ふたたび王都へ
ボクとヤエノが遅めの昼食を取る中、イリエはお茶を飲みながら話を切り出した。
「ねぇマイトくん、さっきの私の上級魔法どうだった?」
「うん、とても綺麗な魔法だったよ。詠唱から発動までも早かったし、十分、実戦で使えると思う。」
上級魔法は詠唱から発動までの時間がかかるのが問題点だ。
イリエが時間短縮をする練習を繰り返していた事は知っていた。
「それで、どうかな?連続して発動できるようになった?」
「連続なんて無理よ。時間を空けて、やっと一日に2回撃てるぐらいね。」
「私もそのぐらいが限界だよ。」
「うーん、ヤエノもかぁ。魔族との戦いになった時、連続して使えないとなると、使い時を考えないとだね。」
上級魔法は魔力の消費量が激しいのも課題だ。
魔力保持量の上限を増やす事が出来れば良いのだが、いつもの訓練以外は増やす方法が分からない。
薬師科で上限を増やす薬を開発中との事なので期待したい。
「カミュアもサビアスも似たような魔力量かな。マイトだけ別次元だわ。」
ヤエノが付け加えて言う。
「ヤエノはもっと魔法剣の練習をして、ここぞと言う時に上級魔法を使うのはどうだろう?」
「そうだな、魔法剣の練習は怠っていたな。使えるようになると、手札も増えて楽に戦えるようになるかも。練習するようにするよ。」
「ねぇ、わたしはどうしたら良いかな?」
イリエがニコニコと微笑ながらボクに尋ねる。
「うーん、イリエの家の商会に良い杖が入ってきたりはしないのかい?」
「魔法の杖は貴重品だからね、ほとんど見かけないわ。わたし一つ持ってはいるのだけど、あまり効果を実感できないの。」
「その杖との相性が悪いのかもしれないね。」
「昨日、王都で気になる水晶を見つけたんだ。王様が褒美にくれると言ってたけど…どうなるかな。」
「あぁ、怒らせちゃったからなぁ」
ヤエノが口を挟んだ。
「でも、王様なんだから一度言った事は守るんじゃないかな?」
「そうだ、イリエと相性が良さそうな魔法の杖を王都に探しにいこうか。」
「お、デートのお誘いかい♪」
ニヤニヤとヤエノが笑う。
「いや、ヤエノさんも一緒に行こうよ。街に詳しくて助かるから。」
ボクは自分の顔が赤くなっている事を必死に誤魔化した。
「そうよ、ヤエノも一緒に行ってくれると助かるわ。あと、サビアスくんも誘いましょうよ。」
イリエも慌てた様子で言う。
「そうなると…ラブラリルもついてきそうだね♪」
ヤエノとイリエがニンマリと笑っている。
「え?二人とも、サビアスくんとラブラリルさんが付き合っている事を知っているの?」
「あ、マイトくん、やっと気付いたんだ。」
ボクは正直に自分で気付いたのではなく、本人達から伝えられた事を話した。
~~~~~~~~~~
カッサリル師団長が国王様に学園の生徒達の事を正しく伝えてくれたらしく、王国軍立学園の魔法科は、王国軍の第五魔法師団に任命された。
ファスマス先生が師団長だ。一応、魔族に対抗する為の臨時という事になっている。
異議を唱える勢力を抑えるための理由付けだろう。
学園では、上級魔法を使える生徒を増やすために、イリエ、ヤエノ、カミュア、サビアス、そしてボクが指導を行っている。
ただ、アルマが言うには上級魔法を使えたとしても一発で終了してしまうのなら、連続して撃てる中級魔法の強化に取り組むべき。との事。
たしかに実戦を想定している為、その意見は正しい。
生徒達は上級魔法を使えるようになりたい。という希望もあったので、時間を区切って訓練を行うようにしている。
センスはあっても魔力不足で発動出来ない者、逆に魔力は豊富にあっても集中力が足りずに発動出来ない者、自然の流れを掴み取れない者、それぞれ居るので一人一人に合わせた訓練を施す事にしている。
「ねぇ、マイトくん。次の休みに王都に行きましょうよ。」
「そうだね、2日間休みが続くからチャンスだね。」
イリエの誘いに乗り、ヤエノ、サビアス、ラブラリルと共に杖を探しに王都へと行く事になった。
そう話をしていた日に、ファスマス先生から呼び出された。
「やぁ、マイトラクス君、よく来たね。」
「昨日、会議の為に王城へと行っていてね、そこで君が要望していた水晶の杖を預かってきたよ。」
思わず、出されたお茶を熱いまま飲み込んでしまい慌てた。
「あ、ありがとうございます!」
ボクは先生から上部に美しい水晶がついた、魔法の杖を受け取った。
うん、あの武器屋で眠っていた水晶で間違いない。
この懐かしい感じは何だろうか。
渡された杖を持つと、全身から魔力が溢れような気持ちになる。
「ところで先生、王城での会議は、どうでした?」
「うむ、我々の第五魔法師団はやはり、ここデマントの防衛を。という事になった。」
「第九騎士団と第十騎士団の2つで構成されていたデマント防衛騎士団は、第十騎士団のみが残る事なった。隊長はナムーヤ君のままだ。」
「そして学園の剣士科生徒もデマント防衛騎士団を手伝うようにとの指示だ。」
「第一から第五騎士団、そして第一と第ニ魔法師団が王都の防衛」
「第六、第七騎士団、第三魔法師団が東の湾岸都市の防衛」
「第八、第九騎士団、第四魔法師団が南の砂漠都市の防衛」
「そして、デマント防衛騎士団である第十騎士団と我々で商業都市デマントの防衛だ」
「ここ、デマントの防衛が一番、人数が少ないのですね。」
「街の大きさも人口も一番小さいからな。」
「なるほど、それは仕方ないですね。とにかく、最善を尽くせるよう頑張ります。」
~~~~~~~~~~
休日、イリエ達と王都へと向かった。
魔法の杖を探しに行く事をファスマス先生に伝えたら、先生からお勧めの店を紹介された。
ボクはサビアスの実家に泊めて貰える事になった。宿代が浮くのでありがたい。
イリエとラブラリルは、ヤエノの実家に泊まる事になっている。
「マイトくんの魔法の杖、見せてよ。」
イリエが言うのでボクは受け取ったばかりの杖を渡した。
「魔力が増すという実感は無いわね。」
やはり”杖”と”持つ人”との相性というのは、とても大事なようだ。
ヤエノ一押しの肉料理店で昼食を取った後、ファスマス先生が紹介してくれた店を巡る。
が、なかなか思うような杖は見つからなかった。
「さっきの店の杖、良かったかもしれないけど…」
「私も、どういった杖が自分に合うのか分からないわ。」
サビアスとラブラリルが頭を悩ませている。
「そうだ、マイトくんがその水晶を見つけた武器屋さんに行ってみましょうよ。」
「あー、あのムカつく店員が居るところかー。」
イリエの提案に、ヤエノはちょっと気が乗らないようだったが、他の3人が行きたいというので行く事になった。
杖を探している3人が行きたいというのだから仕方ない。
「いらっしゃいませー。」
あの時の店員さんが声を掛けてきた。と、次の瞬間…
「あー、君はあの時の、その水晶…間違いない。」
「あの次の日、王城からの使いの人が来て、その水晶を買ってくれたんだよ…オレの言い値で。君は一体、何者なんだい?」
「魔族から人族を守る希望の召喚術師よ。」
ヤエノが自慢気に伝えるが、ボクはとても恥ずかしい気持ちになる。
「何!?魔族からオレ達を守ってくれるのか?それは…この前は悪い事をした。」
「サービスするから、なんでも言ってくれ。その水晶でだいぶ儲けたしな。」
店員さんは豪快に笑う。
「魔法の杖を探しているんだ、何か良い品は無いかい?」
ボクが頼むと、奥の方から杖を何本か出して来てくれた。
「ここは武器屋だから、あまり魔法師は来ないんだよ。杖はあまり売れないんだ。」
埃をかぶった杖をイリエ、サビアス、ラブラリルが品定めをする。
「あ…コレは…。」
サビアスが言うと杖に装着されていた水晶が心なしか光った気がした。
「うん…コレは良い杖だ。」
試しにラブラリルが、その杖を手に持ったが何も感じないようだった。
が…違う杖を持つと…顔つきが変わった。
「わたし…コレにします。」
美しいエメラルドグリーンの宝石が取り付けられた杖だった。
残念ながらイリエは良い杖を見つけられなかったが、二人は自分に合った魔法の杖を得る事が出来た。
「明日、また探そうよ。」
ボクは言い、今夜は分かれる事になった。
サビアスの実家へと二人で向かう。
良い杖に出会えなかったイリエだが、ヤエノとラブラリルと3人で楽しそうに歩いていった。
あらかじめ、サビアスが実家にボクの訪問を伝えておいてくれていたので、豪華な夕食が並んだ。
それともサビアスの家では、いつもこんなに豪華なのだろうか。
楽しく談笑しながら、いただく夕食の時間はとても平和だった。
サビアスの両親はとても優しい。お兄さんが軍に所属しているとの事で、お兄さんの話もよく聞かせてくれた。
あぁ、本当に魔族は襲ってくるのだろうか。
ボクはそう思いながらも楽しい時間を壊したくはないと思い、魔族の話は一切出さなかった。
サビアスも同じ思いだったのだろうか、魔族の話を切り出してくる事は無かった…
翌朝、待ち合わせの場所に行くと、イリエが嬉しそうな顔をして杖を抱いている。
「え?その杖、どうしたの?」
ボクが聞くと、イリエが満面の笑みを浮かべて言う。
「ヤエノのお母さんに貰ったの!とてもしっくり来たわ!」
「いやー、そう言えば家に沢山、杖があったのだったわ。お母さんに杖を探している事を言ったら、売るほど出て来たよ。先に言えば良かったな。」
ヤエノが大きな口を開けて笑う。
ボクとサビアスは顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。
と、その時…大きな声が聞こえてきた。
「号外~!号外~!」
「魔族が襲撃日を王城に伝えてきたとの事!号外~!」
ボクは、その号外を受け取る手が震えているのが分かった。
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