第一章 不器用な恋模様
母親の言いつけをしっかり守って、時代錯誤なまでに懸命に生きる生真面目な美海が見つけたささやかな想い。さて、うまく通じるのでしょうか?
このお話はブログ「なせばなる、かも」に掲載中の物を推敲しています。
I just …
「ボクハ タダ…」
…霞んだ視界に、ぼんやりと彼女の姿が見える。それは優しくも切ない眼差しで、僕をしっかりと見据えていた。だけど、そのまま僕の意識は消えてしまった。…
浅い眠りの中で、僕は夢をみていた。もう、何度か同じ夢を見ている。それは、ある女の子が当たり前に自分の隣に座って微笑みかけている夢。
それが経験の再現なのか、希望する未来なのか、それとも偶発的に現れた夢なのか、僕には分からない。それなのに、彼女への想いだけは、少しずつ深まってゆく。それがなんとももどかしく切なかった。
***********
ビジネス街のはずれにある雑居ビルの12階、ここが吉野美海の職場である。朝8時には出勤し、企画室のあらかたの掃除を済ませてお湯を沸かしておく。それが終わるとベランダに出て、ひと休みするのがいつもの日課だ。
「ううーん、いいお天気!」
誰も見ていないのをいいことに、ぐーんと大きく伸びをしてつぶやく。15階建てのこのビルは、10階から上はフロアごとにベランダを大きく設けてある。12階のこのベランダも、例外なく春の日差しを浴びていた。
そっと手すりに持たれて遠くを見渡した。ビジネス街の汚れた空気の中でも、見渡せる爽快感は変らない。
「さて、がんばるぞ!」
ベランダのプランターに手際よく水を与えると、さっさと仕事に取り掛かった。昨日、遣り残した仕事があったのだ。
残業はできるだけしたくない。田舎から都会にやってきて一人暮らしをしている彼女は、夜道は危険と母親から叩き込まれている。だからこうして早朝にやってきて、遣り残した仕事を済ませてしまう。
同僚の尼崎や本山は、残業をうまく取り入れて残業手当もしっかり計算に入れているようだったが、性格的に美海にはできなかった。
「おはよう!」
「あ、おはようございます。今朝は早いですね」
美海が驚くのも当然だった。出勤してきたのは、いつもは遅刻ギリギリにならないとやってこない尼崎だったのだ。
高校を卒業してすぐにこの会社に就職した美海と違い、有名大学出身の尼崎は、入社当初からどこか知的で垢抜けた雰囲気だった。持ち物や服装にもこだわりがあり、美海の知らないブランドがお気に入りなのだと話していた。
美海の田舎は海沿いのリゾート地で、みやげ物屋やコンビニはあったが衣類などは車で15分ばかり走ったところにある大型スーパーで買うのが関の山だ。
常識のある暮らし、常識のある服装。母親から教えられていた常識は、この街には適用されない。
その尼崎がにやにやしながら美海に近づいてきて耳打ちした。
「ねえ吉野さん。来週、本社から新しいチーフが異動してくるんだって。よかったねぇ。これで貴方の掃除当番も半分は免除よ。」
「半分ですか?」
「そりゃあそうよ。一応向こうはチーフって肩書きもらってくるんだもん。全部は押し付けられないんじゃないの? それに、どうやら男性らしいわよ。ふふふ。
ああ、仕事の邪魔しちゃってごめんね。私、これからちょっと歓迎会の会場探さなくちゃならないのよ。貴方も行くでしょ、歓迎会? じゃあね。」
尼崎は鼻歌交じりで自分の端末のスイッチを入れた。美海はあっけに取られたように、そんな尼崎を見送ると、再び自分の仕事に没頭していった。
社員達はぞくぞくと出勤してくる。彼らのいる企画室は総勢14人、そのうち男性はプレーボーイを気取っている須磨と、会社には時間つぶしに来ているだけと噂されている中年の大矢のみ。尼崎が浮き足立つのも無理はない。女性の多い職場において、若い男性社員はアイドル的存在だった。
その週、尼崎と同期入社の本山も加わって、嬉々として歓迎会の準備を進め、会社帰りには新しい服を物色するのだと張り切っていた。そんな二人を見送って美海はまっすぐに自分の部屋に戻る毎日だった。
この街にも随分慣れては来たが、それでもまだ夜に一人出歩くようなことはない。
「帰ったら、久しぶりに母さんに電話してみようかな。芳雄の様子も気になるし。」
美海には両親といっしょに田舎で暮らす弟がいた。その弟がこの春大学に進学したのだ。
各駅停車しか止まらない「山田漁港」という小さな駅に降り立つ。駅前の商店街は買い物帰りの主婦や塾に向かう子供達でにぎやかだ。いつものように商店街を通り抜けようとした美海に、魚屋の政義が声をかけた。
「お帰り!今日は寄ってかないの?」
政義は魚政の跡取りで30半ばの威勢のいい男だ。海のそばで育った美海にとって、こういうタイプの男達は小気味よく打ち解け安かった。
「じゃあ、白身のお魚、もらって帰るわ」
「ありがとう! じゃあ、ワカメもつけといてやるよ。」
考え事をしていて晩御飯のおかずのことなどすっかり忘れていた美海だったが、思わぬ助け舟に会えた。
小さなアパートに帰りついて、魚を冷蔵庫に入れる。服を着替えて実家に電話を入れてみた。
「どうしてる?風邪ひいてないかい?」
母親の声には美海をほっとさせる要素が含まれているようだ。気付かないうちにカサカサにひび割れた気持ちがしっとりと潤う。
「芳雄がね、最近随分おしゃれになって。彼女が出来たとか言うんだよ。今時の子はどうしてこんなに考えが浅いのかねぇ。。」
美海は苦笑しながら当たり障りなく答えていた。そうか、あの芳雄に彼女ができたのか。おしゃれにもなったのか。自分がちょっとファッション雑誌の真似事をしたら随分目くじらたてて怒っていた母が、弟のおしゃれをあっさり受け入れていることに時代の流れを感じた。
ご飯を炊く。洗濯物を取り入れる。美海の日常は母親の常識にどっぷりとはまっている。しかし、美海はそれでいいと思い始めていた。自分は尼崎のようにはなれない。あんな風に世の中をうまく渡り歩くことなど、到底出来そうにないと思った。
『それに…』
鏡に映る女は、長い髪を低いところで括り、野暮ったいセーターにプリーツスカートで視線を落とす。
高校生のころは、それでも親に反発して都会の若者達の真似事をしていたものだった。頭のてっぺんでポニーテールに括り、明るくて活発な彼女はそこにいるだけで店内がぱっと明るくなるとバイト先の店長にも可愛がられていた。
「もう、子どもじゃないんだもん」
何かを断ち切るように美海は立ち上がった。
月曜は新しいチーフの赴任日だ。いつものように企画室の朝礼を済ませた後、室長が若い男性を連れてきて、自己紹介するように勧めた。
「おはようございます。綾部祐二と申します。このたび企画室チームAのチーフという役職を頂き…」
新たにチーフに加わる綾部という若者は、美海より少し年上なだけでまだまだ若々しい雰囲気を持っていた。その若さでこの企画室を2分するチームAのチーフになるのだからそれなりの業績を上げてきたのであろうが、そんなそぶりは感じられなかった。決して派手ではないが、きちんとしたスーツ姿、襟足をきれいに整えている髪形は上司の受けもよかった。
企画室の女性達は、みなどこか華やいだ表情でそんな若きチーフを見つめる。数少ない男達は少し面白くなさそうだ。
そんな中、美海だけはこわばった表情を隠す事もできず、そっと下を向いてしまった。
『あの人だ。 どうしてここに?』
脳内の血がさぁっと引いてくような不安感が美海を襲い、いつの間にか倒れてしまった。気がついたときは、美海は応接室のソファに寝かされていた。
「あら、気がついた? 吉野さん、大丈夫? 急に倒れるんだもん。びっくりしたわ。」
本山が指に巻き髪を絡ませながら、美海の顔を覗き込む。
「たぶん、貧血だと思うわ。顔色、すごく悪かったし。」
「すみません。ご迷惑おかけしました。」
「ああ、気にしないで。それより、お礼は綾部チーフに言ってね。あなたのこと、ここまで抱えてきてくれたのよ。いいわねぇ。企画室の女子を敵に回しちゃったかもよぉ。ふふふ。」
「ええ!」
戸惑う美海をからかって、「うそよ。」っと笑いながら本山は応接室を出て行った。美海は身なりを整えて、早々に仕事に戻ろうとしていた。その時、ドアがノックされて綾部がやってきた。
「大丈夫ですか、吉野さん?」
美海は全身から冷や汗が出るのが分かるほどに驚いた。
「あの、先ほどはすみませんでした。」
「ああ、いえ。気にしないで下さい。それより、吉野さんがここにいる間に簡単な現状説明をしていただいたんですが、吉野さんの担当のところも、詳細教えていただきたいので、お手すきの時に声を掛けてください。じゃあ。」
綾部はあっさりと部屋を出ようとした。
「あの…」
自分の声に一番驚いたのは美海自身だった。どうして声を掛けてしまったのか、自分でもさっぱり分からなかった。
「ん?どうかしましたか?」
「あ、いえ。何でもありません。」
「そうですか。じゃあ。今夜の歓迎会、楽しみにしています。」
にっこりと笑顔の綾部は、まるで少年のようだった。その顔はあの日のまま。美海は訳が分からないまま、不安に押しつぶさそうになっていた。
席に戻ると、さっそく本山が声を掛けてきた。
「ねえ、さっき私が応接室出た後にチーフが来たでしょ? 何の話?」
なにげなさを装っているが、その語尾の強さで妬いているのがわかる。
「えっと、仕事の詳細を報告してほしいって。それだけです。」
「え?それだけ? そっか。それだけか。あ、そうだったわ。私、まだチーフに質問があったのよ。じゃ。」
本山はすっかり機嫌を直すと、手元にあった書類を一枚持ってそそくさとチーフの席に向かった。その下心を知ってか知らずか綾部は真面目に説明をしているようだ。別段自分の方に何かを言いたげな様子もないことに、美海は内心ほっとしていた。
定時前になると、女子社員たちは一斉に姿を消した。書類作成に集中していた美海は、須磨から声を掛けられるまで自分が一人残されている事に気付きもしていなかった。
「吉野君、悪いけどコーヒー淹れてくれないか。」
「はい。わかりました。。。」
呼ばれて顔を上げ、やっと事務所内の状況に驚いていた。
美海からコーヒーを受け取ると、須磨はすかさず褒めちぎる。
「ん~、吉野君は素直でいいねぇ。他の女性陣はどうしたんだ?まさか若い男に色めき立って今頃トイレで化けてるんじゃないだろうねぇ。」
言葉の端々に棘がある。美海はこのきざな男がどうしても好きになれない。本心がどこにあるかもわからない。さりげなく違う話題に持って行きたかった。
「お仕事お忙しいでしょうが、今日は5時半で企画室は締め切りになるそうですよ。」
壁の時計をチラッとみた須磨は仰々しくため息をついた。須磨や窓際でグラフに色塗りをしている中年の大矢にとっては、おもしろくないのだろう。企画室では、室長の芦屋以外の男性は彼らだけだったのだ。チームの違う大矢はともかく、同じチームの須磨にとってはやりにくいヤツがやってきたというわけだ。
早々にコーヒーを飲み干すと、美海に声を掛けた。
「ごめんよ。このカップ、洗っといてもらえるかな。」
「はい、わかりました。」
美海が顔を上げると、ほんの少し優しげな表情になった須磨が笑いかけていた。美海はなぜかそこに気弱さや寂しさが漂っているような気がして、それが少しひっかかった。
しかし、そんなことはあっという間に覆されてしまう。尼崎が化粧直しを終えて席に戻ってくると、須磨はとたんに尼崎の美貌をたたえた言葉をばら撒き始めた。
結局はこんなものよねと美海は思う。どんなに真面目にしていても、男たちはぱっと美しいものに群がるものだ。書類作成が一段落したので、チーム内の湯のみをかき集め、準備万端整えて会場に出発するのを待つだけになったきらびやかな同僚達をすりぬけ、流しに片付けにむかった。
「ああ、吉野さん。そのまま置いて行ってもいいんじゃない?」
「放っておいてあげれば? 彼女のやり方があるんだろうし。あら、須磨さんのそのネクタイこの前の東京コレクションで出てた新作じゃない? さすがねぇ。」
「ああ、これ? ちょっとね、アパレル関係の友達にもらったんだぁ。」
「ええ、ほんとに友達? 何番目かの彼女なんじゃないのぉ?」
本山は若いチーフの歓迎会ということもあってか、すっかり気分が盛り上がっているようだ。適当に相槌をうちながらちらっと流しの方に目をやる須磨を、尼崎はしずかに観察していた。
広いフロアの給湯室は、企画室と営業課の共用になっている。営業課には派遣会社から来ている女性が5時まで働いているが、それを過ぎるとそこに姿を現わす者などいなかった。
企画室からは楽しげな笑い声が聞こえてくる。それを自分とは違う世界のことのように感じながら、美海は洗い物を続けた。
「吉野さ~ん、そろそろ出発するわよぉ。」
尼崎が声を掛けてきた。美海は急いでロッカールームに駆け込み、自分の上着とカバンを手に取るとすぐさま皆と合流した。
少し広めの会場に、営業課と企画室の社員が揃った。今期移動になってこの支社に加わったのは、綾部のほかに2人。営業には新人男性が、企画室チームBには他の支社から企画志望がかなってやってきた少し大人びた女性がそれぞれ移動してきた。
営業課長や企画室の室長の話が終わると、会場は一気に華やいだ雰囲気になった。本山と尼崎は、さっそく綾部の元に駆けつけて、あれこれ質問攻めにあわせて新しいチーフを困らせている。
美海はというと、そんな同僚達を少しはなれたところから眺めているだけだ。
こういう場所は苦手だ。早く終わって欲しい。目の前にあった料理を食べつくすと、所在無く会場のベランダに出てみた。会場内の活気で火照った頬を、夜風が撫でて心地いい。
『だけど』
美海はまた視線を落とす。綾部が、あの時の少年に間違いない。無事に生きていたのだという安堵と自分に降りかかる罪の意識がない交ぜになって美海を沈ませた。
「どうしたの?こんなところにいちゃ楽しめないよ。」
驚く美海の肩にそっと腕を回して、須磨が笑っていた。
「え?あ、あの。。」
「こらこら、須磨君。私が大切に育ててる子に、ヘンなちょっかい出さないでちょうだい。吉野さんは初心なんだから、怖がってるでしょ?」
困り果てる美海を助けたのはチーフ代理の西宮だ。30代後半の西宮は子どもがいないせいか、いつも年齢を感じさせない若々しさを保っている大人の女性だ。美海はひそかに彼女にあこがれている。
「はーい。西宮先輩はイケメン坊やのところには行かないんですか?」
「須磨君。すねちゃってるなんて君らしくないわね。ほら、二人とも中に入って。本山さんたちがゲームするから集合して欲しいんだって。」
西宮に促される形で、須磨に続いて美海は素直に会場に戻った。
「吉野さん!こっち、こっち。」
会場に戻ると、すぐさま同じチームAの塩見が声をかけてきた。本山たちはいろいろと趣向を凝らして会場を沸かせてゆく。綾部は今日の主役とばかりに、なにかと引っ張り出されては質問攻めにあい、おろおろしていた。
『なんだ、そんな軽い感じの人じゃなかったんだ。じゃあ、どうして私はあの時、逃げ出したりしたんだろう』
人のいい綾部の性格に、いつの間にか須磨まで加わって和気藹々とした雰囲気が出来上がっている。その穏かさが美海の心に一層影を落とした。
歓迎会が終り、美海はいつもの駅に降り立った。今日はおそくなってしまったので、商店街も街灯がついているだけで静かだ。足早にアパートまで帰ると、さっさと戸締りを済ませた。
夜風で湿ってしまった洗濯物を取り込み、お風呂にお湯を張る。ゆったりと湯船につかって緊張した心と体を解きほぐして行く。
『あの。僕、明日には家に帰っちゃうんだ。だから、思い切って言うよ。僕と付き合ってください!』
突然記憶が甦り、湯船の縁に頭を乗せていた美海はとっさに顔を上げた。そのセリフは7年前の夏休み、美海が近所のコンビニでアルバイトしているときに言われたものだ。
その頃まだ高校1年生だった美海は、なれないアルバイトに四苦八苦しながらも、どうしても手に入れたいブランド物の時計のためにお金を溜めようとがんばっていた。
実家はリゾート地にほど近く、バイト先のコンビニのすぐ近くには、短期間で免許取得ができ、空き時間にはマリンリゾートも楽しめると評判の自動車教習所があった。そのせいかコンビニには若い客が多く、皆1週間ばかりで来なくなってしまう。
そんなコンビニに、教習所の授業がある時間帯にちょくちょく顔を出していた客がいた。
店長が気軽に声を掛ける。
「いらっしゃい。君は良く来てくれるけど、免許を取りに来たわけじゃないの?」
「はい。兄貴が免許を取るっていうから一緒に行ってそこで勉強して来いって、親に言われたんです。」
「あはは。そりゃあ厳しいねぇ。」
少年は高校3年生。受験生だった。親の言うとおりにこんなところまで来て勉強してるなんて、真面目な人だなぁっと美海は思っていた。
何度目かの来店の際、店長がバイト明けで帰る支度をしている美海に声を掛けてきた。靴屋さんを探しているらしいから、帰り道に道案内をしてやってくれという。少年は申し訳なさそうに美海に頭を下げた。
靴屋まで付き合って以降、少年は少しずつ美海と親しくなっていった。年頃も近く話しやすかったのだろうとそんなに気にも留めなかった美海に、突然投げられた言葉が、それだった。
うそでしょ? 今までどんなに親しく声を掛けてきても、1週間で帰っちゃうものだと思ってたし、深く考えたこともなかったのに。
頭の中が真っ白になった。どうしていいのか分からず居たたまれなくなって、逃げ出したのだ
。するとそこに突然、バイクのエンジン音がすぐそばに迫ってきた。
「あっ!!」
突き飛ばされた衝撃、すぐ後ろで聞こえたバイクの倒れる派手な音。道路に浮いた砂利が口の中にまで入り込んでいた。
痛みは感じなかった。怖さで体がうまく動かない。そっと起き上がってみると、美海は道路の端に倒れていたようだ。振り返るとバイクに乗っていた男が慌てて車体を起こしている。その男がちらちら見ている先には、さっきの少年が身動きもせず倒れている。
美海はやっと、自分が助けられたことに気がついた。
「大丈夫? しっかりして!」
美海が声を掛けると少年はうっすらと目を開けたが、そのまま眠るように目を閉じてしまう。混乱しながらも美海は救急車を呼んだ。しかしそうしている間に、バイクの男は何処かに逃げてしまったようだ。
その後も何度か声を掛けてはみたが、少年はまったく動かない。
死んじゃった?!
美海は急に怖くなって、サイレンの音が聞こえ始めた現場から逃げ出してしまった。
どうして逃げ出したりしてしまったのだろう。自分の部屋に戻っても、どうにも気持ちが落ち着かない。この街で交通事故が起こったら、きっと運ばれていく病院は決まっている。だけどそこが急患で忙しかったら? 他をあたっても引き受けてもらえなかったら?
美海は頭をかかえてしまった。すぐそばで再び救急車の音が響く。
「もうやだ!」
美海は慌てて布団の中に潜り込んでしまった。
後になって、家のそばでの救急車の音は、隣の老人が転んで頭を打ったからだと知らされた。
「ねえ、お母さん。お隣のじいちゃん、どこの病院?」
「医療センターよ。このあたりで怪我したら、あそこぐらいしかないじゃない?」
「じゃあ、まだベッドに空きがあったってことよね。」
「なに?アンタが入院しようっての? おかしな事言ってないで、さっさとお風呂に入っちゃいなさい」
母の口調だと、病院の受け入れ態勢は充分に整っていたようだった。それを聞いて美海はそっと胸をなでおろした。
それから7年。高校を出て、就職を決めてこの街に一人暮らしをはじめるようになって、少しずつ過去の息苦しい記憶も薄らいできていた矢先だったのに。
綾部には関係ないことだということは分かっていながら、少し恨めしいような、恐ろしいようなそんな思いに囚われていた。
「だけど。。。」
美海は湯船に頬を乗せて考え込んだ。綾部は過去のことがなかったかのような対応だ。もしかしたら綾部は、似ているだけの他人の空似かもしれない。そんな風に想像をめぐらしながらも、それは違うと何処かで理解っていた。
「吉野さん。もしかして、どこかでお会いしたことありませんでしたか?」
「ええっ?!」
「いや、なんとなくなんですが、どこかでお会いした事があったような。。。」
歓迎会の最中、綾部からそんな風に声を掛けられたのだ。そのときは尼崎が割って入ったのでそのままになっていたが、どうやら向こうも思い出し始めているようだ。これは覚悟を決めなくてはならない。
考え込みながらいつの間にかうとうとしていたらしい。美海は慌てて風呂から上がった。
歓迎会から一月が経とうとしていた。綾部が美海の知っているあの少年かどうかもはっきりしないまま、仕事はじわじわと忙しくなってきていた。
そして、尼崎と本山の関係も少しずつ微妙なものになってきた。もともと仕事ではメインとして働いている二人には、お茶を淹れる時間などない。それなのに昼食後のお茶や、3時ごろに配られるコーヒーをめぐって火花を散らすことが増えてきた。
早くに結婚した塩見は落ち着いたものだが、そんな二人の鞘当に美海まで引き込まれる事もしばしばだ。
混乱している最中、大きな問題が起こってしまった。美海が顧客からの依頼を聞き間違え、納品の期日を守れなくなってしまったのだ。美海にとってははじめての失態である。電話で謝っている美海を覗き込むように見つめる綾部にドキっとする。
―まさか、あの時のことを思い出したの?―
「吉野さん、その電話、変わってください。」
綾部はさっと受話器を受け取ると、勢いよく謝り始めた。そして、電話で謝っていても埒が明かないと判断した綾部は、すぐさま美海を連れて顧客の事務所まで謝罪に出向く。
「電話で納期を確認したときは、そうですっておっしゃってたんですが…」
「とにかく今は、先方に謝罪しておきましょう。次回からは、メールかFAXで、文字が残る形で確認してください。」
まさか事務所までやってくるとは思わなかった顧客は、面食らったような表情だったが、綾部は勢いを緩めなかった。きっちりとした謝罪や相手方を思いやった物言いは相手に通じたらしく、最後にはもういいよという言葉をもらうことができた。
これが早々にチーフになれた実力なんだ。ただアイドルみたいに持ち上げられてチーフになってるわけじゃないんだ。。。
帰りの電車に揺られながら、美海はそっと綾部の横顔をのぞき見て納得していた。
この若い上司に対して自分はなんという情けなさだろう。綾部が過去に出会った少年であるかどうかを心配するより、きちんと確認して誠実に謝るべきではなかったのか。それなのに自分と言う人間は、1度ならずも2度までも。。。
鼻の中がツーンとなった。
「大丈夫ですか? 相手方も許してくださったんだし、そんなに落ち込まなくてもいいですよ」
何も知らない綾部が、またしても少年のような笑顔を向ける。言わなくちゃっと思いながらも、逃げ出したい気持ちが頭をもたげる。
「そうだ。今日は残業の予定もないし、よかったら晩御飯でも一緒にどうですか?たまにはおいしいもの食べて、元気出しましょうよ。」
一人暮らしをしていると、たまにはだれかと会話を楽しみながら食事したくなるんですよと、白い歯を覗かせて笑う。確かに。一人暮らしには慣れたけれど、尼崎のように明るく社交的になれない美海は、会社の行事以外で外食することなどなかったし、夕食を一緒にと誘い合うほどの友達もいなかった。
事務所に帰りついたときは6時を回っていた。ほとんどの社員が帰宅し、須磨が一人で書類を作っているだけだった。
「あの、尼崎さんたちはもう帰られたんですか?」
「ああ、あいつらは王子がいないとおもしろくないんだろ。5時にはさっさと帰ったよ。」
須磨は呆れたように言い放つと、自分もさっさと書類を片付け始めた。がらんとした事務所は夕日が差し込んでオレンジ色に染まっている。その中に湯のみ茶碗だけがぽつんぽつんとそれぞれの影を伸ばしていた。
美海は湯のみを集めて給湯室に向かい、綾部は残りの書類を整理しはじめる。営業課から流れ出るにぎやかな気配が、企画室の静寂を一層引き立たせた。
湯のみを片付けて席に戻ってくると綾部が声を掛けた。もう少しで終わるので玄関ホールで待って欲しいという。美海は上着を着込みながら、ふと鏡にうつる自分の顔を見直した。化粧直しもしていない顔、昼休みに髪を梳いたりもしていない。美海はそっとカバンからブラシをだして髪を梳かし、口紅を塗りなおしてみた。ファンデーションの取れかけた顔に口紅のピンクがアンバランスに見える。
「私、何をしてるんだろう。」
美海はティッシュで唇を押さえると、さっさと玄関ホールに向かった。
玄関ホールは広めにとってあって、今はがらんと静まり返っている。時々遅くまで営業に回っていた者が戻ってきては、早足でエレベーターに駆け込んで行った。
このまま帰ってしまうことは選べなかったんだろうか。自分はどうしてここに大人しく留まっているんだろう。昔のことを思い出したといわれるかもしれないし、今回の失態について、とがめられるかもしれないというのに。そんなことをぼんやり考えているうちに、綾部がやってきた。
「いやあ、遅くなりました。さて、何が食べたいですか?何でもよかったら、僕が見つけたお気に入りのお店に招待しますよ。」
仕事が終わった開放感からか、綾部はすっかりリラックスしている様子だ。誘われるままレストランに入る。ご飯時で満席状態だったが、すぐに席に案内された。
「ここのハンバーグ、最高なんですよ! 来た事ありますか?」
失態を追及されるのかとも思っていたが、美海の心配は杞憂に終わった。そのまま綾部の会社での失敗談に流れ込み、一人暮らしは厳しいという話に共感し、最近のテレビ番組の話ではいつのまにか大笑いするほどに気持ちがほぐれていく。
綾部という人は不思議な人だ。美海は改めてこの若い上司を尊敬した。
店を出て肩を並べて夜の街を歩いていても、なにも起こらない。上司といえども若い男だからと身構えていた自分、あの日のことを問い詰められるかもしれないと焦っていた自分が滑稽に思える。
「遅くなってすみません。最寄り駅からは気をつけて帰ってくださいね。」
いつもの駅まで送ると、綾部はあっさりと帰って行った。美海はただ、「ありがとうございました」を繰り返し、地下鉄の階段を降りていった。
「ちっ!チャンスだったのに…。バカか!アイツは。」
道路を挟んだ向こう側で、男が一人タバコをくゆらせながらつぶやいていた。
これからは一生懸命仕事をしよう。もちろん今までも一生懸命がんばってきたつもりだけれど、もっと上を目指そう。地下鉄の車内はほどよく空いていた。シートに座る自分の姿が反対側の窓に映っている。その顔がいつもより明るい表情に見えて元気が出てくるのを感じていた。
いつもより2つ手前の大きな駅で降り、美海は駅ビルにある本屋に向かった。役立ちそうな専門書を買い込み、店を出る。とたんに目の前に立ちふさがる男がいた。
「須磨さん!どうしてここに?」
美海の問に答える事もなく、須磨は突然美海の腕をつかんで向かい側の公園に連れて行った。
街灯の少ない公園は、自動販売機だけがやけにまぶしい。そんな販売機の前にあるベンチにどかっと座り、美海にも座るように促した。
「あの、須磨さん。どうしたんですか?」
販売機を後ろにして座っている須磨の顔は影になってよく見えなかった。いつもより帰りが遅くなっている。美海は時間が気になっていた。
「どうして…」
公園の時計に目をやっていると、須磨が小さな声で尋ねてきた。
「え? 何がですか?」
「どうして綾部とデートなんかするんだよ。」
顔を上げたとたん、光りに当てられて須磨の表情が露わになった。怒っているとも嘆いているともつかないその表情に、どんな風に答えていいのかわからない。
「いや、デートなんかじゃないですよ。私が仕事でドジふんで落ち込んでいたから、だから、チーフが元気つけてやろうって、ご飯をご馳走してくださっただけです。」
困った顔の美海に、須磨は大きなため息をついた。
「分からないのか? アイツだって若い男なんだぞ。何されるかわかったもんじゃないんだ。それをのこのことくっついて行っちゃって…。吉野君はそんな風に簡単に男についていくタイプの人間じゃないだろ?」
「須磨さん…。 ご心配いただいているのはありがたいんですが、ほんとに大丈夫ですから。」
須磨は何かを訴えるように美海を見つめるが、美海にはそれの意味がわからなかった。須磨はふっと視線を落として、いつもの表情に戻って言った。
「ごめん。もう遅くなったね。送っていこうか?」
「いえ、大丈夫です。なんだかよくわからなくて、ごめんなさいです。元々は私がドジ踏んだのが悪いんです。ホントにすみません。これからは気をつけますね。じゃあ、私はこれで。須磨さんも気をつけて帰ってくださいね。」
美海は訳がわからないまま、帰って行った。振り返りながら走り去る後姿を見送ると、須磨は再びベンチに座り頭を抱え込んだ。
「あーー!何をやってんだ、俺はー!!」
夜風に当たりながら、須磨はゆっくりとタバコを燻らせていた。若いOLが二人、須磨の前を通り過ぎた。すらっとした長身、整った顔立ちの須磨は、そこにいるだけで注目されてしまう。ただ、ちらちらと探るような視線が送られても今の須磨に届く事はなかった。
翌日、須磨はなんでもなかったように仕事をしていた。綾部に対してとげとげしい以外は。本山や尼崎がやんわりと間に入るが、須磨の苛立ちは治まる様子を見せない。
「須磨さん、僕はなにか気に障るような事をしたんでしょうか?」
たまりかねて問いただす綾部に、須磨は「別に」っとぶっきらぼうに答えるのみだ。しかし、ぴりぴりとした苛立ちが企画室に充満していく。
「じゃあ、いい加減に大人気ない態度を取るのはやめてください!みんなが仕事に集中できないでいるのがわからないのですか?」
「随分偉そうな口を利くんだな! ちょっと女子社員にちやほやされてるからって、調子に乗ってるんじゃないか!?」
「僕は調子になって乗っていません!言いたいことがあるなら、はっきり言ってください!」
綾部も負けてはいなかった。にらみ合う須磨と綾部。黙り込む女子社員たち。そんな中で大矢だけがせわしなく表に色を塗り続けていた。
「おめえら、ばかじゃねぇのか? 会社は女を取り合う場所じゃないぞ。」
背中を丸めたまま、大矢は鼻で笑いながらつぶやいた。
「そうね。それに、お絵かきをする場所でもないですよ!」
尼崎の冷たい言葉が突き刺さった。
「須磨くん、三宮室長がお呼びよ。室長室にいらっしゃい。」
こう着した雰囲気を打ち破ったのは西宮だった。一瞬こわばった顔をした須磨だったが、素直に席を立った。
「ねえ。須磨君、どうしちゃったんだろうね」
「室長に呼ばれるってことは、進退を問われるような問題なんじゃない?」
「じゃあ、クビってこと? なにかやらかしたの?」
本山と尼崎は、こういうところでは意気投合する。気まずい雰囲気を払拭しようと美海はお茶を淹れに立ち上がった。
「ちょっと吉野さん! あなた何か知らない? 今日の須磨君、ぜったいおかしかったじゃない?」
「いえ、私は別に…。」
「ん~、まぁそうよね。須磨くんと吉野さんじゃ接点がないものね。ごめんごめん。お茶、よろしくね」
尼崎がケラケラと楽しげに笑った。美海は困ったように笑うと、そっと給湯室に向かった。それをじっと見ていた綾部が、バタバタと仕事の指示を出し、チームAの雰囲気を引き締めにかかった。
女子社員たちが一斉に化粧直しに席を立ったころ、美海はいつものように湯飲みの片付けを始めていた。5時前になっても外の景色が昼間のように明るい。青い空を眺めると、つい大きなため息が出てしまう。どんなに空が青くとも、自分には関係のない世界のような気がする美海だった。
湯飲みを洗い終え美海が片付けに戻ってくると、入れ違いに女子社員たちがあわただしく退社する。今日は駅前に新たにオープンしたショッピングモールに行くのだという。浮き足だつ彼女達を見送りながら、自分の不器用さが嫌になる。
湯飲みを片付け終わって席に戻ると、目の前に須磨が立っていた。
「吉野さん。今日、何か予定は入ってる?」
さっきまでのイライラした雰囲気はなくなり、須磨はまっすぐに美海を見つめていた。とまどう美海はどうしたものかと周りを見渡したが、チームのメンバーはさきほど見送ったばかりだった。大矢もいつのまにか退社している。
須磨のすぐ後ろに綾部が書類を書いているのが見えていた。須磨の言葉が聞こえていないのか、気付かない振りをしているのか、黙々と仕事をこなしている。
「あの、私…」
「今日はどこかに行く予定だった? それとも誰かとデートでも?」
須磨が「デート」という言葉を使ったところだけ、なぜか力が篭っているような気がして前夜の公園でのやり取りが思い出された。
この人は、何を言っているんだろう。私にどうしろと言うんだろう。頭の中でそんな質問がぐるぐると駆けめぐっていた。
「何もないなら、今日は是非僕に付き合ってほしいんだ。きちんと話をしたいこともあるしね。」
「え、ええ。」
美海にとっては半ば強引に押し切られたような気分だった。頭の中の答えはNOだったはずなのに、須磨の普段見せない真剣な眼差しがそれをゆるさなかった。
「ありがとう。やりかけの仕事があるんだ。急いで片付けるよ。10分だけ待ってくれる?」
須磨はほっとしたように表情を緩め、穏かにそれだけ言うと、端末に集中した。
広い事務所内に書類を書く綾部と端末に集中している須磨、そして手持ち無沙汰にそんな須磨を待つ美海だけがいた。さっきとそれほど時間は変らないはずなのに、日差しが和らいで日が暮れる予感を感じさせる。
須磨が連れて行った先はビルの地下にあるショットバーだった。穏かに照明を落とした店内は洋酒の香りが漂っている。戸惑う美海をそっと奥の席にエスコートし、自分も向かい側に腰を落ち着けた。
いつの間にかやってきたのはネームプレートに店長の肩書きがついた落ち着いた感じの熟年の男性だ。
「ご注文は?」
「僕はジントニックを。吉野くん、君は?」
急に声を掛けられて美海は戸惑った。こんなところに来た事などなかったし、お酒の名前といえばごくたまに仲間と行く居酒屋の酎ハイの種類ぐらいしか知らなかった。
「えっと…」
「ブルームーンなんて、どう?」
「カシスソーダあたりはいかがですか?」
迷う美海に須磨と店長の声が重なった。一呼吸おいて店長が微笑んだ。
「いや、失礼しました。こちらのお客様はあまりお酒になれてらっしゃらないご様子だったので、度数の低いものがよろしいかと。」
「分かりました。じゃあ、カシスソーダをお願いします」
「かしこまりました」
店長は静かに席をはずした。居心地の悪そうな須磨は、大きくため息をついた。ほどなくカクテルを持って現れた店長はそっと須磨に耳打ちした。
「先ほどは、失礼いたしました」
「いえ、店長さんのおっしゃるとおりですね。僕は、少し焦っていたのかもしれません。こういうの、慣れていなくて」
自嘲するように笑う須磨に店長は穏かに微笑みかけた。
店長が厨房に帰っていくと、須磨はそっとカクテルをひとなめして小さく深呼吸し、改まった様子で美海に対峙する。
カクテルのきれいな赤に見とれていた美海は、口にもつけられずに慌ててグラスをテーブルに戻した。
「吉野君。僕はどうやら君のことをずっと見ていたらしい。自分でも不思議だよ。尼崎さんや他の部署の女の子たちが楽しげに話していても、そこにはあまり加わらないで真面目に仕事をこなしている君のこと、初めは、変ってるって思っていたのに。
だけど、君が綾部チーフと一緒に帰っていくのを見かけたとたん、たまらなく気になって…。」
須磨は再びカクテルを手にし、今度はビールを飲むように一気に飲み干してしまった。
「嫌なやつだと思うかもしれないけど、後をつけたんだ。どうして君のことをこんなに気にするのか、自分でも分からなかった。だけど、君が大丈夫だと言えば言うほどよけい心配になってしまう。
今朝、室長に呼ばれて言われたんだ。いつまでも拗ねたような態度を取っていないで、男としてするべきことが何か。それを考えろとね。
それで決心が付いたんだ。素直に認めるよ。僕は吉野さんが好きだ。今まで付き合った女の子たちとはまったく違う気持ちでいる。もっと真面目な付き合い方がしたいんだ。」
須磨は一気に言うと、カウンターでグラスを磨いていた店長にグラスをあげて見せた。店長は軽く会釈をして、お代わりを作り始めた。
美海は呆然としたまま、動く事すらできないでいた。そもそも須磨という男は美海など相手にしない人間なんだと思っていた。近隣の支店の美女を次々とデートに誘い、花の上を舞う蝶のように浮名を流している須磨だ。自分のように着飾る事もしない華のない人間には目もくれないのだと安心していたのだ。
「吉野くん、君は綾部チーフと付き合っているの?それとも、他に彼氏がいるのかい?」
追い討ちを掛けるように須磨が尋ねてくる。恋人などいるはずもない。仕事が終わるとまっすぐにアパートに帰るだけの自分だ。しかしここで恋人がいないというと、それはそのまま須磨と付き合うことが可能だということを意味するのではないのか。美海は戸惑った。
「私…、付き合っている人なんていません。だけど…」
「だけど、何? 僕とは付き合えないっていうの?」
須磨が意識していなくても、美海にはその感覚の違いに大きな壁を感じていた。それに、あと一歩前に進む気持ちになれない何かがあることも。胸が苦しい。いつの間にか冷たい汗が額をぬらしている。
必死に耐える美海に救いの手を差し伸べたのは再び現れた店長の時任だった。
「ジントニックをお持ちしました。」
「ああ、ありがとう。」
そのまま立ち去ろうとしない時任を見上げた須磨は、はっとしたような表情になった。時任が心配そうに美海を覗き込んでいたからだ。
「どうかなさったのですか? お連れ様、ご気分が優れないようですね。」
「え?あ!吉野くん、大丈夫?」
美海は額の汗を拭いながら無理に笑って見せた。
「ごめんなさい。ちょっと動悸がしてしまって…」
「今日は早めにお休みになった方がいいですよ。お客様、タクシーでも呼びましょうか?」
店長は須磨に向き直ってすばやく提案した。須磨が頷くのと同時に店長はバーテンダーの一人に目配せした。
その後はあっという間だった。店長はすばやく水を持ってきて美海に飲ませ、そのままウエィティングルームまで連れて行き、須磨に一緒に近くまで付き添うように声を掛けた。すぐにタクシーがやってきて、二人を乗せて最寄駅まで送り届ける。
「須磨さん、今日はごめんなさい。私、昔に一度だけ同じように告白されて、怖くなって逃げ出したことがあるんです。それ以来、どうもこういう状況になるとダメみたいで。」
「ふう。困った性質だね。今日は心配だから最寄り駅まで送るよ。」
美海は大きく深呼吸した。夜風が心地よく、胸の中にできた苦しい塊をゆるゆると解いていくのがわかる。
「ありがとうございます。でも、もう大丈夫。涼しい空気を吸い込んだら、だいぶ楽になりました。」
「ほんとに大丈夫? じゃあ、ここで見送るよ。今日の答えはまた後日だね。」
諦めたように力なく微笑んだ須磨を残して、美海は駅の階段を駆け上がった。
いつもの駅に降り立っても、美海の気持ちは落ち着く事はなかった。今まで自分が持っていた須磨の印象と、今日の須磨はあまりにも違っていた。
あの店でまっすぐに自分を見つめる視線には、なんの翳りも感じられない。
「あの人は、どうしてあんなにまっすぐに私を見られたんだろう。」
駅を出て、シャッターの下りた寂しい駅前商店街をとぼとぼと歩く。少しずつ春めいてきているせいか、夜風に当たっても寒くはなかった。それにしても、自分はどうしてあんな風に体調を崩してしまうのか、いつになったら、過去の出来事を振り切ってしまえるのか。美海は深いため息をついた。
後ろからのんびりとした足音が近づいて、美海のすぐ後ろまでやってきた。
「すみません。コンビニを探しているんですが、このあたりにご存知ないですか?」
振り向くと学生のような風貌の男が立っていた。鼻の横あたりに傷の痕がある。帽子を目深にかぶっているのはそれを隠すためか。かすかな同情をいだきながら美海はコンビニの場所を教えた。
「ああ、コンビニならそこの公園のちょうど反対側にありますよ」
「えっと…、どの辺り?」
男は何気に美海の腕をつかんで、魚屋のすぐ脇の路地へと引っ張っていく。
「えっと、よくわからなくて…。この先ですか?」
「え、ええ。このまままっすぐ行けば分かりますよ。」
美海は戸惑いながらもそう答えると、商店街の方へと戻ろうときびすを返した。すると、男の腕が再び美海の腕を引き寄せる。さっきとは段違いの力だ。もう、道を尋ねるためのものではない。明らかに獲物を確保しようとする力だ。
「痛い!!」
「黙れ!」
あっという間に口を塞がれてしまう。公園の奥にあるつつじの植え込みに押し倒され、起き上がろうとするそばから平手が美海の頬を打った。痛さと恐ろしさで声が出ない。
そんなときに商店街の方からバタバタと足音がして、急にのしかかられていた足が軽くなった。
「何やってんだ!」
「やべっ!」
男は脱兎のごとく逃げて行った。
「大丈夫?」
声を掛けられても、しばらくは体を動かす事すらできない。体中が震えている。歯を食いしばる事すらできなかった。
「ごめんね。」
ふいに目の前で声がして顔を上げると、須磨が困ったような顔をしてしゃがみこんでいた。
「これじゃあ、さっきの痴漢と変らないね。いくら心配だからって、見送る振りしてついてくるなんて。。。だけど、今回だけはしつこくついてきてよかったよ。大丈夫かい?怖かっただろう?」
さっきまで懸命に耐えていた何かがぷつんっと音を立てて途切れてしまった気分だった。涙が一度に溢れ出し、美海はわっと須磨の腕の中に飛び込んだ。そして子どものようにただ号泣した。
ひとしきり泣くと気持ちが落ち着いてくる。我に返るとたくましい腕の中にいた。しっかりと自分を包み込んでくれる温かな胸。かすかなムスクの香り。顔を上げると、スーツに涙の後が残っていた。
「あ、ごめんなさい。」
はずかしさで須磨の顔をまともに見上げる事ができない。
「大丈夫だよ。スーツは他にもある。それより家まで送ろう。」
須磨に促される形で、美海は自分のアパートへと歩き出した。アパートの前までくると、美海は迷いながらも声をかけた。
「ここなんです。上がっていきますか?」
「いや、今日は遠慮しておくよ。念のため部屋に入るまで見送るね。部屋に入ったらしっかり戸締りするんだよ。じゃあ、ゆっくりおやすみ。」
美海はほっとした様子を悟られないようにあいまいな笑顔になると、礼を言って部屋に帰って行った。
部屋に戻って鍵を掛けると、疲れが一気に押し寄せてきた。着替えもしないでベッドに寝転がって、そのまま眠ってしまった。
翌朝、いつものように事務所内の掃除をして、ベランダの花に水をやる。広い事務所に一人きりのこの時間は、美海の憩いの時間でもあった。
昨日の事をすっかり吹っ切ってしまうことはできないが、それでも気持ちを切り替えるにはちょうどいい。ベランダで大きく伸びをしていると誰かが事務所の扉を開けた。
「おはよう! 吉野くんって、朝早いんだね」
「あ、おはようございます! あの、昨日はどうも…」
言いかけて言葉を濁してしまった。このまま口に出すと昨日の夜の悪夢が甦りそうでこわかったのだ。
「いいよ。気にしないで。大丈夫そうで安心したよ。さて、今日も仕事仕事!」
「はい!」
須磨のおどけた仕草に救われる思いだった。給湯室に向かうと、入れ違いに次々仲間が出社してくる。にぎやかな気配があふれ出した。
みな、口々に、めずらしく早く出社してきた須磨をからかうが、ただの気まぐれだとかわす須磨の笑い声が響いている。
「心配してくれていたのかな。」
やかんから立ち上る湯気を見つめながら、美海はぽつりとつぶやいた。
お湯を入れたポットを運ぼうと振り向いたら、目の前に須磨が立っていた。
「今日、車で来てるんだけど、送らせてくれる?」
「えっ、でも。申し訳ありませんし。」
躊躇う美海を静かに見つめながら、スーツの襟元を整える。美海の知らない最近のブランド物だ。かすかな劣等感に気付かない様子で、穏かな言葉が彼女を包む。
「昨日の今日だから、心配なんだよ。アパートの前まで送ったら、さっさと退散するよ。」
自分の猜疑心のせいで須磨が勢いを削がれているのか。美海は迷いはじめていた。
「じゃあ、後で。」
須磨は美海に返事の暇も与えず、席に戻っていった。
「あら、チーフは今日、出張だから出社しないわよ」
尼崎に声を掛けられて改めて予定表を眺めると、確かに綾部らしい四角い文字で出張と書かれていた。なんだ、来ないのか。せっかくお茶を淹れたのに。美海は心の中で落胆した。
綾部の湯のみを下げて洗いなおしながら、もしも昨日助けに来たのが綾部だったらどうしただろうと妄想を膨らませては慌ててかき消した。
少し陽が傾くと、もう時計は5時を指していた。夏が近づいて日が長くなってきたようだ。女性達は今日もせっせと化粧を直し、それぞれの楽しみへと飛び出していく。
そんな様子を笑顔で見送って湯飲みを片付ける美海を蹴散らすように、大矢もまた引き上げていった。
「あぶないなぁ。」
驚く美海の後ろから、憎らしげな声が聞こえた。
「大矢さんって、どうしていつもあんなに急いでいるんでしょうねぇ。」
「さあねぇ。昼間はほとんど転寝しているだけだし、何しに会社に来ているんだか。あれが伝説の営業マンだったなんて、想像を絶するよ。」
「伝説の営業マン、ですか?」
「ああ、室長が前にちらっとそんなことを言ってたんだよね。昔の業績があるから今はそっとしておいてやれとかなんとかね。」
須磨は興味なさそうに言うと、すっくと向き直って笑顔になった。
「さ、早く片付けて。約束どおり送っていくよ。」
「あ、いや。やっぱり一人で帰ります。申し訳ないし…」
「こらこら。男が送っていくって言ってるんだから、恥をかかすなよ。」
結局、須磨に強引に押し切られる形で、美海は須磨のベンツに乗り込んだ。革張りのシートが美海を包みこむと、それだけで気後れする。
「今日は天気がいいからちょっと遠回りするよ。」
美海の返事を聞く様子もなく、須磨はビジネス街をするりと抜け出した。少し走ると目の前に海が広がる。長らく見ることのなかった海に、美海の表情が自然にほころんだ。
しばらく行くと、道路沿いにアイスクリームスタンドの旗が翻っていた。須磨はすかさず車を止めて、ソフトクリームを2つ買い込んできた。
「ちょっと外に出ない?海からの風が気持ちいいよ」
誘われるまま、美海は車を降りた。そこがビジネス街からそう遠くない場所だとは思えないほど、穏かな海が広がっていた。
「はい、ソフトクリーム。」
「ありがとうございます。」
須磨はそのまま海を見つめながら車によりかかってソフトクリームを一口食べると、ふふっと笑い出した。
その様子を見ていた美海にごめんと謝りながらも、しばらく笑った後で白状した。
「昔ね。僕には夢があったんだよ。まだ中学生の頃だけど。いつか大人になったら、ベンツに彼女を乗せて海に連れて行ってあげて、彼女と二人車に寄りかかりながらソフトクリームを食べたいなぁってね。
ベンツとソフトクリームじゃ、ちぐはぐなんだけど、その当時の僕にはそれが最高のスチュエーションのように思っててさ。おかしいよね。」
困ったように笑う須磨を見ていると、美海はふっと心が和むのを覚えた。
「だけど、もし吉野くんが今、この前の返事をYESと返してくれたなら、今日僕はあの頃の夢を叶えられることになるんだよね。」
照れくさそうな表情にふっと笑顔が誘い出される。恋ってこんな風に始まることもあるのかな。美海の中にわずかに残る戸惑いは、須磨のまっすぐな視線にかき消されてしまった。
「須磨さん、本当に私なんかでいいんですか?」
その言葉が魔法の呪文か何かのように須磨の頬を赤く染める。そしてその次の瞬間、美海は再びムスクの香りに包み込まれていた。
翌日、仕事を終えて玄関ホールをぬけると、目の前に須磨が立っていた。
「今日は何か用事でも?」
急に尋ねられて戸惑っている美海に須磨が一緒に来てほしいと頼んできた。
「僕の知り合いにブティックの経営をしている人がいてね。吉野さんに似合いそうな服がいっぱい置いてあるんだ。彼女が出来たら連れておいでって言われているんだけど、少し付き合ってもらえるかな。」
遠慮がちな言い方だが、返事を待つ様子はなかった。慌てて背の高い後姿についていく。地下鉄に乗って2駅ほど行くと、そのまま派手な地下街を小走りに進んだ。
「須磨くん!久し振りね」
こじゃれた装いの女性が慣れた様子で須磨に近づく。美海は迷子になるまいとしがみつこうとした自分の腕を慌てて引っ込めた。
「あら、お仕事の続き?」
「あはは。今はプライベートなんだ。ごめんね、ちょっと用事があるから。」
須磨はさらりと女性をかわして美海を手招きした。
「ほら、あそこのブティックなんだ。」
洗練された雰囲気のそのブティックには、確かに美海が好みそうな洋服が並んでいた。美海はそのうちの1つを手にとってそっと値札を覗いてみた。
「あ…」
「大丈夫だよ。今日は僕からプレゼントするから。店長、お久し振りです。」
店長と呼ばれたのは年配の品のよさそうな女性だった。
「あら、今日もお客様を連れてきてくださったの?」
店長は穏かに微笑みながらもちらりと美海を一瞥すると、口角のあたりで小さく笑った。
「じゃあ、私が彼女の洋服をお見立てするわね。お嬢さん、こちらにいらして。」
店長は美海を店の奥へと案内した。おびただしい数の洋服が並べられている。美海は初めて遊園地に来た子どものようにおどおどと周りを見渡した。
「ブティックでお買い物はなさらないの?」
「すみません。私、一人暮らしなものであまり洋服にお金を掛けてないもので。」
「そのようね。」
店長はあっさりとそう言うと、何点か洋服を選んで美海の前に翳して見せた。美海の背中を冷たい汗が流れる。
「かわいい顔立ちだけど、地味だから少しお洋服は派手にした方が合うわね。」
「でも、そんなにお金を持ってきていませんので…」
「あら、須磨さんがプレゼントなさるっておっしゃってましたよ。それにそのままの格好じゃ…」
須磨と釣り合いがとれない。それは美海にも分かっていた。しかし恋人と言うには付き合いの浅い須磨にここまで高価なプレゼントをもらうのには気がひける。
「あの。じゃあ、このワンピースを頂きます。でも、自分でお支払いさせてください。」
店長はちょっとあっけに取られた表情を見せたが、すぐさまわかりましたと頷いて商品をレジにもって行った。レジの方からは須磨の声が聞こえている。
「これを選んだの?へぇ、かわいいのを選んだね。もしよかったら、このまま着替えて見せて欲しいな。」
しばらくして店長が再び奥の部屋に戻ってきた。
「お客様。須磨さんが着替えてほしいとおっしゃってますよ。」
「あの、すみません。私、ほんとうにこのワンピースを着て似合ってますか?須磨さんに恥をかかせてしまってないですか?」
店長は、一瞬返答に困った素振りを見せたが、小さなため息をついて穏かに頷いた。
「大丈夫です。とてもお似合いですし素敵ですよ。」
美海はほっとして、試着室に入った。服を着替えて出てくると、店長が真剣な顔でそっと美海を試着室の奥に連れ戻した。
「今まで須磨さんには何度もお客様をご紹介いただいています。だから、こんなことを言うのは申し訳ないのですが、もしも貴方に迷いがあるのなら、自分の気持ちをしっかり見つめて行動してください。
貴方は今まで須磨さんが連れてこられたお客様とは違う。浅ましさやズルさなど微塵もお持ちではないのでしょう。もしかしたら貴方は須磨さんの悪い癖を治せる女性なのかもしれません。だけど、少しでも迷いがあるなら、よく考えて。今はそれしか言えません。
どうか、お気をつけてね。」
戸惑う背中をそっと後押しして、店長は美海を連れて須磨のもとににこやかに現れた。
「かわいいじゃないかぁ。」
須磨は上機嫌で美海を眺めた。美海が支払ったと聞いて須磨は今度は美容室に連れて行くと言い出した。
美容室では須磨があれこれ注文をつけて、あっというまにファッション雑誌に出ているような可憐な少女が仕立てあがった。
須磨がエスコートして街を歩くと、すれ違う人々が二人を眺める。
「ほら、もっと自信を持って!」
恥ずかしがる美海に須磨が耳打ちしてきた。ショーウインドウに二人の影が映る。それはまるで、映画の1シーンのような二人だった。
「ねえ、これから映画でも見に行く?」
カフェテリアの片隅に座って、何気ない風に須磨が誘った。回りの視線、ガラスに映る見たこともないようなおしゃれな自分。美海は舞い上がりそうになったが、そんな熱っぽさを先ほどの店長の言葉が冷ましてくれた。
「ごめんなさい。今日はもう帰ります。明日の仕事に差し支えると困るので。」
「やめてくれよ、こんなところで仕事の話は。」
「あ、そういえば…。須磨さん、今日チーフのお客さんのところに勝手に連絡入れませんでした?チーフが一生懸命謝ってましたよ。」
「え…?」
須磨の動きがほんの少し止まった。美海は申し訳なさそうにしながらもそっと席を立った。
「今日はどうもありがとうございました。」
「もう帰っちゃうの?夜はこれからだよ。」
大げさに驚いてみせる須磨だったが、美海はにっこりと微笑んで答えた。
「須磨さん、明日、遅刻しないでくださいね。」
「参ったなぁ。。。じゃあ、駅まで送るよ。」
須磨があっさりしていたので、美海は内心ほっと胸をなでおろしていた。
いつもの駅に降り立つと、急に自分の格好が派手がましく浮いて見えた美海は、駅のトイレで慌てていつもの服に着替えて商店街を歩き出した。
「よお!今帰りかい?」
魚政の政義が声を掛けてきた。
「ええ、今日は美容室に連れて行ってもらったの。」
「へぇ。今時の頭はよくわからないねぇ。いつもの馬の尻尾みたいなヤツ、あれでいいじゃねぇか。充分かわいいんだから。それともアレか?ボーイフレンドにこんな頭にしろって言われたのかい?」
あははと笑い飛ばしながら、美海は気恥ずかしくなって慌てて大きなウエーブの髪を束ねた。
部屋に戻ると大きなため息が出た。やっぱり遊びなれた須磨を相手にするなど無謀だったのだろうか。それでもワンピースに着替えてきたときの嬉しそうな顔を思い出すと、ふっと優しい気持ちになってくる。これが恋なのだろうか。
恋など自分には遠いことのように思っていた。あれ以来ずっと。だけど、あんなふうに真剣に見つめられたり優しい笑顔に包まれると、自分はもしかしたら他人に愛されてもいい存在なのかもしれないという気持ちになれる。
新しいワンピースをハンガーにかけて、美海の表情もほんの少し穏かになっていた。
ブティックの店長の言葉が気にかかりますねぇ。
須磨さんの気持ちはどこに向いているのでしょうか。




