王城での待ち時間 2
「ジンハイト!お前…一体どういうつもりだ?」
剣を持つ手を弟のジンハイトの方へと向けたガルハルトが声を荒らげた。
「”くだらねぇ”…オレもユキアノの意見に賛同しただけだ!」
ジンハイトはユキアノと並び立ち、剣を兄であるガルハルトへと向けた。
その時、訓練場の後ろの扉が開く音がする。
「あなた達、何をしているの!」
大きな声がした方を見ると、赤い髪をした女性魔法師が立っていた。
「お母さん…。」
ヤエノがボソッと呟くのが聞こえた。
あの女性魔法師がヤエノのお母さんか…という事は軍の中枢の人物という事だ。
「王城内で何の騒ぎ!?」
ヤエノのお母さんは完全に怒っている。
「ヤエノ、あとは私が処理します。下がりなさい。」
ヤエノのお母さんがそう言ったが下がらず、じっとガルハルトを睨んでいる。
ガルハルトと周りに居た騎士団員も引く気配は無い。
「ヤエノ!”私の言う事を聞きなさい。”と、いつも言っているでしょ。私の指示に従っていれば、あなたは安全なの!」
一般の魔法師とは違う高価そうなローブを纏ったヤエノのお母さんが声を大きくする。
「あたしは…もう大人よ。お母さんに守られるだけの存在じゃないわ!」
「な…何を…。」
娘の怒鳴り声を聞き、ヤエノのお母さんは言葉を失った。
シンと静まり返る場内。
「なんだ、親子喧嘩はもういいのか?お嬢ちゃん。」
ガルハルトがニヤニヤと笑いながら言う。
「お母さん、これは訓練よ。待ち時間に訓練をしているだけ!」
ヤエノがそう叫ぶと、ヤエノのお母さんは額を指で抑えながらよろめいた。
「そうでないとな…」
ガルハルトがヤエノに飛びかかると同時に、周りの仲間も動いた。
ユキアノとジンハイトがヤエノの左右に立ち、ガルハルトの仲間を退ける。
剣と剣が交わる音が訓練場内にて響き渡る。
ボクとサビアスは、戦闘の行く末をじっと見守っていた。
一部の魔法師はヤエノ達の背後に立ち、杖を構えている。ヤエノに危険が迫れば魔法を行使するつもりなのだろう。
炎を纏った魔法剣を振るヤエノが押し、ガルハルトが後に下がる。
「くっ、魔法師のクセになんで剣を使っているんだ?」
「あたしは武器が好きなんだよ!」
そう言いながらヤエノは大きく足を踏み出し、両手で持った魔法剣を下から上へと振り上げた。
カキンッ
ガルハルトが手に持っていた大剣は吹き飛び、空中を舞う。
カランカラン
…乾いた音を立てながら大剣は床を転がり、ジンハイトの足元で止まった。
「ジンハイト!剣をよこせ!」
「兄さん、もう終わろう。」
ジンハイトは、ガルハルトをじっと見つめる。
「オレはマイトラクスに出会って変わった。魔法師と共闘すれば騎士団の力は何倍にもなるんだ。」
「お前…親父は魔法師に殺されたんだぞ!忘れたのか!?」
ガルハルトは、自分の父親が魔法師に殺されたと言う。
その言葉を聞いた魔法師達は…ざわざわと騒ぎ出した。
「忘れていない…だが、あれは事故だったんだ。もう、前を向くべきなんだ。」
「俺は…前を向いている!だから魔法師の怠慢を正さねばならないんだ!」
ジンハイトの説得に耳を貸さず、ガルハルトは自身の主張を続けた。
「もしかして…サッツバルクの息子達かい?」
ヤエノのお母さんが歩み寄り、対峙している二人に声を掛けて来た。
「私の名前は、シュクレツ。あなた達のお父さんに命を救われたメンバーのウチの一人よ。」
「お前が…お前が親父を殺したのか!?」
ガルハルトの目は血走った。
ユキアノとジンハイトが剣を持ち、ヤエノの母シュクレツを庇うように立つ。
「確かに…私はあなたの父親を見殺しにしたのかもしれない。」
シュクレツは、じっとガルハルトを見つめながら言った。
「あの日…私たちは、あなた達のお父さんと共に危険な獣を討伐する為に、西の山へと向かった。」
「順調に、その獣を倒して帰還するところで、さらに大型の獣に出くわしたのよ。目的を果たした後だったので、騎士も魔法師も完全に油断をしていたわ。」
「その大型の獣はとても強くてね…時間が経つごとに一人、また一人と魔法師は魔力切れを起こしてしまったの。私も魔力切れを起こしてしまったわ。」
「その時、騎士達は魔法師を全員、逃がしてくれたのよ。」
「私たち魔法師は一旦、王都に戻り増員して、ふたたび西の山へと向かおうとした時、騎士団が戻ってきたの。その中に、あなた達のお父さん…サッツバルクの姿が無かった。」
シュクレツは、目に涙を貯めながら当時の様子を伝えた。
「やはり、お前たち魔法師が騎士を見捨てたんじゃないか!」
ガルハルトが声を荒らげる。
「話を聞いただろ!魔法師は魔力切れで戦えなくなったんだ。親父たちは魔法師を庇ったんだよ。」
ジンハイトがなだめるような話し方で声を掛けた。
「不幸な話…ただ、それぞれの役割を果たそうとした。魔法師は応援を要請しに行ったのよ。」
話を聞いたユキアノが優しく自分の考えを伝える。
「あぁ!分かっている!分かっているが…」
ガルハルトは大きな声で言うが、その肩は震えている。
「分かっているが…親父を助けてくれなかった魔法師が許せないんだ。」
その声は涙ぐんでいた。
「サッツバルク…あなた達のお父さんは、強いだけじゃない。とても勇敢で優しかったわ。あなた達のお父さんを救えなくて…ごめんなさい。」
ヤエノの母、シュクレツは丁寧に頭を下げた。
「くそっくそっ」
膝をついたガルハルトは床を叩いている…何度も、何度も。
静まり返る訓練場内。
ヤエノはゆっくりと魔法剣を鞘にしまった。
ジンハイトはガルハルトの傍により、小声で何か話かけている。
「ヤエノ…あなた、どうして私たちが忙しい時期に長期休暇を取るのよ。」
あれ?両親と”休暇を合わせる”と以前、言っていた筈だが。
ボクはヤエノの顔を見つめた。
「お母さんには感謝している…でも、私はもう一人でも大丈夫なの。」
「安全な王都内の部隊に私を入れようとしたり、ヤンガノの街が襲われたら私を移動させようとしたり。どうして、何度言っても分かってくれないのよ!」
ヤエノが母親に向かって叫んだ。
「あなたの…娘の心配をして何が悪いのよ!」
今度はシュクレツがヤエノに向かって叫んだ。
てっきりヤエノのお母さんがボクと同じ部隊に配属出来るように手を回したのだと思っていた。
思っていた話と随分と違うのでボクは呆然とするだけだった。
「心配してくれるのは…嬉しい。けど、他の魔法師と同じように扱って欲しい。」
「特別扱いはしないで。私は新入りの魔法師なのよ。」
その時、言葉を発する人物が居た。
「シュクレツ、そろそろ子離れしたらどうだ?」
繊細な刺繍が施されたローブを来た男性が背後から歩いてくる。
「お父さん…」
ヤエノがお父さんと呼ぶ人物はボクにも声を掛けてきた。
「キミがマイトラクス君だね、娘が世話になっているようだな。」
明らかな上官であるヤエノの父親に対し、ボクは丁寧にお辞儀をした。
「その子?その男の子と一緒に居たいから…なの?」
ヤエノの母がそう言うと…
「違う!全然、違う!」
全力で否定するヤエノ。
その、あまりの剣幕で否定するヤエノの姿を見て、ボクは少し落ち込んだ。
ヤエノのお父さんが母であるシュクレツに耳打ちして話をしている。
するとシュクレツの顔はすっと明るくなり、ニコリと笑うのが分かった。
「ヤエノ…頑張りなさい。」
急激なシュクレツの態度の変化にヤエノも驚いている。
一連の雰囲気から、ヤエノのお父さんが良き理解者であるのだと理解したが、一体何を耳打ちしたのだろうか。
「国王様が緘口令を敷いている人物がマイトだと伝えたんだろうね。」
「お母さん、あたしとマイトをくっつけようとするかもよ…どうする?」
いたずらっぽくニヤりと笑うヤエノにボクは全力で否定した。
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二章も終盤となりました。
三章へと続きますので、お付き合いお願いいたします。




