残されたモノ
23世紀末-
地球
「オロジス!こっちだ!!こっちにシェルターがある!!」
そう叫んだ少年は森林に向かって走りながらもう一人の人間に言った
「バカ言うな!!そっちは未探索だろうが!!パニックになるな!!」
「違う!!本当にあるんだ!!この身体が教えてくれた!!お前の小隊は助かる!!」
「行きたきゃ行け!!俺たちはアイツらを退けてキャンプに戻る!!」
「…っ撤退の考えがよぎったなら迷わずあの林道の道沿いに来い!!俺が誘導するっ!!」
-少年が火星に帰還した船に、少年がオロジスと呼んだ男はいなかった-
-24世紀-
鳴り響く轟音
火星の地下工場はフル稼働だった
「あー24世紀にもなったってのに、うるさい場所だなぁ」
「あなたこそ、その体になってもう50年も経つのに相変わらずね」
二人の会話の最中も騒音は絶えなかった
見た目は青年と女性
見かけは15かそこら前後の男女
「…親が金持ちで年相応のままこの体になれた人とは違うんでね」
少女は飄々と答える
「ほんと。年相応のまま飛び級して身体をもらって調査に行けることを喜ぶべきかしらね」
少年たちは円柱型の機械の前で立ち止まった
青年は少し語気を強めた
「…お前…今回のミッション、言ったらこれ、生体調査だぞ?いくら適応や能力を向上させている身体を持っても、生身で地球に降り立つ。これがどれだけ危険か分かってんのか?」
「風を感じ、海の冷たさを知り、太陽の暑さを知る。私みたいな温室育ちにはそれが分からないとでも?」
少年は少女を制した
「俺は極寒を、燃えるような暑さを、波をざわめかせる突風を知っている。そのどれもが命を奪うということもだ」
「あなたはそれを知っているからこそ、私とバディを組むんでしょ?」
少女は少しも戸惑わずに淡々としていた
「…はぁ、俺はもう少し船の調整をする」
少年は目の前の円柱型の機械の前で工具を取り出し始めた
「ねえ、少しくらいは昔の話してよ。あなたは選抜者じゃなくて経験者で選ばれたんでしょ?」
「…んじゃ、この素体が何で出来てるか知ってるか?」
少年は目も向けず作業を続けながら質問した
「もちろん。炭素でしょアンモニア…」
「違う、倫理の問題として捉えてってこと」
「俺たちの器、これには近親者の脳死したものが使われる」
「…これが原因で多数の脳死者が出た」
「…なに、倫理の授業?公式な教科書には疫病CB44の突然変異体による大量脳死ってなってるけど」
少女は続けた
「んー。まあけど面白いわね。経験者と公的な教科書の違いって」
少女は一向に離れる気配はない
「…分かったよ、話してはやるけど、あくまで個人の話だ」
「公的な記録とは無縁ってことね。OK」
少年は背伸びしながら整備していたが一旦手を止めた
「…CB44の話は嘘じゃあない。ただ、そこまで感染力は高くなかった。だから実際は、それの死者より多くの人間が血縁者を手にかけた」
「外傷を与えず、脳死させる通称デビットという悪魔のようなものが生まれたんだ」
「…公的には25年に重篤な者への安楽死が世界中で法案可決、それと同時期に脳死の身体に脳を移し替えるQOO手術が始まった」
ルードは違う工具を探し始めながら言った
「この段階にきたらもう人類の選抜ってのは終わってる。正確にはCB44とワクチンの製造が完成した段階かな」
「待って、色々と詰め込みすぎ。」
少女は不可思議な顔をしていた
「あなたはどこからその情報を?それに火星に移住したのは100年ちょっと前のはずよ?どこから知り得たっていうの?」
「簡単な話だ。俺もその時代を知っている者から見て聞いた」
「見て、聞いた?…記録があるってこと?」
「…ああ、この体にはある。これは元の体の持ち主の記憶と記録から推察したんだ」
「白昼夢病…」
少女は怪訝そうにつぶやいた
「俺も最初はそう思ってたよ。だが俺の元の身体の持ち主が名前とパスコードを言ったことを思い出して、打ち込んでみたら…」
「あなたたち!」
二人の話を遮るように遠くから白衣を着た2人組が向かってきていた
「メディカルチェック!今日からは毎回2回って忘れたの?」