剣士科の演習場 2
「マイトくん…ありがとう。」
ナイサンスールくんはそう言うと立ち上がり演習場へと歩き出した。
彼の友人たちも、同じく剣を持ち演習場へと向かった。
とても真剣な表情をして立ち上がったが、ボク達に手を振る時は笑顔になっていた。
正直、自信をもって取り組んだとしても、どれだけ彼らの身に付くかは分からない。
でも、きっと彼らの成長の手助けになるはずだ。
ボクも彼らの手助けをしたいけど、剣術の事を知らないし勿論、素質なんてものも無い。
事実、僕が知っている剣士はデマントの騎士団長、ナムール様だけだ。
うーん、手助けなんて到底無理だな。
「この肉…うまいぞ!」ヤエノが突然、口を開いた。
「ちょっと、いくら何でも食べ過ぎよ。」イリエが自制を促している。
サビアスは、二人のやり取りを見て笑っている。
にしても、この剣士科の食堂は殺伐とした雰囲気だな。
装飾品は何もないし、光を通す窓も少ない。
ナイサンスールくんが言っていた魔法科の食堂との違いが何となく分かった。
ヤエノが美味しいと連呼していた肉は、有料の肉だった。
なるほど、そりゃ美味しいわな。
剣士科にだけ有料のメニューが存在する理由は分からないが、美味しいものは有料という理屈は合っていると感じた。
「とりあえず、彼らの演習の様子を見に行かないか?」サビアスの言葉に促されると、
「あーあ、この肉、魔法科でも食べられないかしら。」名残惜しそうにヤエノがブツブツと言いながら席を立った。
「はいはい、行くわよ。」イリエがヤエノの背中を押す。
剣士科の下級組演習場に戻ると、ナイサンスール達は一心不乱に訓練をしていた。
午前中ののんびりとした姿が嘘のようだ。
周りに居た他の生徒たちも、触発されたのか真剣な眼差しをしている。
今は中央に横たわる大木に向かって剣を振るっている。
にしても…
「ここには先生は居ないのかな?」ボソリとボクは呟いた。
他の3人も同じように思っていたようで、周りをキョロキョロと見渡す。
するとイリエがボクの肩をたたいて指を差した。
そこには髪の長い男性が丸太に座っていた。
やさぐれた雰囲気の漂うその男性は、確かに学園の先生が着用する服を着ている。
右手には茶色い瓶が握られていた。
ズカズカと肩を振りながら歩き出すヤエノ。
サビアスが慌てて追いかける。
「ちょっと、あんた先生だろ?なんで剣術を教えないんだ!」
叫ぶヤエノだが、その先生はチラリと見ただけで、手に持った瓶を口に運んだ。
サビアスがヤエノの背後から抱き着くようにして連れ戻した。
先生らしき人物はまったく動揺する気配は無い。
「まったく、キミは昔から変わらないな。」サビアスが叱るが、ヤエノは暴れている。
「もう…ヤエノ、ちょっと落ち着いて。」イリエが怒り口調で言う。
ボクはなんだか漫才を見ているような感情になってクスッと笑ってしまった。
すると3人が一斉にこちらを見て「何、何か面白いの!?」
逆にボクが怒られることになった。
「マイトくん、責任もってナイサンスールくん達に訓練をつけて!」
イリエが無茶振りをしてきた。
「そうだ、それは良いアイデアだ」サビアスが適当な事を言う。
「へー、マイトくんは剣術も心得ているのね。」ヤエノが勘違い発言をする。
とりあえず、訓練の様子を眺めている。
剣士科の生徒たちが手に持つのは訓練用の剣のようで、切れ味は良くなさそうだ。
どちらかというと大木を切っているというより、叩いているといった雰囲気だ。
ナイサンスールくんは腕の力があるようで剣を振るう速度はなかなか早い。
が、足腰に踏ん張りが効いていないように思えた。
ん?こんな光景…以前に見た事がある気がするな。
なんだか頭がクラクラとして、額から汗が流れる。なんだか体が熱い。
「ちょっとマイトくん、大丈夫?」
ボクの異変に気付いたイリエが声を掛けてくれたが、なんだか遠い場所から話をされている気分だ。
さらに頭がクラクラし、目の前が真っ暗になったかと思ったら、一人の剣士が剣を振るう光景が浮かんだ。誰だろう?この人は…ナイサンスールくんでもナムール様でもない。誰だたっか思い出せないが、知っているような気がする。
ハッと我を取り戻したボクの頭の中に、ある言葉が浮かんだ。
「光魔法…脚力強化」
「光魔法…下半身補正」
ボクはナイサンスールくんに向けて手をかざした。
次に彼の隣にいる生徒に掌を向けた。
「光魔法…腕力強化」
次に見えた生徒は左右のバランスが悪い。
「光魔法…体幹補正」
「光魔法…上半身補正」
「光魔法…腕力強化」
「光魔法…
その時、ボクの体は揺らされた。
「マイトくん…マイトくん…!どうしたの!?」イリエ達の声が聞こえた。
ボクはブツブツと呟くように魔法を行使していたようだ。
「あれ?一体、どうしたんだろう?よく分からないけど、なんとなくこういう魔法を使わなくちゃって思って。」
いつの間にかクラクラとしていた頭は正常に戻っていた。
ナイサンスールくん達、剣士科の生徒は勢いよく大木を叩いていく。
そして…
パキンッと大きな音を立てて、彼らが夢中になって攻撃していた大木は崩れ落ちた。
折れたというよりも崩れ落ちたという表現が正しいだろう。
まさに木っ端みじんだ。
「マイトくん…彼らに何かした?」サビアスが言う。
「どういった呪文だったの?」イリエは固まっている。
「やっぱり剣術の心得もあったじゃない」ヤエノは自信満々な顔をしている。
剣士科の生徒たちは歓声を上げ、抱き合って喜んでいる。
ボクたちが居る事に気付いたナイサンスールくんが、こちらに手を振って駆け寄ってきた。
その場に居た剣士科の生徒たちも走ってきた。
「マイトくん、ありがとう。キミに言葉を貰ったおかげでボクにも出来ると思えたんだ。」
「そして…出来たんだよ。絶対に無理だと諦めていた大木の訓練をやり遂げたんだよ!」
ナイサンスールくんは涙をぬぐいながら、ボクの手を取って必死に伝えてくる。
「すべてキミたちの努力の成果だよ。」ボクは微笑みながら答えた。
「それに、途中から急に力が入りやすくなったんだ。綺麗に剣を触れるようになった。っていうのかな。なんだかコツが掴めたような気がするんだ。」
「オレも…なんか急に体の使い方が分かった気がしたんだ。」
「僕も…腰の回転が急にスムーズになっだんだ。あの感覚を忘れないようにしないと。」
次々と剣士科の生徒たちが声を出す。
みんな…すごく良い顔をしている。
すると…ずっと座っていた、あの先生だと思われる男性が破壊された丸太の前に立った。
「なんだっていうんだ…下級組の生徒達が出来る訳ないのに…」
呆然と立ち尽くす男性。
「先生…やりましたよ!早く次の課題を出してください。」
ナイサンスールくんは大きな声を出した。
その目にはもう涙は無く、キラキラと輝いているように見えた。
「じゃぁ、ボク達は行くよ。」
剣士科、下級組の生徒達にそう伝えるとボク達は魔法科棟へと戻っていく。
「どうする?魔法科の演習に行く?」尋ねるボクにイリエは「今更、行ってもねぇ。サボっちゃおっか。」と笑って答える。
サビアスは「そうだ、マイトくんと個別演習をしていた事にしよう。」と手をたたいて合わせた。
「肉、肉、食いに行こぜ!」ヤエノの頭の中には、まだ昼食の肉の残像が残っているようだ。
「よし、今日はサボろう!」
ボクたち4人は、魔法科棟に向けていた歩みの向きを変えると、商業都市デマントの方へと歩き出した。
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