不安な気持ち
湾岸都市シザカンには、ヤエノの長期休暇が終わってから旅立つ事になった。
オレとイリエが抜けるとヤンガノの街の防衛に不安が残るから…といった理由だ。
「そういえばイリエ…次、長期休暇を取る番だったけど、良いのか?」
「わたしはいいの。それよりも、もっと強くなりたいわ。」
イリエは真っ直ぐにオレの目を見て答えた。
強く思う気持ちは嬉しいが、無理していないか心配になる。
数日後、ヤエノが長期休暇から復帰した。
「ヤエノ…おかえり。実は二人きりで話したい事があるんだ。」
ヤエノは驚いた表情を浮かべている。
「お、おぅ…心の準備は出来た。」
「前世の…トルナシアの記憶を取り戻した。それで400年前に魔王を倒した時の仲間を探したいと考えている。」
「お、おぅ…そうか…おめでとう。」
おそらく…オレが伝えようとした事の半分もヤエノは理解してくれていないだろう。
「それで…イリエと共に湾岸都市シザカンに行く事になった。」
「お、おぅ…イリエとついに…おめでとう。」
おそらく…エタレナ師団長と同じような誤解をしたのだろう。
ペシッ
アルマが尻尾でオレの顔を叩いた。
「トルナシアの時からだけど…説明が下手ね。もっと言葉を勉強しなさい。」
オレに代わりアルマが400年前に魔王を倒した時の話を中心にヤエノに説明をした。
「つまり…シザカンにはイリエと婚前旅行という訳では無いのね。」
何故だか、ヤエノは少しがっかりした様子だ。
「大天使様が言うには、シザカンには七仙剣のウチの一人が居る。オレはその人を見つけたい。」
「あと…イリエは水の気配を大きく感じ取れるシザカンで己の限界を突破してもらいたいんだ。」
最後にオレがシザカンに行く目的を改めて補足した。
すると…ヤエノは急に怒りだした。
「えー、あたしも連れてってよ。仲間外れなんて嫌よ。」
「ヤエノが居ないとな…エタレナ師団長がヤンガノの街の防衛に不安を感じるんだよ。」
「ヤエノはとても頼りになるからね。」
オレとアルマはヤエノの機嫌を取る為、懸命に褒めたたえた。
「そっか…あたしがヤンガノを守るしかないのね。」
「さらにだ。」
その気になってきたヤエノにオレはさらなる依頼をした。
「実は、ユキアノは前世、七仙剣のウチの一人だったんだ…ヤエノの力で目覚めるきっかけを見出して欲しい。」
「え、えぇ~?そんな無茶な。」
確かに…ユキアノの前世であるザックアリルの事をまったく知らないヤエノに対し、この依頼をするのは無茶だった。が…まったく望みがない訳ではない。
「いいか、よく聞いてくれ。ユキアノが前世を思い出すきっかけは、”赤い鎧””長い槍”そして…”赤竜”だ。ヤエノは武器に詳しい。ユキアノが反応する赤い鎧と長い槍を見つけ出して欲しい。」
ヤエノはゆっくりと頷いて言った。
「分かった…その代わりマイト…イリエの事を頼んだよ。」
「あぁ…きっとオレはイリエの魔力を覚醒させてみせる。」
「いや…それもあるけど…」
ヤエノは先程の婚前旅行云々の話をした時よりも、何故だか残念な顔をした。
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イリエとアルマと共に湾岸都市シザカンの街を歩く。
なんだろう?以前に来た時よりも活気があるように見える。
とりあえず、第三魔法師団長ハンセルトの元を訪れる。
「よく来たな。マイトラクス!ダメ元でエタレナ師団長へ手紙を出したが、受けれ入れてくれて良かった!」
ダメ元で手紙を送っていたのか…まぁエタレナは断る気マンマンだったようだが。
「エタレナ師団長からは短期の出張と聞いています。あと…このイリエもお世話になります。」
オレはハンセルト師団長にイリエを紹介した。
「あぁ、巨大イカ討伐に参加していた水使いの魔法師だな、あの居酒屋での飲み会は楽しかったよ。よろしく頼む。とはいっても…今回は討伐の補助ではなく、第三魔法師団の指導だがな。」
ハンセルト師団長率いる第三魔法師団も王都防衛戦に参加していた為、オレが三体の魔族を倒した魔法師である事を知っていた。
巨大イカ討伐終了後に、”第三魔法師団に来て、魔法を教えてくれないか。”と言われた事を思い出す。
まさか本気で画策していたとは…
オレはハンセルト師団長と打ち合わせをし、今後の訓練日程を決めた。
「あの、師団長…第三魔法師団で特別強い能力を持った人物は居ませんか?」
シザカンの街に居るという七仙剣の情報を探ってみる。
「ん?高い能力を持つ者は数人居るが…残念だがお前にはかなわないぞ。」
そう簡単に見つかる訳はないかとアルマと顔を見合わせた。
挨拶をして、師団長の部屋を後にした。
「あら、海が見えるのね…なかなか良い部屋じゃない。」
イリエと共に軍の宿舎へと入ると、生活に必要なすべてのものは揃っていた。
どうやらゲストルームのようで、3つの部屋から構成されていた。
「わたしは、こっちの部屋を使うわね。」
「じゃぁ、オレはこちらの部屋を。」
中央の部屋は共同で使用する。
「変な気を起こしちゃダメよ…」
耳元でアルマが囁くが、妻であるアルマの横で堂々と浮気をするつもりは無い。
「あぁ、分かっている。」
「うーん…でも、イリエなら良いかもしれない…かも。」
アルマはそう言うが、実際に何か起きたら絶対に怒る…昔からそういうヤツだ。
「さて、今日は移動で疲れたな…早めに寝るか。」
いつものように、寝る前にアルマに魔力を預かってもらう。
トルナシア時代の記憶を取り戻したが、体はマイトラクスのままなので魔力保有上限は低い。
”光魔法 究極”を発動する事は出来るようになったが、今のままではすぐに魔力切れを起こしてしまう…どうしたのもかな。
そう考えていると…イリエがオレの部屋へと入ってきた。
「マイトくん、良い?」
「あぁ、どうかしたのか?」
「うん、色々考えていたんだけど…わたし、この街でいつものように訓練していたら究極魔法っていうのを使えるようになるのかしら?確かに…水の力を強く感じる事が出来る。でも…それだけなの。」
イリエが焦っている事は手に取るように分かる。
「実は…オレも究極水魔法を知らないだ。見た事もない。」
「え?だとしたら…わたしは、どうしたら良いの?」
オレの言葉にイリエはさらに不安そうな表情を浮かべた。
どう答えたら良いのか分からず、アルマに助けを求める為に部屋の中を見渡す。
が…先程まで居たハズのアルマは姿を消していた。
イリエの不安を自分一人で解決しなければならない。
「実はオレも…魔力保有上限が低すぎて悩んでいる。」
「え?あれだけ上級魔法を使えるのに?」
「あぁ、究魔法というのは、それだけ魔力を使うんだ。イリエ…魔法は強い魔法を使えるだけでは意味が無いんだ。まずは一緒に魔力保有上限を高めよう。」
「マイトと一緒に…頑張るのね。」
イリエはそう言うと、そっとオレの胸に顔を埋めてきた。
「イリエ…追いつめてしまい、すまない。だが、現世で強い魔力を持つキミはとても頼りになる存在なんだ。」
オレはイリエの肩を抱きよせ、そう伝えた。
イリエは顔を上げ、オレの顔を見つめる。
「マイトにとって、わたしは共に戦う戦友なのね。」
「あぁ…大事な戦友だ。」
イリエは立ち上がると、ゆっくりと部屋を出て行った。
「もう…馬鹿マイト!」
頭に強い衝撃を受けた。
「あれ?アルマ…どこに居たんだ?」
いつもより強い尻尾攻撃を受けたオレは振り返った。
怖い顔をしたアルマティアスが腕を組んで立っている。
「もう…ほんと女心を分かっていないわね。」
「いや…イリエを受け入れたら、アルマが怒るだろ!」
「怒るわよ!でも…イリエの気持ちを考えてあげてよ!」
「いやいや、アルマの言う事はまったく分からない。」
そうだった…オレとアルマはこうやって何度も喧嘩をしたものだ。
400年振りにした夫婦喧嘩だろうか…オレは怒りながらも、少し嬉しかった。
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