軍での訓練初日
訓練初日。
「おい、お前達は一体、何をやっているのだ?」
いつも通り、訓練場の隅で自然界の流れを感じ取っているとエタレナ師団長に声を掛けられた。
片目を空けて、
「心を落ち着かせて、集中力を増す訓練をしているのです。」
と、誰もが納得するような返答をした。
うん、この答えは理解しやすくて尚且つ、もっともらしい。
「お、おぅ、そうか…終わったら皆に紹介するから教えてくれ。」
ボクのナイスな返答に師団長は納得してくれたようだ。
隣には"宝石から出て来た召喚獣、ヒスイ"がちょこんと座っている。何をしているのか分からなかったが、どうやらボク達のマネをしているらしい。
アルマも居るが、魔法師団の人間観察をしているようだ。
「イリエさん、ヤエノさん、そろそろ行こうか。」
「うん、新しい場所だと気の流れも変わって新鮮だね。」
「私は、ちょっと水の流れを感じ取りにくいわねぇ。」
ヤエノとイリエがそれぞれ感想を述べる。
「エタレナ師団長、お待たせしました。」
今日も3人揃ってビシッと敬礼をした。
敬礼を返すと師団長は大きな声を上げた。
「おーい、みんな集まってくれ!」
集まってきた20人程を見て驚いた。
5人の魔法師が召喚獣を連れているのだ。
(召喚術師って、こんなに居るんだな。)
と心の中でつぶやく。
「マイトラクスです!召喚術師です!」
「イリエティーナです!水魔法使いです!」
「ヤエノカシスです!火魔法使いです!」
昨晩、3人で話し合って決めた簡単かつ分かりやすい自己紹介を披露した。いや、披露すると言う程の自己紹介ではないな。
先輩方からも自己紹介をして貰ったが、まったく名前を覚えられない。
「あと、80人程居るが今は水の支給や街のパトロールなどを行なっている。おいおい紹介する事にするよ。」
魔法師だけでも全員で100人程も居る計算になる。
大きな街を守っているのだから当然か。
「では、質問タイムだ。新入り達に何か質問がある者は居るか?」
師団長が挙手を促す。
「この前の王都での魔族との対戦で英雄的魔法師が居たそうじゃないか!何か知っているか?」
一人の細めの体をした魔法師が聞いてきた。
早速、この質問が来たか…
だが、質問内容から考えると、この街にボクの名前などは届いていないらしい。王様が話を抑制してくれているおかげかもしれない。
「おいおい、この子達の事を聞いてやれよ。」
エタレナ師団長の言葉に、みんなが笑い出した。
いや…それボクの事ですが…
チラリとイリエとヤエノを見ると笑った顔が引きつっている。
「あの時は必死だったので…よく分からないです。」
ウソを付くのも嫌だったので適当に誤魔化してその話題は切り抜けた。
「キミの召喚獣は、どんな能力があるのかな?」
召喚獣を連れたピンク色の髪をした女性魔法師が聞く。
「え?能力?」
ボクは真顔で答えると、魔法師の全員が不思議そうな顔をした。
「ねぇ、アルマ…アルマの能力って何?」
「私の能力?しゃべる事じゃないの?」
「しゃ…しゃ…しゃべった!?」
質問をした魔法師だけじゃなく、全員が驚いている。
エタレナ師団長は昨日、驚き済なので冷静だ。
「しゃべる召喚獣…私、初めて見ました。」
「私はピンク色の髪をした召喚獣師を初めて見たわ。」
質問をした魔法師に対してアルマが要らない事を言う。
アルマに話題が集中した事で、ヒスイについては何も触れられなかった。
ヒスイも王様から貰った国宝の腕輪に入っていたと言う、なかなか驚きの子だと思うのだが…そもそも国宝を貰ったなど言えないので黙っておく。
「あなた達から、先輩方に質問はあるか?」
師団長に聞かれたので質問をしてみる。
「他の街の魔法師団にも召喚獣師は居るのですか?」
「召喚術師の殆どは、ここに集められている。」
先輩方に聞いたつもりだったが答えたのは師団長だった。
「師団長である私が召喚術師なのと…まぁもう一つは…」
もう一つ理由があるらしいが師団長は言葉を発するのを途中でやめた。ここは、あまり突っ込まないでおこう。
「あの、ここでの仕事内容を教えてください。」
流石はイリエ…と思ったが、確かに最初に聞くべき質問だな。
「住民に水の提供、街のパトロール、戦闘訓練。」
主にこの3つをグループに別れて活動するんだよ。
背の高い真面目そうな魔法師が答えてくれた。
「あの、水魔法が使えない場合は?」
ヤエノが心配そうに質問をした。
「君は火魔法使いだったね、稀に火の提供を依頼される事もあるけど、ほとんど無いかな。まぁ、順番待ちの誘導係だ。」
笑いながら答えられたヤエノは少ししょんぼりとした表情になった。
「よし、他に無ければ質問タイムは終わりだ。あとは訓練をしながら分からない事をその都度聞いてくれ。」
手を叩いてエタレナ師団長は解散させた。
「私は水魔法使いが集まっている所に行ってみるね。」
「じゃぁ、私は火魔法使いの所へ。」
イリエとヤエノを見送ると、召喚獣ヒスイと目が合った。
じゃぁ、召喚獣が集まる所に行ってみようか。
アルマとヒスイを連れて召喚術師5人が集まる場所へと移動した。
「こんにちは、白いウサギさんと、緑の…」
先程のピンク色の髪をした女性魔法師が声をかけてくれる。
「ウサギじゃないわよ!」とアルマが怒る。
「ごめんなさい、私はピスハイム。よろしくね。」
自己紹介をしたピスハイムが手を差し出すもアルマはツンとそっぽを向く。
まったく、すぐに怒るんだから…いつものようにボクはピスハイムに謝った。
「よし、では誰からやる?」
師団長が声を上げると、ピスハイムが手を上げた。
どうやら召喚獣同士を戦わせるらしい。
ピスハイムの召喚獣は、角の生えた馬のような姿をしている。
対する召喚獣は、二本足で立つ茶色い獣だ。
「よし、始めっ!」
茶色い子は、すごいジャンプ力で空中に体を浮かせると落下速度を利用してキックを放った。
寸前のところで回避する角がある馬。
次は馬が突進して体当たりを試みる。
が、これを茶色い子はジャンプでかわした。
と…思ったが馬は角から竜巻を発生させる!
空中で茶色い子は竜巻に巻かれて地上へと落下した。
「そこまで!」
師団長の声を上げると、茶色い子の召喚術師と思われる方が駆け寄った。
「次、誰か行くか?」
「ん?」
ボクが何も言っていないのに、ヒスイがスタスタと前へと出ていく。
おい、大丈夫なのか?
ボクはヒスイの目を見ると、向こうからもジッと見つめ返された。
うん…何を考えているのか、さっぱり分からない。
「では、俺の召喚獣と。」
小太りの召喚術師が名乗りを上げると、ゴリラ型の獣が前へと出た。
(うわぁ、強そうだなぁ)
ボクは心の中で思うと、心配そうにヒスイを見る。
ヒスイもこちらを見たが、相変わらず無表情だ。
アルマを見ると、ボクと同じように心配している様子だ。
師団長の始めの合図に先に動いたのは、なんとヒスイの方だった。
少し後方へと飛び跳ねると、ピンク色の目を光らせた!
ピンク色の目からは…蝶が現れた。
それも、何匹も…何十匹も…いや、何百匹!?
ピンク色をした蝶が一目散に相対するゴリラ型の子に向かって舞う。
そして…そのまま通り過ぎて行った。
「え?」
ゴリラ型の子もキョトンとして動きが止まっている。
相手を硬直させる蝶だったのか?と思ったが、すぐにゴリラ型の子は動き出した。
ヒスイに向けて走り出すゴリラ型の子。
そして逃げるヒスイ。
「え?」
そう、ヒスイは颯爽と逃亡を図ったのだ。
周りからは笑い声が巻き起こった。
ゴリラ型の子の召喚術師もお腹を抱えて笑っている。
アルマも呆れている。
「はい、終了!」
師団長が声を出すと、ゴリラ型の子の召喚術師が止めに入ってくれた。
「まぁ、最初だからな…」
師団長は頭を掻きながら、次の相手を募った。
「じゃぁ私が行くー。」
手を上げながらアルマが出ていく。
ゴリラ型の子がそのまま残って相手をするようだ。
開始の合図が叫ばれる。と、アルマは…いきなり挑発した。
怒ったゴリラ型の子は、突進して大きな腕を振り下ろす。
それをヒョイとかわすアルマ。
振り下ろされた腕が地面にぶつかると地響きが鳴った。
「水魔法…中級 氷結!」
振り向いたゴリラ型の子の頭上にアルマが放った氷の塊がぶち当たる。
「あぁぁぁぁぁー。」
ゴリラ型の子の召喚術師が頭を抱えて叫んだ。
「ちょ、ちょっと、なんで召喚獣が魔法を使うのよ!」
「ストップ、ストップ!」
エタレナ師団長が慌てて止めに入った。
ゴリラ型の召喚獣は目を回して倒れている。
「みんながヒスイの事を笑うのが悪いのよ。」
「おい、アルマ…次からはせめて初級魔法にしてくれ。」
ボクはゴリラ型の子の召喚術師に謝罪を繰り返した。
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