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29話 入学試験(実技)

試験官の合図で全員が一斉に問題冊子を開き、問題に取り掛かる。


(とりあえず一通り問題を見てみるか。

 ……は?何この問題の少なさ。各教科5問って…全部で30問しかないのか。いや、もしかして論述に1時間以上かけられるようにこの問題数なのか?

 まあ気を取り直して解き始めるか)


20分後…


(見直しまで終わってしまった…

 やっぱり小学生レベルだからか簡単すぎたな。まあ、本番は論述だしな。

 ただ、元々の想定だとかかる時間が30分くらいだったから内容そのままだとちょっと時間が余りすぎる。

 この際だからもっと詳細に書くか)


当初の予定では鑑定項目の増やし方とベースレベルが上がりづらくなる現象の原因と対応策を簡単に書くつもりだったが、あまりに時間が残るためその原因の持つ他の効果や前述した物よりも少し難度が高い別の対応策だけでなく、鑑定の各段階で閲覧できる項目の詳細についてなど書けるだけ書いてしまっている。

文章の構成についてもちゃんと読みやすいように考えて配置して書いたため、14歳の書く文章と考えるとそちらの評価もかなり高いものになるだろう。


「時間だ!

 ペンを置いて答案を裏返してから手を机の下に置くように。これから問題と答案を回収していくから机の下から手を出さないよう気をつけてくれ」


試験官は受験票を確認しながら問題用紙と答案用紙を回収していく。そして全員分を回収した後、枚数などの確認をしてから筆記試験の終了を告げる。流石に推薦試験で違反行為にチャレンジする者はいなかったようだ。


「よし、これで筆記試験は終わりだ。

 この後は昼食の時間を挟んでから実技試験となる。

 昼休憩の間にこの部屋に控室の案内を貼っておくから各自確認してくれ。

 実技試験は受験番号によって控室が異なるから必ず自分で確認して移動しておくように。

 それじゃお疲れさん!」


試験官が部屋を出ていくと部屋の雰囲気が一気に弛緩する。


「お疲れ様です。手応えはどうでしたか?」

「そうだね…あまり大きな声では言えないが拍子抜けだったかな。もっと時間が足りなくなるかと思っていたから」

「やっぱりそうですよね!安心しました。

 あんな問題で差がつくのかと試験中ずっと不思議でしたから、私の感覚がおかしいのかと思ってしまいました。

 そうなると論述で差をつけているのでしょうね」


どうやらレイラも学力は年齢不相応な高さのようだ。

学園からすると論述はあくまで特待生用のオマケであり、通常の問題で十分に差がつくレベルであると判断して問題を作成している。そして事実そうなっている。


「昼食はどうなさるのですか?」

「持ってきているからここで食べるよ」

「あら、なら私もご一緒しますね。

 まだお話ししたいこともありますし」


受験生達が各自持ってきた昼食をとり、あの問題はどうだったとか雑談をしながら過ごしていると部屋の前にあるボードに張り紙がされる。


「お、あれが控室の案内かな?

 ちょっと見てくる」

「私も行きます。

 まあ、基本的には貴族と平民で分かれるそうですからここでお別れになると思いますけど」

「そうなのか…ちょっと残念だな。

 えーと、控室は…なんだここか」

「あら?私もここですね。どういうことでしょう?

 まさかユリスさんが本当は貴族だったとかではありませんよね?」

「いやいや、違うよ。

 多分人数的に余ったとかそういう感じじゃない?」

「怪しいですね。

 これは席に戻って色々と話を聞かなくてはいけません」


レイラは控室が一緒だったことが嬉しかったのか、楽しそうな雰囲気を纏いながらユリスを質問攻めにしていく。

そんな昼休憩もチャイムによって終わりが告げられ、部屋に残ったのはユリスとレイラ以外に男女が3人ずつだった。


「全員揃っているな。

 まず先に確認しておくことがある。この中に生産術を希望する者はいるか?」


試験官の確認に対して誰も手を上げなかったため全員武器術希望のようだ。


「よし、いないな。

 であればこれからの実技試験の流れは武器術、魔法、総合戦闘という順番になる。

 この班は順番が結構後ろの方になっているせいで少し待機することになるから、その間に各実技の注意事項や順番の説明をしておくとしようか」


(ふむ、大体聞いていた内容と変わりないな。

 にしても試験の順番は全部最後か…これは偶然か何か意図があるのか)

 

「説明はこんなところだ、残りの時間は自由にしてくれて構わないが今のうちに準備は終わらせておくように。

 それと、事前に集中力を高めておきたいってやつはいるか?

 ……いないようだな。なら私語も好きにして構わん。

 ただ、他の部屋にはそういうやつがいるかもしれないからあまり大声は出さないようにな」


(随分緩いな。

 貴族が集められているって話だし、そのせいもあるのかな)


「とりあえず準備だけしておくか」


ユリスは鞄からナイフとホルダーを取り出し、腰に取り付けていく。

それを見た周囲の人も各自で準備を進めていく。


「ユリスさんはナイフだけなんですね」

「ああ、これだけあれば十分だからね。このナイフも武器術試験用だし。

 そういうレイ…フォーグランドさんは長杖とナイフか」

「ふふっ、名前で構いませんよ。呼び捨てだとなお嬉しいですね」

「…分かったよ、レイラ」

「!!はい、ありがとうございます。…思っていたよりも嬉しいものですね。

 それで、武器については私はどちらかというと魔法がメインですから杖を使うことが多いのです。

 ナイフに関してはユリスさんと同じで試験用ですね」


ユリスのミスに対してこれ幸いと名前の呼び捨てを迫ってくるレイラ。ユリスは微笑みの奥に感じた迫力に押されてあっさりと陥落。

自身の武器について説明するレイラはいつの間にか服装も変わっていた。

どうやら部屋の後方に着替え用の仕切りスペースが設けられていたようだ。


(おお!だいぶ印象が変わったな!

 さっきまでのワンピースも良かったけど、こっちはこっちでカッコ良くなったというかクールビューティーさが増したな)


レイラは上は白シャツで下はショートパンツにニーハイソックスへと着替えており、その上に後ろからだとドレスの様にも見えるロングコートを腰のリボンで締め、さらには髪飾りとブーツまで着用していた。

それまでが白いワンピースのお嬢様という印象だったため、全体的に黒を基調としてアクセントとして赤が入っているという装いに余計にギャップを大きく感じたのだろう。


「それにしても、さっきの服も良かったけど今の服もよく似合っているな」

「そ、そうですか?ありがとうございます。

 ユリスさんも清潔感があって素敵ですよ。服自体もかなり良いもののようですしね。

 ただただ豪華絢爛な服を着ているような男とは大違いです」


他の受験者も準備が終わったところでちょうどよく試験官の声がかかる。思ったよりも前の組が早く終わったようだ。


「そろそろ時間だが全員準備は大丈夫か?

 ……よし、それでは会場に移動するからついてくるように」


会場を出て行く試験官に全員黙ってついて行く。

着いたのはアリーナと呼ばれる場所だ。中央に石造りの円形ステージがあって、それを囲むように観客席が設置されている。

よく漫画やゲームなどで闘技場に用いられるようなデザインだった。


「先程伝えた順番で試験を行う。順番になった者は速やかに下まで来てくれ。

 ああ、順番が次の者は下につながる通路までは来ていていいぞ。

 それでは始めよう。1人目は着いてくるように」


試験官に猫獣人の男がついて行く。

ステージに上がる前に試験官が宙空で何かを操作するとステージの中央に木製の案山子のようなものが出現した。

そして開始の合図と共に男が両手に持った2本の短刀で案山子を切り付け始める。


(おお、思っていたよりちゃんと動けているな。ダメージも順調に稼いでいるようだ。

 ただ二刀流の割には勢いが弱い。牽制と攻撃で分けている感じでもないのに片手だけになる時間が長いから努力次第でまだまだ上がるな)


ユリスは前々から聞いていた学園のレベルに比べると良い方に予想を裏切る結果になっている事に内心喜びが溢れている。思わず鍛え上げて自分の修行相手にしたい衝動に駆られているほどだ。

そうして試験は進んでいき、結局は前衛風の装備をしている人全員がユリスが想像していたよりも高い技量を持っていた。そして6人目でレイラの名前が呼ばれる。


「それでは始め!」


合図と同時に素早く踏み込み、袈裟に一閃。

そして流れるように連続で5度斬線が閃き、最後には体の中心にナイフを突き刺して終了。

10秒も経っていないが、これ以上息継ぎなしで攻撃し続けるのは無理だと判断したのだろう。

再度の挑戦もしないようで、残りの時間は何もせずに待機していた。


(おいおい、確か魔法メインとか言ってなかったか?

 それであの動きとか…他の奴と比べても別格だな。

 ただ、ナイフだからこそ攻撃箇所が胴体ばかりってのもそうだし、最後の急所攻撃も含めて全部真正面からっていうのはなぁ…ステータスのせいで多少の傷は無かったことになるし、実戦想定って点を考えると少し減点されるかもな。まあこれは全員に言える事だけど。

 おっと、そろそろ下で待っておくか)



「次の者!」


ユリスは試験官に呼ばれたためステージに上がっていき、ナイフを構える。


「始め!」


合図と同時に魔力還元でSTRとAGIを強化し、全速力で案山子の後ろに回り込む。

その後、一息に両肩と両腿の関節を全て切り飛ばす勢いで4連撃を繰り出し、最後に強く踏み込みながら心臓の辺りを突き刺して捻った。


(ふう…まあこんなものでいいだろう。

 後はどうしようか…うーん、まあ技量は今ので十分だろう。残りは20秒くらいだし総ダメージ量重視のラッシュでもしてるか)


ユリスは一呼吸置いてから案山子の横を走り抜けすれ違いざまに切りつけた。

そして直後に方向転換し再度移動切りを見舞い、その動きを案山子の周囲を不規則に周りながらひたすら連続で繰り返していく。その光景はまるで小さな竜巻だ。


「やめ!」


試験官の合図と同時に攻撃をやめ、ステージを降りて行く。ふと試験官の顔を見るとその目には好奇心が浮かんでいた。

続けて魔法実技を行うために次の受験者が近くにいたがそちらは何か恐ろしいものを見るかのような目をしており、それを見たユリスは態度には出さないが、やり過ぎたか?と内心焦っている。


(もしかして魔力還元を使う必要なかった?いやでも、使わないと物理系アビリティ大したことないし…

 今更だがシエラから他にも色々聞いておけばよかったな…

 でもまあ試験官には好感触だったようだしよしとするか)


観客席に戻ると先ほどの受験者と同様の視線で遠巻きに見られており、さすがのユリスもこの状況に居心地の悪さを感じていた。しかし、レイラだけは変わらずにユリスの隣で自分の順番を待っている。むしろ心なしか少し近づいている程だ。

既に始まっている魔法実技についてはステージの端に用意された的10個を反対側の端から破壊するというものだ。この的でもダメージ計測で威力を判定しているが、的が10個しかないうえ今回はどんな低威力でも破壊できてしまうためチャンスが限られている。

制限時間はないが全て壊すか攻撃を5回外すとその場で終了となる。


(これまでで1番だったのは人間族の男だな。

 まさかの本が武器ってのには驚いたしノーミスで威力もそれなりに見えた。ただ、やっぱり属性魔法を使うやつばっかりだな。

 一応自己解決はしたし、ただの魔法よりも応用性の高い技術が使えるようになったからもう気にならないと思っていたんだが…やっぱ見てると何か羨ましいというか何というか)


ユリスは属性魔法がほとんど使えない。正確には自身から魔力を切り離した状態で維持することが出来ない。故に発動もしくは準備時に魔力を自身から切り離すという工程をスキルにより強要される“魔法”という技術は使えないのだ。

そのコンプレックスは魔術を習得する事で克服したつもりだったが、やはりあくまでつもりだったようだ。習得したのは、便利ではあるがあくまでも魔法を模した別もの。しかも相変わらず射出という形態は特定条件下以外では全く出来ない。

前世から抱き続けた本物の魔法への憧れはそうそう捨てられる物ではなかったらしい。


(…次はレイラの番か)


杖を構えたレイラは開始と同時に魔法で炎弾を放ち、1つずつ的へ正確に当てていく。同じような光景を見せられ続けたせいでユリスの頭に落胆という2文字が現れてくる…かに思われたが、残りの的が2つになったところで何故か腕を下げてしまうレイラを見て好奇心が急浮上。

一体何をするつもりなのかと皆が注視する中、無言で集中するレイラの尻尾の先に炎が発生。それはただの炎ではなかった。何故ならばその炎は狐の形へと変化していき完全に形作られたところで的に向かって走っていったのだ。その炎狐は的に向かって突進すると同時に爆発を起こし、的は爆散した。


(なんだ今の?

 魔法名も何も言ってなかったし火魔法ではないだろうからスキルか?随分と複雑な動きをしていたから全部自前で操作している訳でもないだろうし。

 …でもこんなスキルあったか?)


レイラが使用したのは『狐炎術』という種族紋章スキルである。効果は火属性に変換した魔力を狐の形に変えて操作するという魔術が使用できるようになるものだ。

術者は狐の進む方向と炸裂を操作するだけなので複数操作できる割には扱いやすい術と言える。

また、それまでの魔法の威力を見る限りではバフ等の何らかの威力上昇系スキルを使用したのだろう。

ちなみにこの狐炎術はヴェルサロアがデザインしたスキルだったためにユリスも何をしたのかよくわからなかったようだ。


(僕が知らないってことはヴェルが作ったやつか奥義の可能性もあるな。もしくはこの前言ってた例の隠し要素か…気になる)


自分の知らない技術に興味をそそられながらも自分の番なので下に降りていく。

そして、前の女子の実技が終わりユリスの番になる。


ユリスは試験官の開始の合図が聞いてから周囲の地面に魔力を広げていく。すると杭状になった石が6つ浮き上がり、周囲にふよふよと漂い始める。魔力を視認できる者がいればユリスと石杭が魔力の糸で繋がっている光景が確認できた事だろう。

少し間を置いてから石杭が外側の左右それぞれ3つの的に向かって射出される。目にも止まらぬ速度で射出された石杭は的の中心に当たると炸裂し、轟音と共に的ともども粉々になってしまった。

明らかに威力がとんでもない事が窺えるその光景に他の受験者が唖然としてユリスの方を見ていると、残りの的を全て覆い隠すように地面から1本の火柱が勢いよく上がる。

何事かと驚く受験者達がそちらに目を向けたところで火柱は消え、そこにあったはずの的は既に支柱ごと無くなっていた。


(よし、これだけやれば問題ないだろう。

 やってる事は投石と同じとは言え、10種類も威力上昇系の付与をしておいたから与ダメージが足りないって事はないはずだ。火柱もそれなりに魔力を込めたし大丈夫だろう)



「…よし、一度説明し直すから上に戻るぞ」


次は模擬戦のはずだが、試験官に促され全員観客席の方に戻る事になる。


「次は模擬戦なんだが、これから対戦相手を呼んでくるから少し待っていてくれ。

 知っている奴も多いだろうが、対戦相手は現役の騎士だ。とはいえ怪我をしてもステージを降りれば無かった事になるし、どんな傷を負っても死ぬことだけはないから気にせずに全力でかかることだ。手抜きをしていると判断された場合はやる気なしとして減点される場合があるからな。今のうちに気合を入れ直しておけ!

 実力を出せなくて不合格となるのは嫌だろう?」


ユリスの実技を見て自信を喪失している受験者が多いと判断したのか、試験官は全員に喝を入れると準備をしに場を離れていった。


(全力でやれって言う時確実にこっちを見ていたよな。

 それ以外は全体を見ていたし、なんか嫌な予感が…)


ユリスは試験官の態度にどこか嫌な予感を感じながらも、模擬戦での立ち回りをどうするかステータスを見ながら考えていく。


(全力って言ってたけど流石に不味いよな…

 まあ、今使える手札でもって本気でやるとすると…奥義ひとつだけって感じか?

 そうなると…使っても問題なさげなのはあれだろうな)


どうやらユリスは本気で騎士を叩きのめしにかかるつもりのようである。自身の本気というものがどのような事態を引き起こすかなど全く考えもせずに…


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