97 鍛冶屋ターナの大仕事
盗賊の住処を後にした私達は伯爵の城に戻る事にした。
だが、その前に一旦冒険者ギルドに商人としての荷物を運ぶ事になった。
「まあオトリのはずの商隊だったけど、荷物増えすぎたからね。一回宝石にするなりなんなりで軽くしないと」
「これだけの荷物だとそうですよね」
私達のオトリ商隊は一旦冒険者ギルドのある町に向かった。
「ユカ様! お帰りなさい!!」
「盗賊団を倒したってマジか?」
「流石俺達のリーダーだ!!」
冒険者ギルドの人達は私達を手厚く歓迎してくれた。
「ユカ様。以前の男爵の私兵ですが……」
まああんな連中がどうなったのかなんてどうでもいい。
どういう扱いを受けているかなんてのもこの町で決めた事をやっているだけだろう。
「どうなったんですか?」
「とりあえずは改心させてここで仕事をさせてますわ」
「そう……なんですか」
そう言った後、ぞろぞろと出てきたのは頭を丸めて仕事をしている元男爵の私兵達だった。
「「「「「あ、ユカ様。お疲れ様ですッ!!」」」」」
全員が統率された動きで挨拶をしていた。
ここで私にこっぴどくオシオキされてその鼻っ柱が折れたのだろう。
「今考えるとおれ達、偉くもないのに男爵の手下だからと威張ってました」
「そうだったね」
「ですが、世の中にはそれ以上に強い相手がいると思い知りました。もうあんな場所に戻ろうとは思いません」
改心したならいい事だ、罪を憎んで人を憎まず。
苦しめた人を殺してしまったり一生消えない傷をつけた事は許せない。
だが、それならそれ以上の人を助ける事でその罪を償ってもらおう。
「お前達の意思はわかった。だが、それが本心かどうかを確かめたい!」
ルームが毅然とした態度で鞘から魂の救済者を引き抜いた。
「この剣は人を救う剣だ、お前達が改心して人の為に働くならそれでいい。だが、もし再び悪事を働いた時は……この剣がお前達の魂を狩る!」
「ヒエエエエエエ!!!」
そう言うとルームは再び魂の救済者を鞘に納めた。
「ホーム、少しやりすぎでは……」
「いいえ、ああいった輩には少しの恐怖を与えておく事が必要なのです。その代わり、良い事をしたらその分恩賞を与えるのです」
ホームはまだ子供ながらも為政者としての片鱗を見せていた。
「そういえば鍛冶屋のターナさんがあなた達を待っているわよ」
「わかりました、ありがとうございます」
◇
「ユカ! 待ってたよ!」
「ターナさん、お久しぶりです」
鍛冶屋のターナさんは満面の笑みで私達を迎えてくれた。
「仲間が増えたんだね、アンタの鎧以外も任せな!」
「ユカ様、彼女は誰ですか?」
「ホーム、彼女は最高の鍛冶屋だよ」
実際ゾルマニウムなんて古代金属を鎧に加工できる技術者なんてそうザラにいる物ではない、彼女の腕は超一級だ。
「ターナさん、これを加工できますか?」
私が彼女に渡したのはソークツの指にはめられていた各種のレジストリングと邪神の像に掲げられていた戦斧の先端だった。
「……凄い! ユカ、アンタまた凄いもの持ってきたね!」
「これをブローチとかペンダントとかに加工できますか?」
「うーん、まあレジスト系アイテムはリングよりもメインの宝石が無事なら加工は可能よ」
「ではこれをお願いします」
これでソークツのレジストリングを加工できれば今後の魔法系の敵に対抗するのに有利になるのだ。
「少し時間をもらうよ! そうだねぇ……もうすぐ収穫祭だから……それが終わってまた戻ってくる頃には完成してるよ!」
「ターナさん、ありがとうございます」
これが完成すれば私達の装備はかなりレベルアップできるだろう。
そうすればちょっとやそっとの魔法使い相手なら全くの無傷でいられるのだ。
「収穫祭終わったらまたおいでー」
「わかりましたー!」
さて、冒険者ギルドに荷渡しも終わったので明日には伯爵の城に向かおう。