剣士科の演習場 1
薬師科の発表会に行った翌日、魔法科の生徒の中でもジン村で起きた出来事で話は持ちきりだった。
商業都市デマンドから赴いたナムーヤ様率いる騎士団により、現れた凶暴な獣は退治されたとの事だが、ジン村の被害は建物も人も甚大だったらしい。
ボクは家族が住む村が、もし魔獣に襲われたら…と少し不安になった。
「おい、聞いたか?薬師科に来たジン村からの避難民が不思議な大きな女性に傷を癒やされたらしいぞ。」
食堂で噂が広がっていた。
食堂も含めて建物自体が、魔法科と薬師科、剣士科、それぞれで別れているので、実際の現場である薬師科の生徒たちの間では、どういった噂になっているかは分からなかった。
"不思議な大きな女性"
ボクの召喚獣もどきが、なんか面白い表現をされているな。と思いつつ、
アルマが回復魔法を使いまくった事がバレずに済んでいた事に安堵した。
アルマはあの後、ぐったりとしていたが、ボクの魔力を吸い取ると落ち着きを取り戻した。
その後、しっかりと文句は言ってきたが、なんとかなだめた。
噂話に耳を傾けて食事を終えた後、ボクは魔法演習の為に、土魔法クラスへと向かった。
いつものように少し早めに着くと、サビアスと二人で演習場の隅の方へと座り、魔力を高める訓練を始めた。
すると…
話をした事も無い生徒が数人、ボクとサビアスの近くで同じポーズを取る。
サビアスは知り合いのようで、少し話をしていた。
集中し、自然界の流れを感じとる。
フリをしてボクは彼らの様子を探る。
近くに来た生徒達…ただ目を閉じて座っているだけの子もいるが、ちゃんと感じとっている子もいる。
「サビアスくん、コツを教えてあげて。」ボクが言うと、
「分かった、教えてみるよ。」と彼は返事をする。
「マイトくんは、土魔法組で色々とやらかしたからね。信者が多いんだよ。」
「え?信者って何だよ。」
キョトンと首を傾げるボクに向かいサビアスは「信者は信者だよ。」と笑いながら言った。
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あれから何日か経ったが、
火魔法組、水魔法組、風魔法組でも同じような現象が起きていた。
火魔法組の時は、ヤエノがボクの隣に
水魔法組の時は、イリエがボクの隣に
風魔法組の時は、カミュアがボクの隣に
それぞれ座り、魔力を高める訓練を始めたのだが、それが土魔法組で起きた時と同じように、他の生徒たちまで集まり始めたのだ。
一体、何が起きているのだろうか…
そう考えながら生活を送っていると、ボクは魔法科長であり火魔法組の担当でもあるファスマス先生の部屋へと呼び出された。
「マイトラクスくん、来てくれてありがとう。まぁ、お茶でも飲んでくれたまえ。」
先生の火魔法により沸かされたお茶を、ありがたくいただく。
今日のお茶は少し苦味を感じた。そういう種類なのだろか。
「ところで最近、生徒達が演習前に目を閉じて座る儀式を始めたようだが…あれはキミの影響かな?」
隠しても仕方ないのでボクは伝える事にした。
「はい、姿勢を正して座り、目を閉じて自分自身を見つめて意識を集中させます。そして自然界の流れを感じ取り、自然の力を自身の内に取り込むのです。」
「それが魔力を高める事に繋がり、さらには魔法の力を高める事が出来ます。」
ボクがこう答えるとファスマス先生は、目を見開いた。そして深いため息を吐いた後、
「何故?キミはそんな事を知っているのだい?誰かに教えてもらったのかい?」
鋭い質問に対してどう答えるべきか少し悩んだ後、もっともらしい返事をした。
「ボクは山の麓にある村で育ちました。そこで自然の力を感じ、その力を変換する事はとても重要だと体験しました。」
実際、ボクはアルマに教えられて、村近くの草原で自然の力を借りる訓練を積んだのだ。あながち嘘という訳ではない。
そして…この"もっともらしい返事"が、
先生の心を掴んでしまったらしい。
「素晴らしいよマイトくん!」
「是非、私たち教師の補助についてくれたまえ!」
まだ学生なんですけど…と思ったが、
みんなの力が増せば、ボクの力が目立たなくなるかも。と考え、
「自分に出来る事があればお手伝いします。」と答えた。
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何日か過ぎ、ボクは先生の補助的役割をすると共に、放課後は演習場の裏にある秘密の場所で召喚獣創造の練習をしていた。
すっかりボクの魔力を知られてしまった、サビアス、イリエ、ヤエノは毎日、ここに見学に来る事が日課になっていた。
3人は地面にシートを置き、お菓子を食べながら楽しそうに談笑している。
「おーい、キミたち!楽しそうだなー。」
最初はボクが作り出す召喚獣もどきを見て歓声を上げていたが、すでに訓練を見るというより自分達が楽しんでいる様相だ。
この平和な時がいつまでも続くといいな。と、思いふたたび練習へと移った。
集中力を増す訓練を行なった後で、演習へと移ることで、魔法科の生徒たちの実力は格段に上がっていた。
中級魔法を使えるようになった生徒も何人か出てきている。
そんな学園生活を送るボクだが、この訓練方法を発案した相棒のアルマは相変わらず学園には来ていない。
正体を隠す為というよりは、何かを探っているような気がする。
何か…おかしな事が起きなければ良いが…魔族であるアルマの不穏な動きにボクは不安を抱いていた。
ある日、剣士科の生徒が魔法科の食堂に居たボクを尋ねてきた。
「ナイサンスールくん!」
以前、合同野外演習の時に同じ班だった剣士科の生徒だ。
「マイトくん、探したよ。」
「実はマイトくんの事を友人に話したら、是非会いたいと言われてね。今度、剣士科に遊びに来てくれないか?」
剣士科と魔法科は仲が悪いと聞いていたので、改善出来る方法は無いかな。と考えていたボクは何かヒントがあればと思い了承した。
一緒に昼食を取っていたイリエとヤエノも共に行きたいと言う。
「にしても魔法科の食堂は、剣士科と雰囲気が違うんだね。メニューも全然違うや。」
「そうなんだ、剣士科のメニューはどんな感じなの?」
「とにかく、肉が多いかな。あと…魔法科と違って有料のメニューが多いよ。」
「有料なの?」ボクは不思議に思ったが、ナイサンスールくんの話によると剣士科は生徒数が多いからかな?と、彼も明確な答えを出せなかった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
一週間程した後、ボクはサビアスも誘い、イリエ、ヤエノと共に剣士科の棟を訪ねた。
指定された場所に行くと、ナイサンスールくんと友人達が剣の練習をしていた。
「マイト君と、ご友人を歓迎するよ。」
ボクが近づいた事に気づいたナイサンスールくんが走り寄って挨拶をしてくれた。
そして、彼の友人達とボク達は挨拶を交わす。
剣士科の生徒たちは、とても親近感を持って接してくれ、ちょうどお昼時だったので一緒に食堂へと行く事になった。
ナイサンスールくんが言っていたように確かに剣士科のメニューは肉料理が多かった。
肉料理好きのヤエノが喜んでいる。
「剣士科の食堂は二つあってね。こっちは平民の家の出の生徒が集められた食堂なんだ。」
遊びに来たボクたち魔法科の4人は顔を見合わせて驚いた。
「え?じゃぁ、貴族や騎士の家の出の生徒たちには違う食堂があるのかい?」サビアスがボク達の思いを代表するかのように口を開く。
「そうだよ。」
さも当然かのように声を揃えて答える剣士科の生徒達にもボク達は驚いた。
「授業は同じ場所で、同じ内容なの?」ボクは質問する。
「剣士科は演習場も上級組と下級組の二つあってね。それは貴族云々よりも実力で決まるかな。」
「ちなみに僕達がさっき練習していたのが下級組の演習場だよ。内容の違いは…上級組が何をしているか見た事が無いから分からないな。」
「平民出身の生徒は、ほとんど下級組で演習をしているんだよ。」
笑いながら言うナイサンスールくんだが、周りの友だちも笑っている。
すると…いきなりヤエノが怒り出した。
「何、笑っているんだよ!悔しくないのかよ!」
辺りはシーンとした空気に包まれた。
「うん、ボク達も悔しいのさ…でも、どうにもならなくてね…」
「そこで、ボク達はマイトくんの話を聞きたくてキミを呼んだんだよ。」
「え?ボク?」
キョトンとしながら頭にハテナマークを浮かべる。
「マイトくんが平民の家の子でありながら魔力があると友人達に伝えたらね、どうやって魔力を持てたのか?と話題になったんだよ。」
「うーん、その答えはボクにも分からないなぁ。」
と答える。
と、次はイリエが怒りだした。
「マイトくんはね、すごく努力をしているのよ!」
「演習前から頑張って、そして演習が終わってからも一人で頑張って、努力しているのよ!」
ちょっと落ち着いて…と、イリエをなだめた。
正直、努力する前からボクは魔力を持っていたので、あまり自慢できる話ではない。
ただ…ボクはナイサンスールくんと、その友人たちに伝えた。
「キミ達は平民の家出身だからと自分自身に言い訳をしているんだよ。だから、自分が決めた力以上の力は出せないんだ。」
「平民の子は、貴族や騎士の子に勝てない。そう思っている限り、永遠に成長しない。ボクはキミ達にお願いしたい。もっと自分に自信を持って欲しい。」
ナイサンスールくんと、その友人達の目には涙が流れていた。
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