長期休暇 1
ボクが砂漠の街ヤンガノに来てから数ヶ月が過ぎた頃、王国軍立学園を卒業した生徒達が入団してきた。
今回の新人は騎士団へと配属となった10人で、魔法師団への新入団はゼロだ。
その中には野外演習で同じ班だった、貴族のサモアンと二刀流使いのユキアノも居た。
「やぁマイトラクス君、久しぶりだね。」
サモアンが声を掛けてきて、ボクが卒業した後の剣士科の様子を教えてくれた。
どうやら上級組と下級組とで演習場を分けていたのは廃止になったようだ。
貴族出身者と平民出身者で寮と食堂はまだ別のままで差別は残っているが、同じ演習場で訓練している間に少しづつ薄まってきているとの事。
下級組だった、酒好きのドライノア先生やナイサンスール君も元気にしているようだ。
「お久しぶりです。」
ユキアノも声を掛けてきてくれたが、相変わらず口数は少なめだ。
騎士団は女子が少ないからと、イリエとヤエノが話をし始めた。
どこどこの服屋さんに可愛い服が沢山ある。とイリエが言ってもまったく反応が無い。
どこどこの武器屋さんの品揃えが凄い。とヤエノが言うと凄く食いついてきた。流石は戦闘女子だけの事はある。
「ユキアノさん、鎖に鉄球が付いた武器、使った事ある?あたし、この前、武器屋で見たの。」
「見た事はありますが、私、重たい武器はちょっと…でも、鎖鎌には興味があります!」
ヤエノとの会話はとても楽しそうだが、ボクとイリエには、よく分からない内容の話だ。
これは手紙で知った事だが、友人でありキルアスの弟でもあるサビアスも卒業して軍に入った。
新しく設立された第五魔法師団へと配属となり、デマントの街を守っているとの事だ。
デマントに実家のあるイリエがうらやましがるかな?と思ったが、今の寮生活が楽しいらしく、ここで良かったと言っていた。
そうそう、ボクは来月に長期休暇を貰える事になった。
軍では交代で、長期休暇を貰えるシステムになっているらしい。
長期休暇と言っても2週間程で、学園生活をしていた時の半分もないが…
「マイトくん、そろそろ長期休暇ね。」
一緒に夕食を取っているとイリエが休暇の話をしてきた。
「先に取らせて貰って悪いね。」
「いいのよ。わたしは実家の商店が暇な時期に帰りたいから…この忙しい時期に帰ったら手伝わされるわ。」
「あたしも軍に居る両親と休暇のタイミングを合わせるわ。マイト、先に休んじゃって良いわよ。」
イリエとヤエノにも、それぞれ事情があるようだ。
「ところで、長期休暇はどうやって過ごすつもりなの?」
「まずは学園に行って妹に会おうかと。その後、実家のある村に行こうかな。」
イリエの質問にボクは返した。
「そういえば、妹さんに突然、魔力が宿ったんですってね。ねぇ、マイトくんの妹さんって可愛いの?」
妹のサフィアにイリエを会せたら何を言い出すか分からないな…お兄ちゃんをよろしくお願いします。とか言い出しそうで怖い。
「妹にも魔力があるって事は、マイトの両親ってやっぱりどっちかが魔力持ちなんじゃないの?」
両親は魔力持ちでは無いと思うが、先祖は大魔法師のトルナシア様だったらしいのでヤエノが言う事は惜しい。『先祖はトルナシア様で、その生まれ変わりがボクなんだって。』なんてアルマに教えて貰った事を言ったら、頭がおかしくなったかと思われるかもしれないな。
まぁ、ボクも本当かどうか疑っている話なので、言う訳は無いが…
「おーい、聞いてるの?」
二人は顔を近づけてきて、ボクの顔の前で手を振ってきた。ちょっと考え込み過ぎたか。
「あ、うん…妹のサフィアは、可愛いよ。」
「両親は、たぶん魔力持ちじゃないけど、母親の祖父母あたりには魔力があったみたい。」
ボクがそう答えると二人は声を揃えて返事をする。
「おーやっぱりか。」
まったく違う質問の内容だったが、返事のセリフは同じだった。
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イリエとヤエノに見送られて、ボクは商業都市デマントへと向かった。
お昼ごはんを待たせてくれたイリエの優しさを感じる。
砂漠を越える必要があるが、今回は無事に何事もなく通過出来た。
見たこともない強い獣が生息する砂漠は本当に厄介だ。
一旦、王都を経由して馬車を変えてデマントの街へと向かう。
着いた頃には、すでに夕方になっていた。
街は以前とまったく変わらず、夕方でも活気に溢れている。砂漠の街ヤンガノとの違いを大きく感じつつ、早速、王国軍立学園へと足を向けて急いだ。
途中、何人かの住人と挨拶を交わす。ボクの事を覚えていてくれたのだろうか。
学園の魔法科に着くと、ファスマス先生の部屋へと向かった。
「あれ?居ないのかな?」
ノックをしても返事は無く、扉には鍵がかかっている。
演習場の方へと歩いていると、火魔法組の演習場の方から物音が聞こえて来た。
ドドドーーン!
けたたましく鳴り響く物音に不安を感じつつ、中を覗く。
「あ、サフィアだ。」
久しぶりに見る妹の姿は制服のせいか、どこか大人びて見えた。
「お兄ちゃん!」
ボクが演習中に入ると、すぐに気がついたサフィアが駆け寄ってくる。
飛び込んできたサフィアの体を昔のように受け止めたが…
「うっ」
思わず声が出てしまうくらいに強烈なアタックだった。身長もだが体重も増えた事が、その衝撃から分かる。
「久しぶりだね、サフィア。元気だったか?」
「元気よ、元気!お兄ちゃんこそ、倒れた時は心配したんだから!」
サフィアの涙ぐんだ笑顔を見ると、胸が締め付けられるような感情が湧いた。
そうだった…王都防衛戦の後、ボクは魔力切れで倒れてしまったのだ。心配して治療院に駆けつけてくれた両親とサフィアの事を想うと申し訳ない気持ちになる。
「やぁ、マイトラクス君、元気だったかね?」
この声は…ファスマス先生だ。
「お久しぶりです…先生!」
イリエとヤエノと共に元気にしている事を伝え、質問をした。
「ところで、こんなに遅くまで何をしているのですか?」
「キミの妹のサフィア君がね…」
ファスマス先生は言葉の途中で、サフィアの方をチラリと見る。
笑っているサフィアの顔はどこか、気まずそうだ。
「だって…みんなが成長する姿を見るのが楽しくて…。」
どうやらサフィアがみんなを居残りさせて指導をしているようだ。
「マイトさん、久しぶりです!」
この大きく響く声は…ラブラリルだ。
学園生活2年目である彼女は、実力があるがまだ卒業はしなかったのだろう。
彼女とも挨拶を交わし、その周りを見ると40人程の生徒が居た…半分は知らない生徒だ。
知らない生徒は、新入生という事か…
「もしかして…今の学園の生徒って、この40人程だけですか?」
ボクは疑問に思った事を口にした。
「ははは、そうなんだ。この前の卒業検定時に一気に生徒が卒業してしまってね。おかげで軍からは、第五魔法師団を編成する事が出来たと喜んでもらえたが、学園としては寂しい限りだ。」
ファスマス先生は笑いながら言うが、たしかにその表情は寂しそうだ。
「今、サフィア君が先導して居残りの特訓をしている所なんだ。」
「え?サフィアが先導?」
ボクは驚いてファスマス先生の言葉を繰り返した。
「ちょっと…見本を見せていたというか…」
サフィアが苦笑いを浮かべながら言う。
「サフィア、君の魔法を見せてくれないか?」
サフィアに魔力が宿った所を見ていなかったボクは一度見てみたいと思い、そう伝える。
「はーい。」
そう言うと、サフィアは中級の火魔法を放った。
ズドドドドーーン!
中級魔法だがその威力は凄まじく、衝撃波となった爆風がボクの顔を襲った。
そうだった…アルマがサフィアに魔法を教えたと言っていた事を思い出した。
そしてボクと違い、学園で魔力を隠す必要もないサフィアは生徒とは思えない程の力を発揮したのだ。
「お兄ちゃん…どう?」
「うん…やりすぎだと思う…」
額に汗を浮かべながら規格外な妹の顔を見つめた。
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