宝珠と企て
居酒屋で美味しい海の幸を食べていると、声を掛けられた。
「やぁ、キミ達…楽しそうだね。」
セルドルさんだ。
彼はハンセルト師団長の右腕であり、第三魔法師団の中で1、2位を争う男前でもある。
オレ達は一人で来たというセルドルさんと一緒にお酒を飲む事にした。
「セルドルさんは軍に所属して長いのですか?」
イリエが興味津々の様子で聞いている。
「あぁ、もう10年くらいかな。」
「実はね…王都防衛戦にも参加していたから、キミ達の事は知っていたよ。今日の訓練では申し訳なかったね。」
セルドルはそう言うと3人分のお酒を追加注文した。
「これは私からのおごりだ。」
アルマとイリエは「悪いですー。」と言いつつ、すぐに飲み始めた。
この二人は、どこか似ているのかもしれない。
「ところで…ハンセルト師団長は、どんな方ですか?」
オレは何かヒントが無いかと、セルドルさんに聞いてみた。
「そうだねぇ…非常に正義感のある方だよ。自分の事よりも、まず部下の事を考える方だ。」
「高い魔法能力を買われて師団長になったというよりは、高い指導力を買われて師団長にまで登りつめた人だよ。」
セルドルさんがスラスラと説明してくれたハンセルト師団長の人物像はまさしく七仙剣の一人、ブロウガの人柄だ。
彼は常に部下達を労い、そして慕われていた。
「ハンセルト師団長は…腕力が強いとか?」
アルマが聞くとセルドルさんは驚いた表情を見せた。
「何故、その事を知っているのだ?」
逆に聞かれる事となったアルマだが、冷静に返事をする。
「筋肉の付き方が…ね。」
いや…これは適当に答えたな。
微妙な空気が流れた時…イリエが話題を変えた。
「次の休みにこの街を観光したいと思っているのですが、どこが良い場所をご存知ですか?」
そうだな…最近、悩んでばかりだからイリエの提案は気分転換も良いもしれないと思った。
「海辺にある灯台から見る港の景色は最高だよ。」
「あと、丘の上にある古い教会もとても立派なんだ。」
セルドルさんの答えに、イリエはオレの方を向いた。
「あぁ、そうだな…気分転換に一緒に行こうか。」
「いってらっしゃい。」と言うアルマに、イリエは「アルマちゃんも一緒に行くのよ!」と少し怒り口調で言った。
「3人は仲が良いんだね。」
微笑みながら言うセルドルさんは続けた。
「私も一緒に休めれば案内をするところだが…確か軍に街の地図があった筈だから、それを貸し出そう。」
「ありがとうございます。」
オレとイリエは声を揃えて感謝の言葉を伝えた。
セルドルは男前な上に、とても感じの良い方だ…にしても一人で居酒屋に来るなんて、よほどお酒が好きなのだろうか。
翌日、セルドルに軍の宝物庫へと案内された。
「ここに街の地図がある筈だ、手分けして探そう。」
オレとイリエ、アルマ、そしてセルドルさんと共に、地図を探す。
とても綺麗に整理されているとは言えず、しかも埃っぽい。
「なんか、凄い重要な物がありそうだけど…適当に管理されていそうね。」
イリエが呆れたように言う。
「別の場所で地図を探した方が、早く見つかるような気がするわ…」
アルマはすでに半分、怒りかけている。
ブツブツと文句を言うその言葉から、どうやら過去の貴重品が適当に管理されている事への怒りのようだ。
「ん?このキラキラとした丸い物はどこかで見たような…」
オレは見覚えのある玉をそっと手に取った。
「これは…”魔力封じの宝珠”」
学園時代に剣士科と戦った際、審判となった先生がこの宝珠を使っていた事を思い出した。
「アルマ…これを使って…」
そう言いかけた時、セルドルに注意を促された。
「それは持って行っちゃダメだよ。貴重なアイテムだからね。」
貴重なアイテムにしては、随分と適当な扱いだが…
オレとアルマは目を合わせて頷きあった。
アルマはオレの心を読む事が出来るので、考えは伝わった筈だ。
ちなみにトルナシアの記憶を取り戻したが、オレは相変わらずアルマの気持ちを読む事は出来ない。
そもそも、オレの知るアルマにはそのような能力は無かった。
「あ、これじゃないかしら?」
「よく見つけたね…いいかい、ここがこの軍の施設で、こっちが教会…」
イリエが見つけた地図を広げ、セルドルが説明を始めた。
「アルマ…少しの間、借りるだけだからな…」
「分かっているわ…夜に忍び込むわね♪」
小声で会話するオレ達…アルマは何だか楽しそうだ。
”魔力封じの宝珠”を棚へと戻し、オレ達は街の地図を持って宝物庫を後にした。
イリエとも話をし…昼食時に今後の作戦を立てた。
「問題は、ハンセルト師団長が一人になる時があるかだね。」
今回の『師団長にブロウガ時代の記憶を呼び覚まして貰おう作戦』は、他の人に邪魔をされないようにする事がポイントだ。
「じゃ、ちょっと取ってくるねー。」
夜になり、アルマは赤い魔法陣を空中に浮かべると散歩にでも行くかのように貴重なアイテム、"魔力封じの宝珠"を宝物庫から取って来た。
ここでオレは疑問に思った事をアルマに聞いた。
「アルマは時空魔法を使えるって事だよね?」
キョトンとした顔になったアルマが答える。
「違うわよ…私は大天使様の力を借りているだけよ。だから一旦、天界に行ってからじゃないと空間移動できないのよ。」
何を当たり前の事を聞くのか?という雰囲気だが、そんな事は一般的な人族は分からない。
「その綺麗な球が、例のモノ?」
お風呂から出て来たイリエはアルマが取って来た…いや、借りて来た宝珠を見て言う。」
「そうよ…試しに使ってみましょ。」
アルマは減るもんじゃないから。と言いつつ、球を撫でて祈りを込めた。
「あ、本当…魔法を使えないわ。詠唱しても魔法陣が浮かばない。」
イリエは驚いている。
「この宝珠のおかげで、あの時ヤエノは苦戦したのね。」
学園時代にヤエノが戦った剣士科の伯爵子息の生徒がこの宝珠を使って優位に立とうとした事を思い出したのだろう。あきらかに顔が怒っている。
「本物で間違いないわね。」
どうやら…アルマはイリエで実験したようだ。
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あれから毎日、ハンセント師団長の様子を伺っているが、なかなか一人になる時間は無いようだ。
軍の寮に住んでいるらしく休みの日も一人にならない。
「せっかく"魔法封じの宝珠"を借りているのに、使う機会が無いわね。」
アルマは、師団長をさらってしまいそうな勢いで言う。
ちなみに"魔法封じの宝珠"を宝物庫からアルマが、こっそりと借りてきたが全くバレていないようだ。
宝物庫の管理という点では管理能力に疑問が残るところだが…師団長の前世であるブロウガは、そういった細かい事に関しては無頓着だった事を思い出す。
オレとアルマだけがブロウガの事をどんどん思い出してしまい、肝心の師団長は魔法訓練に明け暮れ、まったくブロウガっぽく無い事に励んでいる。
ブロウガに対する記憶が戻る度に、なんだか虚しい気持ちになった。
数日後、イリエと休みが合う日が来た。
基本、軍は年中無休なので、所属するオレ達は交代で休みを取っている。
出張で来ているオレ達は融通が利きやすいが、一応、遠慮して休日は上司任せにしていた。
「明日、街の観光に行きましょ♪ アルマちゃんも一緒だよ。」
イリエの誘いにオレとアルマは答えた。
「あぁ、たまには気分転換も良い事だ…イリエ、一緒に楽しもう。」
「あら、お邪魔じゃないのかしら?…まぁ、いつでも消えるから遠慮なく言ってね。」
アルマなりの気遣いかもしれないが、随分とトゲのある言い方だ。
が…トルナシア時代の記憶を取り戻したがオレは、妻であるアルマの事が今も愛おしいのは確かだ。
イリエの気持ちは分かっているつもりだが、オレはアルマを裏切る事は出来ないと考えていた。
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仕事が忙しく、更新が遅くなりました。
待っていてくれた方が居ましたらスミマセンでした!




