盗賊団討伐 2
赤竜は血を流しながら、ゆっくりと立ち上がった。
盗賊団が持つ壺の煙により、赤竜はおかしくなっているようだ。
「グォぉぉぉわ!」
赤竜は雄叫びを上げている。
その声は闘争心の表れのようにも、意識を取り戻そうと苦しんでいるようにも聞こえた。
「おい、アルマ…あの煙は一体何なんだ?」
「知らないわよ…盗賊団の力じゃなく、あの壺の力で赤竜を使役している事は確かね。」
「エタレナ師団長!ヤクトルド騎士団長に連絡は取れませんか?」
「マイトラクス、何か考えがあるのか?」
「あの壺さえ壊せば赤竜は大人しくなると思います。魔法師で赤竜を引きつけ、その間に騎士団で壺の破壊を頼めないかと。」
「騎士団に頼むのか…まぁ仕方ない…伝令を出そう。」
話をしているうちに、赤竜は空へと上がり空中で大きく口を開けた。
「来るぞ!」
エタレナ師団長が指示を飛ばす。
「水魔法…氷壁!」「土魔法…土壁!」
魔法師団が防御魔法を展開。
イリエとボクも防御に参加し、炎のブレスを防ぐ。
が、赤竜はそのまま勢いよく魔法師団に向けて突撃してきた。
その目が血走っている事が分かる。
「わぁー、逃げろー!」
誰かが叫ぶと、魔法師団は蜘蛛の子を散らすように、それぞれが思い思いの方へと走り出した。
「イリエ、ヤエノ…行くよ。」
二人はボクの呼び掛けに頷く。
「あなた達も逃げるんだ、早く!」
エタレナ師団長が叫ぶが、ボク達はすでに呪文を展開し始めている。
ヤエノが魔法剣を構え、イリエとボクは杖を構えた。
アルマは空中へと浮遊する。
「火魔法…上級 炎帝の双璧!」
「水魔法…上級 水虎の氷槍!」
「水魔法…上級 絶対零度の氷河!」
「光魔法…上級 聖恨の光線!」
イリエの放った巨大な氷の槍の周りを、ヤエノが放った炎が渦巻くようにして突き進む。
ボクが作り上げた氷河が轟音と共に赤竜を襲う。
さらに…アルマの放った光が空へと舞い赤竜の頭上から降り注いだ。
「ドドドドドーン!!!!」
回避行動が出来ずにボク達4人の魔法の直撃を受けた赤竜は、煙を上げながら地上へと落下した。
いや、回避行動が出来なかったのでは無く、不思議な煙の力により、ただ突撃する兵器となった状態だったからかもしれない。
落下する赤竜の姿を見て魔法師団から歓声が巻き起こる。
「あなた達…あの威力の上級魔法を短時間の間に2回も撃つなんて…一体何者なの?」
「師団長、まだその話をしている時では…」
なんと…赤竜はふたたび立ち上がったのだ。
「なんて、タフなの…」
イリエとヤエノの額からは汗が流れている。
流石のイリエとヤエノも、もう上級魔法を撃つことは出来ない。
王都での魔族との戦いの時は一回が限界だった事を考えると、とてつもない成長ではあるが…
「マイトは…まだ撃てるでしょ。」
アルマが二人だけでも攻めようと、声を掛けてきた。
その時…
後方に居たはずのボクの召喚獣ヒスイが前方に居る事に気づいた。
いつの間に…
「おい!ヒスイ、危ないぞ!こっちに来るんだ。」
そう叫んだ時にはもう遅く、すでに赤竜の間近に居る。
ヒスイから放たれたピンク色の蝶が赤竜の周りを舞っている。
すると…赤竜の動きがゆっくりとなっていくのが分かった。
「ヒスイ…何をしたんだ?」
ボクは驚きながら状況を見ているが、一体何が起こっているのだろうか…
赤竜は広げていた翼をゆっくりと降ろし、その目を閉じてしまった。
「あれは…睡眠状態…」
驚きの表情を見せるアルマ。
ホッとしたのだろうか、イリエとヤエノはその場に座り込んだ。
盗賊団が赤竜の元へと走り寄り、手に持つ壺から不思議な煙を出しているのが見える。さらに必死に何かを叫んでいるようだ。
が…そこにヤクトルド騎士団長率いる騎士団が到着して交戦を始めた。
4人の盗賊団は壺を放り出して騎士団と戦うも力の差は歴然。
やがて騎士団は4人を拘束した。
ボクとアルマは赤竜へと近づく。
「可哀想に、こんなになるまで戦わされて…」
「マイトが攻撃したのでしょ。」
「いや、アルマも攻撃したじゃないか。」
赤竜の前で言い争いをしているが、赤竜はぴくりとも動かず眠っている。
ボクとアルマは顔を見合わせて頷きあった。
「光魔法…超回復!」
二人で赤竜に回復魔法を使う。
身体が大きい赤竜に対しては通常の"回復"では足りないと感じたので"超回復"を行使した。
赤竜の体は癒やされ、傷口が塞がっていく。
召喚獣ヒスイが近づいて来て声を出す。
「キュイイィ」
何となくだが赤竜を心配しているように聞こえた。
ヒスイの声に応えたのか、ゆっくりと赤龍は目を開けた。
そして…傷が癒されている事に気が付いたのか、驚いたような表情をしている。
「もう、自由よ…好きな所へ行きなさい。」
アルマが優しい口調で伝えると、ゆっくりとその巨体を起こした。
背後から魔法師団の叫び声が聞こえて来たが、ボクは振り向かずに周囲に防御魔法を展開する。
赤竜は空を見上げた後、再びボク達を見た。
「グァ。」
短く一声発すると、翼を広げて空へと浮かぶ。
ふたたび空を見ると赤竜は大空へと飛び立って行った。
今回の赤竜盗賊団の討伐では28人の盗賊を捕まえる事が出来た。
騎士団の中に数人、怪我人が出ていたが薬師の力で何とかなるレベルである。
「大成功だったな。」
ヤクトルド騎士団長が声をかけて来てくれた。
「あなた達のおかげよ…でも、色々と聞きたい事があるから帰ったら時間を頂戴。」
ナタリア魔法師団長がニコリと笑いながら言うので、なんだかちょっと怖い。
盗賊団への尋問により、あの壺はリーダー格の人物が全身黒ずくめの男から受け取ったのだと言う。
もしかして魔族から受け取ったのか?と思ったが確たる証拠は無かった。
次にボク達の尋問が始まった。
勿論、盗賊団のように捕まっている訳では無い。が…エタレナ師団長から呼び出されて話をしている。そう…まるで尋問のようだ。
「だから…何故、そんなに魔力が高いんだ!?」
「何故と言われても…日頃の鍛錬です。」
さっきから同じような質問をされ、同じような返答を繰り返している。隣に座るイリエとヤエノが、うんうんとニコやかに頷いている。
「あと…あなたの召喚獣が見た事もない魔法を使っていたが、アレは何だ?」
「何と言われても…アルマのオリジナル技ですかねぇ。」
これはすっとボケるしかない…アルマが伝説の魔法使いトルナシア様から教わった光魔法だなんて言える訳が無い。
「最後にもう一つ…傷ついていた赤竜が突然、復活して飛び立って行ったのは何故だ?」
これも…ボクとアルマが失われた光魔法を使った結果だが、なんと言うべきかな…
「本当、あの赤竜はタフでしたね。あの短時間の睡眠で復活するとは思いませんでした。」
うん、苦しい…苦しい返答だ。
「はぁ…」
エタレナ師団長は溜め息をこぼす。
相変わらず、イリエとヤエノは隣でニコニコと笑顔を見せている。
「そういえば、盗賊団にあの壺を渡した人物は分かったのですか?黒ずくめの男と聞きましたが…魔族かもしれないと思いまして。」
「何?魔族だと?そういえば王都であなたは魔族の姿を見たのでしたね。」
「はい、顔も服装もすべて黒で目は赤かったです。」
ボクが答えるとエタレナ師団長は、その情報を尋問係に伝えてくれる事になった。
魔族が関わっているとなると、話はとても大きな問題となる事は確かだ。
エタレナ師団長は青い顔をして部屋から出ていく。
「さ、部屋に戻ろうか…」
「はーい。」
ボク達への尋問は、"魔族"というキーワードによって無事に終了したのだった…
新年、明けましておめでとうございます。
いよいよ2023年の始まりですね。
新たな時代の幕開け、不安よりも楽しみが上回ります。
この小説を読んでいただける皆様にも幸せが訪れますように。




