新年度恒例の試験
厄介な伯爵のご子息が出ていった後、ボク達は学園長先生とファスマス先生に謝罪した。
特にファスマス先生は見てすぐに分かるくらいに疲労している。
学園長先生もどうしたものか。といった雰囲気だが、剣士科の言い分がおかしいという認識は持っていてくれているようだった。
学園長室を後にしたボク達は、ファスマス先生の部屋へと行き、そこで今後の対策を考える事にした。
まずは、その伯爵家について聞いてみる。
「ヤザナス伯爵は代々、剣術に優れた家系の貴族なのだよ。確か彼のご令兄も何人かこの学園を卒業したはずだ。特に問題を起こすような生徒は居なかったと思うが。」
そう言い終えるとファスマス先生は、はぁ…と、ため息をこぼす。
「伯爵というのは、貴族の中でも上位なんだ。多分、この学園で伯爵の称号を持つのは彼だけだな。」
サビアスが教えてくれた。
住む世界が違う為まったく興味の無かった貴族。
その中にも順位がある事をボクはこの時、初めて知った。
「ところで先生、あの剣士科の先生は何なんですか?」
「あー、ヤザナス伯爵家はこの学園の剣士科に寄付をしててだね、あの先生は直接、伯爵とも面識がある筈だ。伯爵に対して、良い顔をしたいのだろう。」
「あの態度からして、あのバカ息子に取り入れようとしているのは明らかだ。」
ボクの問いに、少し声を荒げながらファスマス先生は答える。
「剣士科の先生方と魔法科の先生方の関係も…よく無さそうですね。」
イリエの言葉に、さらにファスマス先生は肩を震わせる。
「今年度、新入生の為の寮の空き部屋が足りなかった事は言ったよね。剣士科寮に空きがあるのを知ってたから、そこに入れてくれないかと頼んでみたんだ。」
「そしたら、空きは無いと言われてね…空きがあるのを調べていたから聞いたのだがね。」
ファスマス先生は、ついに座り込んでしまった。
先生も苦労しているんだな、と思ったが口には出さずに飲み込んだ。
「剣士科寮なんかに、ウチの新入生を住まわせなくて正解だよ!」
サビアスが机を叩きながら言う。
「はぁ、それにしても…なんであんな厄介なヤツが上位貴族なんだよ。」
ヤエノの言葉に全員がうなずく。
「森の奥に連れて行って、消し炭にしましょう。」
アルマがとんども無い事を言い出したので、ボクは焦りながらなだめた。
「そうだ…貴族には貴族よ。カミュアくんに相談してみましょうよ。」
イリエが良いアイデアを出してくれた。
いまだ疲れた表情でいるファスマス先生に挨拶をし、ボク達はカミュアを探しに出た。
そういえば…昨日は顔を見なかったな。
今期、まだちゃんと授業が始まっていないから、来ていないのかもしれない。
食堂や演習場を探しても居なかったので、寮へと行ってみる事にした。
「そういえば、カミュアくんの部屋って普通の部屋なのかしら?」
イリエが尋ねる。
「ボクとサビアスくんの部屋の間取りが同じだから、一緒なんじゃない?」
ボクは答えた。
カミュアの部屋は寮の最上階だった。
呼び鈴を鳴らし、部屋から出て来たのは、知らない男の人だった。
「お坊ちゃま、お客様のようです。」
「おや、君たちかい、久しぶりだねぇ。散らかっているけど入ってくれたまえ。」
振り返り様にメガネの装飾が美しく輝く。服装も部屋用とは思えないほど、きらびやかだ。
カミュアの部屋に一歩入ると…ボクの部屋とは全く異なっていた。
大きさ、壁紙、床面、すべてが違う。
出迎えてくれた男の人は付き人との事で、ボク達にお茶を入れてくれた。
爽やかな香りが漂う、なんとも高級そうなお茶だ。
カミュアは長期休暇中に両親と温泉地へ旅行に行っていた事を明かし、旅の思い出話をしてくれた。
旅の出発時の出来事から始まったので、少し長かったがボク達はうなずきながら話を聞いた。
「そうだ、キミたちにお土産があるんだよ。」
そういうと美しく輝くブレスレットを人数分、渡してきた。
これにはね、魔力を増強する力があるんだ、アイザラス地方で取れる不思議な石がはめ込まれているんだよ。
「わぁ、嬉しい!」イリエとヤエノが喜ぶ。
ボクとサビアスも顔を見合わせた後、「カミュアくん、ありがとう。」と伝えた。
アルマが「私のはー?」と聞いていたが、忘れていたようで笑って誤魔化されていた。
「ところで…」
ボクは本題を切り出した。
「実は、困った事が昨日、起きてね…」
手振りを交えて、ヤエノ、イリエ、ボクと代わる代わる説明した。
「キミは…毎年、剣士科の生徒とトラブルを起こすんだねぇ。」
カミュアが笑いながらヤエノに言う。
ヤエノは顔を赤くしながら、
「だって…アイツらが…」と文句を言いたそうだったが、途中で言葉は詰まっていた。
「相手が、ヤザナス伯爵の子息となると…オレには難しいな。」
「なんたって、オレの家より上位貴族だからねぇ。」
ボク達4人は、肩を落とした。
「が、まずは相手を調べる事が基本だ。」
そう言うとカミュアは手紙を書き、付き人の男性に手渡した。
「力になれるかどうか分からないけど、やれるだけの事はやってみるよ。」
頼もしいセリフを吐くカミュアの手を取り、ヤエノは礼を伝えていてた。
強気な態度ではいるが、自分が発端で友達や先生を巻き込んでしまった事に罪悪感を感じているのだろう。
この日は解散し、イリエは自宅へ、ボク達はそれぞれの部屋に戻った。
「ねぇアルマ…貴族って何なんだろう?」
「知らないわよ。ただ…昔からあるわね。」
「アルマって、一体、何歳なの?」
「レディに年齢を聞くもんじゃないわよ!」
尻尾で顔を叩かれたのは久しぶりな気がする。
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翌日は、講堂に魔法科の生徒全員が集められて、昨年と同じように先生方の紹介が行われた。
そして実技試験へと入る。
新入生の力を見るのと、在校生の力の確認がこの試験を行う意味だ。
在校生は、火魔法組、水魔法組、風魔法組、土魔法組に分かれて演習場へと向かった。
今年度もボクは、一つの組に所属しないでも良い事になっている。
先生方が話合った結果、その方が魔法科全体の役に立つと判断してくれたらしい。
新入生の様子を見る事にしたボクは、最初に新入生達が試験を行う土魔法組の演習場へと入った。
後ろからゾロゾロと30人の新入生が続いて歩いてくる。
演習場で在校生が中級魔法を連発させている事に驚く新入生。
中には自信ありそうな顔をしていた生徒も居たが、口を開けたまま固まっている。
「さて、次は新入生諸君の番だ。よろしく頼む。」
土魔法組のナズーム先生が大きな声をあげて促す。
誰も歩み出さない中、一人の小柄な女子生徒が前に出た。
「土魔法…砂弓!」
初級魔法だが、なかなか良い魔力の流れをしている。
最初に放たれた魔法が初級だったからか、安堵の表情を浮かべた新入生達が入れ替わり初級魔法を放っていく。当然だが、全員が初級魔法だ。
一緒に見ていたサビアスも「最初の女子生徒が一番良さそうだね。度胸もある。」と小声で言う。
その後も、風魔法、水魔法、火魔法、それぞれの演習場を新入生達と一緒に回った。
どこの組でも在校生が中級魔法を放っていて、新入生達はその光景を目を輝かせて見ていた。
最後の火魔法組の演習場での試験が終わったところで、ボクはファスマス先生に言った。
「先生、実は一つ提案があるのですが…」
「なんだね?」
問われたボクは、ヤエノに水魔法組に居るイリエを呼んで来るように伝えた。
「魔法科の演習は、それぞれ個々の演習にこだわり過ぎている気がするんです。」
そう伝えると、ボクは呪文を唱えた。
「火魔法…火鞭」「水魔法…水鞭」
左手から火を右手から水を放つ…火の鞭と水の鞭はお互いに絡み合いながら進むと渦を巻き起こす。
どぉーん。
初級魔法では出せない威力で、ターゲットに置かれた岩山を砕いた。
パチパチパチ「素晴らしい。」先生が言うと共に、在校生、新入生含め、みんなが拍手を送ってくれた。
「ただ、こんな芸当はマイトラクス君にしか出来ないと思うぞ。」
そこにイリエを連れてヤエノが戻ってきた。
「確かに、2種類以上の魔法を同時に放つのは、今のところボクにしか出来ないですね。」
「では、ヤエノさん、イリエさん、お願いします。」
「火魔法…中級 炎の槍!」
「水魔法…中級 氷の槍!」
ヤエノが火魔法をイリエが火魔法を同時に放った。
2本の槍が交わり炎と氷が交わり合い…1つとなった事で巨大な槍と化す。
どぉーん。
静まり返る、演習場。
イリエと一緒に来た、水魔法組のドレイク先生が口を開いた。
「すごい…」
生徒たちから拍手が巻き起こる。
「こんな事が出来るなんて…」
「中級魔法がまるで上級魔法クラスの威力だ…」
それぞれが思った事を口々に呟いている。
「マイトラクス君…参ったよ、私の負けだ。各組の合同演習について、先生方と協議する事にするよ。」
ファスマス先生は負けと口にしているが、その表情は輝いていた。
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