帰還
「あと、これは明確にしておくが…我々天使族は人族に協力はしない。天使族を危険に晒す訳にはいかないのだ。」
「分かりました…大天使様。」
「あと…そなたがトルナシアの生まれ変わりだとバラしてしまい、申し訳無かった。お詫びに贈り物を授けよう。」
「いえ…この二人には、いずれ話すつもりでしたので。」
「まぁ、受け取りなさい。」
大天使様は、そう言うと空間に手を入れた。
まるで、空中に腕が吸い込まれて無くなったかのような光景だ。
戻ってきた手の中を見ると、そこには青い生物が握られていた。
「あ…あれは、エタレナ師団長の召喚獣だわ。」
イリエがそう言う。が…ヤエノが否定した。
「違うわ…グリルデルより体が小さい。」
「これは今回の魔族襲撃で命を落とした召喚獣の子供だ。人族と違い、子を産む訳ではないから厳密に言えば違うのだが…子供という表現が一番近いだろう。」
大天使様は、そう言いながら青い体をした召喚獣をボク達の側に置いた。
キョトンとした表情でボク達を見つめるその姿は、確かに師団長の召喚獣をそのまま小さくした雰囲気だ。
「キュイィィィ」
ヒスイがグリルデルの子供に声を掛けると、二体は顔を寄せあった。
「私が管理している召喚獣だ…そなた達の手助けになれば良いが。」
「大天使様が召喚獣を管理しているのですね…」
「そうだ。人族には介入しない約束事になっているが、召喚獣は別だ。」
「ヒスイも、大天使様が呼び起こしてくれたのですか?」
「あぁ…緑宝の召喚獣か。アルマティアスに依頼されて、あれを腕輪の宝石から呼び覚ましたのは私だ。」
「ありがとうございました。ヒスイは…緑宝の召喚獣は、一体何なのですか?」
「すまない…緑宝の召喚獣に関しては私も知らない。その子は私が管理している召喚獣では無い。」
「さぁ、行きなさい…ヤンガノの街までは私が送ろう。」
「いや…それは良い…
送ってもらうというのを断る前に、大天使様は空間を歪めた。
目の前が歪み、上下左右の感覚が無くなる。
ぐにゃり…という音が聞こえてきそうな幻覚に襲われる。
ドサッ
「うぅぅぅ。」
到着したと思われると同時にボクは倒れた。
「頭が…おかしくなりそうだ。」
イリエとヤエノ、そしてサフィアも、頭を抱えてうずくまっている。
「うぅ…気持ち悪い…」
「もう…4人とも情けないわねぇ」
アルマが仁王立ちをしながら言う。
「キュイィィ」
ヒスイも何か言っている…たぶんアルマと同じような事を言っているのだろう。
やっと立ち上がる事が出来、周りを見ると来た時にヤエノが目印を付けた岩があった。
あぁ、戻ってきたんだな。と思う。
傍らには、ちゃんとアルマが立っている…怒っているが。
ボクはアルマが傍に居る事が嬉しくなり、ニコリと笑った。
「青い顔して…何を笑っているのよ…」
さっきまで涙ぐんでいたとは思えないアルマのセリフだ。
「マイトくん達が、ぐにゃ~って言ってた意味が分かったわ。」
「便利なのは認めるけど、あたしは二度と体験したくないよ。」
イリエとヤエノも顔色が悪くなっている。
アルマが用意した魔法陣を通った先は、ボクの部屋だった。
いつも、こうやってボクの部屋に来ていたのかと改めて思った。
何時間も天界に居たような感じだったが、思ったよりも時間は過ぎていないようで人族の世界は暗闇に包まれていた。
「色々と話たい事があるけど、今日は寝る事にしようか。」
「そうね…疲れたわ。」
ボクの提案にみんなは賛同した。
翌朝、ボク達はグリルデルの子供を連れてエタレナ師団長の部屋へと向かった。
「ところでアルマ…この子の事は、どうやって説明したら良いんだろう?」
「大天使様に貰ったとは言えないわね。」
ボクとアルマは歩みを止めた。
「ヒスイが連れて来た。と言ったらどうかしら?」
サフィアのアイデアに賛同し、また歩き出す。
エタレナ師団長はグリルデルの子供を見るなり、飛びついて来た。
「えー!?えー!?」
と、言うばかりで混乱しているのが分かる。
「何?どうして?どうして小さいの?」
師団長の混乱は続く。
その間、グリルデルの子供はキョトンとした表情のまま固まっていた。
「師団長…その子はグリルデルじゃないです。グリルデルの子供です。」
「そっか…グリルデルじゃないのか…」
ボクが言うと師団長は少し寂しそうな顔をしたが、すぐに笑顔を取り戻した。
「あなたはグリルデルの子供なのね。」
優しい声でそう言うと、その青い召喚獣の体を撫で始めた。
グリルデルの子供は嬉しそうに尻尾を振っている。
「マイトラクス…ありがとう。ところで、この子はどうしたのだ?」
「突然、ヒスイが連れて来たのです。」
あらかじめ予想していた質問だったので、スムーズに答える事が出来た。
「召喚獣ヒスイよ…ありがとう。」
「キュイィィ」
師団長の感謝の言葉に喜ぶヒスイ。
グリルデルの子供とは、なんだか仲良さそうな雰囲気だ…以前からの知り合いだったのだろうか。
「この子の名前は…なんと言うのだ?」
「決まっていないと思いますよ。」
大天使様も何も言っていなかったし、ヒスイの事を緑宝の召喚獣と言っていた事から察するにと、天使族には召喚獣に名前を付けるという概念が無いのだろう。
「じゃぁ、名前を付けないとな。」
嬉しそうに名前を考える師団長…二人きりにしてあげようと思い、ボク達は師団長の部屋を離れた。
「なんか、良い事をした気分だな。」
ヤエノが言うと、イリエが答えた。
「そうだね、大天使様のおかげだね。」
「ところで…マイトくんがトルナシア様の生まれ変わりって何の話?」
そうだった、その話を忘れていた。
「えっと…ボクには記憶が無いから良く分からないんだけど、アルマや大天使様が言うにはそうらしいんだ。」
周りに誰も居ない事を確認してから答えた。
「ふーん…じゃぁ、これからはマイトラクス様って呼ばないとね。」
「おぅ、そうだなマイトラクス様だ。」
イリエとヤエノが意地悪そうに言う。
「ちょっと、二人ともやめてくれよ。」
ボクが困っているのを見て、サフィアが笑う。
「サフィアちゃんって…トルナシア様の子孫なの?」
イリエの次の標的はサフィアに移った。
「え?…私も実感は無くて…」
困惑するサフィアにヤエノが思いついたように言った。
「なるほど、あんなに凄い魔法を使える理由が分かったよ。」
「じゃぁ、サフィア様だね。」
「おぉ、そうだなサフィア様だ。」
イリエとヤエノが意地悪そうに言う。
「もう、勘弁してくださいよ。」
サフィアは二人をポカポカと叩き出す。
その光景をアルマは何も言わずに、じっと見ていた。
いつものように朝礼に行く。
軍では毎日、この朝礼で一日の役割が分担される。今は街の復興関連の仕事と、水の配給の二班に分けられていた。
「あ、サフィアさん…第五魔法師団がデマントの街に帰るとの事です。」
キルアスが伝えてくれた。
「はい、ありがとうございます。」
サフィアは答えると、段取りを聞き始めた。どうやら明日の朝に出発するらしい。
が、サフィアはその後、水の配給の休憩時間にボクに伝えて来た。
「私…このままお兄ちゃんと一緒に居たい。」
「え?何を言っているんだ?学校に行かないと。」
ボクは戸惑いながら答えた。
「学園に戻るより、お兄ちゃんと一緒に居た方が魔法の勉強になると思うの。」
サフィアは真剣な表情だ。
確かに…サフィアの実力だと、すでに学園で学ぶ事は無いかもしれない。
「サフィア…学園は学ぶためだけに行くんじゃないと思うんだ。ボクは学園に通ったおかげで、イリエやヤエノ、サビアスと出会う事が出来た。そして、そこで貴重な経験を積む事が出来たんだ。」
「軍では得られない貴重な体験もそこにあるんだよ。」
ボクはサフィアを説得する。
「サフィアちゃん…学園の仲間を鍛えてくれない?魔族との戦いには、強い魔法師が沢山必要になるわ。」
アルマの言葉にサフィアは頷いた。
翌朝、ボク達はデマントの街へと戻る第五魔法師団の面々を見送りに来た。
「サビアス…道中サフィアの事をよろしく頼むよ。」
「あぁ、任せてくれ。マイト…元気でな。」
「お兄ちゃん、また遊びに来てね。」
「サフィアちゃん、この紙袋を。」
アルマが見覚えのある紙袋をサフィアに手渡した。
「あ、お兄ちゃんが買ってくれた服だわ。」
「サフィア…忘れていたな。」
サフィアが笑いながら言う。
「色々ありすぎたからね…」
「そうだな、色々あったな…」
ボクも笑いながら答えた。
ヤンガノの街に応援に来ていたデマントからの部隊は、行列を作り砂漠の方へと消えていった。
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