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34話 神の試練

「シエラ、これ何か知ってる?」

「何だろうね?魔道具っぽいっていうのは分かるけど」

「貴方達ね…

 そもそも何でこんな早くから来ているのよ…?

 出発は昼過ぎなんだけど」


入寮してから5日後の朝、ユリスは早くから学園長室で出発までの時間を過ごしていた。

アリーナなどを使用できるか確認しに行ったが全て予約が埋まっており、図書館も王城より充実してはいたが題名に興味を惹かれるものが見当たらないなど、結局は王城にいた時と変わらない日々を過ごすことになっていたのだ。他の入寮者もまだ来ていないため有体にいって暇なのである。

なので出発の時間を聞き忘れていたというもっともらしい言い分を携えて珍しい物がありそうな学園長室で暇を潰しているというわけだ。

その辺のことがわかっているのか、ただユリスの機嫌を損ねないように気を遣っているのかは分からないが、セルフィは文句を言いつつも2人を追い出そうとはしない。


「出発の時間が分からなかったものですから。

 戻ってもまた来ることになりますし、いいじゃないですか。

 多めに作って来たので学園長の分のお昼ご飯もありますよ」

「…まあ、いいわ。

 私も今日はそんなに仕事を入れてないし、ゆっくりして行きなさい」


文句を言うセルフィをシエラが説得しにかかると昼食に釣られたのかあっさりと陥落した。

学園の説明や雑談をしながら出発までの時間を過ごし、時間になったところで校門に行くと豪華な馬車が停まっていた。


(え?これに乗っていくの?別に王城まで歩きでいいんだけど)


ユリスはそう思うが、残りの2人は当たり前であるかのごとく馬車へ乗り込んでいったため仕方なく後に続く。

王城に到着すると試練の担当なのか宰相のレイトが3人を迎える。


「ようこそいらっしゃいました。

 試練の前に儀式用の服装へ着替えてもらいますので、お手数ですが皆さんで一旦控室への移動をお願いします。

 場所についてはこちらのメイドについて行ってください」

「分かったわ。それじゃあ行きましょうか」

「はい」


控室で用意されていた服に着替えを始めようとラックにかかっているものを見てユリスが数瞬固まる。デザインがどうみても和服なのだ。


(なぜ和服…?ぱっと見は着流しなのかな。

 確か略式の服装だったような記憶があるんだが、これが正装なのか?)


「この服は初代国王の使っていた装備のレプリカなのだそうよ。

 ちょっと着慣れないかもしれないけど手伝ってもらいながらで良いからしっかり着るようにね」


セルフィの言葉でなぜこの服が試練の正装として扱われているのかを知る。

ちなみに、女性の場合は使徒の着ていた神官服(後で見せてもらったら緋色袴の巫女装束だった)が正装のようだ。

着替えとシエラによる身だしなみチェックが終わったところでレイトから声がかかる。


「それでは今から試練の間にご案内しますので私について来ていただけますでしょうか。

 また、ここからは付き添いの方々はご遠慮願います」

「分かったわ。ユリスくん頑張ってね」

「ユーくん、行ってらっしゃーい」


レイトの後について行くと内宮の何の変哲もない一室に到着する。何故こんな部屋に?と疑問に思うユリスを気にも留めないレイトは徐に部屋の壁に手を触れる。すると壁が幻のように揺らいで消え、階段が現れたではないか。どうやら試練の間は隠し階段を降りた地下にあるようだ。


「下に降りたら部屋の中央に世界神の立像がございますので、そちらの前でお祈りください。

 また、祈る際には王族の一員となることを願ってください。それを忘れますと試練が始まりませんのでお気をつけください」

「わかりました」


階段を降り、試練の間へ入っていく。

そこは円形の部屋で外周に水場があり、その内側に4つの柱が立像を取り囲むように配置されていた。

立像の目の前に行くまでもなく、入るなりどこからともなくヴェルサロアの声が聞こえてくる。


『ようやくここまで来たようね。

 最近は神殿の方にも来ないし、暇だったわ』

『いきなりな上に第一声がそれか…一応儀式なんだからもうちょっとこう手順とか威厳とか…ああやっぱいいや。期待するだけ無駄だな。

 それで、試練って何をすればいいんだ?』

『ちょっと、私には威厳は出せないって言いたいの?これでも普段はちゃんとしてるんだからね!

 こほん、いきなり試練の話っていうのも味気ないし、その前に伝えておくことがあるから、そっちを先に済ますわね』

『…まあいいさ。もう慣れてるし…

 で、伝えておくことって?』

『世界の存続のために手伝いをしてもらうって言ったじゃない?そろそろ始めてもらおうかと思ってね。

 でもどんな問題を解決して欲しいのか、いちいち私に聞かないと分からないのも面倒だしどうかと思うのよ。

 そういう訳で貴方の祝福を少し弄ってステータスにクエストって項目が出るようにしたわ。それを鑑定で見ると依頼のリストが出てくるようにしたから確認して貰えるかしら?』

『遂にきたか…』

『あなたの手伝いが必要な問題は色々あるけど、存続に直結するような緊急度が高いやつは赤く見えるようにしてあるから参考にして頂戴』

『分かった。後で見ておくよ』

『そうして頂戴。

 直近で言うと鉱石の高騰の原因でもあるヨシュア・ベルクトから何とかして当主としての権力を奪うのが依頼ね』

『ここでもベルクトなのか…よっぽどの問題なんだな』

『まあ、普通に犯罪者だしね。他にも色々と問題を抱えてるし。

 でも、誰かさんが作ったユニークスキルのおかげで、証拠を隠蔽できちゃってるからなかなか捕まらないのよね』

『………そうか。

 なら早めに何とかしよう』

『あ、でも前に約束したことはちゃんと守りなさいよ?』

『ああ、もちろん覚えてるよ。よっぽどの事態にならない限りちゃんと守るさ』


ヴェルサロアからのまさかの発言で、ベルクトの問題が間接的には前世の悠久のせいだと発覚する。

どれかは分からないが、なんとなく作ったスキルが悪人の手に渡ってしまい、それを悪用されている。そんな事実に責任を感じたユリスはこの問題に対して積極的に動くことに決めるのであった。


『ならいいわ…しておきたかった話はそれくらいね。

 それじゃあお待ちかねの試練についてだけど、貴方の場合はー…今王国で確認できている神造ダンジョン全ての攻略と新しいダンジョンの発見…かしらね?』

『全攻略はともかく新しいダンジョンか…

 それって鋼樹の森じゃダメなのか?』

『ええ、あれは実質的にはサラが見つけたものってことになっているからね。

 まあ、辺境を越えなくてもまだまだ沢山有るし楽勝よ。

 おすすめは南ね。一般食材の魚介類はシャトル領のダンジョンから少量取れるけど、魔物の海産物ってまだ出回ってないからね。

 後は南西の方かしらね、そっちは野菜関係だから。それと…―』


一時期ユリスが食に不満を持っていたのがしっかりとバレているのか、ヴェルサロアが薦めて来たのはどれもこれも食材ダンジョンだった。

それにしても試練なのにヒントを与えてもいいのだろうかとユリスは若干呆れ気味である。


『分かったよ。

 まあ、しばらくは学園にいるから試練に挑戦するとしても長期休みか卒業後だな』

『私としては問題が起こった時に対応してくれるなら何でもいいわ。

 ただ、王族になったときは隠し要素が一部明かされることになるから頑張んなさい』


そう言ったのを最後にサラとの通信は切れてしまった。


(くっ…最後の最後で地味に気になることを…!

 まあ、王族は目指すつもりだから後々の楽しみにしておこう)


これで、試練の間での儀式は終了したと判断して階段を登っていく。

部屋に戻るとそこにはレイトの他にジルバも待っていた。


「お待たせしました」

「うむ。して、試練の内容は何だったのだ?」

「現在判明している神造ダンジョン全ての攻略と新ダンジョンの発見だそうです。

 その場で試練をすると思っていたのですが、違うのですね」

「ほう、それは基本的に人格などに問題がないと判断されたものの特徴だ。難があるものはその場で出来る高難度の試練を言い渡されて失敗し、不合格となることが多い。

 不合格になったら2度と挑戦できんからな」

「そうだったのですね」


(前に選定したとか言っていたがそういうことか)


「だが、そうなるとユリスの場合は国内のダンジョンを攻略するだけでいいのか。

 時間はどれだけかかるか分からんが、ユリスなら確実にクリアできそうだし記録に残る試練の内容と比較しても随分と低い難易度だな」

「ああいえ、どうやら鋼樹の森は師匠が見つけたことになっているようでして、他に新しいものを見つける必要があるそうです」

「何?そうなのか。

 なら、今までと同じかそれ以上の難易度になるか」


実際はヒントを貰っているので大して難しくもない試練内容である。


「ああそうだ。試練の内容はあまり言いふらさないようにするのだぞ。

 近しい者数人や王族などには話しても大丈夫だが、前に大人数に公表して試練の内容は達成したのに不合格になったものがいるからな」

「はい、わかりました。

 まあ、話すのはシエラくらいにしておきます。

 なんか旅にもついて来そうな感じですし…」

「はっはっは!

 そうだな、そうするといい」


話はもう終わりという事でレイトが控室までの先導をする。

部屋に戻ったところで着替えてから学園に戻り、今回の行事は終了となるようだ。

服に関してはユリスのサイズに合わせた特注品だったようでもらうことができた。その場で確認を取ったら特にデザインの独占などはしていないようで、全く同じでなければ同様の服は好きに作っていいし、なんなら売ってもいいとのお墨付きを得た。


(なら、部屋着用に甚平とかでも作ってもらおうかな…

 あれ結構楽なんだよな。シエラに相談してみようかな?)


部屋着として楽なものが欲しかったので丁度いいし、王城で正装としても採用されている和服なら周りから何も言われないだろうと、ユリスは帰りの馬車の中で画策しているのであった。


「さて、学園に戻って来たわけだけど…

 ユリスくん、試練のことは自分の部屋以外では口にしないように。これは学園の規則で決めていることよ。

 内容は私とか教師たちには教えなくていいわ。その代わりに協力もできないけど。

 まあ正直に言ってそもそも手伝う余裕もないからね」

「わかりました。

 今日はありがとうございました」

「ええ、また暇な時間が続くと思うけど変なことはしないようにね」


セルフィは朝の光景が頭に過ぎったのだろう。しっかりと釘を刺してから去っていき、残された2人は大人しく寮へ帰って行った。

部屋に着くとシエラが夕飯の支度すると言って離れていったのを確認してから、ユリスはステータスの確認をする。

すると祝福の中にクエストという項目が増えていたのでそれを鑑定すると一覧が表示された。

―――

【クエスト】

・ヨシュア・ベルクトを失脚させて!

・鉱石の価格正常化

・王都の料理事情をなんとかしよう

・王族になろう

・神造ダンジョンの発見に向けて

・サラへの風評被害

・噂の狂信者集団

・天然ダンジョンの原因調査

………

―――


(随分とまあ、色々と用意したものだ…今緊急なのはベルクトと鉱石か。

 緊急度順で並んでるっぽいのに王族になることより料理事情の方が上にあるって…)


―――

【クエスト名】ヨシュア・ベルクトを失脚させて!

【詳細】

王国の侯爵家当主のヨシュア・ベルクトはいろんな犯罪を犯しているのに、ユニークスキルによってそれらを全て隠蔽しているわ。

王国で問題となっている鉱石の高騰もこいつの仕業なんだけど、ベルクト領民をおおっぴらに虐げている訳ではないし、王国法のおかげで王族でもそう簡単には貴族位の剥奪は出来ない。他の貴族も下手に刺激して自領への鉱石供給停止の口実を与えたく無いとして誰も手出しが出来ない状態なの。

このままだと王国騎士団の装備も整備できなくなって、スタンピードに対応できなくなるわ!

とある人物が失脚させようと陰で動いているみたいだけど、成功するかは分からないわ。協力するのか別口から切り込むのかは任せるけど、こいつを失脚させるように動いて頂戴!

―――


(ざっと見た感じだといかにもサブクエっぽいのも混ざっているし、ますますゲームっぽい…報酬が無さそうなのはいまいちやる気が出ないが。

 にしても、ベルクト失脚の件で他にも動いているやつがいるのか?そいつを手伝うって展開が一番楽なんだが誰なのかは詳しく書いてないしな…

 まあとりあえずは情報収集からだし今はこっちだな)


クエストの件については方針だけ決めて一旦置いておくことにしたようだ。

早速思い出した甚平のデザインを描き、シエラに似たような服が一般で売られていないことを確認する。


「へー、これって王城で着てたのとちょっと似てるけど結構楽そうね。

 あれって儀式用の正装って事で格式はあるみたいだけど、貴族向けの店でも売られてるのは見たことないのよね。あまり知名度はないから公式の場では着られないかな?

 まあでも、寮内の部屋着にするくらいなら問題ないんじゃないかな」

「おっ、ならこれを作ってくれるとこって知らない?」

「うーん…まあ、テイラーのところなら大丈夫でしょ。

 持っていって依頼すればいいの?」

「うん、でも時間があるときでいいよ。

 素材に関してはよく知らないから特に指定しないけど、肌触りと通気性を優先でよろしく」

「ん、分かったわ。

 楽そうだし、少し女物風に変えて私も作ってもらおうかしら…?

 あ、デザインの所有権はどうするの?」

「うーん、似たようなのをまた考えるかもしれないから一応持っておこうか。レイトさんも全く同じでなければ好きにしていいって言ってたし。

 もしあの店で一般販売するとかになったなら、デザインの使用料とかはシエラの好きにしていいよ。半分は手間賃としてあげる。

 あ、別にアレンジは自由にしてもいいよ。まあ、そんなには売れないと思うけど」

「りょうかーい。

 多分デザインはテイラーが欲しがると思うからそう伝えておくわね。それじゃあ明日にでも行ってくるから、追加があったら朝には頂戴ね」


どうやらテイラーは店員ではなく店長兼職人だったようで、関係者であるシエラの依頼なら簡単に通るそうだ。

そうして描かれた甚平のデザイン画をきっかけとして多くのアレンジ和服が生まれ、王都のとある場所で熱狂的な和服ブームが巻き起こる事になるのだが、この時の2人には知る由もなかった。


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