デマント防衛戦 1
デマントの街が大型の獣に襲われたと聞き、野外演習を切り上げて馬車に乗り込むボク達。
他の馬車も急いで街へと向かっている事が窓から見える。
行きの5人に加えて、薬師科長の先生も同じ馬車に乗り込んだ。
「先生、何か情報はありませんか?」
ボクが問うが先生も何も分からないようだ。
ただ…先生、生徒、全員が野外演習に出てしまっている事は確かで、学園長のみが学園に残っているという。
「デマントの街は石垣により外敵から守られています。ナムーヤ隊長率いる騎士団も居るし大丈夫だと思うのですが。」
先生は祈るように言葉を並べた。
「私たちは、街の住人を学園へと誘導すれば良いのですね。」
剣士科の女子生徒、ユキアノが先生に聞く。
「そう聞いているわ。ただ、どういった状況かまったく分からないの。」
緊迫した状況に全員が押し黙り馬車内は緊張感で溢れた。
馬車からデマントの街が見えてきた。
「け…煙が上っている。」
剣士科生徒、ザンバラスが窓の外を食い入るように見る。
「あの煙は…王国へ助けを求める煙だと思うわ。」
先生がそう言ってボク達を落ち着かせた。
馬車内に赤い魔法陣が描かれる。
突然、出現したアルマの姿に馬車内に居た生徒達が驚く。
「嫌な気配がするわ。」
「あ、驚かせてごめんなさい。ボクの召喚獣のアルマです。」
「マイト…魔獣よ。他にも嫌な気配がするわ…心して。」
アルマは完全に他の生徒達を無視している。
「おい、何なんだ魔獣って?」
剣士科の生徒達が質問をしてきた。
先生とハンサーノ君はその存在を知っているようで、硬直している。
「何って…アレよ。」
アルマが指を刺した先には、デマントを囲む石垣の上にへばりつく巨大な赤いトカゲの姿をした獣が居た。
「ぶぉ~~~」
赤いトカゲの雄たけびが、馬車にまで響く。
恐れを抱いた馬が歩みを止めたので、ボク達は馬車から降りて走って街へと向かう事にした。
「一体なんなのよアレは…」
ユキアノが不安そうな顔を浮かべている。
他の馬車に乗っていた学園の生徒達も同じように馬車から降りて街へと走っている。
「おーい、マイトー!ラブラリルー!」
近くの馬車に乗っていたのだろうか、サビアスが駆け寄ってきた。
合流して、一緒に走る。
「おい、あの赤いトカゲのような獣は何だ?」
サビアスの質問にアルマが魔獣だと答えた。
が…理解できていたかは分からない。
裏門からデマントの街へと入ると、人々が混乱していた。
荷車を引いてオロオロとする男性、我が子を探す女性。
そして泣き叫んでいる子供。
正門の付近を見ると…街の石垣が壊されている。
「みなさん、落ち着いてください!」
薬師科長の先生が叫ぶが、大騒ぎで混乱している住人、誰の耳にも入っていないようだ。
「ラブラリルさん、頼む。」
「みなさーん、学園に!王国軍立学園に向かってください!」
ボクの依頼に応えて発したラブラリルの大きな声に、街の人たちは立ち止まった。
「すごい…」先生が呟く。
「ボクが皆さんをお連れします。」
薬師科のハンサーノ君が先陣を切って学園へと向かってくれた。
「ボクとラブラリルで、この場で皆さんを誘導するよ。」
サビアスが誘導係を請け負う。
演習場から戻ってきた学園の生徒達も続々と集まり、誘導を始める。
「じゃぁ、ボクは状況の把握に向かうよ。」
「オレ達も行くぞ。」
ボクと剣士科の3人、そして薬師科長の先生とで、前線へと向かう事にした。
「学園に向かってください!」
泣き声と叫び声が響き渡る中、ボク達はそう叫びながら赤いトカゲが見える方向にむかって走る。
前線に着くと、ナムーヤ様と騎士団が魔獣達と対峙していた。
魔獣”達”…そう、魔獣は赤いトカゲ、一体だけではなかったのだ。
固そうな甲羅を持った大型の亀。
大きな角を持った巨大なサイ。
3体の魔獣と対峙している騎士団は、すでに何人かが負傷している。
ナムーヤ様がこちらをチラリと見てきた。
「君たち、逃げたまえ!」
「と、本来は言うべきところだが見ての通り、危機的な状況だ。」
「戦える者だけで良い、手伝ってくれ。」
プライドのある騎士団長がこう伝えるという事は、言葉の通り危機なのだろう。
「オレ達防衛隊は、剣士のみで構成されている。」
「あの固い甲羅を持った亀とは特に相性が悪い。魔法師の力が必要だ!」
ナムーヤ様が叫ぶ。
「おっちょこちょい先生!魔法科の生徒達をこちらへと誘導してください。」
「私は、そんな名前じゃないわよ!でも、分かったわ。人選を魔法科の先生に依頼してくる。」
薬師科長の先生の名前を知らない事に気付いたが、今はそれどころではない。
「マイト、あの亀は…火に弱そうよ。」
「了解、アルマ!」
ボクはそう言うと、空中に赤い魔法陣を浮かべた。
「召喚獣展開~三つ首の炎竜」
火魔法を駆使して2本の脚から竜の形を形成していく…胴体…2本の尻尾…そして3つの首を形作った。
頭の先から尻尾の先まで炎が渦巻いている。
大きさは対峙する魔獣、大型の亀と同サイズだ。
「な…なんだ、これは?」
ナムーヤ様をはじめ、騎士団の方々が驚愕している。
付いてきた剣士科の3人も驚いた表情を見せる。
「亀型の魔獣は、ボクの召喚獣が引き受けます。皆さんで、あの角サイと赤いトカゲをお願いします。」
「わ、分かった!」
ナムーヤ様は、そう答えたが赤いトカゲが先に動いた。
止まっていた石垣を離れ、街へと歩き出した。
赤いトカゲを包囲するように騎士団がけん制する。
が…連動するように、次は角サイが動き出した。
「ダメだ、人数が足りない!」
角サイは包囲陣を突破して、街の中心へと歩き出した。
「くそっ、まずはこのトカゲを倒すぞ!」
ナムーヤ様が号令をかける。
一体、一体を確実に仕留める作戦のようだ。
ボクも自分の役割で精一杯の為、角サイの事まで見る事は出来ない。
巨大亀への攻撃を開始する。
召喚獣の首の1本を巨大亀の顔へとぶつける。
が、亀は首を甲羅の中へと引っ込めて躱されてしまった。
一緒だった剣士科の3人はボクを庇うように立ち、防御陣形を作っている。
よく訓練されている事が分かる。
「悔しいがオレ達では、この亀を倒す術が見つからない。せめて守らせて貰う。」
ザンバラスが引きつった顔をしながら言う。
巨大亀が首を出したところで、
もう一度、召喚獣の首の1本を顔へとぶつけようと仕向けたが、先程と同様に引っ込められた。
「あの防御力は厳しいわね。」
ユキアノが呟く。
右側からは、赤いトカゲと騎士団が戦っている声が聞こえてくる。
「あちらも厳しそうね。」
よそ見をする暇がないボクに代わり、アルマが状況を伝えてくれた。
そこに、イリエ、ヤエノを始めとする魔法科の生徒、何人かが走ってきた。
「ごめんなさい、誘導に手間取って遅れてしまったわ。どういう状況?」
「相手は3体だ。まったく楽勝ムードではないが、この亀の足止めは出来ている。」
「隣の赤いトカゲも騎士団が今のところ抑えている。」
「あと一体、大きな角を生やしたサイを街中に放ってしまった。みんなは、そいつを退治してくれないか?」
ボクが作り上げた召喚獣もどきを見た魔法科の生徒達は、大きな口を開いたまま動けずにいる。
「イリエ、ヤエノ、頼んだ!角サイは街の中心方面に向かって行った!」
「みんな行くわよ!」
ヤエノの声に触発されて、魔法科の生徒達は走り出した。
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