33話 入寮
別サイトの投稿予約のミスでこちらが先行でなくなってしまったので連続投稿。
今話から第2章となります。
また、前話の後書きでもお知らせしましたが、もうしばらく毎日投稿が続きます。この章は早く書いて投稿したくなってしまったので…
学園の入学試験を受けてから1ヶ月の間、ユリスは再び王城での日々を過ごしていた。
最初の方は魔導パズルのバリエーションを増やしたりシエラに魔導陣を教えたりしていたが、ディランの検証が始まってからは鑑定の使い方を教えてくれと頼み込んできた彼への教導が増えていった。
シャルティアも時折やって来るが、大体がシエラとの進展やいつの間にか伝わっていたレイラについての話をしているだけである。もっとも、逃してはもらえないのでシャルティアが来たら1日潰れる事が確定するのだが。
そんな充実?した日々を送っていたらいつの間にか試験結果発表日になっていたのだ。
もう隠さなくても良いからという理由で王城からの出発を許されたユリスは1人で学園へ向かう。
一般受験生もいるのだろう。学園までの道は同年代の子供で溢れかえっており、学園に着く前から既に長蛇の列が出来ていた。流れに従ってようやく合格発表者が貼り出されている場所まで辿り着くと、そこはさらに混沌としていた。
合格に喜ぶ者、不合格に打ちひしがれる者、何かの間違いだと喚き立てる者、様々な人がおり、皆その場を動こうとしないため案内係の人達が大声で移動を促し続けている。
(僕の番号はあるかなっと…あ、あった。
ふーん、ここは特待生の場所なのか)
色々とやった自覚があった上に、王城でも間違いなしと散々言われていたため大して驚きもしなかった。
さっさとこの混沌とした場を離れるために列に並んでいる時に見つけていた入寮手続きの受付所に向かって行く。
「すいません、入寮手続きをしたいのですが」
「おっ、合格していたのかい。おめでとう。
それじゃあ受験票を渡してもらえるかな…えっ、ああ、君がそうなのか」
「ん?僕に何かあるんですか?」
「ああ、あそこでは特待生っていうことしか分からないからね。
騒ぎになるからあまり大きな声では言えないけど、第2種以上は寮が専用のものになるんだ。しかも第1種はそこで複数部屋が与えられる。
使用するかは自由だけどね」
(なるほど…
遠回しに第1種だって教えてくれているのか。
気を遣ってもらえるのはありがたいな)
「そういう事ですか。教えて頂きありがとうございます。それで、手続きは何をするんですか?」
「特別なことはしないさ。
入学の意思があるかの最終確認と入寮日の確認だね。
後、ここで学園の基本的な規則が書かれた書類なども渡しているから入寮までに確認しておいてくれるかな。
それと入学式が2週間後にあるから入寮はそれまでに頼むよ」
「分かりました。
そうですね…でしたら入寮日は3日後でお願いします」
(報告もする必要があるし、準備なんかも含めてそのくらいで良いだろう)
「分かった。なら3〜5日としておこう。
何かあった時のために少し幅を持たせておくけど、出来るだけ予定通りに来ておくように。
さて、手続きはこれで終わりだ」
日にちの確認は入寮確認の手間を減らすためにおこなっているものなので、ある程度の幅があっても大丈夫らしい。
スムーズに手続きが終わったため、何か想定外の問題が起きる前にさっさと王城へ戻る事にする。
「おかえりなさい。
それで入寮はいつにしたんだい?」
シエラと合流し、部屋へ戻るとディランとシャルティアが待っていた。
入寮日が3日後であることや第1種の特待生であったことを伝えると、まあ当然だという反応が返ってきただけで話は論述の内容に移っていく。
「出来るようになったとはいえ鑑定の技能習得にあれだけ苦戦するとはね。普段から魔導陣を多用してなかったらもっと大変だっただろうな。
そうそう、おかげで紋章効果についても確認が取れたから今回の内容を論文として発表する事になったんだ」
「論文ですか?
僕は学園に行きますし書くことはできませんよ?」
「ああ、君の名前で出すと面倒な事になるからね。
私が書いて、ユリスくんは検証の協力者として共著で発表する事になる。他にも数人協力者を用意したからそこまで目立たないだろう。
それと、発表の前にこの情報を近衛騎士と一部の貴族には伝えたいんだけど良いかい?」
「ええ、論文も含めて構いませんけど…貴族もですか?」
近衛騎士の方は王族の安全性も考えて覚えさせておきたいというのはわかるが、あまり良いイメージのない貴族にも教えるというのが気になったようだ。
「ああ。
といっても、信頼のできるフォーグランドとリンドバルの当主だけだよ。
フォーグランドには王家がこれまで鑑定を依頼していたし、学園長もこの間の一件があるからね。
この2家には早めに習得しておいてほしいのさ。論文の発表は早くても来年になるからね」
「分かりました。
まあお世話になっていますし、ディラン殿下が必要だと仰るなら反対はしませんよ」
「ありがとう。
そういえば、第1種になったなら寮に使用人が連れて行けるはずだけどどうするんだい?もし必要ならこちらで用意するよ?」
使用人の話になった途端、シエラが存在をアピールしてくる。どうやら寮にまでついて来たいようだ。
「ユーくん、私もついて行きたいなー」
ついには直接おねだりをし始める。
「いや、シエラはシャルティア様の近衛騎士なんじゃ…」
「あら、私は良いわよ?
フィリスとマリーもいるし滅多に王城から出ないからそうそう問題も起こらないしね。
それにカレンの将来のためにもう1人か2人くらい採用しておこうかと思っていたからちょうど良いわ。
だから…ね?」
シャルティアの援護が即座に入り、趨勢がシエラに傾く。
「えっ…あっ、はい…まあいいか」
「やった♪私も後で準備しておかなきゃ」
そもそも使用人を連れて行くつもりはなかったユリスだが、これまでの生活でシエラがいる状態に慣れてしまっていたために職務以外で断る理由が見つからなかった。
それとは別にシエラを側に置く事を簡単に認めた理由もあるのだが……
ユリス本人の許可を貰い、今後もユリスのお世話をする生活が続いて行くことに歓喜するシエラはそんな事には頭が回っていないのであった。
そして入寮日当日…
シエラと共に学園への道を歩いて行くと、校門のところで見覚えのある女性が待っているのを発見する。
どうやらセルフィが待ち構えていたようで到着と同時に声をかけられる。
「学園長、おはようございます」
「ええ、おはよう。
それで…まさかとは思うけど貴女が使用人なのかしら、シエラさん?」
「ええ、そうですよ。
これから6年間宜しくお願いしますね」
「そうなのね、宜しく。
…これは予想してなかったわ」
どうやら学園長はシエラのことも知っているようで、使用人の格好をしているのを見て驚いている。
王族の庇護下にある生徒とはいえ、まさか王妃の近衛騎士が使用人としてついてくるとは思わないだろう。
「それじゃあ寮に案内するわ。
ついでに学園の施設も説明していくからついて来て頂戴」
先導するセルフィの後ろを2人はついて行く。
ある程度歩いたところで、ユリスに対してなのだろう説明が始まる。
「あれが一般生徒の通う校舎になるわ。
ただ、特待生は校舎が違うからほとんど足を踏み入れることはないでしょうけどね。
唯一共同で使うダンジョンも別の区画にあるから、来る可能性があるとしたら知り合いに会いに来るかイベントの時くらいかしら?」
「一般生徒とはほとんど交流が無いんですね」
「ええ、特待生であり続けるには日々の努力も必要だからね。一般の生徒との関わりあいに時間を取られたくないって子もそれなりにいるから、その要望を叶えている感じよ。
学園のイベントに参加しなくても一定の評価は得られるから、一般生徒と一切関わらなかった子も過去にはいたわ。
唯一鉢合わせる可能性が高い放課後のダンジョン探索も生産科なら必須ではないからね」
ここで一際大きな建物群が見えてくる。
実技試験で使用したアリーナなどがある区画のようだ。
「ここがさっき言ったダンジョンがある区画よ。
他にもアリーナとか共用購買や図書館、簡易神殿なんかが色々入っている特別棟がある区画だから特区なんて呼ばれていることも多いわね。
まあ、特待生の校舎や寮があるのもこの奥だからそのせいもあるかもね」
「アリーナや特別棟は共用なんですか?
話を聞く限りここにしかなさそうなんですが」
セルフィの説明から、この区画では生徒全員が頻繁に利用するであろう施設が集められているために鉢合わせの可能性が高くなるのではと疑問が生じる。
が、結果としてはアリーナのいくつかは特待生専用であり、図書館などの施設も専用の場所や担当が用意されているため、今のところダンジョン前の広場以外で両生徒間での揉め事は生じていないようだ。アイドルにファンが群がっているかような惨状は度々あるそうだが。
更に奥へ行くと、先程と比べると少し小さめだが、一般的には十分に大きいと言える校舎がそびえ立っていた。
「これが特待生用の校舎になるわ。
特待生は1種と2種の合同クラスと3種クラスの2つがあって、合わせると最大で1学年50人になるわね。
実際はそこまで多くはないけどね」
「最大300人なのにこの大きさですか…」
(そう考えると豪華すぎだろう。
前世での有名大学の館ひとつ分くらいはあるんじゃないか?)
詳しく話を聞くと、食堂や購買などの各施設を全員が一度に利用できるくらいの広さで用意したらこんなんになってしまったそうだ。
ちなみに生徒からはかなりの好評らしい。
ステータスのおかげで基本的な運動能力が高いため、広すぎて移動が大変…なんてこともないようだ。
「最後にここが貴方達の入る、通称〈特寮〉になるわ。
ちなみに一般寮は特区を挟んで反対側、その隣には貴族や商会の子供なんかの裕福な家の子達が部屋の登録料を払って利用する会員制の寮〈会寮〉があるわ。
事前の説明書にも書いてあったと思うけど学園は全寮制で普段はこの寮で暮らしてもらうわ。基本的に学園の外へ出ることは出来ないけど長期休みとか一部のイベント時は例外ね。
ちなみに、使用人であるシエラさんには適用されてないから自由に出入りしていいわよ。
その場合はこの身分証を持ち歩くようにね」
校舎の更に奥へ行くと特待生用の寮が建っていた。
外観は屋敷の様であり、6棟あるので学年ごとに分けられているのだろう。
他の寮は全て特区に隣接するように建てられているらしい。特寮は奥まった所にあるので静かではあるが、ここから特区に行くには校舎の前を突っ切らないといけないので休みの日なんかに特区へ向かう際は少し不便に感じそうだ。
「今年は1種が貴方1人、2種が6人ね。
一応この寮は1種5人、2種15人が入れるようには設計してあるから広さ的には結構余裕があるはずよ。
掃除なんかは各自に与えられている部屋は自分達でしてもらうけど、空き部屋とか共同で使用する場所は専用の管理人がいるから気にしなくていいわ。
ここから先が貴方の部屋になるわね。使用人であるシエラさんも貴方に与えられた部屋で暮らしてもらう事になるから、ちゃんと用意してあげるのよ?」
「分かりました。
ここまでのご説明ありがとうございます」
「これも仕事の内だから気にしなくていいわ。
この後は学園長室に移動して話すことがあるから、悪いんだけど荷物を置いたら入口に来てもらえるかしら。
ああ、シエラさんはどちらでも良いわよ」
何の話をするのだろうかと首を傾げながらも了承し、少し駆け足で荷物を置きに行く。シエラは早速部屋の掃除などをするそうでユリス1人で行く事になった。
そしてセルフィについて行き、特別棟にある学園長室に入っていく。
「とりあえずそこにかけて頂戴。
さて、先ずは貴方の成績についてかしらね。本来は公開しないんだけど貴方の場合は他の子とレベルが違いすぎたから特別ね。
筆記については満点で論述も検証が終わったみたいで満点。実技の方は貴方を合格の基準に入れちゃうと他の子がほぼ不合格になっちゃうから、扱いは満点で合格基準の計算からは外してもらっているわ。
そこのところは承知しておいてね」
「分かりました。
成績の公開がないとなると入学式等での代表挨拶とかもやらなくていいのでしょうか?」
(文章とかも考えなきゃいけないだろうし面倒なんだよな、あれって)
「代表挨拶?どこでそんな話を聞いたのか分からないけど入学生にそんなものはないわよ。
入学式は在校生側と教師や来賓の代表が祝辞を言うだけね。まあ今後イベントとかで活躍したりして有名になれば、そういった依頼はくるかもしれないけどね」
ユリスは前世の記憶から質問をしたのだが、この世界では入学生の首席が挨拶するといった文化はないようだった。
「それで、もう承知していると思うけど貴方の成績では第1種の特待生になるわ。
学園としてもかなり久々で少し扱いが慣れていない教師も多く在籍しているから、ある程度は見逃してくれると助かるわ。度が過ぎる場合は私に報告してくれれば対応するから」
国益に寄与するという条件が学生にはかなり厳しいのだろうが、学園長の口ぶりだと対応したことはあるようだ。少し興味に駆られたユリスだが何とか抑えて話に耳を傾ける。
「ここからが本題なんだけど、この学園は王族の選抜学園としての側面も持っているの。まあ有名な話だし知っているとは思うけど。
各学年の成績トップ2人には入学時と年終わりに世界神の試練を受けてもらう事になっているわ」
ユリスは歴史の勉強をしている際に見た内容を思い出す。
世界神からの神託で王族は各代において最低でも1人は継承権を持つ者を外部から迎え入れなければならないと決まっている。これは王国史では王族の血に多様性を持たせるためと記載されているが、実際のところは王族を腐敗させないようにするためのシステムだ。
この世界神の試練を突破する事で継承権を得ることが出来るが、受ける者によって内容が異なるため問題がある者は無理難題を出されてここで落とされる。
たとえ王族であっても継承権を得るには試練を突破する必要がある。つまるところ外部編入は現存する王族全員に問題があった場合の保険としてヴェルサロアが作ったシステムと言える。
昔は希望者を皆受けさせていたがその対応がかなり大変だったようで、ある程度時が経つと片っ端から受けさせるのではなく各組織で優秀な者のみが試練を受けられるというように変わっていったそうだ。
「2人ということはその人と日程を合わせて行くのですか?」
「いえ、もう1人の子は入寮日がギリギリでね。
今回はその子は見送って貴方だけ受ける事になっているわ。本人もあまり意欲的ではなかったしね。
だから入学式までの期間でどこか1日空けておいて欲しいのよ」
「ふむ…分かりました。
こちらとしては特に予定もないのでいつでも構いませんよ」
「ほんと!?助かるわ。
なら連絡とかもあるから5日後でお願いね」
「はい。
そういえば入学式の日時やそれまでのこととかの説明はどこでしているんですか?」
「ああ、それは入寮時に各寮監が説明するのだけど、特寮は私と副学園長が担当だから今説明しちゃうわね。
入学式は10日後の9時からで、メインアリーナで行われるわ。真ん中の1番大きいところね。
それと、入学式までの間は特区にある施設は自由に利用していいわよ。ただダンジョンは授業で説明があるまで利用禁止って事になっているから気をつけてね」
(ダンジョンはまだしばらくお預けか…
仕方ないから図書館とかでも見にいくか?
…そういえば実技試験で面白そうな機能を使っていたよな?)
「実技試験でダメージを測定する的を使っていたと思うのですが、あれは生徒でも利用できるのですか?」
「うん?アリーナに設置されているアーティファクトの事かしら?
利用すること自体は可能だけど、アリーナは数が限られているから事前予約制になっているわ。
この時期は在校生もダンジョンを休みにしている最中だから空いているか分からないけど、特別棟の総合受付で申請可能よ」
(なら、シエラを連れて訓練するのも良いな。相手してって言われてたし)
「それと食事についてなんだけど、校舎の食堂は授業が始まるまで閉まっているから寮で食べて頂戴。
購買でお弁当も食材も買えるから作るかどうかは任せるわ。作る場合は寮内の食堂にある共用キッチンを使うか、貴方なら部屋にキッチンがあるからそっちでもいいわ。
それと最後に…一応寮内に監視する人は居ないし同意があれば各部屋の移動も制限してないけど、あまり羽目を外しすぎちゃダメよ?
今年は寮に女生徒が多いから特にね」
「食事については分かりましたが…男子は少ないんですか?」
「第2種には1人よ。女子は5人いるけど。
あ、シエラさんも含めると6人ね」
(おおう…これはその男子とは仲良くしないとな。
…ハーレム狙いの女好きじゃなきゃいいけど)
今後の寮生活に一抹の不安を抱えながらも説明を聞き終わったユリスは寮へ帰っていくのであった。