王城での待ち時間 1
昨日の肉屋さんでの喧嘩沙汰は、ほとんど何もしないまま終わったので大きな騒ぎにはならなかった。
それでもヤクトルド騎士団長の耳には入っていたようで、形だけの注意を受けた。
ガルハルトとは関わらないように。と言われたが仕事の都合上、中々難しい注文だ。
明日は王都で会議が行われる。
ヤンガノの街からはヤクトルド騎士団長と、第四魔法師団の代表代理としてキルアスが参加する。
本来、参加すべきエタレナ魔法師団長は、先日の魔族襲来の事があったので街に留まっている。
ボクはヤエノと宿屋で話をしていた。
「ヤエノは実家に行かなくても良いのか?」
「あー、この役目が終わったら長期休暇だから、その時にゆっくり行く予定さ。それよりも明日の会議はマイトは、参加しなくても良いのか?」
「ボクが参加したところで何も変わらないよ。みんなと同じく、城の控室で待機する予定だ。」
「そっか、会議が早く終わってくれれば良いけど…待ち時間は暇になりそうだな。」
「魔族との対抗策を考えるって…無駄な時間になりそうね。」
アルマが現れて、眠たそうにあくびをした。
「マイト、今日の残りの魔力を預かるわ。」
いつものようにボクはアルマに魔力を流し込む。
「一体、その小さな体のどこに魔力を貯めているのさ?」
ヤエノが不思議そうに聞いた。
「私の体内に貯めている訳じゃないわよ。天界にあるクリスタルによ。」
ちゃんと答えてくれたが、ますます分からない。
ボクとヤエノは頭にハテナが沢山付くだけだったが、アルマはこれ以上説明するのが面倒な雰囲気だった。
翌日、10人の集団でボク達は王城へと入った。
商業都市デマント、湾岸都市シザカンからも各10人づつが集まるので、合計30人の大所帯だ。
会議へは、それぞれ2名づつの出席となる。
通された部屋は、以前2回来た時とは違う部屋だった。
とても広い空間で、正面には大きな赤いタペストリーが飾られている。
「ここは王城の中にある訓練場だ。大人数の控え部屋としてちょうど良いのだろおう。」
そう教えてくれたのはジンハイト・アーノルドだった。
「詳しいんだね。」
「あぁ、王城には何度か親に連れられて来た事があるからな。」
「そうか…流石は貴族だな。」
以前は、貴族である事を自慢していたジンハイトだが、今はその様子はない。
軽めの食事も運び込まれ、騎士団、魔法師団共に情報交換が始まっていた。
ヤエノも飲み物を手に持ち、旧友と思われる魔法師と話をしている。
「マイトラクスくんだね。」
突然、知らない人から話しかけられた。服装から魔法師である事が分かる。
そうだと答えると、ちょっと来て欲しいと言われた。
警戒しながらも、その男の後へと続いて歩いた。
先程の広い部屋を出て、男が入った部屋へ続く。
と、中には10人程の魔法師が居て、神妙な顔をして立っている。
先導していた男性魔法師が振り返り、握手をしてきた。
「え?何?」
警戒していた内容とは違う、彼の行動に驚き思わず声を出してしまう。
「やっと、礼が言える…マイトラクスくん、あの時はありがとう。」
困惑して立ち尽くしていると、部屋に居た魔法師達が話し出した。
「オレ達は、王都で働く第一魔法師団と第二魔法師団だ。」
「お礼を言いたかったのに、国王様から緘口令が敷かれてしまって何も言えなかったんだ。」
「今日がチャンスだと皆で話し合ってね、驚かせてすまなかった。」
「わたし、マイトラクスさんに命を救われたの…お礼を言わせて。」
小さな部屋に集まっていた10人程の魔法師が次々と語り出すが、一斉に話すので何を言っているのか分からない方も居た。
魔族からの王都襲撃の際に、あの場に居た方々なのだろう…涙ぐんでいる方も居る。
中には高価そうな魔法石を差し出そうとして来た方も居たが、王様の緘口令に背いた事がバレるかもしれないからと受け取りを断った。
先導を任された魔法師が言うには、もっと多くの仲間が礼を伝えたがっていたが、仕事の都合でこの人数となってしまったらしい。
「みなさんの気持ちは十分に伝わりました。次の魔族襲撃に備えて共に鍛錬を重ねましょう。」
ここで謙遜していたら話が終わらないと思ったボクは、もっともらしいセリフを言い、この場を終えようと考えた。
名残惜しそうに見送られ、先程先導して貰った方と一緒に小部屋を後にした。
「この事は内密に頼む。」
緘口令を破っているのだから当然の依頼だ。
ボクとしても多くの感謝の言葉を伝えられ、悪い気はしなかったので了承した。
訓練場に戻るとガルハルトとヤエノが揉めていた。
昨日の肉屋での件のようだ。
ガルハルトにはヤクトルド騎士団から注意が行っている筈だが、効果は無いのだろうか。
「何故?お前たちが崇めるトルナシア像が無事で、剣聖ザックバーラ様の像だけが魔族に壊されてたのだ?」
ガルハルトは、すでに訳の分からない主張へと移行していた…どうやら建設途中だったサックバーラ像が王都襲撃事件の際に壊されたらしい。
にしても…今日は酔っ払っているようには見えないが…
「剣聖ザックバーラって誰よ?そんな名前、昔話にも出てこないわ。」
ヤエノの言葉にガルハルトと一緒に居た騎士団員も怒りを表す。
「オレ達でトルナシア像を壊してやろうか。」
騎士団が放ったその言葉を聞いた魔法師達が怒りだす。
トルナシアの生まれ変わりだというボクも、像を壊されるとなると気分が悪い。
ガルハルトが剣を取り出すと、ヤエノも魔法剣を構えた。
昨日に引き続き、一触即発の状況となった。
ヤエノが手に持つ魔法剣の炎がいつもより大きく見える。
ガルハルトの仲間と思われる騎士も剣を抜いた。
「落ち着け。」
といった声も聞こえてくるが、とても収まる状況には思えない。
数人の魔法師がヤエノの傍へと近づき、杖を構えた。
「うぉぉぉぉぉ~」
ガルハルトが威圧しながら、ヤエノへと剣を振り下ろした。
ヤエノはガルハルトの剣を魔法剣で受け止める。
と、同時に剣から火魔法をぶっ放した。
その威力にガルハルトが後ろへと下がる。
「ヤエノさんは手を抜いているね。」
いつの間にか隣に来ていたサビアスがボソリと呟く。
「今の彼女が本気を出したら訓練場ごと吹き飛びそうだ。」
ヤエノは距離を取ったガルハルトに対し魔法は使わず、魔法剣を構えた。
ガルハルトは剣を構え、突進した。
右から左からと連続して剣を振り、ヤエノはそれを魔法剣で躱していく。
カキン!カキン!と剣と剣がぶつかる音が訓練場内に響き渡る。
「やぁぁぁ」
その時、ガルハルトの仲間が一対一の戦いに加わってきた。
ヤエノが、その攻撃も防ぐ。
シュシュンッ
高速の太刀筋が見えたかと思ったら、ガルハルトとその仲間が吹き飛ぶ。
「ユキアノ…」
ヤエノの前にユキアノがスッと立つ。
「なんだ?騎士団員のクセに魔法師の手助けをするのか?」
ガルハルトが立ち上がりながら叫んだ。
「くだらない…」
2本の剣を振りながらユキアノが言った。
「なんだと?お前、それでも騎士か?」
「私は私の大切な人を守るだけ。」
ユキアノの言葉を聞いたヤエノが嬉しそうにしている。
すると…ガルハルトの弟であるジンハイトもユキアノと共にヤエノの前に立った。
「お前…」
ガルハルトは…ぎゅっと剣を握りしめた。
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