故郷への帰還 1
懐かしい村に着いたハズだったが、村はまったく違う雰囲気を醸し出していた。
大量の木材が使用された柵が一面に立てられている。
高さは3メートル程あるだろうか。
村をぐるりと囲むように設計されているようだ。
一年程前に旅立った時とはまるで違う光景に、もしかして違う村に来てしまったかのような錯覚に陥る。
馬車を降り、デマントの街から一緒だった家族と別れを告げた後、ボクは両親と妹が居る実家へと向かった。
街の外側から見る印象はまったく違っていたけど、村の中は以前とまったく変わっていない。
ホッとしながら村の南側にある家へと急ぐ。
懐かしい我が家は、木材で出来た小さな家だ。
バンッ
勢いよくドアを開けて「ただいま!」と叫ぶ。
が…いつもは居るハズのお母さんの姿はどこにも無かった。妹のサフィアも居ないようだ。
どこに行ったのだろうか。
ボクはアルマを呼び出した。
「お母さん達が居ないんだ。どこに行ったか分からないかい?」
「私は便利な道具じゃないわよ…」
そう返される。
この辺りに人が居る気配は感じないとの事なので、とりあえず村長さんの家へと向かう事にした。
行きは気づかなかったが、よく見渡すと村人が少ない。
村長さんの家に着くと、先程まで馬車で一緒だったあの家族と村長さんが外で話をしていた。
「あー、マイトくん、おかえりー。伝言を頼まれていたのだった。お父さんもお母さんも向こうに居るから行っておいで!」
ボクに気がついた村長さんは、伝言を伝えながら村の北側を指差した。
「たぶん、近づけば分かるよ。」
その言葉に背中を押され、ボクは村の北側へと歩き出した。
トントン、トントントンッ
すると聞き慣れない音が聞こえてきた。
「あれ、マイトくんじゃない。久しぶりだねぇ。」
近所に住むおばさんが声を掛けてくれた。
すると…次々と村人がやってきてボクを取り囲んだ。
懐かしい顔が沢山だ。
村で学校に通っていた時の友達も笑顔で声をかけてきてくれる。
「マイト!」
ボクはやっとお母さんに会う事が出来た。
「お兄ちゃん!」
妹のサフィアが飛んできてボクに抱きついた。
「こんな所で何をしているの?」
ボクが尋ねると、
「みんなで村の周りに柵を作っているんだよ。北の方の村が大きな獣に襲われたと聞いてね。村長さんが王国に掛け合ってくれたのさ。」
後ろから来たお父さんが教えてくれた。
見るとこの村の人では無い人の姿もある。
王国の街の建築士の方々であろうか。指揮をとっているようだ。
村の正面から見た時は完成しているかのように思えたが、裏はまだ出来ていなかったのだ。
「そうなんだね、ボクも手伝うよ。」
アルマと一緒にボクは手伝った。
が、木を切るのは結構難しかった。
切った木は風魔法を使いながらアルマが運ぶ。
それを繰り返す。
「なんだ?この奇妙なウサギは…しっしっ」
アルマの事を知らない王国の人が手で追い払う仕草をする。
それを見たアルマが空中を指差す。
「水魔法…水球」
ざばぁーーーん
王国から来た建築士は、頭から水を被り全身ビショビショとなる。
顔を真っ赤にした王国の人は、アルマを追いかけ始めた。
長い尻尾を振りながら逃げるアルマ。
その二人を謝りながら追いかけるボク。
作業場に笑い声が響いた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
一日の作業が終わり、ボクは家族と共に実家へと帰り、学園での出来事を話続けた。
両親は、夕飯の準備をしながら聞いてくれる。
食卓に料理が並んだところで、ボクはサフィアにイリエから貰った服を渡した。
「へぇ〜お兄ちゃんてば、彼女ができたの?」
「いや、ち、違うよ。と、友達だよ。」
両手を振って否定する。
「ふーん、動揺しているわね。」
「うん、動揺しているわ。」
サフィアとお母さんがニヤニヤと口元を緩めながら言う。
お父さんは知らんフリして珍しくお酒を飲んでいる。
「イリエは、凄いお金持ちなんだ。そんな家の子と友達になれただけでボクは幸運だよ。」
お母さんとサフィアは顔を見合わせ、
「残念なマイト(お兄ちゃん)。」
と大きなため息を吐きながら口を揃えた。
アルマも大きく頷いている。
お父さんは黙ってお酒を継ぎ足した。
翌日からも、ボクは"村の囲い"を作る手伝いに加わった。
「風魔法…風刃」
風の刃を小さく生み出して、木を切る。
が、細やかな作業の為、なかなか難しい。
村に住んで居た頃は、人前で魔法を使うことを避けていた。自分だけが使えていたので、変わった子と思われるのが嫌だった為だ。
が、皆に祝福されて学園へと旅立ったからには、魔法を隠すどころか、魔法を使って村のみんなの為に役立つ方が喜ばれるのでは。と考えるようになっていた。
「うーん、壊す事に魔法を使うのは簡単だけど、作る事に魔法を使うのって難しいな。」
「そうね、より集中力を使う事になるわ。」
ボクの問いにアルマが答える。
「運搬に使う風魔法も木材を一気に運ぼうとすると、広範囲が突風に見舞われて大変なことになってしまうわ。」
「うーん、うーん」
向かい合って唸り続けるボクとアルマ。
すると大柄な男性が覗き込んで来た。
「何を唸ったんだ?腹でも痛いのか?」
覗き込んで来たのは、王国から来た建築士で"親方"と呼ばれている人物だった。
親方は昨日の騒動の後、アルマが親方を熱風魔法で乾かし、ボクとお父さんが謝った事で許してくれた。
ちなみにアルマは乾かしはしたものの一切、謝ってはいない。
ボクは親方に、うまく魔法で丸太を切れない事、効率良く切った木材を運べない事で悩んでいると話した。
すると…しばらく考えた後、親方はこう言った。
「魔法の事は良く分からないが、オレ達は道具を使って木を切り、木を運ぶんだ。見てみるか?」
ボクとアルマが親方に付いて行くと、様々な道具を見せてくれた。
あ…あれは…
「おぅ、これはな。このL字型に合わせると綺麗な線が引けるんだ。」
親方に促されて、ボクもこの道具を使わせて貰った。ほんとだ、すごく綺麗に線を引く事が出来る。
ボクはL字型の板を二つ作り、背合わせに並べた。そして、その中央部分に風魔法"風刃"を取り付ける。
切る丸太の上まで"風魔法…風刃、安定板付き"を空中に浮かせて運び…書かれた目印に合わせすと、ボクは風刃を大きくした。
ザンッ
一瞬で切られる丸太。
うん、切断された断面はとても綺麗だ。
親方と共に他の建築士達も集まってきた。
「ほぉ、これは大したものだ。」
親方が指示を出し始めた。
「お前たちは、全員で丸太に線を引くんだ。」
「オレは村人に頼んで切った木材をロープで結んで貰う。」
「アルマちゃん…だったかな。ロープで結んだ木材をまとめて飛ばせるかい?」
「出来るに決まっているじゃない。」
アルマは自信満々な態度で答えた。
親方の指示の元、流れ作業がおこなわれた。
王国から来ている建築士達が丸太に線を引いていく。
その線に合わせて、ボクが"風魔法…風刃、安定板付き"を空中で舞わせて切っていく。
切られた木材を村人達がロープで結ぶ。
ロープで纏められた何本もの木材をアルマが風魔法でひょいと持ち上げて設置場所まで移動させる。
運ばれて来た木材を、村人達が一本づつ立たせてロープで縛っていく。
「こりゃ、早いな!」
親方は喜んでくれた。
建築士さん達、村人達の中にも笑顔が広がった。
「お兄ちゃん、凄いね!」
お昼ごはんの支度を手伝っていたサフィアが走り寄って伝えてきたので、ボクは何だか照れ臭かった。
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