獄中の咎人
目が覚めると牢獄の中に居た。酷く寒く、見るからに不衛生で、ムカデや、ゴキブリも、うようよ這いずっていた。
「ここは……一体?」
腹が減っていたので、声を出そうにも小言と何らかわりない声を出していた。
酷く喉が渇く。
──僕は、残っている僅かな力を振り絞り、鉄格子に這い寄った。
「水……食べ物を……」
そうしてやっとの思いで鉄格子にしがみついた……
「───っ!」
触れた手が、高電圧によって焼け焦げる。痛みと飢餓感で意識が朦朧としてきた。このまま死んでしまう、何も出来ず生き絶えてしまう、そう脳裏に浮かんでしまった。
「君、新入りかい?」
何処か、気の抜けた声がした。だが、鉄格子の先には誰もいない。
良く耳を澄まして、声の主を必死に探す。
声は、周りを阻む壁から聞こえてきた。
「食べ物……水を……」
──その声にすがるように壁に近づいた。
「おっと、これは重症だね、壁に空いている穴を見てごらん」
その声に言われた様に、壁の穴を必死に探した。確かに壁に穴が空いていた。
そこを見ると、固そうなパンと赤い飲み物が入ったジョッキがあった。
僕は、固いパンを必死に噛み砕き、赤い飲み物を一気に喉に流し込んだ。
パンは、何とか食べれたが、赤い飲み物は、吐き出してしまった。
「おや、口に合わなかったかい?」
紳士的な口調で答える声の主。優しい声だったが、何処か、感情の欠落した声だった。
「いえ……その……ありがとうございます」
僕は、少なからず、感謝の念を相手に伝えた。
「お礼とか良いって……新入り君が無事で良かったよ」
少しずつ友好的な関係になっていると分かった。そこで僕は、質問をいくつかした。
「あの、ここは何処ですか?」
一目で牢獄と言う事は、分かったが、明らかに情報が欠落している。そこで情報集めを優先した。
「そうだね……ここは言うなれば、大罪人や、忌まわしい種族の収監場兼処刑場って所かな」
彼が言った、忌まわしい種族とは、500年前に、魔女に肩入れして、其処からあった戦争で敗北をし、今なお迫害される、悪しき種族の事である。
「処刑場……と言う事は、死刑が確定しているんですね……」
──僕は、自分の置かれている立場をようやく理解してきた。
「あぁ……鉄格子から外を見てごらん。」
──僕は、言われるまま、外を覗いて見た。
雪が積もり、明らかに寒いのに、布一枚で連行される少女が見えた。
耳が長く、美しい緑に近しい髪からエルフと言う事は、一目瞭然だった。
「────────!」
「────────────!」
「─────!」
声が少し遠くて何を言っているのかが分からなかったが、叫んでいるのは、伝わってきた。その少女は、僕より幼く、涙を流して叫んでいた。
その後、何らかの器具で、腕と足を固定され、縄にくくりつけられ、中ずりになった。少女は、動き周り、勝手にロープが千切れて、下に置かれていた槍に突き刺さった。少女が放った断末魔は、とても悲痛なは物でここまで聞こえた。
僕は、その光景を見て、気がつけば涙が溢れていた。
自分も殺されるのか、そんな恐怖が心を狂わせた。
「でも、安心しなよ。ここに入ってから少なくとも何年位かは経たないと、刑が執行されない仕組みだからさ」
その言葉に少しだけ安堵した。
「すみません、少し取り乱しました」
僕は、涙をぬぐった。
「そうだ、君、名前は?」
唐突だったが、名乗って無かったのも悪かったので答えた。
「僕は、イヴァン·シュワルティスです」
僕は本名を告げた。
「イヴァンか、いい名前だね。私は、クラリスだよろしく」
彼の名前には少々心当たりが合ったが、特に思いつかなかった。
「イヴァン、君は何でここに連れてこられたの?」
普通に聞かれる質問だった。正直当たり前の質問だったのだが、僕にとっては、答えるのに勇気がいる質問だった。
「───────」
「悪かった、答えられないなら良いよ、別……」
「僕が、魔女だからです」
僕は、怖かったが、いつか分かってしまうので、ここで答えた。
「そうか、それは災難だったね」
「──────!」
僕は、自分を心配してくれる人に魔女となってから一度も出会えていなかった、その答えが、とても嬉しい物だった。僕は、声を出して泣いた。
「ごめん……何か気に召さないことでも言ってしまったかな?」
謝罪の念が聞こえてきた。
「違うんです、嬉しいんです。僕を迫害せず受け入れてくれる事が」
その後も、二人でしばらく話し合い、そのまま寝た。
──こうして、牢獄の中での物語が始まった。