ザックアリル
「ちょっと…どうして”オレ”になってるのよ?”ボク”じゃないとマイトっぽくないわよ。」
砂漠の街ヤンガノに戻ったオレはイリエと共に軍の食堂に居た。
トルナシア時代の記憶が戻ったオレは、なんだか自分の事を”ボク”を呼ぶのが恥ずかしくなり、イリエに対しても”オレ”を使っている。
「まぁ…ちょっと記憶がね。」
チラリと隣に座るアルマの方を見ながら言うと、イリエは悟ったようだ。
「もしかして…マイト。トルナシア様の記憶を取り戻したの?」
イリエは、なかなか鋭い。
「あぁ、その通りだ。だが、今のオレはトルナシアではなくマイトラクスだ。今まで通りに接して欲しい。」
オレは、そうイリエに伝えるとアルマティアスも大きく頷いた。
ここでアルマティアスが前世のオレの妻だと言おうか迷ったが、アルマに止められた。
こういう時、言葉を発せずとも意思を伝えられるのは便利だが、相変わらずオレはアルマの心を読む事は出来ない。
アルマが一方的にオレの心を読むことは、トルナシアの記憶が戻った今も同じだ。
たぶんだが…天使見習いとしてのアルマの能力なのだろう。
いや…アルマは天使見習いから召喚獣へと降格したのだから、召喚獣としての能力と言うべきか。
「じゃぁ、これからもマイトと呼んでいい?」
申し訳なさそうに言うイリエに対し、少し罪悪感を抱いたのは何故だろうか。
「あぁ、勿論だ…これからも仲良くして欲しい。今、長期休暇中のヤエノにも、そう伝えるつもりだ。」
オレがそう答えると、イリエはとても嬉しそうに笑った。
「トルナシア様と友達だなんて…凄い事よね。」
イリエはオレをじっと見つめながら言う。
まさかイリエが、七仙剣の生まれ変わりじゃないよな…そう思いながら横目でアルマを見ると、首を横に振っていた。
「イリエ…魔王との戦いに備えてキミにはもっと強くなって欲しいんだ。」
もし、イリエが今の上級魔法使いの殻を破り、究極魔法を使える魔導士へと昇格すれば大きな戦力となる。オレはイリエにはその器があると思い、そう伝えた。
すると…イリエは両手で口元を抑えた。目には涙を浮かべている。
しまった…女子を泣かすような事を言ってしまったか…
イリエは涙ぐみながら口を開いた。
「やっと…やっと…マイトくんが私の事を呼び捨てにしてくれたわ。」
え?そんな事で!?
オレが驚いていると、アルマが声を掛けてきた。
「400年経って生まれ変わっても、鈍いところは変わらないわね…」
あぁ、そうさ…前世からオレは女心に鈍い男さ。
何度もアルマティアスに怒られた前世の日々を思い出す。
アルマが森に行きたいと言った時には、訓練をすべく数体の獣を用意した。
アルマを海に連れて行った時、オレは全力で海の魔物”クラーケン”と死闘を繰り広げた。
アルマが美味しい物が食べたいと言った時は、パーティーメンバー全員を引き連れて楽しんだ。
すべて良かれと思い行動した結果…すべてアルマの機嫌を損なう結果となったのだ。
「400年前?」
アルマの台詞を聞いたイリエが疑問を投げかけた。
「私は、400年前にトルナシアが魔王を倒した時のパーティメンバーのうちの一人よ。」
そう答えたアルマの言葉を聞いたイリエが驚いている。
そりゃ、400年も生きているのだから、驚くのも無理はない。
「え?アルマちゃんって、伝説の七仙剣のウチの一人なの?」
博識なイリエには本当に感服させられる。
400年生きた事実よりも”七仙剣”という事実の方がイリエには衝撃のようだ。
歴史に興味を持っていて、様々な文献を読んでいると聞いた事を思い出した。
「そうよ、私は七仙剣のウチの一人。前回の魔王との戦いではトルナシアを失った。今回の戦いでは、決して誰も失いたくないの。」
感動しているイリエだったが、少し間を置いた後…答えた。
「私…もっと強くなりたい。トルナシア様を…マイトを、絶対に死なせたくない!」
思わず声が大きくなってしまったようだ。
食堂に居る軍の関係者が一斉にオレ達の方を向いた。
「すみません…騒がしくしてしまい。」
オレは立ち上がり、周囲に向かい謝罪した。
我に返ったイリエも同じく、立ち上がり謝罪する。
「ごめんなさい。」
ゆっくりと席に座り、イリエは顔を赤らめながら言う。
「イリエとヤエノは人族にとって大きな戦力よ。ただ…魔導士の域まで達する為にはどうしたら良いか分かっていない。」
アルマは唸りながら言った。
「オレには究極水魔法を教えるだけの技量な無いからな。」
そう…オレは自身が開発し、大天使様の助言を得て完成した光魔法を極めたが火魔法、水魔法、風魔法、土魔法といった四大属性魔法は極めていない。
七仙剣が一人、炎の魔導士シイラル。同じく、風の魔導士リズラル。
二人の方が火魔法と風魔法に関しては、オレより数段上の存在だった。
火魔法を得意とするヤエノに関しては、炎の魔導士シイラルの生まれ変わりに教えを乞うのが良いだろう。
が…水魔法を極めた存在をオレは知らない。
アルマも同じように考えていたようで、顔を見合わせて唸り合った。
「わたし…頑張るから!」
そう言ったイリエをオレとアルマは暖かく迎える。
「七仙剣には、水魔法を使う魔導士は居なかったんだ…イリエが水魔法を極めてくれたら、とても助かる。」
「魔導士と言うのは…魔法師よりも上の存在なの?」
オレが伝えた言葉に対して、イリエは質問を投げかけてきた。
「そうよ…七仙剣が失われてから、究極魔法を使う人族が現れなかった為、魔導士という言葉は失われたわ。魔導士とは、究極魔法を使える魔法師の事。つまり魔法師の上位の存在よ。」
アルマティアスが丁寧に質問に答えた。
「イリエには苦労を掛けると思う…が、魔導士になる為の実力を備えている、是非、頑張って欲しい。」
オレがそう言うと、イリエは頷いた。
「わたし…頑張るね、きっとマイトの力になるわ。」
その言葉はとても頼もしく…期待感に満ち溢れた。
「なぁ、アルマ…イリエが魔導士の域に達するにはどうしたら良いと思う?」
「魔法は自然の力を感じ取り、それを取り込み自身の力を得る物…残念だけど、水が少ない砂漠の街ヤンガノの街に居る限りは難しいわ。」
そりゃそうだ…水資源の少ない、この街で水を感じ水に生きる事は難しい。
「それは…困ったわね。」
イリエも落胆し、表情が曇る。
「水資源の多い、湾岸都市シザカンなら…自然の力を取り込みやすいのだけどね。」
アルマが言うと、イリエは決心した顔を見せた。
「わたし…シザカンへの移動届けを出すわ。」
イリエがそう言うが軍内での人事が、そんな簡単にはいかない。
あ…ヤエノの両親ならあるいは…
「どうかしたのか?」
急にそう声を掛けて来たのは…
「ユキアノ…」
オレは突然現れたユキアノの顔を見て驚いた。
何故なら、光の魔導士トルナシアであるオレに気配を感じさせずに近づいたからだ。
そうか…人族の常識を超えた攻撃スタイル。
かつてのユキアノの戦いを思い出すと、合点がいった。
「ユキアノ…あなたは竜騎士ザックアリルだな。」
空中戦を自在に活動するユキアノの姿がザックアリルの姿と重なったのだ。
オレは思わず口にしながらアルマの方を見る。
「正解。」
アルマは簡潔に答えたが、当のユキアノは不思議そうな顔をしている。
「わたしは…ユキアノですが…」
困った…そりゃ、そうだ。
「あなたの前世は、かつて魔王を倒したパーティメンバー七仙剣の一員、竜騎士ザックアリルです。」
なんて言っても頭に???が浮かぶだけだろう。
下手をすれば、こちらの頭がおかしいと思われかねない。
「そうか…アルマも苦労したんだな。」
オレのトルナシアの記憶を取り戻す為に翻弄していたアルマの想いが分かり申し訳なく思った。
「アルマ…どうしたら良い?」
ユキアノの前世の記憶を取り戻すにはどうしたら良いを聞いたが、アルマは言う。
「それが分かっていれば…苦労しないわよ…」
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