水魔法使いのイリエ
「おはよう、マイトくん。」
今日もイリエが朝の挨拶をしてきた。
今日も?…そう、午前中に受けている一般教養の授業で最近、何故かいつもイリエが隣の席に来るようになった。
「今日もアルマちゃんは一緒じゃないのね。寂しいわー。」
アルマ目当てなのかな?
イリエはモフモフ好きだから、またアルマを抱きしめたいのだろか?
アルマは嫌がるだろうなぁ。
今日の講義は国文学だ。
文章の構成の仕方から、手紙の書き方を教わった。将来、役に立つ事があるかもしれないな。と思い、ボクは重要な部分をノートに書き写す。
ん…イリエがボクの方をじっと見てくる気配に気づいた。
(なんだろ?何か不自然な事を言ってしまっただろうか…)
授業が終わり、昼食を取るために立ち上がった。
イリエも後をついて来た…最近、毎日こんな感じだ。
「サビアスくんに聞いたんだけど、アルマちゃんって凄く強いらしいわね。」
土魔法の演習場で他生徒の言動に腹を立てたアルマが上級魔法をぶっ放した時の事かな?
「そんな事ないよ、たまたまターゲットが柔らかかったのさ。」
イリエと2人並び、好きな食材をお皿に乗せていく。
「マイトくん、そのオムレツ好きだね。」
「うん…」
優しい味付けがするこのオムレツをボクは毎日のように食べていた。
「ねぇ、マイトくんの部屋に行ったらアルマちゃんに会えるのかしら?」
あの出来事から、アルマを見る周りの目が変わり、学園には来させないようにしている。
「いや、あの子は気まぐれだから部屋に居るとは限らないよ。」
ボクたちは、空いていた席に座り昼食を取り始めた。
「私もアルマちゃんの凄いところ、見てみたかったわー。」
もしかして…アルマの事を探っているのか?
イリエの目を見つめてみる。
「ちょっと、そんなに見ないでよ!」
なんだろう?動揺しているように見える。
ボクは直球で質問してみた。
「何かアルマについて気になる事でもあるの?」
「アルマちゃんの事だけじゃないわよ!私、マイトくんの事も知っているんだからね!」
え?何を知っているんだ?思わぬ返答にボクは冷や汗とドキドキと、同時に襲われた。
「マイトくん、ヤエノをびしょびしょにしたんだってね。女子生徒を水びたしにするなんて酷いじゃない。」
なんだ、その事か……少しホッとした。
「ところでマイトくんって、誰にそんなに凄い魔法を教わったの?もしかしてアルマちゃんから?」
え!?…イリエさん、やっぱりボクとアルマの秘密に気づいてる?
魔族であるアルマと契約したおかげでボクが強くなったって事がバレたら困る。
もしかしてイリエって実は軍所属の調査員か何かなのだろうか…
「ボクは気づいた時にはもう魔法を使えていたんだ。けっしてアルマに出会ったからじゃないよ。」
イリエは、ボクをじーっと、見つめて来た。
これは…完全に疑っている目だ。
「ねぇ、アルマちゃんに、私にも魔法を教えてってお願いしてよ!」
えぇぇ〜、何故こういう展開になったんだ。
もしかしてアルマの真相を探ろうとしているのか?
「いや、アルマは今、自宅謹慎中だから…」
訳の分からない返答をして逃げる。
「じゃあ、私がマイトの部屋に行くわ♪」
引き下がらないイリエ。
「いや、アルマは召喚獣だから部屋には居ないかも…」
イリエに対して苦し紛れの返答を繰り返すと、
不機嫌そうに眉間にシワを寄せてボクを凝視してきた。
「じゃぁ…マイトが私に魔法を教えてよ!」
ボクには、この難局を誤魔化せる能力が無かった。
ちょうどその日の午後はイリエが所属している水魔法の演習場に顔を出す日だった為、2人で一緒に水魔法の演習場へと入る。
すると、何故だか他生徒の何人かから睨まれた気がする。
なんだ?…もしかしてイリエは水魔法クラスの何人かと共謀してボクの秘密を探っているのか?
警戒しながら、ボクはいつものように演習場の端に座る。
すると…イリエもボクに並んで座った。
ん?
本当にボクに魔法を習うつもりなのか?
ちらりとイリエの表情を確かめた後、ボクは伝えた。
「足を交互に組んで、背筋を伸ばして息を吸うんだ。大きく深呼吸したら…心を落ち着かせて目を閉じる。」
「はい。」
素直に答えるイリエの態度を不自然に思いつつし、そのまま続けた。
「風を…この空間に流れる風を感じ、それを自分の身体へと包み込むように取り込む。」
「はい。」
ボクとイリエの周りは静かさに包まれていく…
30分ほどの集中の訓練をした後、目を開けてイリエに声をかけた。
「これで私も強くなれたのかしら?」
イリエのセリフに少し笑ってしまった。
「そう簡単には無理だよ。」
「でも…ボクはこれを毎日続ける事で強くなれたんだ。」
勿論、アルマの力があった上での能力向上だと思うが、アルマの訓練を思い出すとそういう言葉が口から出た。
「へぇーそうなんだ。確かに、なんだか心が軽くなった気がして気持ちいいわ。」
「マイトが来ない日も毎日、この練習をするわね。教えてくれてありがとう。」
イリエの言葉にボクはなんだか照れ臭くなって頭を掻いた。
純粋に魔法を教わりたくてボクの側に近寄って来たのかな…イリエを軍の調査員じゃないかと疑った事を申し訳なく思った。
ん?
でも…今も続く水魔法クラスに漂うこの殺気はなんなのだろうか?
「おい、お前!イリエさんの何なんだ!?」
5人ぐらいの男子生徒が杖を握りしめて近づいてきた。
「と…友達ですけど…」
答えるボクを睨む5人の目は血走っている。
「勝負しろ!それとも召喚獣が居なければ何も出来ないのか?」
何故、勝負?? そして何の勝負??
混乱するボクの背後から声が聞こえた。
「勝った方と、私はデートするわ!」
イリエが背後で、にこやかに笑っている。
「よし!やってやる!」5人の男子生徒が叫ぶ。
混乱するボク…
「水魔法…水球!」
「水魔法…水弓!」
「水魔法…水鞭!」
「水魔法…水舞!」
「水魔法…水柱!」
5人の生徒が一斉に魔法を放って来た。
「火魔法…火鞭 かける5!」
ボクは同時に5方向に向けて火の鞭を蛇のようになびかせて進ませる。
生徒5人よりも後で放った火鞭だがその速度が早い為、ほぼ5人の前で彼らの水魔法とぶつかり合った。
ずぼぉーーーん!
それぞれの水魔法をボクの火鞭が消滅させ、水蒸気爆発を起こさせると、いちゃもんをつけて来た5人の生徒が吹き飛んだ。
ちょっと…やり過ぎたかも…
心配するボクに向かいイリエは
「ありがとう、ちょっとしつこかったのよね…あの5人。」
「マイトくん、約束通り今度デートしてあげるわね♪」
起き上がり、その言葉を聞いた5人は泣きながら走っていった。
「そういう事か…イリエさんって、モテるのね。」
呆然と言うボクに向かい、
「マイトくんは、鈍いのね。」
とイリエは笑った。
確かに…イリエがモテると気づかなかったボクは鈍いと言われても仕方ないな。
帰宅後、アルマに向かいボクは言った。
「新しい召喚獣の姿が何となく見えたよ。火の鞭を応用して、5本の首を持つ竜を作るんだ。名付けて5本首の火竜」
「何それ!カッコいいかも!」
アルマは嬉しそうに言い、二人で笑いあった。




