行けば良いみたいだね」

「そうだな。ならさっさと行くか!」


これ以上留まる理由もないのでさっさと2人で第1アリーナに向かう事にする。

結構早めに着いたようで、そこには教師が待機しているだけだったが、すぐに残りの5人が一緒にやってくる。

図らずも寮の男女で分かれて行動していたようだ。


「どうやら揃ったみたいだね。今年の1年は真面目そうでよかったよ。これなら予定通りに進められる」


時々、特待生なのだからと初めから好き勝手振る舞って授業を全く受けようとしない生徒がいるそうで、今年の生徒はその問題が無さそうだと教師は安心した様子だった。


「まずはアタシの紹介からだね。

 アタシの名前はミランダ・カルナックだ。

 戦闘は近接の魔法戦闘をメインにしているけど、遠距離の魔法も使うから一応どちらも教えることは出来るよ。

 さて、次にお前たちがどういう立場にいるかってのを説明しておこうか」


そこからの説明は特待生制度の注意事項についてだった。

各種の定員数は1種5人、2種15人、3種30人となっているが、1種と2種で枠が埋まることはほぼない。

ただし、3種は常に枠の最大数まで埋まるようになっており、毎年末の成績下位数人で交換がある。

昇進や降格の条件は第1種は言わずもがなで、2種までは日頃の態度や成績次第となる。

この場にいる人は全員満たしているので今の所関係はないが、2種になるには文武両道かつ日頃の授業態度などに問題がないことが条件のようだ。

滅多にないが年末に2種から3種へ降格する可能性もあるので努力は怠らないようにとのこと。

ちなみに第1種であるユリスは授業の邪魔さえしなければ好きにしろと投げやりなお言葉をもらった。出席したからには他と同等に扱うとの言と一緒に。


「まあそんなところだ。

 さて、めんどくさい説明は終わりにしてさっさとダンジョン広場に向かうよ。

 本来ならオリエンテーションとしてお試しのペアで潜ってもらうんだが7人か…」


ミランダは移動しながらどういう班分けにしようか少し悩んでいる。


「この装置が生成ダンジョンを作るダンジョン制御機構とダンジョン構築盤さ。

 とりあえずはさっき言った通りペアを組んでもらうが、奇数だからねぇ…グレイズ、フロウル、ルッツは3人で行くように。

 他は…同種族だし、ユリスとフォーグランド、ルイスとエリーゼで潜ってくれ。くれぐれも変なことはするんじゃないよ?」


結果として知り合い同士で組むことになったため、連携などの問題はなさそうだ。

…そう、普段通りなら。


(レイラとか…昨日のことがあるし少し気まずい。

 でもちゃんと話をしておかなくてはいけない事だし、丁度いい機会だと思っておくか)


昨日の発言から一度も会話をしていないために不安は残る。が、ダンジョンの難易度も大したことはないだろうし、2人になれるこの機会に話をつけてしまおうと決心したユリスは早速彼女の元へ歩みを進めるのであった。


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