最愛の人〜第二章 最終話
ナムーヤ騎士団の部隊に同行する形でボクはデマントの街へと向かっていた。
どうしても、あの白いローブを着たトルナシア様の壁画の事が気になり…キルアスに休暇申請をしたのだ。
キルアスは少し戸惑った顔をしたが、ボクが長期休暇を切り上げてヤンガノ防衛戦に加わっていた事を知っていたので、許可を出してくれた。
「突然、どうしたのだ?」
「えーっと…急に旧友に会いたくなりまして。」
ナムーヤ騎士団長は深く問いたださずにボクを馬車に乗せてくれた。
「キミは本当に突拍子も無いな。」
「なんとも…申し訳ないです。」
ボクが俯きながら答えると団長は笑った。
「王都防衛戦の時に活躍していた子だね。」
一緒に馬車に乗った騎士団の方が話しかけて来てくれた。
「あの時は大変でしたね。」
”活躍していた子”…が、どこまでの事なのか分らずボクは無難に答える。
「オレはあの時、かなりの深手を負ったんだ。それが不思議と癒やされてね。気が付いた時には戦いが終わっていたんだ。とても不思議な体験だったよ。」
この騎士の方は、ボクが広範囲の回復魔法を行使した事に気付いていたのだろうか?
「それは…不思議な体験でしたね。」
目を合わさずに答えた。
「後から聞いた話だと、ある魔法師が魔族を撃退したらしい。あぁ、いつの日か礼を伝えたいな。」
遠くを見ながら、その騎士は言う。
ボクの方を見ながら言わないという事は…やはり気付いていないという事か。
「きっと…伝わっていると思いますよ。」
ボクはその騎士にニコリと微笑ながら言った。
デマントの街に到着した。
やはり、ヤンガノの街と比べて移動に要する時間が非常に短い。
「さっきの騎士は、キミが魔族を倒した人物だという事に気付いているぞ。」
ナムーヤ騎士団長が耳元で囁いてきた。
「え?そうだったのですか?」
ボクは冷静に答えたつもりだが、かなり慌てた様子だった事は間違いない。
「国王様から緘口令が出ているから、はっきりと言えないんだよ。だから間接的にキミにあの日の礼を伝えたのさ。」
ナムーヤ団長の話を聞き、ボクはさっきの騎士が去った方角に向かい礼をした。
自分の気持ちを押し殺してでも、緘口令を守ってくれているのだ。
「マイト、急にデマントに来たかと思ったら、これからどこに行くんだい?」
魔法師団の荷物を運びながら、サビアスが聞いてきた。下っ端だから忙しそうだ。
「うーん、忘れ物を探しに…かな。」
不思議そうな顔をするサビアスとナムーヤ団長と別れ、ボクはまず学園へと向かった。
学園に着くと食堂で妹のサフィアの姿を探す。
「あ、マイトさ~ん!」
ラブラリルの大きな声が響き渡ると、ボクに学生たちの視線が集中した。
ただでさえ、軍服を着ているボクが学園をうろつくのは目立っていたのに、さらに女子生徒から大声で名前を呼ばれたのだ。目立たない訳がない。
ラブラリルに対して、軽く手を上げる。
彼女と一緒に食事を取っていたのはサフィアだった。
話を聞くと二人は結構、仲が良いらしい。
「お兄ちゃんも一緒に食べようよ。」
そう言ってくれるが、ここは学生たちの為の無料の食堂…部外者であるボクが食事を取る訳にはいかない。
「久しぶりだねぇ…あんたが好きだった定食だよ。」
驚いた…食堂のおばちゃんは、ボクの好物を覚えていてくれたのだ。しかも、わざわざテーブルまで持ってきてくれた。
「フフフ…お兄ちゃん、流石ね。」
サフィアは笑っている。
ボクはおばちゃんにお礼を伝え、素直に用意された定食を受け取った。
「ところで…お兄ちゃん、どうしたの?私に会いたくなった?」
「あら…禁断の…」
サフィアのセリフにラブラリルが顔を赤らめながら訳の分からない事を言う。
「うん、なんとなく…サフィアにも会う必要がある気がして…」
「まぁ…」
ボクがサフィアを見つめながら言うと、ラブラリルはさらに顔を赤らめた。
「お兄ちゃん…嬉しい事を言ってくれるわね。」
「ただ…どうしてなのか、ボクにも分からないんだ。」
サフィアに会う為にデマントの街まで来た訳じゃないが、サフィアにも会うべきだと思い、ここに来た事は間違いない。
ラブラリルはニヤニヤしながらボク達を見ている。
「ボクの事を信じて欲しい。」
何故、サフィアに向かい、そんな事を言ったのか…
「私は、お兄ちゃんの事を信じるよ…ずっと…味方だから。」
サフィアは真顔になり、ボクの手を取った。
「二人は、兄妹を超えた絆があるのね。」
ラブラリルは、頷きながらボク達を見つめた。
「そろそろ行かなくちゃ…」
ボクは席を立つ。
サフィアは一瞬、ついて来る気配を見せたが…とどまったようだ。
魔法科を出ると、次は薬師科へと向かった。
軍服を来たボクが歩くと薬師科の生徒達からも視線を感じた。
薬師科の先生の部屋の前に立ち、ノックをする。
「はーい。」
声がして、ドアが開くとそこにはナタリアが居た。
いや…ナタリアがここに居る事は…なんとなくだが、分かっていた。
「マイトさん…いらっしゃい。」
ナタリアはそう言うと、ドアを開けボクを招き入れた。
奥には魔法科長先生が実験をしている姿が見える。
「何か…決心したような顔つきですね。」
「以前…キミと一緒に行った教会に行こうと思う。」
ただボクは心の中のモヤモヤを取り除きたいと思い、行動しているつもりだが…ナタリアにボクはどう見えているのだろうか。
「あの教会への行き方は分かりますか?」
「あぁ…大丈夫だ。」
ボクはそう言い残すと、ゆっくりと薬師科先生の部屋から出た。
部屋に居た時間は短かっただろうけど、ボクにはその時間がとても大切だったかのように思えた。
薬師科を出て、あの教会へと向かい歩く。
教会に入り、思いを馳せた。
「あぁ、ここでナタリアに告白されたんだったな。」
ナタリアの気持ちを改めて考えた。
が…やはりボクは彼女の気持ちを受け入れる事は出来ない。
「ちゃんと断らないとな…」
所々に水たまりが出来、歩きにくい教会内を奥に向かって進む。
太陽は真上から、西へと傾き始めていた。
「ここだ…」
見上げる程に大きな壁画…崩れかけてはいるが、主だった部分は見える。
白いローブを着たトルナシア様の姿は左側に描かれている。
ボクは王様に貰った白いローブを鞄から取り出して羽織った。
すると…急に辺りが白い煙に包まれた。
「なんだ?この白い煙は…あれ?煙たくない…」
煙に巻き込まれたボクは咳き込む事を予想したが、喉に違和感を感じる事は無かった。
目の前の壁画が歪み、ボヤッとした感覚に襲われる。
煙の中に体が浮かぶような…
ボクは目を閉じて、周りに漂う白い煙にすべてを委ねた。体も…心も…
ゆっくりと目を開けるとそこには美しい女性の姿が見えた。
結婚式をしているのだろうか…周りに居る人々が花を巻き上げ、笑顔を見せている。
とても楽しそうだ。
中心に居る美しい女性は、銀色の髪をし…白い肌が際立っている。
(この光景…いつだったか夢で見た事があるな…いや、今も夢なのか。)
美しい女性は、ボクの方に向かい笑顔を見せた。
ピンク色がかった目が…
この特徴的な目…
幻想的でもある…その姿。
ボクはどうして今まで忘れていたのだろうか?
何故?忘れる事が許されたのだろうか?
ボクは彼女の事をよく知っている。
何故なら…彼女は最愛の恋人。
いや…違う。
もう恋人じゃない。
この日、ボク達は結婚式を挙げたんだ…最愛の人…アルマティアス。
美しい魔法師アルマティアスと…魔王討伐へと向かう前にトルナシアであるボクは挙式した。
国王陛下を始め、多くの友人、ギルドメンバーが歓声を贈る。
皆が祝ってくれた…ボクとアルマティアスを。
「やっと…思い出してくれたのね。」
振り返ると、そこには現在のアルマティアスが居た。
うさぎのような召喚獣の姿をしているが、その雰囲気はボクが愛したアルマティアスで間違いはない。
「あぁ…アルマティアス、ボクの最愛の人。」
「トルナシア…」
およそ400年ぶりに…ボクとアルマは泣きながら抱き合った。
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これにて第二章の終了です。
マイトラクスはやっと妻であるアルマティアスの事を思い出しました。
アルマティアスの気持ちを思うと、描きながら泣いてしまいました。
第三章の構想の為に少しの間、お休みします。
再開を待っていただけると嬉しいです。




