街での買い物
今日はイリエと2人で街に買い物に行く約束をした日だ。
野外演習の時にボクが上級魔法を使いまくった事を、内緒にして貰う為には行かなければならない。
でも…ボクの家は裕福では無く…何を買わされるのか気が気ではなかった。
「はぁ…」溜め息まじりに全財産が入ったカバンを手に持った。
「二人で買い物に行くだけでしょ、そんなに暗い顔しなくても良いのよ。」
無責任な事を言うアルマに目を合わす。
「そうだ、アルマも一緒に来てよ。」
「えっ?それはイリエに悪いわ。」
苦笑いするアルマに対し、ボクは首を傾げながら立ち上がると、
「それじゃぁ、一人で行ってくるよ。」と伝え、部屋を出た。
イリエとは街の入り口で待ち合わせをしている。
彼女は寮暮らしでは無く、街にある実家で家族と一緒に生活をしているからだ。
街の入り口に着くと、薄い黄色いシャツに青いロングスカートを纏ったイリエが手を振ってきたのが分かった。
彼女の青いロングヘアとの相性がバッチリなコーディネートだ。
「今日の服装、凄い似合ってるよ。」
ボクは素直に話すと、
「ありがとう、マイトくんも素敵よ。今日はよろしくね。」と微笑みながら言ってくれた。
服装を褒められてなんか嬉しいな。
ただ、街に着ていくような気の利いた服は、この1着しか持っていないのだけど。
イリエと2人、並んで街を歩く。
商業都市デマント、学園の入学試験の時に父と来た以来だ。お父さん…家族は元気にしているかな。
「この街は私の庭みたいなものだから、案内は任せて!」イリエのセリフに、この街の事を全く知らないボクは安堵した。
街は彩り豊かで、目にする物すべてが新鮮に映る。
イリエは一件の小さな服屋さんへと入っていく。
「ここは私のお気に入りの服屋さんなの。マイトくんも入って。」
イリエに続いて店内へと入っていく。
「あらイリエちゃん、いらっしゃい。そちらの男の子は…彼氏さん?」
「ふふ。」微笑みながら「おばさん、こんにちは。」と返すイリエ。
ボクは「いえ、違いますっ。」と両手を顔の前で振る。
するとイリエが怖い顔をしながら耳元で囁く「あの事…バラすわよ…」
何も悪い事をしていないのに、秘密をバラされそうになったボクは、とりあえず謝った。
「ごめんなさい…」
するとイリエは、また笑顔になり服を選び始めた。
ころころと変わる態度に困惑するボクを、服屋のおばさんが笑って見てきたと思ったら「苦労するわね!」と言い、バンッと背中を叩いてきた。
「ねぇマイトくん、これどう?似合うかしら?」と白いワンピースを体に合わせて、こちらを向いてくる。
チラッと値札を見ると…結構な金額だ。
うーん、ちょっと違うかなぁ。
この服を買わされると、とんでもない事になる。
「えー、そうかなぁ。」
イリエは高価な服をハンガーに戻すと違う服を選びだした。
それにしても、女の子の服はどうしてこんなに沢山の種類があるのだろう。
あ、あの赤い服は妹のサフィアに似合いそうだな。サフィアが着ている姿を想像してみた。
「ちょっと。今、他の女の子の事を考えてなかった!?」え?アルマと同じようにイリエもボクの心が読めるのか??
「ち、違うよ。」と答えるボクを疑い深そうに見てくる。
「まぁいいわ。この服はどうかな?」
イリエは淡いピンク色のシャツを身体に当てて、こちらを見てくる。
うん、優しい雰囲気が出て似合っている。「とても似合っているよ。」価格が気になったが見えなかった為、素直に自分の感想を伝えた。
「おばさん、これを頂くわ。」イリエは嬉しそうに笑い、シャツを渡した。
ボクは、カバンからお金を取り出して支払う準備をする。「おいくらですか?」
「ちょっと…いいわよ。自分で払うから。」
イリエがボクを制する。
「あらあら、可愛いわね。」
おばさんはボクに向かって言うと、イリエからお金を受け取った。
店を出た後もボクは混乱していた。
あれ?秘密を守る代わりに買い物に行って。と言うのはを口止め料として何かを買って。という事ではないのか?
「マイトくん、これ持って。」
イリエは先程買ったシャツが入った紙袋を渡してきた。
「うん。」
「さて、まだまだ行くわよー。」
右腕を高く上げてイリエはふたたび歩き出した。
違う服屋さんや靴屋さんを回る。
購入した商品の紙袋が、どんどんと増えていった。
代金はすべてイリエが払っている。
ボクはただ感想を聞かれ、買い物袋を持つだけだ。
「マイトくん、そろそろお腹が空いてきたわ。お昼ごはんにしましょうよ。」
「うん、ボクもお腹が空いてきたよ。行こう。」
何件もあるお店の中から、イリエが紹介してくれた食堂は以前に来た事のあるお店だった。
「ここのスープパイが絶品なのよ!」
確か入学試験の時に来たのはこのお店だ。スープパイというのは、あの日お父さんと一緒に食べた料理だろうか。
「ボクは、そんなに美味しい料理なら食べてみたいな。」と答えた。
出てきた料理はやはりあの日、お父さんと一緒に食べた料理だった。次、来る時はお母さんと妹を連れてきたいな。と思った事を思い出した。
「マイトくん、どう?美味しい?」
「うんイリエさん、とても美味しいよ。」
シチューはとても温かい。
「どうしたの?マイト…なんで泣いているの?」
「え…ボク、泣いている?」
泣いているつもりは無いのに目から涙が出てきていた。
それは…とても不思議な感覚だった。
「ごめんね、ちょっと家族の事を思い出しちゃって。」
笑いながら言うボクの手を、イリエは突然握りしめてきた。
「私に出来る事があったら…なんでも言って。」
イリエの目も、何故か涙ぐんでいるように見えた。
なんだろう…なんか胸が締め付けられるような気分だ。
食事を終え、会計の時にイリエがすべて払おうとしていた。ボクは全力で止めて、自分が出すと伝える。
「じゃぁ、半分づつ出しましょ。」
イリエの提案にボクは乗る事にした。
「もう少しだけ付き合って。」
イリエはボクの顔を見ずに言い、歩いていく。
午前中よりも、ゆっくりと歩みを進める。
少し遠くまで来ただろうか。
「ここよ。」
そこはとても大きな商会だった。
中に入ると、沢山の道具類や家具、アクセサリー類が並んでいた。これは…化粧品かな?
イリエは、何か店員さんと話をしていたので、ボクはアクセサリーを眺めていた。
あ、この髪飾り、イリエの髪に似合いそうだ。
扇状に広がるシルバーの台の中央にはめられたブルーの宝石が存在感を放っている。
その宝石の色はイリエの髪の色とよく似ていた。
うん、この金額なら払えるな。
ボクは店員さんを呼んで包装して貰うように頼んだ。
「何を買ったの?」
突然、背後からイリエが声をかけて来たので驚いて「えっ」と思わず声を出しまった。
「あれ?その髪飾りは…」
「一体、誰にプレゼントするつもりなのかしら。」
ボクは心臓が飛び出しそうになるのを感じながら答えた。
「この髪飾りをイリエさんにプレゼントしようと思って…キミに…とても似合うと思うんだ。」
「まぁ、嬉しい…」
「包装は要らないわ…マイトくん、つけて。」
後ろを向き少しかがんだイリエの髪にボクはそっと髪飾りをつけた。
イリエの美しい髪がさらに輝いて見える。
「ありがとう、凄く嬉しいわ。」
満面の笑みを浮かべるイリエを見て、ボクは照れ臭くなり、頭を掻いた。
「マイトくん、2階に行きましょ。」
大きなこの建物は何階建てなのだろうか。
ボクはイリエの後について2階への階段を登っていった。
ここは…事務所なのかな?お客さんが入って大丈夫なのだろうか?
「お母様ー?」
イリエが叫ぶと、スペースの一角から綺麗な女性が顔を出した。
「あら、イリエ。その子が言っていたお友達?」
「うん、マイトくんよ。」
「お嬢様、お帰りなさいませ。」
ボクはイリエが購入した大量の荷物を持ったまま固まる。
もしかして…
「マイトくん、荷物を爺に預けて。」
イリエの言葉に従い、黒いスーツを来た老人に荷物を渡す。
「言い忘れていたわね。ここが私の家よ。」
イリエはイタズラっぽく笑った。
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