学園への復帰
ナタリアと二人並び王都からデマントの街へと向かう馬車に揺られる。他にも乗客は居るが皆、静かに過ごしている。
「ナタリアさん、ごめんね。ボクの看病の為に学園を何日も休む事になっちゃって。」
「良いんですよ、魔力切れで倒れた患者さんをどう扱えば良いかの勉強になりましたから。」
そうは言ってくれたが、ただ寝ていただけのボクの看病など勉強になる訳が無いと思う。
もしかして、服を脱がして体を拭いてくれたりもしたのだろうか?
想像してみたら、なんだか恥ずかしくなってきた。
「マイトさん、どうかしたのですか?顔が赤いですよ。今日は結構涼しいと思うのですが…」
熱でもあるのかとボクのおでこにナタリアは手のひらを当ててきた。
いや…大丈夫だから…
「ところでナタリアさんは、将来どうするの?」
話を変えると共に気になっていた事を尋ねた。
「私は将来、軍の治療院で働こうと思って学園に入ったのです。」
「だけど…薬の開発研究も楽しくて、どうしようか迷っているところなのです。」
真剣な顔で話すナタリア。
確かに、どちらも重要だし、やり甲斐のある仕事だ。
的確なアドバイスなど出来る筈もなく、沈黙となった。
「なので…もうしばらく学園に残って先生の下で学びたいと思うのです。」
ナタリアはボクに向かい、笑顔でそう伝えた。
「うん、どちらを選んでも立派な仕事だと思う。」
ボクはありきたりな返答しか出来ず、不甲斐なさを感じた。
デマントの街に到着すると、ボクは一人の兵士に声をかけられた。
「ありがとう!君のおかげで俺は助かったんだ。」
「あの時、大怪我をしていたのに不思議な暖かい光を感じて…怪我がいつの間にか治ったんだ。城壁の上を見たら君が大きく手を広げていてねぇ。」
「次に真っ白な光が広がったと思ったら、3体の魔族が消滅したんだ!いやぁ、凄かったよ。」
手を握られて語られるので、逃げようがない。
「あの…王様から話が来ると思いますが、その話はご内密に…」
ボクが言うとその兵士は、困った表情を浮かべながら言う。
「えー、もう何十人と話してしまったよ。」
「とにかく、君は俺の命の恩人だ!何か困った事があれば何でも言ってくれ!」
大きな声で言うので、周りには人だかりが出来てきた。
参ったな…あまり目立ちたくないのに…
と、急にボクは手を引っ張られた。
「マイトさん、走りましょ!」
小脇に抱えていた国宝の腕輪をしっかりと持ち、ナタリアに引っ張られて走り出す。
「ちょ、ちょっと、ナタリアさん速いよ。」
そうだった、ナタリアの足はとても速いのだった。
なんとか逃げ切って、学園の入り口へと着いた。
「ちょっと…あなた達、なに手なんか繋いじゃっているのよ。」
久しぶりに再会したイリエだが、とても怖い顔をしている。
隣に立つヤエノはニヤニヤと楽しそうな笑みを浮かべる。
ラブラリルが口元を両手で隠し、ジッとこちらを見ている。
「マイト…悪いが二人きりの時間は終わりだ。復帰祝いの準備が出来てるから、一緒に食堂に来てくれ!」
サビアスの言葉を聞き、慌ててナタリアと繋いでいた手を離す。
「いや、違うんだ…コレには訳が。」
イリエは、相変わらず怖そうな顔をしている。
他の3人はニヤニヤと楽しそうだ。
「あら…違ったのですね…」
ナタリアが顔を両手で覆いながら言う。
「ちょ…ちょっと…誤解されるじゃないか…」
ボクが慌てるのを見て、ナタリアは笑いだした。
「呼んでますよ。行きましょ。」
スタスタと先を歩いていくナタリアの後ろをボクはついて行った。
「おい、何か良い事があったのかい?」
サビアスが小声で聞いてくる。
「何も無いよ…むしろ困った事の方が多いくらいだ。」
食堂に着くと…くす玉が割れ、大きな音が鳴り響いた。
「マイトくん、退院おめでとう!」
何人いるのだろうか…食堂内に居た生徒たちが一斉に大きな声で叫ぶ。
火薬の匂いもする…一体、何が起こっているのだろうか。
魔法科の生徒だけでなく、薬師科、剣士科の生徒の姿も見える。
本来あるはずのテーブルと椅子は無く、生徒で埋めつくされた食堂。
「マイトラクスくん、お疲れ様。よく戻ってきたね。」
「ファスマス先生!」
ボクは久しぶりに先生の顔を見て、ホッとした感情を持った。
もう…本当のおじいちゃんのようだ。
他の先生方からも賛辞の言葉をいただく。
「先生方、実は王様からこんな物を頂いてしまいまして…」
ボクは集まっていた先生方に"国宝、魔力増加の腕輪"を見せた。
「ほぉ、これは美しい。」
「なんと立派な。」
「素晴らしい…流石は国宝。」
「引き込まれるようじゃ。」
先生方から思い思いの感想が出る。
「で、この国宝を預かってはいただけませんか?」
ボクが言うと急に無言となり顔を見合わせる先生方。
「いや、私はあまり部屋に居ないからな…」
「自分の部屋の鍵は壊れているから…」
「私は物をよく無くしてしまう癖があるので…」
「俺は、すぐに道具を壊してしまうのじゃ…」
それぞれが言うと先生方はボクの側からサッと離れてしまった。、
いや…ボクの寮の部屋に置いておくのが一番不用心だと思うが…
「そうだ、イリエさん。商会の金庫とかに…」
「何よ、都合の良い時だけ頼らないでちょうだい!」
イリエは、まだ怒っているようだ。
なんか凄い勢いで持ってきた食べ物を食べている。
「しばらく声を掛けない方が良いわよ。」
ヤエノが笑いながら耳打ちをしてくる。
「今回はお疲れ様、凄い活躍だったね。」
剣士科のナイサンスールとその仲間達。
薬師科のナタリアの友達達。
魔法科のみんな。
それぞれが沢山の言葉を掛けてきてくれた。
が、やはりその中には「次、魔族が来た時もよろしく頼むよ。」という声もあった。
次も魔族が現れた時に倒す自信は無い。
今回もアルマが居なかったら、まったく抵抗出来なかっただろう。
ん?アルマは?全然出てこないな。
ボクは早めに退散して、久しぶりとなる自分の部屋へと戻った。
「おーい、アルマ。居ないのかー?」
声を上げるも現れる気配は無い。
何だろう?とても広く感じるな…この部屋。
なんか疲れた。
少し…眠ろう。
ペシッ
「ん?」
何だ?何かに顔を叩かれたような…
ペシッ
フワッとしたこの感触は…
「アルマじゃないか!?」
「お久しぶり…寝坊助マイトさん。」
寝ている隙に急に現れるとは…
「一体…どこに行ってたのさ?」
「ちょっとね…鍛えていたのよ。」
アルマの体を頭から尻尾まで見てみたが、筋肉がついたようには見えなかった。
「ちょっと…ジロジロ見ないでよ…エッチ!」
「いや…エッチて…」
「鍛えていたのは私の体じゃないわよ、キミの妹よ。」
「え…妹?サフィアの事?」
「キミに妹は一人しか居ないハズよ。手紙に書いてあったでしょ、魔力が芽生えたって。」
「あー、じゃあボクに対して行っていたような訓練をしていたのか?」
「そうよ、サフィアちゃん、なかなかの魔力持ちよ。」
「そうか…サフィアがねぇ。」
ボクは何だか嬉しくなってニヤリと笑った。
「余裕かましてたら、抜かれちゃうわよ。」
「サフィアもトルナシア様の生まれ変わりなのかい?」
「違うわよ、先祖である事は間違いないけどね。」
「そうか…」
サフィアが成長する姿を想像すると嬉しい気持ちになる。
が、魔族とサフィアが対峙する姿を考えると不安で堪らなくなった。
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