卒業検定試験 1
王国軍立学園 魔法科に通い始めて、もうすぐ11ヶ月が経過しようとしていた。
一年に一回行われる卒業検定試験が間近という事で演習場は活気に満ちている。
演習前に集中力を高める訓練は、すでに先生方指導の元で行われる授業の一環となっていた。
ほぼ全員が中級魔法を使えるようになっていたので、ボクも隠す事なく中級魔法を使っている。
そして、最近はアルマも学園に一緒に来ている。
一時、演習中に上級魔法を使った事で話題になったアルマだが、もうその出来事を覚えている生徒は居ないだろう。
卒業検定試験まで目前と迫ったある日、ボクはファスマス魔法科長の部屋に呼ばれた。
「今回は、ちょっと相談があって呼んだんだ、マイトラクスくん。」
そう言いながら出されたお茶は甘い香りがしていた。
「ちょっと熱いから気をつけて飲んでくれたまえ。」
確かに、熱かったが美味しいお茶だった。
アルマは熱いのは苦手と言い、水魔法で少し冷ましてから飲んでいた。
「さて本題だが…卒業検定試験の事なんだけどねぇ。毎年、中級魔法を使えた生徒に卒業資格を与えていたんだ。」
「ただ、今年は中級魔法行使で卒業とすると、学園から生徒がほぼ居なくなってしまうのだよ。どうしたら良いと思う?」
「いや…先生方で考えてください。」
ボクは卒業資格の基準さえ知らなかったので、そう答えた。
ふぅ…と先生は深いため息を吐く。
「あと、これも試験に関係する事なのだが…」
「マイトラクス君は、4種の中級魔法を使えるのだから当然、卒業資格を得る事になるのだが、卒業したらどうするんだい?」
「え?もう卒業出来てしまうのですか?」
ボクの返答に、さも当然のように先生は頷いた。
「ボクは将来、王立軍所属の召喚術師になりたいと考えています。ただ、まだ早いと思うので、もっとこの学園で学びたいと思います。」
「そうか!」
ファスマス先生は嬉しそうに言うと、棚からいくつものお菓子が入ったお盆を取り出してきた。
「さぁ、好きなだけ食べなさい。」
「いただきまーす。」
ボクよりも先にアルマがお菓子に手を出す。
ボクは少し考えた後、口を開いた。
「個人的な意見ですけど、中級魔法が使えると言ってもその力は均等じゃ無いと思うんです。」
「だから、魔力量も考慮に加えて卒業資格を与えてはいかがでしょう?」
「なるほど、魔力量ね。貴重な意見をありがとう。今までの常識を変えないとならないから、一旦、他の先生方と相談させて貰うよ。」
「あと、マイトラクスくんは受験せずに試験官側に立って欲しいんだ。もうキミの実力は試す意味も無いからね。」
「いや、ボクも一人の生徒ですし、それはおかしいんのじゃないですか?」
「キミは自分の実力を試すよりも、他の生徒たちの実力を見たくないかい?」
確かに…それはそうだ。みんなの本気の力を見てみたい気持ちは大きい。
どうせ卒業する気は無いし、まぁいいか。
そう思い、ボクは先生の提案を受け入れる事にした。
お菓子をお土産に貰うと、食堂へと向かった。
昼食は終えていたが、イリエとヤエノ、サビアスが待っていてくれた。
「なんの話だったのさ」
「卒業試験の内容の話だったよ。」
ヤエノの問いにボクは返した。
「ふーん…で、マイトくんは卒業したら、どうするつもりなんだい?」
サビアスが真面目な顔をして聞いてきた。
「ボクは卒業資格を得たとしても、卒業しないよ。もっと学園で学びたいんだ。」
そう答えると、3人は目を輝かせた。
「私たちも、まだ卒業したくないね。って話をしていたの。」
イリエが嬉しそうに言う。
サビアスが話はじめた。
「僕は王立軍所属の魔法師になるのが夢なんだ。でも、この学園に居たら…いや、マイトくんと一緒に居たら、まだまだ僕の実力は伸びる気がするんだ。だから僕も卒業資格を得たとしても、この学園に残るよ。」
「私も、まだ卒業したくないな。でも卒業試験は全力で取り組みたいんだ。自分の実力を試したいからな。」
ヤエノは密かに闘志を燃やしているようだ。
「そうだね、卒業試験の日が楽しみだね。」
ボクはみんなの真剣な眼差しを見てなんだか嬉しくなった。
「ファスマス先生から、お菓子を貰ったんだ。みんなで食べよう。」
甘いお菓子に目が無いイリエが真っ先に口に入れると幸せそうに微笑んだ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
卒業試験の当日。
試験は4人の先生とボクの前で、生徒たちが順番に魔法を行使していく形で行われた。
何故かアルマ用の椅子も用意され、そこにちょこんと座っている。
まずは、火魔法組の試験から始まる。
人数は72人と多めだ。
一人一人がターゲットである氷の柱に火魔法をぶつけていく。
なお、氷の柱は水魔法組の先生であるドレイク先生が作ったものだ。
「火魔法…炎の波!」
全員が思い思いの中級魔法を発動する。
これは…困ったな。
全員が全員、なかなかの魔力だ。
コレでは全員に卒業資格を与えてしまう事になる。
9月から新入生が入るとしても魔法科存続の危機と到来だ。
途中、氷の柱は崩れてしまったので、火魔法と相性の悪い、土の柱が土魔法組のナズーム先生の手によって新たに作られた。
「こんな事は今までに無かったのじゃがのぅ」
次に登場したのは、ヤエノだった。
ふぅ〜と深呼吸をした後、両手を高く上げて叫んだ。
「火魔法…上級 炎帝の双璧!」
(なに?上級魔法?)
ヤエノの呪文が演習場に響き渡る。
左手、右手、それぞれから2本の炎が発動され回転しながらターゲットである土の柱へと向かう。
ずとーーん
砂煙をあげて土の柱は崩れ去った。
周りの生徒達、先生方、そしてボクも…口を大きく開けて固まる。
静まり返る火魔法組の演習場…
「どんなもんだい!」
ヤエノがガッツポーズを作り、ボクの方を見てきた。
生徒達から歓声が上がり、先生方からは拍手が送られる。
ボクは…そっと、隣に座るアルマを見る。
「ちょっと…教えちゃった♪」
ニコリと笑うアルマを見てボクは頭を抱えた。
次は水魔法組の演習場へと移動した。
人数は54人と、風魔法組、土魔法組より多い。
ここでは木の柱がターゲットに置かれた。
「水魔法…中級 氷結!」
半分ほど終わったが、水魔法組の生徒達も全員が中級魔法を使う。たいしたレベルだ。
そしてイリエの番となり…彼女はボクの方を見て微笑んだ。
なんだろう…ボクはなんだか嫌な予感がした。
「水魔法…上級 水虎の氷槍!」
空中で小さな無数の氷が固まり氷の槍が作られる。イリエが大きく投げる動作をするのと同時に氷槍は勢いよく木の柱へと突き刺さり…木の柱は両断された。
生徒、先生共に、その場に居た全員が凍りつく。
静まり返る水魔法組の演習場で、イリエの声が響いた。
「マイトくーん、どうだったー?」
ボクは片手を上げて「うん、凄かった。」と言い、アルマの方を見る。
アルマはボクから顔を背けた。
この後の展開は、もう読めていた。
風魔法組では、カミュアが上級魔法を。
土魔法組では、サビアスが上級魔法を。
それぞれ行使して、ドヤ顔をボクに向ける。
「アルマさん…どうしちゃったのかなー?」
試験後に尋ねると、
「あの4人が内緒にしておいてくれって頼んで来たのよ。」と言うが、完全に開き直った態度だ。
自分では無く、あの4人が悪いといった雰囲気だ。
「いや、そもそも何で上級魔法を教えたのさ。」
「使えそうだったから教えたのよ。」
ボクの問いにアルマは即答で返す。
「あとね…魔族に不穏な動きがあるのよ。ちょっと不安に思っててね。強い仲間は多い方が良いでしょ。」
「魔族であるアルマが言うのは何だか変な感じだけど…アルマが探っていたのは、魔族の動向だったんだね。」
アルマはため息を吐くと答えた。
「だーかーら、私ははぐれ魔族なの!」
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