決戦に向けて
王都で受け取った号外を握りしめて、デマントの街へと戻った。
わざわざ攻めてくる日を知らせてくるなんて、どういう意味があるのだろうか。
魔族の考える事はまったく分からない。
とにかく、手に入れた杖を使ってみようと王都から帰る足でボク達は魔法科の演習場へ向かった。
魔族襲来が現実味を帯び、皆じっとしていられなかった事もある。
イリエとサビアスが杖を振るい上級魔法を放つ。
ラブラリルは上級魔法を使う事は出来ないので中級魔法を放つ。
学園に入ってまだ数ヶ月なので、中級魔法を使えるだけでも十分に凄い事だ。
「魔力の消費量を抑えられる気がするわ。」
イリエが杖を使った感想を述べた。
「ボクはこの杖を持つ事によって、魔法の発動時間が短縮したように思うんだ。」
サビアスは喜んでいる。
「私は発動魔法の攻撃力が増した気がします!」
ラブラリルも嬉しそうだ。
ヤエノは火の魔法剣を振り下ろすと同時に詠唱を唱える。
ボンッ
剣の先から火の球を発射させた。
「タイミングが難しいけど、下級魔法を中級魔法レベルの威力で出せるようになった!」
魔法剣を使う事で魔力の効率化を図れるようだ。
下級魔法の消費魔力で中級魔法が放てるとは、かなり効率がいい。
「みんな!良かったね!」
ボクはみんなが嬉しそうに笑い合う姿を見て、ただ嬉しかった。
「マイトくんはどうなの?」
みんなが聞いてきた。
「うーん、それが良く分からないんだ。」
「この杖との相性が良い事は感じるんだけど、消費量、発動時間、破壊力、どれも変わった気がしないんだ。」
「魔族襲来の日まで、時間は無いけど色々と試してみるよ。」
ボクは首を傾げながら、みんなに状況を説明した。
そこに…
突然ファスマス先生が現れた。
「君達、王都に行ったのじゃなかったのか?休みの日に…熱心だな。」
「先生こそ、今日は休みですよ。」
「それが…大変なんだ。皆さん、落ち着いて聞いて欲しい。」
「先程、王城から連絡が来て、魔族が”攻めてくる日”を知らせて来たと言うのだ。」
「はい、1週間後ですね。」
ボクはそう答えると、王都で貰った号外の紙を先生に渡した。
「何と、王都では市民に知れ渡っているのか。パニックになっていなければ良いが…」
「王都の市民は意外と冷静でした。前回の魔族襲撃でも壁を突破されなかった事が大きいのでしょう。」
ボクは王都の状況を報告した。
「前回、壁を突破されてしまったデマントの住人は心配ね。壁は修復されたけど、完璧では無いし…」
「そうだね、住民に知らせたらパニックにならないかなぁ。」
イリエとサビアスが心配そうに言う。
「でも、住人に知らせる事で疎開するとか、色々と手を考える事が出来るのではないでしょうか?」
「うん、そうだね。私もちゃんと知らせた方が良いと思う。」
ラブラリルとヤエノが意見を述べた。
「そうだな、住民を信じよう。」
「学園を避難施設として役立てる準備をするんだ。明日、剣士科と薬師科の先生と段取りを相談するよ。」
「君達、くれぐれも無理をしないようにしてくれ。」
ファスマス先生も大変なのにボク達の事を気遣ってくれた。
「今日は、帰ろうか。」
先生の言う通り、休む事にしてボク達はそれぞれの家に帰宅した。
「ねぇ、アルマ…魔族は一体何を企んでいるんだい?わざわざ攻撃する日を知らせてくるなんて…」
「分からないわ…よっぽど自信があるのかも知れないわね。」
「アルマの力で止める事は出来ないの?」
「出来る訳ないでしょ…私は関係ないから。でも…もうマイトの力を抑える必要は無いかもしれないわね。」
夜、今日の分の魔力をアルマに提供しながら、ゆっくりとした時間を過ごした。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
翌日、魔法科、剣士科、薬師科の先生、そして騎士団長が集まり、今後の対策を話し合っていた。
生徒達にも魔族が攻めてくる日は伝えられたので、落ち着きが無い。
自分達に出来る事は何か、お互いに話し合っている。
恐怖を感じているだろうに魔法科の生徒達だけを見ると、とても前向きな姿勢だ。
先生達の話し合いの結果、"魔族が攻めてくるという日"を信じるけど、奇襲の可能性も考えて早めに住民に避難を促す事が決定された。
主に薬師科棟と剣士科棟の半分を避難所として解放されるとの事だ。
薬師科より依頼を受けて避難所の設営を手伝う事になった。
薬師科の生徒数は剣士科の1/3しかおらず、ボクたち魔法科に応援を要請するのは当然だ。
「マイトさん、この木を切って貰っても良いですか?」
ナタリアに頼まれて、風魔法を応用して木を切る。
以前、故郷の村で木を切るコツを掴んでいた事が役立った。
他の薬師科の生徒達からも次々と依頼が来る。
ナタリアも薬師科の生徒達も楽しそうだ。
ただ…
不安な気持ちを取り払う為に無理に笑っているかのように見えた。
ボクも…同じだから…皆と一緒に笑い合った。
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後日、ボクは久しぶりにナムーヤ様と会う事になった。
「お久しぶりです、ナムーヤ騎士団長。」
「マイトラクス君、話は聞いたよ、王城で召喚獣を繰り出して暴れたんだって。心臓に悪いから無茶はしないでくれよ。」
確かに…召喚術師が召喚獣を使うのだから、ボクが暴れたと言われても仕方ない。
ボクの場合は、召喚獣でもないアルマの制御などまったく出来ていないのだが。
「ふ…不可抗力でして…」
バツが悪そうに答えると、ナムーヤ様は笑った。
「一つ、聞いても良いですか?」
ボクは改まって質問をする。
「ナムーヤ騎士団長は剣士ですが、魔法師に対して凄く理解があると思うんです。王都では魔法師トルナシア様の像に対抗して、剣士の像が建設されていました。」
「なるほどな…」
「オレは子供の頃に魔法師に助けられた事があったんだ。だから…オレは魔法師に憧れてね、子供の頃は将来、魔法師になりたいと思っていたのだよ。」
ナムーヤ様は紅茶を一口飲むと話を続ける。
「だが、残念ながら両親のどちらかに魔力が無い場合、その子供にも魔力が無いという事実を知ってしまってね。オレは剣の道へと入ったんだ。あの時オレを助けてくれた魔法師みたいに誰かを助けたい。職業など何でも良いと考えたんだ。」
「だからオレは職業に偏見を持たないし、魔法師の事を尊敬しているんだ。
なるほど。と納得すると共に、ナムーヤ様を助けた魔法師に感謝しないとな、と思った。
「ただ、君が感じている通り、剣士の中には魔法師に偏見を持つ者は多い。それはね、自分達の利権や名誉心から来る非常に厄介な問題だ。簡単には無くならないと思うぞ。」
「ご助言ありがとうございます。」
ボクはお礼を言い、その後は街をどうやって防衛すべきかを語り合った。
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魔族が攻めてくる日の前日、家族から手紙が届いた。
お父さん、お母さん、妹のサフィア…ボクの事を心配をしてくれている。
けど、帰って来て欲しいといったような文面は一切、書かれていなかった。
「自分の力を信じて!」
その言葉が心に残り…思う存分に戦おう。と決意した。
魔族と戦う決心を手紙に書き留める。
この手紙が家族に届く頃には魔族との決戦は終わっている事だろう。
あれ?
そういえば…今夜はアルマが居ないな…こんな事、今までに無かった。
一体どうしちゃったのだろうか。
ボクは決戦の日の前に不安な夜を過ごした。
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いよいよ魔族から襲撃を予告された日、ボクは朝から正門付近の壁の上に立っていた。
ナムーヤ様率いる第十騎士団が正門の前に立つのを見つめる。
ファスマス先生率いる魔法科の生徒”第五魔法師団”も街を囲む壁の上に立つ。
学園の剣士科の生徒達は、街の南側に陣どった。
薬師科の生徒達は、空になった街にて待機している。
が…時間だけが過ぎ、まったく魔族が来る気配が無い。
本当にこの日に来るのだろうか…
すると…王都の方から煙が上がった。
「ん?なんだ…」
煙に気が付いた生徒達から徐々にざわめきが起こる。
「伝令!伝令!王都が物凄い数の魔獣に襲われているとの事!」
しまった…魔族は王都攻め一本に絞ってきたんだ!
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