クル
「あの猿、大きさでみたら民家の半分くらいもあったのに、あれだけ距離が近付いていたのに気付かなかった…」
クルは猿が去っていくのを見ながら話していたが、猿から少しも目線を外さなかった
「どうする?やる?」
ルードは少し驚いた
「今の…恐ろしくなかったのか?」
「そりゃ驚きはしたわよ。けど、生体調査なんだから、あれの血液やらも採取したいじゃないの」
「…初日であんまり無茶したくないが…」
ルードはキューブを取り出した
「解放、オルノの布4枚」
ルードはキューブに手を突っ込み、中から4つの何かが入った布の包みを取り出した
「コレは?」
「簡易的だが毒物をかなり細かく刻んだ猛毒だ。ああいう感覚が強い動物には、顔面に近付けるだけでもめちゃくちゃ効く。さっき街の前でクルを待ってる間に作った」
「そう」
クルは少し震えていた
ルードは気付かない素振りを装っていた
「…二人がかりなら囮役もできる。それにコレは二個ずつ使う。必ずうまく行くように指示も出す」
クルは笑った
「あんた、武者震いって知ってる?強い者と戦うときにワクワクして震えちゃうってやつ」
「クル?」
クルは窓から勢いよく飛び出した
「自分のバディを…信じてみなさいな」
「クル!」
「止めてもムダよっ…て」
パシッ
ルードはさっき取り出した布を渡した
「その布を顔面に当ててやれ、人間には効かないがあれには効果絶大なはずだ」
「…自慢の武器ナシ。ナイフ一本のタイマンだぞ。勝てるか?」
ルードはニヤリとしていた
クルもまた笑って応えた
「誰に言ってんのよ。あんたの相棒は素の実力が違うのよ」
実際、クルの判断は正しかった
二人ともの共倒れはミッション失敗を意味する。故に一人。そして危険を避けるという意味でも、近くに大猿がウロウロしている状況では採集活動もロクに出来ないからだ
先程の大猿は悠然と平原を歩いていた
ザザザザザザザザッ
草木を分けるその音は一瞬で大猿の側にまできて大猿が振り向く瞬間に消えた
ダンッ!
クルの超跳躍ともいえる華麗なジャンプに大猿は見とれていたが、一瞬何かが大猿の顔に当たるとすぐに苦悶の表情に変わり怒号を上げた
ザダッ!
「わお、すごい」
クルは着地の体制からナイフを取り出した
「さあて、そろそろ攻撃再開していいかしらっと!」
距離を詰めた瞬間に飛んできた大猿の裏拳をクルはギリギリでかわした
「…っ最悪、[重強化]しようと思ったけど、今程度のスピードならその必要はなさそうね」
クルは暴れ回る大猿に的確に一撃ずつ確実に加えていった
-30分後-
「ふぅ、ホントにタフね。ようやく動けなくなったか…」
ピピッピピッ
「ん?ルードから」
クルは一瞬大猿から目を逸らした
その瞬間大猿は大きく息を吸い込んだ
…が、その喉にはクルのサバイバルナイフが刺さっていた
クルは横目でもその瞬間を逃していなかったのだ
「…悪いけど、仲間を呼ぶタイミングは与えないよ」
「ルード?ん、終わってるよ」
「採取が終わったら戻るよ」
「ふう、サバイバルナイフ一本。重強化ナシ。被害ナシ…上出来かな?」