リズラル
「綺麗な宿舎ね。」
案内された宿舎は訓練場の横に建てられ、王城と同じ白を貴重としている。イリエが言う通り、美しいたたずまいだ。
反対側に建つのは騎士団の宿舎のようで、ちょうど訓練場を挟んだ形となっていた。
1階は食堂や会議室、倉庫。
2階は男性魔法師の居住空間、3階は女性魔法師の部屋となっている。
「じゃぁ、マイト…後でね。」
イリエは荷物を持って3階へと向かう。
重そうだったのでアルマはイリエの荷物運びを手伝い、一緒に上がっていった。
オレは2階の廊下を進み、割り振られた部屋に入る。と、そこにはとても広い部屋が待ち構えていた。
所属するヤンガノの宿舎の2倍程の広さがありそうだ。
昨日まで居たシザカンでは来客用の部屋が用意されたが、ここでも特別に良い部屋を用意してくれたのだろうか。
イリエの荷物を運び終え、オレの部屋へと来たアルマに聞いてみると…イリエが貸し与えられた部屋もまったく同じ間取りとの事だ。
「なぁ、アルマ…オレ達が所属する第4魔法師団の宿舎とは随分と差があるな。」
「マイト…そうやって他との差を感じ、嫉妬する事が争いの始まりよ。優劣を見出すのは辞めなさい。」
流石は大天使様の元で何百年も天使見習いをしているだけの事はある。オレは何も言い返す事が出来なかった。
「確かに…嫉妬の心が元凶になる事が多そうだな。」
「そうね、嫉妬心を原動力に変える事が出来れば良いけどね。」
最近のアルマの言葉には深い考えがあると感じた。
翌朝、ビュッフェ方式の食堂に行くと、リズラルの生まれ変わりと思われる女性魔法師が朝食を取っていた。
「チャンスだな。」
イリエとアルマと共に彼女が座る席へと向かった。
「ここ、良いかしら?」
イリエが微笑みながら相席を依頼した。
「ど…どうぞ…」
オレたちに目を合わさずに彼女は了承を伝えた。
その声はとても小さく、どことなく存在感も薄い気配を感じた。
「はじめまして、わたしはイリエティーナ。イリエって呼んで。」
イリエに続き、オレとアルマも名前を告げた。
「わたし…テルミュア。」
彼女は今にも消えそうな声で答えた。
一人、ポツンと食堂に座り朝食を取る姿は、とても寂し気に映る。
「わたし達、シザカンの軍から来たばかりなの。ここの事は何も分からないから色々と教えて。」
イリエが、飛びきりの笑顔でテルミュアに話した。
「うん…知ってる。」
テルミュアに一言で返され、沈黙で時が流れた。
七仙剣のリズラルは大人しかった方だが、ここまででは無かった筈だ。
「ごちそうさまでした。」
テルミュアと名乗った少女は、ゆっくりと立ち上がりトレーを返却口へと持って行った。
「うーん…手強いわ。」
友人を作る事に長けているイリエをもってしても難しかったようだ。
「次、アルマちゃん、よろしくね。」
イリエがアルマに依頼するが、アルマはどちらかというと友人を作るのが苦手な方だ。
遠慮なく自分の考えを口にするアルマは以前から、決まった相手としか話をしていなかった。
「私は無理よ…マイト、よろしく。」
そう…オレは…って、オレかい。
友人を増やす事は苦では無いが、若い女性となれば話は別だ。警戒されるに違いない。
前世の記憶と合わせても、かなり苦手な仕事だ。
「いや…3人で協力してだな…」
オレがそう言うとイリエとアルマの顔は機嫌が悪そうになりつつ…
「マイト…頼りにしてるわよ。」
声を揃えて、そう伝えてきた。
集合場所へと向かい、師団長からの朝の挨拶を聞き終えると、一部の魔法師は街や周辺のパトロールへと出ていった。
残りの魔法師が訓練へと参加し、イリエとアルマが指揮を執っている。
オレはさりげなくテルミュアに近づく。
「キミは火魔法の使い手だね、ちょっと見せてくれないか。」
そう言いながら近づいたが、警戒しているのかどうか分からないくらいに反応が薄い。
「はい…」
テルミュアが繰り出した初級火魔法は、予想通り初級魔法とは思えないくらい強力だった。
「流石、リズラルの生まれ変わりだね。」
思い切って直球で質問してみたが、キョトンとした顔をしている。やはり前世の記憶は無いようだ。
「火魔法…初級 火球!」
オレは少し強めの初級魔法を放った。
隣で構えるテルミュアはオレと同じように初級魔法 火球を放った。
その出力を確認すると、オレはさらに強い火球を放つ。
その後、すぐにテルミュアはオレと同レベルの火球を放った。
次に中級魔法に匹敵するような出力の初級魔法を放つ。
次に上級魔法に匹敵するような出力の初級魔法を放つ。
オレが放つ強烈な初級魔法…テルミュアは、まったく同レベルの初級火魔法を放った。
「あ…」
テルミュアは周囲の異変に気付き、上げていた手を降ろした。
ザワザワと周囲が騒ぎ始める。
そりゃそうだ、おそらくここの魔法師達はこれほど高出力の初級魔法を見た事が無かった筈だ。
しかも全く目立つ事のないテルミュアが顔色一つ変えずに見たこともない程の初級魔法を放っていたのだ。
魔法を放つ事をヤメたテルミュアは顔を赤らめて下を向いている。
「テルミュアさん…どうして魔力を隠しているんだい?」
オレは質問を投げかけると、少し涙ぐみながら小走りに去ってしまった。
イリエとアルマがオレに近づく。
「ちょっと…何を泣かしているのよ。」
理不尽に怒られている気がしたが、先程の会話を説明し納得してもらった。
「うーん…何かありそうね。」
アルマは腕を組みながら唸り声をあげている。
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数日後、事件が発生した。
街の外をパトロールしていた魔法師達が、盗賊団に襲われたと言うのだ。
その中にはテルミュアの姿があった。
怪我人は居なかったようだが、何故かテルミュアは肩を支えられていた。
その場に居た魔法師に話を聞いたが、よく分からないと言う。
盗賊団と対峙し、魔法を使ったテルミュアが突然倒れたというのだ。
医務室に居るテルミュアの元をオレ達は訪ねた。
「大丈夫?」
そう問いかけるイリエに対し、テルミュアは何でもないと首を横に振るだけだ。
「私たちはアナタの事を心配しているの。」
アルマも言うが、ベットに横になったまま何も言わない。
むしろ…震えているようだった。
オレはゆっくりと手を差し出し、呪文を唱えた。
「光魔法…回復。」
特に怪我をしている訳ではないテルミュアに対してかける回復魔法。
その魔法でテルミュアの体全体を暖かい光で包み込んだ。
「何これ…暖かい。」
少し涙ぐむテルミュアは、大きく深呼吸をすると…話を始めた。
「小さい頃、とても仲が良い幼馴染の男の子が居たの。」
ゆっくりと声を出すテルミュアの小さな手をイリエがそっと握る。
「毎日のように一緒に遊んでいたのだけど、ある日、山の中で遊んでいると獣が現れた。黒くって大きい獣は怖かったけど、私とその子は魔法が使えたので戦う事にしたの。」
「『テルミュア…そっちに追い込んで。』そう言われた私は、火魔法を駆使して獣を誘導した。」
「『オレがとどめを刺す。』私が周りを岩山で囲まれた場所に追い込むと、その男の子は風魔法を放ったわ。」
「でも…その獣は風魔法を受けても立ち上がり、襲い掛かってきたの…とても怖かった。」
テルミュアは小さな体を震えさせ、イリエは彼女の手を強く握った。
「私は、思いっきり火魔法を放ったわ…そしたら、すごい炎が出て。”黒く大きな獣”を炎で包み込んだの…一緒に居た幼馴染の男の子と共に。」
「うぅ…うぅぅぅ。」
涙ぐむテルミュアの体をイリエはそっと抱きしめ、落ち着かせた。
「その男の子は、なんとか一命を取り留めた…けど、私はそれ以来、魔法を使う事が怖いの。」
「私は魔法を使う事が怖い。と両親に言ったのだけど『あなたの魔法は必ず将来、人族の役に立つから』と説得された。」
「村に居づらくなった私はデマントの街に居た両親の知り合いの魔法師に預けられ…その後、軍に入ったの。」
オレとアルマは大きくため息をつき、イリエはテルミュアと共に涙を流していた。
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