ブロウガ
第三魔法師団への出張…という名の魔法指導。
少年期のマイトがアルマから指導を受けた集中力を高める訓練から始める。
自然の力を借りて魔法を発動するという概念がこの時代には無くなってしまっていた。
魔法とは、呪文を正確に唱えると共に魔法陣を正確に描く事で発動するもの。現在では、それが全てだ。
さらに魔法は両親のどちらから受け継がれるという考えが先行している為、ただ単に遺伝という気持ちを持っている方が多いようだ。
「オレは両親共に魔法師だから魔力が高いんだ。」
「私は母親だけ魔法師だから、両親ともに魔法師の人には叶わないわ。」
なんて、的外れな回答をされる方も居る。
さらには、「ボクの両親は貴族だから、魔力が高いんだ。上級魔法も使えるんだぜ。」
なんて訳の分からない事を言う魔法師まで居る始末だ。
たしかに…学園時代も歴史や魔法陣を覚えるのが主だった。
いつ頃から間違った方向に変わってしまったのかアルマに尋ねたが、はっきりとは分からなかった。
「うーん、魔法師が減ってきて…徐々にかな。」
訓練場の端に並んで集中力を増す訓練を促していると、反感する者も出て来た。
「こんな事をして何になるんだ…」
「静かに言う事を聞け!」
文句を言う魔法師に一緒に訓練に参加しているハンセルト師団長が声を荒げて注意しくれる。
が…こんな調子では集中力を高める事など出来ない。
さらに、隣で訓練をしている騎士団からは笑い声が聞こえてくる。
「師団長が張り切っているだけでは、なかなか難しいわね。」
イリエが言っている事は正しい。
「ちょっと…黙らせましょうか。」
アルマが怖い事を言ってきた。が、円滑に訓練を進ませる為には良いかもしれない。
「そうだな…隠す必要は、もう無いんだったな。」
オレはそう言うと、ハンセルト師団長に近づき伝えた。
「オレの訓練を受けた結果…どうなるかを先に見せましょうか?」
「なるほど…それが良いかもしれない。お前が見本を見せてくれるのか?」
「いえ、今回はあの二人に…」
イリエとアルマが見やすい位置へと移動した。
ハンセルト師団長が皆を集める。
「土魔法…岩石」
オレがターゲットになる岩山を形成していく。
それを見ただけで第三魔法師団の人たちは驚きの声を上げた。
驚く理由は展開が早いからだろう。
イリエとアルマに合図をし、二人が詠唱を始める。
「水魔法…上級 水虎の氷槍!」
イリエは大きく両手を空に挙げると空中に漂う水の力を取り込む。
空中に浮かんだ氷の塊は徐々に大きくなり、巨大な槍の姿を形作る。
「光魔法…上級 金緑の光線!」
アルマは胸に両手を合わせて置くと全身に日の光を集め始めた。
光に包まれたアルマの体…その光が徐々に胸の中心へと集まり出す。
ドドドドーーン!
オレが作った岩山が轟音を響かせて崩れ落ちる。
訓練場に居た魔法師全員が息を潜めた。
隣の訓練場に居た騎士団の人たちも口をあんぐりと開けている。
しばらくした後、ざわざわと声がし始める。
「なんだ、あの光は?あれは何魔法なんだ?」
「見たか、あの大きな氷の槍を…」
「というか…あの白い生き物は何なのだ?」
「凄いのはマイトラクスだけじゃ無かったのだな。」
ハンセルト師団長も感嘆の声を出した。
「マイトは、もっと凄いですよ。」
イリエがそう言うので、師団長の目が輝いた。
「おいおい、それは是非…見てみたいな。」
「いや…ここで先程より強い魔法を放つのは危険ですので。」
オレがそう伝えると師団長は残念そうな顔を見せたが、この訓練場は狭いというのは本当の事だ。
「それより、これでどうでしょう?皆さん、納得されましたかね?」
「あぁ…助かった。」
イリエとアルマの魔法の攻撃力を見た第三魔法師団の面々は、再び集中力を高める訓練に戻った。
イリエも魔法師団と一緒に訓練を行う。
オレとアルマは、まず魔法とは自然の力を借りるものという概念から説明し、それを体現して貰った。
ずっと、そんな考えを持っていなかった魔法師は感覚を得るのに苦労している。若い魔法師の方が覚えやすいようだった。
「あぁ…分からん!水を感じるというのは、どういう事だ?魔法陣の精度じゃないのか?」
最も苦労しているのは、師団長であるハンセルトだった。
最初アルマが丁寧に教えていたが、そのうち怒りだして尻尾で顔を叩いた。
「おいおい、師団長相手に何をしているんだ。」
オレはアルマを止めに入る。
「クソッ」
なかなか上手く感覚を掴めないハンセルト師団長は、ついに怒りだした。
ん?…その怒った雰囲気は…
アルマとオレは顔を見合わせた。
「剛腕の剣闘士…ブロウガ?」
「何故、ブロウガが魔法師をしているよ!」
ハンセルト師団長に対し、怒りながら言うアルマ。
当然、そう言われ怒られた師団長は、何を言っているのか分からずにオロオロしている。
確かに、魔法師に似合わない体格を持っている師団長。
「アルマ…ハンセルト師団長がブロウガで合っているのか?」
「うん、この雰囲気…感覚…間違いないわ。以前に会っていたけど、これは気付かないわね。」
なんてこった…ブロウガが魔法師をしているなんて。
七仙剣の一人、ブロウガは全く魔法を使えず、その拳と大剣で魔族を倒す肉体派だったのだ。
「魔法師である師団長に肉体派であったブロウガ時代の記憶を取り戻す事が出来るのか?」
「思い出したところで、ブロウガのように拳と剣で戦えるのかしら?」
オレとアルマは頭を抱えて考え込んだ。
項垂れているオレとアルマを無視して、ハンセルト師団長は再び魔法の訓練を始めた。
「はぁ…魔法の訓練じゃなく、剣の訓練をしてくれよ…」
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訓練後、イリエと共に居酒屋へと繰り出した。
「この街は平和だから見回りの人数は少なくて良いのね。水の提供なんて、まったく必要ないし楽だわー。」
イリエが言う通り、ヤンガノの街と比べ、ここシザカンの街は事件が少ないようだった。
街の見回りも、騎士団のみで手が足りているようだ。
「イリエ…伝えなければならない事がある。」
「ん?なぁに?」
「ハンセルト師団長が…七仙剣のウチの一人だ。」
「え?風魔法の人?それとも火魔法の魔導士?」
「それが…剛腕の剣闘士ブロウガの生まれ変わりだ。」
ブロウガの姿を知らないイリエも、驚きを隠せない。
「それって…記憶を取り戻しても戦えるのかしら?」
「そうなのよねぇ」
アルマは串焼きを食べながら言うので、どうにも緊張感を感じられない。
「で、ブロウガが記憶を取り戻しそうなアイテムって何なの?」
イリエに聞かれたが…
「基本、己の拳が全てという考え方だったからな…」
オレとアルマは顔を見合わせながら伝えた。
「剣も持っていたけど、コレ!と決まっていなかったわね。」
再び、頭を抱えて悩みだすオレとアルマ。
「まぁ…今日は飲みましょう♪」
イリエは酒の入ったコップを持ち、オレ達の目の前に掲げた。
こういった時にイリエの笑顔には勇気づけられる。
「まぁ、しばらく様子を見ようか。何かきっかけを作れないか考えよう。」
「そうね…まずは観察してみましょう。」
オレとアルマもコップを持ち、三人でシザカンの夜に乾杯をした。
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